『海をあげる』を読んで 女性から見る沖縄の現実 本土人民の連帯問われる (投稿)谷川大雪

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週刊『前進』04頁(3240号04面04)(2022/04/18)


『海をあげる』を読んで
 女性から見る沖縄の現実
 本土人民の連帯問われる
 (投稿)谷川大雪

(写真 上間陽子著/筑摩書房刊)


 「七海は家出を繰り返しながら大きくなった、17才の若い母親だった。七海は小学生のころからずっと父親から性暴力をうけていた。七海はいまもまだ、灯りを落とした柔らかい布団の上ではうまく眠ることができない」「五年近く性暴力を受けながら、家族を守ろうと思って母親に一言も話さないで生きてきた」「七海は施設を出ていった。七海は誰も信じていない」----これはこの本の一節です。
 著者の上間氏は琉球大学教育学研究科教授で、もともとは小説家ではありません。研究の過程で、10代で母親となった女性たちへの聞き取りを行いました。
 17歳になったばかりの若い母親は赤ちゃんを抱えてアパートで暮らす。部屋にはこの母親の兄弟などの写真は飾ってあるが、当人と赤ちゃんの写真だけはない----若い母親の肖像が次々と描かれていきます。
 毎日自分がウォーキングしている道で若い女性が元米兵に拉致・暴行されて殺され、怖くてその日以来その道は歩かなくなったという若い女性。1995年の少女暴行事件に8万5千人が県民集会で抗議の声をあげたことも、まだ確かな記憶として刻まれています。
 沖縄戦を生き抜いた90歳代の女性のインタビューも載っています。彼女らは、戦火を逃れる道すがら、弟、妹、父、親戚の姉とその子どもたちが次々と亡くなっていった体験を語ります。宜野湾市で、米軍普天間基地からの有機フッ素化合物(PFOS、PFHxS)放出事件により、浄水場まで有毒物質で汚染されたことにも触れています。
 沖縄戦とその後の基地経済、政府の沖縄政策により地域と家族が翻弄(ほんろう)・分断され、心まで沈黙の海に沈められてしまう沖縄の現実。負担が女性の肩に重くのしかかってきた現実。著者はこのことを、若い女性に焦点を当てて解き明かそうとしています。私はここで、鉛を飲み込んだような重い現実に打ちのめされそうになりました。  そしていよいよ佳境です。辺野古埋め立ての是非を問う県民投票を求めて宜野湾市役所前で元山仁士郎氏が決死の5日間ハンストに立ち上がり、市民たちが支援活動に動くさまは、沖縄の不撓(ふとう)不屈さを強く感じさせられます。
 「沖縄のひとたちが、何度やめてと頼んでも、青い海に今日も土砂がいれられる。これが差別でなくてなんだろう?」「富士五湖に土砂が入れられると言えば、吐き気をもよおすようなこの気持ちが伝わるのだろうか?」と、本土の私たちに投げ掛けられた言葉。
 さらに上間氏は「この海をひとりで抱えることはもうできない。だからあなたに、海をあげる」と痛切な思いを発する。あとがきの最後を「この本を読んでくださる方に、私は私の絶望を託しました。だからあとに残ったのはただの海、どこまでも広がる青い海です」と締めくくります。
 さあ、本土の皆さん、どうするんだ。

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