十亀弘史の革命コラム -8- 2023.8.14 ひとはなぜ戦争するのか

発行日:

週刊『前進』04頁(3306号04面05)(2023/08/14)


十亀弘史の革命コラム -8-
 2023.8.14
 ひとはなぜ戦争するのか

ここに『ひとはなぜ戦争をするのか』という本があります。1932年に国際連盟が「現代物理学の父」と称されるアインシュタインに、〈いま最も大事だと思う問題について誰でも好きな人を選んで書簡を交わして下さい〉と依頼します。それに応えてアインシュタインは、最重要の問題は戦争だとした上で、手紙の相手に著名な心理学者であるフロイトを選びます。同書はその一度だけの往復書簡を収めた薄い本です。
 アインシュタインは、宇宙や光やエネルギーについてその本質と構造を解き明かした「知の巨人」です。2000年に同書の最初の邦訳(花風社)を東京拘置所で読みましたが、全く期待外れの一冊でしかありませんでした。
 アインシュタインは、権力とその近くの少数者が戦争を引き起こすが、なぜ、そういう人たちに多数の国民が従ってしまうのかと問いを発した上で、次のとおりに答えています。人間には、「憎悪に駆られ、相手を絶滅させようとする」「本能的な欲求が潜んでいる」からだ。つまり人間の破壊本能こそが戦争の真因だというのです。フロイトは、アインシュタインの主張に沿って、その欲求を「死の欲動」と名付け、精神医学的な解説を述べています。そして、その欲動を抑えるために、「文化の発展を促せば、戦争の終焉(しゅうえん)へ向けて歩みだすことができる!」という、感嘆符付きの結論で手紙を締めくくっています。
 二人は、国家間の対立を裁定し、戦争を抑止する国際機関についての構想も少し展開しています。しかし、言うまでもなく国際連盟は次の大戦を止められませんでした(今の国連も同じです)。そして、ついにアインシュタインはルーズベルト大統領あてに原爆の開発を求める書簡を出し、広島・長崎の惨劇をもたらした「マンハッタン計画」に手を貸してしまいました。本人は、後で深く悔やんだようですが。
 人の心理や本能に戦争の原因を探ることは愚かですし、そこに戦争を止める現実の力は、何もありません。ひとはなぜ戦争をするのか。一言で言えば、階級支配があるからです。だからこそ、現代の戦争を知るには、レーニンの帝国主義論から出発する外にありません。そして、帝国主義についての認識は、階級闘争の実践によってリアルに深められます。内乱によってしか止めえない戦争の本質と実体は、実践によってこそ一層明確に把握されるのです。
(そがめ・ひろふみ)

このエントリーをはてなブックマークに追加