08年以来の延命策が大破産大恐慌は新たな爆発局面へ 戦時インフレ引き金に米銀破綻 島崎光晴

週刊『前進』04頁(3289号03面01)(2023/04/10)


08年以来の延命策が大破産大恐慌は新たな爆発局面へ
 戦時インフレ引き金に米銀破綻
 島崎光晴


 米カリフォルニアを拠点とするシリコンバレー銀行(SVB)が3月10日に経営破綻し、ニューヨークが拠点のシグネチャーバンクも12日に破綻した。世界的な戦時下インフレに対する金融引き締めを機に、2008年リーマン・ショック以来の延命策が大破産し、大恐慌が新たな爆発局面を迎えた。08年以来米経済の唯一の牽引(けんいん)車だったIT部門がついに行き詰まったこともアメリカ帝国主義の没落と世界経済危機の画期をなす。それはウクライナ戦争・中国侵略戦争―世界戦争を一層加速させると同時に、全世界で革命情勢を新たに生み出している。

リーマン・ショック上回る資金供給で連鎖破綻を回避

 SVBの22年末時点での総資産は約2090億㌦(約28兆円)で全米16位。米銀の破綻としては、2008年の貯蓄金融機関最大手ワシントン・ミューチュアルの破綻に続き史上2番目の規模となる。シグネチャーバンクはこれに続く3番目だ。
 SVBは個人ではなく、主に新興企業やベンチャーキャピタルの預金を集めてきた。しかし、昨秋からのIT産業の不振を受けて、新興企業が預金の引き揚げに動いた。SVBは預金減に対応して資金を捻出する必要に迫られ、米国債などを210億㌦(約2兆8千億円)も売りに出した。ところが連邦準備制度理事会(FRB)によるインフレ抑制の金利引き上げで債券価格が下落し、18億㌦の売却損を計上することになった。
 一段と資本が損傷する恐れから、SVBへの信用不安が高まった。顧客の多くはIT関連の中小企業で、いつでも引き出せる同行の普通口座に預金していた。ツイッターなどであおられて急速かつ大規模な取り付けが起き、2日間で1420億㌦、同行の預金の8割以上が引き出された。SVBは9億㌦の資金不足に陥って破綻した。リーマン・ショックの際は、預金を集めない投資銀行(日本の証券会社に近い)の破綻が中心だったので、こうした取り付けは起きていない。
 SVBの破綻はほんの始まりにすぎない。米紙ウォールストリート・ジャーナル3月18日付は「SVBと同様のリスクにさらされる可能性がある銀行は186も存在する」と報じた。9~15日の銀行からの預金流出額は過去最大の1200億㌦(約15兆7千億円)になった。SVB破綻後に米国の銀行のFRBからの資金借り入れが急増し、わずか5日後の15日時点で総額1648億㌦(約22兆円)に達し、リーマン・ショックの際に記録した額を上回った。SVB破綻が米信用崩壊につながりかねない状況になったのだ。
 FRBや連邦預金保険公社(FDIC)はリーマン・ショック時を上回る計3392億㌦(44兆4千億円)もの短期資金の供給、信用供与の拡大で破綻連鎖を辛くも回避した。SVB預金者の預金は全額保護するという異例の対応も決めた。

過剰資本状態が露呈し世界経済は一層のブロック化へ

 SVB破綻は大恐慌の再激化、米帝の一層の没落を示す歴史的な事態である。
 第一に、08年以来の超金融緩和とそのもとでつくりだされた巨大バブルが、昨年来の戦時下インフレで各国の中央銀行が急激な利上げを余儀なくされたことにより、ついに大崩壊を開始したということである。その根底にあるのは、帝国主義にとって解決不能な過剰資本・過剰生産力状態だ。
 とりわけ米IT部門・テック企業における過剰資本が露呈したことは決定的である。米経済は、リーマン・ショックによる大恐慌下で大打撃を受けた自動車と金融の2大部門に代わりIT部門を唯一の「成長産業」としてきた。しかし、昨年から世界市場の飽和化によってサービス供与が過剰になり、売り上げも収益も激減し、大量解雇に至った。米IT企業の人員削減は昨年1月以降で24万人を突破し、今年1月だけで8万人を超えた。アルファベット、アマゾン、アップル、メタ(旧フェイスブック)、マイクロソフトという「5大テック」の株式時価総額の合計は、21年末には9兆7千億㌦に達したが、わずか1年で40%近く減った。〈テックバブルとその崩壊〉とみなすこともできる。IT部門が過剰資本状態に入ったことは、米経済の恐慌再激化と米帝の一層の没落をもたらす。米IT部門はますます軍需と戦争に傾斜していくほかない。
 第二に、出口の見えないインフレ下で今後も金融引き締めを続けざるを得ないことが、金利の上昇と債券の値下がりを引き起こし、世界中の銀行に巨額の損失をもたらそうとしている。
 米国の消費者物価指数は、2月まで1年5カ月連続で前年同月比の上昇率が6%を超えている。インフレが第一級の階級的問題と化しているうえ、放置すると累乗的な物価上昇という悪性インフレに転化しかねない。FRBは昨年3月以降、1年間で計4・75%もの急速な利上げを行い、6月以降は保有する米国債などを圧縮する量的引き締め(QT)に乗り出し、すでに1兆㌦以上を市場から回収した。しかしインフレは収まらない。ウクライナ戦争―世界戦争が始まり、世界経済が分断され、ブロック化しつつあるからだ。「グローバル化」を牽引してきた金融とエネルギーの分野でブロック化が進んでおり、この動きは他の貿易・投資にも波及する可能性が高い。
 他方で、08年リーマン・ショック、20年からのコロナ×大恐慌と超金融緩和が繰り返され、2000年には1兆㌦に過ぎなかったワールドダラー(FRBが米国内に供給するマネタリーベースと米以外の各国の中央銀行が外貨準備として保有する米ドルの合算)が20年には9兆㌦を超えた。資本主義史上例のない「マネーじゃぶじゃぶ状態」にし、金利をゼロにして債券価格を釣り上げてきた。米日欧すべてで債券バブル、国債バブルの満展開となった。
 それがインフレ対策を機に22年から逆回転したのであり、その破壊力は未曽有のものとなる。昨年12月、米国のM2という通貨供給量を示す指標の伸び率が、過去60年で初めて前年比マイナスとなった。銀行への緊急の資金供給は増えているが、QTは厳として続いている。
 こうした金融引き締めで債券価格が急落し、債券バブルが崩壊し始めた。米金融機関全体の債券の含み損は22年末時点で6204億㌦(82兆5千億円)に急増している(図)。22年末の米金融機関全体の自己資本は約2兆2千億㌦で、含み損はその約3割に相当する。SVBは資産の55%が米国債や政府機関債だったことが破綻の原因となった。米国債の信認低下の転換点になるだろう。SVBだけでなく米金融界全体が破壊的打撃を受け、実体経済も下降していくにちがいない。
 第三に、商業用不動産のバブル崩壊が始まり、銀行の経営を悪化させている。
 20年からのコロナ×大恐慌の中で、21年の米国のオフィス賃貸動向は、雇用の増加やハイテク製品・サービスへの需要に後押しされてきた。しかし、商業用不動産価格は22年前半をピークに下落に転じており、すでにコロナ前の水準を下回っている。米国ではコロナ禍での各種行動制限が早期に解除されたものの、全米主要10都市のオフィス占有率はいまだに50%前後で推移しており、在宅勤務がかなりの水準で続いていることも影響している。
 商業用不動産ローンの70%を中小の金融機関が保有している。米銀が保有する商業不動産ローンの融資残高4兆4千億㌦のうち、23年には16・5%相当の7280億㌦が借り換え期限を迎え、24年も15%相当の6590億㌦と続く。今年から来年にかけて、借り換えがピークを迎えるだけに、不良債権化すれば商業不動産ローンの時限爆弾が爆発する。

世界戦争突入で延命を図る帝国主義を世界革命で倒せ

 SVB破綻から6日後の3月16日、スイスの金融大手クレディ・スイス(CS)が最大500億スイスフラン(約7兆1千億円)を調達する案を発表した。CSは「安全性」を売りに世界中から資金を集めてきたが、マネーロンダリングなどのスキャンダルや巨額損失で経営不安を招き投資銀行などの事業も不振だった。22年12月期決算は日本円で1兆円強の赤字。しかもインフレ抑制のための金利引き上げが、保有債券などの時価を大きく減少させ、不安心理を増大させた。1日あたり1兆円の預金が1週間続けて引き出されたという。SVBと同じ構図だ。
 今回、CSをスイスの金融最大手UBSが吸収合併する形で救済したが、これに伴いCSが発行していた「AT1債」と呼ばれる社債約2兆2千億円分が全損扱いとなり無価値になった。AT1債とは、リーマン・ショック後に強化された金融規制の一環として「中核的自己資本(T1)」の比率を一定以上保つよう定められた金融機関が、その基準を満たす手段として発行してきた高利回り債券だ。本来、自己資本とは返済義務のない純資産のことであり、債券で調達した資金は含まれないはずだが、AT1債は銀行財務が悪化した際には保有者が損失を引き受ける(そのリスクの分だけ金利が高い)仕組みとなっているため、「必ずしも返済が義務づけらていない資金」として中核的自己資本に組み入れられる。20年9月末までに、世界の100程度の金融機関が自己資本の押し上げのためにAT1債を発行し、それを資産運用会社などの投資家が高い利回りを求めて競うように買いあさってきた。だが今回の2兆2千億円無価値化という事態を受け「リーマン・ショックの教訓としての銀行規制強化が産んだAT1債が、金融システム不安のリスクをはらむ商品と化してしまった」(日経新聞電子版3月27日付コラム)のだ。
 こうした中で、日本は昨秋から国債の取引が成立せず、買っているのはほぼ日銀だけとなり、日本国債の信認は崩壊している。世界に先んじて、日本から国債バブルが吹っ飛び始めたのだ。昨年6月から1月14日までに国債は14兆円の売り越しで、海外勢は1月だけで過去最多の4兆1千億円も売り越した。これに対し日銀は1月から、銀行が国債を買いやすくするように、銀行に特別の融資を行う制度(共通担保資金供給オペ)を実施した。日銀が国債を買うだけでなく、民間銀行に特別の融資をして国債を買わせる、という末期的なあがきだ。日本国債は国内勢が大半を占める市場とされてきたが、海外勢の売買シェアはいまや4割を超える。日銀総裁が植田和男に代わっても、もはや手遅れだ。国債の信認の全面崩壊は、日本の財政と金融のすべてを崩すものになる。
 以上の通り、米欧日帝国主義は大恐慌の再爆発に直面し、世界戦争にのめり込む以外に延命できないところに追い込まれている。この帝国主義の未曽有の危機こそ戦争の元凶にほかならない。起きている事態の核心は、「帝国主義の基本矛盾が世界恐慌と世界戦争として爆発していく時代」が本格的に始まったということである。これに対する労働者階級の回答は、世界戦争の世界革命への転化をもって、命脈の尽き果てた資本主義・帝国主義を全世界的に打倒すること以外にない。
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