中距離ミサイル配備阻止を 「拡大抑止」は核戦争の準備 日米共同声明 「日米間の協議強化」明記

発行日:

週刊『前進』04頁(3247号03面01)(2022/06/06)


中距離ミサイル配備阻止を
 「拡大抑止」は核戦争の準備
 日米共同声明 「日米間の協議強化」明記


 5月23日の日米首脳会談とその後発表された共同声明は、昨年4月の日米共同声明をもはるかに上回る中国への激しい敵意と戦争意思をあらわにし、米日帝国主義の中国侵略戦争に向けた決定的な踏み込みを公然と宣言した。今回の共同声明では、核兵器をも含む米軍戦略資産の日本への大量配備を意味する「拡大抑止」が明記され、その実施のための「日米間の協議を強化する」ことまで具体的に盛り込まれた。そしてこれに対応する形で、日本が「国家の防衛に必要なあらゆる選択肢を検討」し、そのための「防衛費の相当な増額を確保する」ことも明記された。さらにバイデンは会談後の記者会見で、台湾有事の際に米軍が軍事介入するかと問われ、「イエス。それがわれわれの誓約だ」と明言した。核兵器をも使った米日帝の中国侵略戦争の策動に対し、今こそ日本労働者階級の渾身(こんしん)の反撃をたたきつけなければならない。

日本全土が核の戦場に!

 「両首脳は、米国の拡大抑止が信頼でき、強靭(きょうじん)なものであり続けることを確保することの決定的な重要性を確認し......安全保障協議委員会(SCC)や拡大抑止協議を通じたものを含め、拡大抑止に関する日米間の協議を強化することの意義を改めて確認した」。この日米共同声明に盛り込まれた一文が直接意味しているのは、すでに米政府が非公式に進めている中距離核ミサイル(INF)の日本への大量配備計画について、両国首脳の共同声明という形で公式にお墨付きを与え、その実行のための協議も含めて具体的に進めることを宣言したということだ。
 米本国に対する核攻撃を「抑止する」という口実で米軍核戦力の開発や配備を進めることを「直接抑止」と呼ぶのに対し、この概念を米本国だけでなく同盟国にも「拡大」すること、すなわち同盟国への核攻撃を「抑止する」という口実で米軍の戦略資産を同盟国に配備することを「拡大抑止(extended deterrence)」という。ここでいう戦略資産とは弾道ミサイル、戦略爆撃機、戦略原子力潜水艦といった核関連兵器を意味する。
 日本への配備が有力視されているのは、米軍が来年以降の実戦配備をめざして開発中の長距離極超音速兵器(LRHW)「ダークイーグル」である。「長距離」とあるが射程距離は2775㌔メートル程度で、弾道ミサイルの分類としては中距離ミサイルに相当する。飛行速度は時速6千〜1万2千㌔メートルに達する。従来のトマホーク巡航ミサイルのように時速800㌔程度の飛行速度では2500㌔メートル先の標的に到着するまで3時間以上もかかるが、極超音速兵器なら同じ標的に十数分程度で到達する。
 加えて重要なことは、航空機や艦船からではなく地上から発射する中距離ミサイルこそが、中国との戦争では必須不可欠になるということだ。地上発射式の最大の優位点は、予備弾の再装填・再発射が容易なことにある。特にダークイーグルは発射装置が車載型で移動させやすく、敵の目から隠して移動させた先で弾頭を装填・発射することで、中国沿岸部の航空基地などの軍事拠点に繰り返しミサイル攻撃を加えることができる。航空基地の機能を破壊されれば、中国軍の防御戦略である「接近阻止/領域拒否(A2/AD)」も発動できなくなる。
 米インド太平洋軍が昨年3月1日に議会に提出した要望書に、「第1列島線の長距離兵器〔中距離ミサイル〕で武装した地上部隊は、インド太平洋軍が一時的で局地的な航空優勢および海上優勢の窓を確保することを可能にし、機動を可能にする」と書かれている通り、第1列島線内での行動の自由を確保することが米軍の中距離ミサイル計画の目的なのである。
 これに対し、中国軍もまた沿岸部に配備した中距離ミサイルで応戦することは確実なので、米軍は自らの戦略資産を「一網打尽」にされないよう、沖縄、九州、本州、北海道など広範にわたってミサイルを分散配置することになる。そうなれば、日本全土が核戦争の戦場になるのは確実だ。

反戦反核闘争の大高揚を

 「拡大抑止」と称する米軍中距離ミサイルの配備計画は、「戦争を回避するための抑止力」などでは断じてなく、帝国主義の側から核戦争を準備する犯罪的策動にほかならない。米日帝国主義は中国侵略戦争を本気で構えているのだ。バイデンによる台湾有事への軍事介入の明言は、その国家意思をあらわにした。
 米帝は、1972年のニクソン大統領(当時)の訪中時に採択した米中共同声明(上海コミュニケ)で、「中国は一つであり、台湾は中国の一部である」とする中国側の主張を認め、これに「異論をとなえない」と約束した。この合意に基づいて79年に米中国交回復(米台断交)へと至り、翌80年には台湾・蒋介石政権との間で52年に締結した米華相互防衛条約が失効した。以後、米帝は台湾関係法に基づいて台湾との関係を維持し、台湾への有償の武器提供などを続けてきたが、同法は米華相互防衛条約とは異なり、米軍の軍事介入による「台湾防衛」を義務付けていない。
 それにもかかわらず、バイデンが今回、岸田と同席した記者会見の場で「軍事介入するのがわれわれの誓約だ」とまで断言したことは、70年代以来の米帝の対中政策を根本から覆すものにほかならない。ホワイトハウスの報道官は「従来の政策を変更するものではない」と火消しを図ったが、バイデンは自らの発言を否定も撤回もしていない。
 コロナ×大恐慌で決定的に没落を深め、世界を支配し続ける力を喪失し、さらにはインフレ・経済危機で国内の分裂と階級対立・階級闘争が激化する中で、米帝はこの絶望的危機からの活路を求めて中国侵略戦争に乗り出そうとしている。それ以外に基軸国としての地位を維持することも、帝国主義として延命することもできなくなったのだ。そして日帝もまた自らの延命をかけて、この戦争に主体的・積極的に乗り出そうとしているのである。絶対に許すわけにはいかない。
 5・22闘争の地平をさらに発展させ、改憲・戦争阻止の6〜7月決戦を闘いぬき、かつてない核戦争切迫下で迎える今夏8・6広島―8・9長崎反戦反核闘争の大高揚をかちとろう。

------------------------------------------------------------
日米共同声明のポイント
▽「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調
▽(日米首脳は)「軍事面における中露間の協力」に「引き続き注意を払う」
▽「岸田首相は、国家の防衛に必要なあらゆる
 選択肢を検討」し、「日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏付けとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明」「バイデン大統領はこれを強く支持した」
▽「バイデン大統領は、核を含むあらゆる種類の能力によって裏付けられた、日米安保条約の下での日本の防衛に対する米国のコミットメントを改めて表明した」
▽「両首脳は、米国の拡大抑止が信頼でき、強靭なものであり続けることを確保することの重要性を確認」「拡大抑止に関する日米間の協議を強化することの意義を改めて確認」

このエントリーをはてなブックマークに追加