戦時下で加速するインフレ 新自由主義が崩壊し世界戦争へ プロレタリア革命で決着を

週刊『前進』04頁(3249号03面01)(2022/06/20)


戦時下で加速するインフレ
 新自由主義が崩壊し世界戦争へ
 プロレタリア革命で決着を


 新自由主義の大崩壊と戦後世界体制の最後的崩壊、その世界戦争への転化が激しく進行している。ウクライナ戦争はまぎれもない世界戦争の始まりであり、世界と各国の経済、政治、社会のすべてが戦争によって激変の嵐の中にたたきこまれつつある。今まさに異次元的なインフレが世界を襲っているのも、戦争によって世界の経済的分裂とブロック化が起こり、世界市場が分断され、石油や小麦などの基本的資源商品の価格が暴騰しているからだ。まず、ウクライナ戦争が本格的な(帝国主義とスターリン主義との)世界戦争へと発展しつつあることを確認しよう。

米帝による戦争

 プーチンによるウクライナ侵攻として始まった戦争は今や、アメリカ帝国主義によるプーチン政権打倒の世界戦争に転化しつつあることがいよいよ鮮明になっている。バイデンは6月1日の声明で、7億㌦(約930億円)のウクライナへの追加軍事支援について説明し、高機能ロケット砲システム「ハイマース」に異例の言及をした。砲弾の射程は70㌔メートル程で155㍉りゅう弾砲の2倍以上、発射台は時速100㌔メートル近い速度を出せる自走式となっており、機動性も高い。「ウクライナ国内であらゆる標的を射程に収められるようになる」(コリン・カール米国防次官)とも言われる。ウクライナ兵に3週間ほどの訓練をして月内にも実戦配備する見込みだ。今回は70㌔メートル射程の砲弾の供与に限定したが、ハイマースには射程300㌔メートルのミサイルも搭載できる。事実上、ロシアを射程に収める兵器を米帝が供与したことになる。これにロシアは猛反発し「新たな標的を攻撃する」と対抗している。
 もともとウクライナ戦争は、米日帝の中国侵略戦争という世界戦争計画の中で米帝がたくらんだ戦争(プーチンのウクライナ侵攻を利用し、プーチンを打倒または無力化しようと狙う米帝の戦争)という本質を持っているのである。

恐慌対策破産し中国侵略戦争に延命求める米帝

 米国内では、労働者階級人民がコロナ×大恐慌で生存の危機に追い込まれており(アメリカのコロナ死者は100万人を超えた)、さらにウクライナ戦争によって圧倒的に加重された激しいインフレが襲いかかっている。
 日米欧30カ国の4月の生活費は前年同月と比べ9・5%も上がり、上昇ペースはコロナ禍が本格化する以前の7倍に達する(図)。アメリカでは5月の消費者物価指数は前年同月より8・6%上昇。戦時下の3カ月、連続して8%超えの上昇率を記録したことになる。フルタイムで働く人の給料からインフレ分を引いた実質賃金は21年10~12月期までの1年半で8%減と、過去40年間で最も急速に下がった。
 バイデンは3月の一般教書演説で「物価の制御が最優先事項」と言わざるを得なかった。この過酷な状況下で、労働組合の結成ラッシュが起こっている。「スターバックスの店舗からハイテク企業、高級ファッション誌の従業員に至るまで、思いもよらぬ場所で組合を結成し始めた」(4月13日付日本経済新聞)。戦時のインフレ下の労働者の決起によって革命的情勢がさらに深まるとともに、そうした危機だからこそ米帝はますます中国侵略戦争に突っ込んでいくのである。
 戦時下で一気に加速しているインフレだが、その背景には、コロナ対応と恐慌対策で巨額の財政支出と超金融緩和が強行されてきたことがある。連邦準備制度理事会(FRB)は、米国債を大量購入して財政を補てんするとともに、金融市場をじゃぶじゃぶにしてきた(量的緩和=QE)。FRBの保有資産はわずか2年で4兆㌦から9兆㌦に倍増した。金利ゼロでいくらでも借金できる状態だから、政府・企業・家計を合わせた世界の債務残高は20年3月末の260兆㌦から21年末に303兆㌦に増えた。増加額43兆㌦は世界の国内総生産(GDP)の半分に相当する。
 このマネーは何よりも株式などの金融投機に向かった。グーグル、アマゾン、メタ(旧フェイスブック)、アップル、マイクロソフトの5社の時価総額は約8兆㌦(1030兆円)にのぼり、日本のGDPのほぼ2倍。この5社だけでS&P総合500種(米大型株500銘柄の株価を基準にした株価指数)の時価総額の2割を超える。これらのIT企業は何億、何十億という利用者を獲得して成長してきたが、永遠に続くわけではなく、成長が限界に達しつつある。
 昨年から潜在的に進んでいたが、今年になってハイテク株だけでなく不動産投資信託も売られ、原油・銅・金などの国際商品に資金が向かった。明白な商品投機である。半導体でも、通常より余分に製品を発注する二重発注が起きた。新自由主義は経済面では金融規制を緩和・撤廃し、金融投機をあおることを推進軸にしてきた。だからバブルとその崩壊の連続だった。しかし今やバブルが頭打ちとなり、資金が商品投機に向かうしかなくなった。
 このインフレは、コロナ禍による部品供給の混乱を下敷きにして、米中対決に伴う戦略的物資の奪い合い、ウクライナ戦争による原油・天然ガスや穀物の値上がり、ロシアへの経済制裁を契機にした国外取引の萎縮などによって加速された。戦後世界体制の最後的崩壊がこうした様々な形で進み、新自由主義の破産・崩壊としての世界戦争の爆発が起こり、超ド級のインフレを激成しているのだ。

軍需生産を増大させ戦争を促進

 こうした危機に対し米帝は経済的にも軍事的にも一層凶暴化しつつある。
 第一に、インフレに対しFRBは1月に金融引き締め政策に転換し、5月には22年ぶりとなる0・5%幅の政策金利引き上げを決めた。保有資産を圧縮する量的引き締め(QT)にも乗り出し、6~8月は月額で475億㌦、9月以降は950億㌦減らしていく。しかし、本当に金融を引き締めれば金利は高騰し、大恐慌がますます深まる。すでにダウ工業株30種平均は3~5月に8週続けて下落した。これは世界大恐慌のさなかにあった1932年以来、90年ぶりの事態だ。逆に中途半端なインフレ抑制だと、商品・サービス・賃金の連鎖的な高騰を招き、物価の制御が困難となり、ドルの価値も低落する。「米経済の軟着陸、今や困難」(5月11日付英フィナンシャル・タイムズ)であり、インフレと大恐慌の併存という未曽有の危機となっていくだろう。
 第二に、ウクライナ戦争はハイテク兵器を大量かつ長期に消費する史上初の戦争であり、しかも世界戦争情勢が深まっていくので軍需生産が増大する。ウクライナ戦争開戦後、米軍需企業の株価は軒並み高騰し、最高値を更新している。米国防長官室に26年間勤務したフランクリン・スニーニはブログで、「ロシアとウクライナの衝突が勃発して以来、米国防総省、ワシントンのロビイストが集まる場所であるKストリート、軍需企業、連邦議会議事堂のいたるところで、シャンパンの栓を抜いて祝賀のパーティーがひそかに行われている」と記している。世界戦争の始まりが軍需生産を増大させ、それが戦争をさらに促進するという過程が始まろうとしている。
 第三に、バイデン政権は、対中国の観点から国産品と国内投資を優遇する政策を強めている。3月の一般教書演説では、「インフラ投資が米国を変革し、21世紀の中国との競争に打ち勝つ道を開く」「空母の甲板から高速道路のガードレールまですべてを米国製にする」と述べ、中国に対抗するため巨額の国内投資を実行する決意を示した。5月日米豪印(クアッド)首脳会合で決まったインド太平洋経済枠組み(IPEF)も含め、米帝の経済政策は中国侵略戦争の観点が貫かれている。経済的にも1990年代以来のグローバリズムと正反対の保護主義であり、世界経済をブロック化して世界戦争への転化を後戻りできないものにしていく。

経済的破局から戦争と大軍拡に突進する日帝

 日本経済はコロナショックで20年度の実質成長率がマイナス4・6%と、戦後最大の落ち込みとなった。その後、若干回復したが、21年10~12月期の「需給ギャップ」はマイナス3・1%、年換算17兆円の需要不足=供給過多で、9四半期連続のマイナスとなった。深刻な過剰資本・過剰生産力状態が続いている。
 ただし、この統計も粉飾されているかもしれない。国の基幹統計である「建設工事受注動態統計」をめぐり、国土交通省の本省職員が受注実績を無断で書き換えて二重計上していたことが発覚した。13~19年度は年5・8兆円、20年度は3・6兆円過大だった。大企業が検査の不正・偽装を日常的にしているだけでなく、国家もまた統計の不正と偽造に手を染めている。これこそ日本の資本家階級の腐敗した真の姿である。
 現在の最大問題は、インフレ下にもかかわらず金融の引き締めができず、この期に及んでもなお超緩和策を続ける以外になくなっていることである。4月の企業物価指数は前年同月比10・0%上昇と、比較可能な1981年以降で最大となった。企業の価格転嫁が進めば消費者物価の上昇率も2桁に向かわざるを得ない。ところが日銀は金利抑制を最優先として、10年物国債を低利回り・高値で無制限に買い取る「指し値オペ」を続けている。
 日銀が恐れているのは金利上昇に伴う国債価格の下落だ(注)。13年以来の国債の大量購入で日銀の国債保有残高は12年末の113兆円から21年末には521兆円に膨張しており、国債価格の下落は日銀資産に巨額の評価損を発生させ、日銀の債務超過すらもたらしかねないからである。
 こうした日本の金利抑制による日米の金利差拡大、日本の21年度の貿易収支の赤字化から円が売られ、昨年9月から今年4月までの半年足らずで20円もの暴落を記録。6月13日の外国為替市場は一時、1㌦=135円という1998年10月以来23年8カ月ぶりの円安水準となった。円安は原油や穀物などの輸入品価格を高騰させる。4月の輸入物価指数はなんと前年同月比44・6%も上昇した。

人民の生活犠牲に軍事費を捻出

 インフレの加速で労働者人民の生活苦が倍加する一方、2022年3月期の上場企業全体の純利益推計は円安の恩恵で前年比35・6%増の33・5兆円となり、過去最高を更新する見通しだ。自動車を含む輸送用機器が前年比47・2%増、電気機器は24・9%増といったように、製品の輸出や海外での事業展開で利益を得る一部巨大資本だけが過去最高のもうけを手にしている。だが、円安を追い風とした一部の企業の利益増は日本経済全体の「回復」や「成長」を何ら意味するものではなく、これらの企業の増大した利益が賃上げや雇用拡大に回る動きもほとんど見られない。
 それどころか、日本経済の危機はまったく新しい次元に入っている。13年4月の「異次元の金融緩和」以来9年、日銀は日本国債残高の4割を保有し、20年度末からは国内株式の最大保有者になった。財政も金融も中央銀行に依存するという、資本主義としてありえない形での延命が、インフレを契機についに壁にぶつかった。それは物価と金利、輸出入(貿易赤字増大)と生活費、通貨と中銀信認というあらゆる面で矛盾を噴出させ始めたのだ。新自由主義の破産・崩壊は、日本で最も破壊力を持って進んでいる。
 これほどの危機を招くのに、岸田政権が物価対策より国債価格の維持を優先するのは、中国侵略戦争への参戦とそれに向けた防衛費の対GDP比2%化という大軍拡を決断しているからである。自民党は昨年12月、「財政再建推進本部」から「再建」を削って「財政政策検討本部」に改組し、安倍晋三を最高顧問に据えた。軍拡を念頭に「積極財政」などと言い始め、5月成立の経済安全保障推進法もテコに戦争に向かって一気に凶暴化している。しかし、日本の政府純債務残高の対GDP比は22年4月で262・54%と、第2次大戦末期の1944年の204%を上回る。軍事費捻出のための1930年代の高橋財政と比べてもあまりに破産的であり、こんな状態で戦争に突っ込んでいった例は過去にない。
 経済的破綻と体制的危機が日帝を凶暴化させ、ますます戦争に駆り立てる。同時に、戦争のための大軍拡が一層の破綻を引き起こし、革命的情勢をますます成熟させていく。「最弱の環」として没落と危機を深める日帝を打倒し、反帝・反スターリン主義世界革命を切り開こう。
〔島崎光晴〕

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 (注)国債の価格と金利は逆に動く。例えば額面100円で利率2%、償還期限1年の国債を保有する人は、1年後には国から102円を受け取ることができるが、国債は市場で販売価格が変動するので、同じ国債が99円で取引される場合は、利回りは(102÷99≒1・03で)約3%に上昇、逆に国債価格が101円に上がれば利回りは約1%に下落する。長期金利は10年物国債の利回りを代表的指標とするため、その価格が上昇すれば長期金利は下がる。
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