中島京子著『やさしい猫』 感想と紹介 残酷で理不尽な日本の入管 ユニオンしずおか 松井高志

発行日:

週刊『前進』04頁(3218号04面03)(2021/11/08)


中島京子著『やさしい猫』 感想と紹介
 残酷で理不尽な日本の入管
 ユニオンしずおか 松井高志

(写真 中島京子著 2021年8月発刊 四六判416ページ 中央公論新社 定価2090円【税込】)

 この小説の中の「クマさん」ことクマラさんは、今年3月、名古屋入管で医療を受けられないまま亡くなったウィシュマさんと同じスリランカ人です。
 クマさんは10年前、18歳の時に来日し日本語学校を卒業し、就労ビザで自動車整備工場で働いていた。
 少年の頃、スマトラ沖地震で両親を亡くしている。東日本大震災が他人事とは思えず、ボランティアに入り、カレーの炊き出しなどをやっていた時、東京からボランティアに来たミユキというシングルマザーの保育士と知り合った。その出会いが物語の発端である。その後、二人は交際を続け結婚まで進む。
 その間に彼の勤め先が倒産、在留期限切れなどトラブルがあり、入管に収容されるという苦難に満ちたストーリーである。この物語はミユキの娘マヤの言葉で書かれている。
 心が痛くなるほどの苦労を見るにつけ、これが物語だということも忘れ、この家族やスリランカからはるばる来日したクマさんに謝罪したい気持ちになった。
 だいたいバブルの頃には、外国人労働者の労働のお陰で大きなビルや橋、タワーが築かれたのに、一旦景気が悪くなれば手のひらを返して「不法滞在だ」「強制送還だ」と、犯罪者呼ばわりだ。
 クマさんはクリスマスに逮捕され、東京入管に収容される。翌年5月、茨城県の牛久収容所(東日本入管センター)に移送された。強制送還までそこに居なければならない。外国にまで来てこういう目に遭うその絶望感は計り知れないものがある。人間なら誰でも感じられることだと思う。
 牛久収容所のクマさんのもとに高校生になったばかりのマヤが、学校を休んで会いに行く。やせ細って目だけが大きく、あの明るくはつらつとした彼が別人のようだった。不眠、頭痛、高血圧で嘔吐(おうと)を繰り返し、弁護士の手配で救急車も呼んだが、受け付けられず、クマさんは死ぬような思いをした。
 牛久に移された日の夜のクマさんの言葉。「まるで動物を入れるところみたい。どうして。仕事してたときは、きちんと税金も納めてた。オレ、泥棒も殺人もしてない。だけど、いちばん悪いことした人みたい」(194㌻)
 確かにその通りだ。帰国までの一時滞在施設なのに「収容所」だなんて言葉自体がおかしい。それに仮放免申請を出してもいつも却下されるし、いつまで待てば家族のもとに帰れるのか。刑務所なら刑期を終えれば出所できる。ところが入管では期限がない。無期懲役と同じだ。
 この本を読んで入管の理不尽さが私にもよく理解できた。結婚後、新たな在留資格の相談に東京入管に出頭しようとしていた者を、品川駅で待ち構えて警察がパクるなんて、まるで罠(わな)でもかけているようだ。ムラムラと怒りが湧いてくる。
 ウィシュマさんとクマさんがダブって見えて涙を禁じ得なかった。ウィシュマさんの死の真相を何としても暴かなければならない!
このエントリーをはてなブックマークに追加