書評 赤紙と徴兵 吉田敏浩〈著〉彩流社 2000円 105歳最後の兵事係の証言から 兵事係をつくらせてはならない

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週刊『前進』04頁(3308号04面02)(2023/08/28)


書評
 赤紙と徴兵
 吉田敏浩〈著〉彩流社 2000円
 105歳最後の兵事係の証言から
 兵事係をつくらせてはならない

(写真 よしだ・としひろ ジャーナリスト。アジアプレス所属。著書:『北ビルマ、いのちの根をたずねて』【めこん】、『ルポ 戦争協力拒否』【岩波書店】など)

 大日本帝国憲法第20条(兵役ノ義務)に基づいて市町村役場に置かれた「兵事係」の元職員である西邑(にしむら)仁平さんが、敗戦直後の軍の焼却命令に背いて密かに自宅に隠していた「兵事書類」。著者の吉田敏浩さんは2007年、当時103歳の西邑さんのもとを訪れ、これらの書類に目を通し、関係者にも取材して『赤紙と徴兵』(11年8月刊)を書き上げた。
 一読して感じたのは、戦争とはすさまじい大事業だということだ。兵事係は、「資源」としての人材の「適材適所」を追求するために、国民一人ひとりの情報を微細に集めていく。徴兵年齢対象者に住所・氏名・生年月日はもとより、職業、特有の技能、就学程度、納税額、家屋所有の有無、賞刑罰の有無、傷痍(しょうい)疾病の有無、宗教などを届けさせる。所在不明者は徹底的に探し出す。軍が行う徴兵検査に立ち会い選別し等級付ける。
 現在、国は自治体の協力なしに戦争を遂行することは絶対にできない。徴兵制のない現憲法のもとでは兵事係はなく、国民(住民)一人ひとりの情報の多くは自治体の業務として集約されている。マイナンバーに様々な情報をひも付けることをゴリ押しする国の姿勢は、私には戦時体制づくりを焦る様子にしか見えない。たとえば保険証や障害者手帳などの資料に、児童福祉手当受給対象者や課税状況をひも付ければ、効率よく「自衛隊入隊案内」が送れるだろう。戸籍住民課、国民健康保険課、障害福祉課、児童福祉課、税務課がそれぞれ持つ情報は、役所内でも必要最小限しか互いに共有していないが、戦時を想定すれば、個人情報保護などお構いなしというわけだ。
 兵事係はまた、地域住民の動向に傾注するとともに「銃後の護り(まもり)」にも関わっていた。国防献金や慰問袋とりまとめ、戦死者の公葬や慰霊祭の執行——戦争を支える地域社会に分け入り、住民を戦争に組織していた。現在で言うと地域振興課や防災・危機管理室の仕事だ。これらの仕事も軍と深く関係しながら行っていた。杉並区長が出席した「自衛隊入隊・入校予定者激励会」は、軍ならぬ自衛隊と協力しながら行われる兵事係の業務そのものだ。自治体労働者が戦争協力を拒否したら戦争はできない。現業全廃や保育園などの民営化攻撃、さらに会計年度任用職員制度導入など、国が自治体労働運動つぶしの手を止めないのは、やはり戦争のためだと確信した。
 「新しい戦前」を「革命前夜」に転化する闘いの重要な役割を自治体労働者は担っている。「二度と赤紙を配らない」と誓った自治体労働者の決意をわがものとするため、すべての自治体の仲間に読んで欲しい。
(自治体労働者・大谷京子)
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