■News & Review ドイツ 大連立政権と闘うドイツ労働者階級

月刊『国際労働運動』48頁(0451号02面03)(2014/03/01)


■News & Review ドイツ
 ストライキ権への攻撃を許すな!
 大連立政権と闘うドイツ労働者階級

(写真 ベルリンの教育労働者がストライキ、デモ。プラカードは「残業反対」『高齢の教師を大事にせよ!」【13年12月3日】)

 ドイツの労働者階級は、昨年末に発足した保守党と社民党の大連立政権が「賃金交渉の一元化」の名のもとに打ち出したストライキ権への攻撃に対し、階級的な反撃に立ち上がりつつある。この闘いは、数年来のベルリン都市交通の民営化反対闘争、教育労働者の16次のスト、そして、ゴアレーベンの四十数年にわたる反原発の闘いなどと並んで、世界大恐慌下のドイツ帝国主義の新自由主義攻撃の凶暴化への強力な反撃の柱として前進しつつある。
 昨年9月の総選挙からほぼ2カ月後の12月初旬になって、ドイツの新政権がやっとCDU/CSU(キリスト教民主同盟/キリスト教社会同盟)とSPD(社民党)の大連立内閣として出発する協議が終了、連立の合意文書が発表された。

大連立政権の共同綱領の発表

 連立の合意文書(「連立協定」)は、「財政の安定と経済成長」「競争力の強化と雇用の保障」「ヨーロッパ最大の国家ドイツの世界への責任」「強いヨーロッパ」「経済同盟/通貨同盟としてのEUの金融市場への監督と規制の強化」「労資の協調がかぎ」などである。これは、世界大恐慌の激化、EU分裂の危機、大失業のさなかで、ドイツ帝国主義の延命への階級意思を共同綱領として明らかにしたものである。体制内労組のナショナルセンターであるDGB(ドイツ労働総同盟)は、この合意を基本的に支持する態度を表明している。
 連立の協議での最大の問題としては、今や「低賃金国家」となったドイツ(労働人口の20%が、平均賃金水準の3分の2以下の賃金)での最低賃金制導入〔1時間8・5ユーロ(約900円)という低額〕が報道されているが、実はドイツ労働者階級にとっての核心的問題は、「賃金交渉の一元化(統一性)」の名によって、スト権規制の法制化を行おうという攻撃が公然と開始されたことである。保守党と社民党、それに体制内労働組合が一体となったこの反動攻撃に対して、「ストライキ権への攻撃を許すな」のスローガンのもとに階級的反撃が開始されている。

「賃金交渉の一元化」の狙い

 「連立協定」は、その「第2章 完全雇用、良質の労働、社会的安全」で、次のように述べている。
 「結社(組合結成)と賃金協定(交渉)における多元性を正規の軌道に乗せるために、賃金協定における一元性〔統一性〕の原則を、職場〔経営〕における多数決原理に従って、労働者と経営者のそれぞれの中央組織の合意を得て法制化していくつもりである。憲法との整合性に関する問題については、関連事項の処理規則をとおして解決する」
 ここで言っていることは、「結社(組合結成)と賃金協定における多元性」(一つの職場〔経営〕において、複数の労働組合が存在し、それぞれが会社側と賃金交渉を行い、賃金協定を結ぶ)というあり方)を、「正規の軌道」すなわち「賃金協定における一元性〔統一性〕」(「一つの職場〔経営〕には、一つの賃金協定」)に〝もどす〟ということである。つまり、一職場で賃金交渉を行いうる労働組合を一つにしぼる、その他は認めない、ということである。
 これは一言で言って、少数派組合(多くの場合、反体制的戦闘的労働組合)つぶしの攻撃である。
 だが、この攻撃は、賃金交渉から少数派組合を排除するだけではない。一つの職場で賃金交渉が行われている間は、直接その交渉に参加していない少数派労組も、ストライキなどの闘争を行うことができなくなる、ということを狙っているのだ。

戦闘的労組のスト権剥奪を狙う

 というのは、ドイツの労働法では、賃金交渉の期間中は、「休戦期間」としてストライキをはじめとする闘争手段の行使は停止されることになっている。そこで、「賃金協定における一元性」の法制化は、これら少数派組合から、事実上、ストライキ権を奪う結果をもたらすのである。
 連合協定で、「憲法との整合性」と言っているのは、2010年7月に、連邦労働裁判所が、「賃金の一元化を急ぐことは、憲法で規定された結社の自由(団結権)に抵触する」という判決を下し、「一つの職場(経営)には、一つの賃金協定」という従来の原則を破棄し、この判例が、法制上=憲法上の規範となって現在にいたっている、という事実を指す。この連邦労働裁判所判決は、DGB(ドイツ労働総同盟)がBDA(ドイツ経団連)と共同で提起していた「賃金協定(交渉)の一元化」の法制化要求に対する回答であった。このキャンペーンに対しては、DGB内部、加盟単産からの批判が続出し、しかもこの判決があって、DGBとBDAは、今回の大連立の成立までは、いったん断念せざるをえなかったのである。
 ブルジョアジーと体制内労組が、「結社(組合結成)と賃金協定における多元性」を、こうして問題にしはじめたのは、2005年来、少数派組合(実際は、その組織実態に即して「職種別組合」と呼ばれている)が、新自由主義攻撃への体制内労働運動の屈服・協力に対し、職場労働者が先頭に立って戦闘的な闘争を展開し、「ストライキ共和国ドイツ」と呼ばれるような階級闘争の局面を切り開いていたという現実があったのだ。この少数派組合(「職種別組合」)としては、次の五つの組合が代表的な位置をもっている。

資本・体制内労組を揺るがす少数派組合

 GDL(ドイツ機関士労組)は、機関士を中心に、列車の添乗員や整備・保守部門を含めた労働者5万8千人を組織。体制内交通運輸労組であるEWG(鉄道交通労組/組合員22万人)とは独自に、組合の違いをこえたすべての機関士にとっての統一的な賃金要求を掲げ、ストライキを武器に賃金交渉を闘ってきた組合だ。
 次に、MB(マールブルク同盟)は、ドイツ中部の都市マールブルクの地域医療に携わる医師の組合。DGB加盟の組合だったが、本部の労資協調的姿勢に反対して、2005年に決裂、独立組合となって闘い続けている。
 そして、VC(パイロット組合)、GdF(添乗員組合)、Ufo(航空機整備士組合)の航空輸送関係の3労組は、賃下げ攻撃、労働強化に反対して、いずれもストライキをもって闘ってきた。
 これらの組合は、とりわけ2005年頃から現在にいたるまで、職場労働者の要求の先頭に立って、鉄道スト、航空スト、空港スト、医師のストなどをもって、大恐慌下のドイツ帝国主義を揺さぶってきた戦闘的組合である。マスコミは、「階級闘争を好む少数派組合が、鉄道や航空を混乱させ、ドイツ社会を揺るがしている」などと恐怖し、非難を浴びせてきた。だが、実は、これらの闘いに最も脅威を感じたのは、体制内労組であった。これら少数派組合の戦闘的な闘いが、DGBの傘下であるVer―di(統一サービス労働組合)の公共サービスおよび民間サービスのさまざまの業種の労働者をはじめとして、全国で資本の攻撃にさらされてきた多くの現場組合員に対して巨大な影響力を与えてきたという現実があるのだ。だから、DGB加盟の巨大労組の中からも、多くの職場労働者が、これを、団結権・ストライキ権への凶暴な攻撃としてとらえ、反対闘争に決起しつつあるのだ。すでに、MB(マールブルク同盟)は、わずか数週間のうちに、数千の反対署名を集め、またベルリンでは、「賃金協定(交渉)の一元化」の法制化反対の共闘組織が立ち上げられようとしている(別掲のビラの訳を参照)。
 この「ストライキ権への攻撃を許すな」の闘いの開始とともに、2014年のドイツの階級闘争は、昨年来の闘いを引き継ぎ、年頭からすでに激しく開始されている。

ベルリン教育労働者の16波のストライキ

 首都ベルリンでは、教育労働者が、雇用形態による賃金格差の解消と労働条件の改善を求めて、昨年来16波のストライキを繰り返し、昨年末12月3日と4日には、ベルリンの400校でのストライキを闘った2400人の教育労働者が、闘いを支持する150人の生徒とともに市内デモを貫徹した。
 社民党と左翼党などの支配するベルリン市当局と議会は、1年にわたって教育労働者との団体交渉を拒否し続けているが、闘いは、年を越えて継続されている。
  同じくベルリンで、DBAG(ドイツ鉄道)とベルリン市当局・ベルリン議会によって策動されている都市交通の民営化に反対して、この間、民営化と闘ってきたベルリン都市交通反対委員会・都市交通対策委員会・〝大衆のための鉄道〟の3組織が、共同で新たな闘いを準備している。
 さらに、北ドイツ・ゴアレーベンの核燃料廃棄物中間貯蔵施設反対の闘いは、大連立政権の「脱原発」からの後退に直面して、新たな局面を迎えようとしている。

日韓米の3国連帯にドイツが合流

 昨年の11月集会に、ベルリンの戦闘的鉄道労働者が参加したことは、ドイツ―ヨーロッパの労働運動との国際連帯を新たな次元に押し上げるものであった。2003年以来、新自由主義攻撃に対する階級的労働運動の反撃をとおして、強い絆を鍛えあげてきた日韓米の国際連帯闘争は、これをもって、世界大恐慌下の全世界的革命情勢を、反帝・反スターリン主義のプロレタリア世界革命の勝利に転化する強力なてこをつかみつつあるのだ。
 (川武信夫)
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〝後退ではなく、労働組合の抵抗闘争を!〟〔抄訳〕

「労働組合左派のネットワーク」会議(2013年11月9~10日/ルール工業都市ボーフム)

 労働運動の方向転換のために共同して闘おう! 何をなすべきか? 第一に、絶望や裏切りに抗して、非正規職と低賃金と闘う労働運動をつくりだそう。第二に、闘争に立ち上がった労働者を孤立させず、支持し、連帯し、共同して闘おう。
 ▽派遣労働、契約労働、その他の不安定雇用に反対しよう! 派遣労働者・契約労働者を使ってのスト破りと闘おう!▽全国的な統一的賃金交渉の原則を守れ! 労働組合弱体化を狙った企業・経営単位の個別的契約条件に反対! あらゆる賃金差別に反対!▽年金削減、年金支給開始年齢の引き伸ばし反対!▽ヨーロッパを避難民から防衛する砦とすることは、事実上の集団虐殺だ。移住者に対して平等の人権を保障せよ!▽団結権とストライキ権の制限、反対! 資本と政府と労働組合中央指導部の新たな策動=「賃金交渉の一元化」による労働者の団結破壊の攻撃を粉砕しよう!▽資本攻勢と闘う労働組合的団結と連帯行動を強化しよう! 賃金交渉における組合の方針決定方式を民主化しよう! 職場委員、組合の職場組織のネットワークを形成し、労働者間の競争意識を克服し、連帯行動を強めよう! 政治的学習活動で階級意識を強化しよう!▽工場閉鎖に反対し、職場でストライキ、工場占拠、さらに経営の労働者管理で闘おう! 闘争中の仲間を支援し、企業内の他の工場(海外を含めて)や、他の地域の労働者に闘いを拡大しよう!