■News & Review ドイツ 公共サービスと航空労働者がスト 凶暴化する「内への階級戦争」に反撃

月刊『国際労働運動』48頁(0453号02面02)(2014/05/01)


■News & Review
 ドイツ
 公共サービスと航空労働者がスト
 凶暴化する「内への階級戦争」に反撃

内外において凶暴化する独帝

 ドイツ帝国主義は、ウクライナ危機の爆発を契機に、いよいよ「東方への勢力圏拡大」の凶暴で絶望的な衝動をつのらせ、対米対抗的に争闘戦を激化させている。
 この「外へ向けての侵略戦争」と同時に、新自由主義の強行と破綻の結果、爆発しつつある労働者人民の怒りを圧殺しようと、「内へ向けての階級戦争」に打って出てきている。とりわけ攻撃の集中点となっている公共サービス労働者は、既成労組の枠と激突しつつ、ストライキ闘争に立ち上がっている。また、ルフトハンザのパイロット組合による数次のストライキは、ベルリン都市交通労働者の闘いと並んで、中枢的交通網に打撃を与えた。メルケル政権は、これに対して、「戦闘的少数派労働組合の突出」として、マスコミを動員して、組合つぶしの集中攻撃を加えている。それに、保守党と社民党の大連立政権による「年金制度」改悪の大攻撃が、ドイツ労働者階級に加えられている。
 ウクライナは、1990年の東西ドイツ統一、そして1991年ソ連スターリン主義崩壊=東欧スターリン主義圏崩壊とEUおよびNATOへの包摂=「東方拡大」という戦後世界体制の決定的解体過程で、ロシアとの国境線を持つ最後の大国(4500万人)としての位置を持つ。
 とりわけドイツ帝国主義にとって、ウクライナは、ロシアからEU向けの天然ガス輸送ルートを握る枢要の位置を占めている存在である。
 ドイツ資本のウクライナへの直接投資は、キプロス(タックスヘーブンやマネーロンダリングの拠点として外国資本が流入)に次いで第2位、ウクライナへの輸出額においては、ドイツはロシア、中国に次いで第3位、すでに重要な関わりを持っている。
 今回のウクライナの激動過程でも、ドイツ政治家は、EUやNATOの関係者らとともに首都キエフの闘争現場をしばしば訪問するだけでなく、反対派の政治家をドイツへ呼ぶなどして、積極的に旧政権打倒に関わってきた。

NATO東方拡大狙う共同声明

 今回のロシアのクリミア侵攻=併合に際して、注目されるのは、4月1日からのブリュッセルNATO外相会議を前にして、ドイツ帝国主義が、フランスおよびポーランド政府の三者で、「ワイマール三角同盟」(第1次世界大戦後のドイツ=「ワイマール共和国」を思わせる)を名のって、次のような共同声明を出していることである。
 1 われわれワイマール三角同盟は、ウクライナの事態を憂慮し、2月にわれわれ3カ国が共同でキエフを訪問して以来の事態収拾への努力をいっそう強化する。
 2 ロシアが、クリミア併合で行った侵略行為に対して、われわれは全ヨーロッパ的に共同の弾劾という姿勢を確認する。
 3 明日からのブリュッセルNATO外相会議へ向けて、われわれはロシアとウクライナの間の歴史的な独自の関係を十分に認識しているということ、そして、その関係は領土相互不可侵の原則に依拠しなければならないことを確認したい。
 4 東方諸国の同盟関係は、これら諸国の民主的経済的社会的改革のてことして発展させられねばならない。そして、それはロシアの利益にもなることである。
 5 われわれはその際、東方諸国に対して、EUへの接近を選ぶか、ロシアとの協力を選ぶか、というような迫り方をすべきではない、と考える。
 6 3月21日、EUはウクライナと連合協定の政治的部分を締結した。疲弊したウクライナの経済を再建するためには自由貿易と金融援助が必要だ。これには、ロシアの協力・参加が重要だ。
 7 また、ウクライナのIMF・WTOなどの国際機関との協定を、われわれは歓迎する。
 8 3月21日、EUは、グルジア・モルドバとの連合協定締結を促進すること決定した。われわれは、EUとロシアが、ウクライナ・モルドバ・グルジアを加えた実務的な会談を開催することを提案したい。
 9 われわれワイマール三角同盟は、2月21日にキエフで調印した協定に基づいて、以上の計画の実現に努めていきたい。
 この「ワイマール三角同盟共同声明」で特徴的なことは、アメリカには一切言及せず、ドイツ帝国主義が、EUとNATOを代表して、ロシアとの関係の再構築におけるヘゲモニーを確保すること、その際、歴史的にも現在的にも対ドイツ的な傾向を強く持ったフランスとポーランドというEU内の大国を、「ワイマール三角同盟」に引き入れて、ドイツ帝国主義独走の批判をかわしつつ、グルジアにまで踏み込んで、強力なEUとNATOの東方拡大を狙っている、ということである。

ドイツの好戦的主張

 このような、ロシアに対する、一見、融和的な態度の一方で、ドイツ外務省の公式文書は、次のような好戦的な主張を展開して、先のミュンヘンNATO会議でのガウク大統領の「軍事大国ドイツ」宣言、大連立協定文書での「世界に責任をとるドイツ」という基本政策を、再確認しているのである。
 すなわち、「集団的防衛」「危機管理」「協調的安全保障」という2010年リスボン・サミットでの戦略概念を踏まえて、「NATO加盟国の一国が攻撃されたら、共同の防衛責任を負う」というワシントン協定第5条を守ること、などを打ち出している。
 具体的には、トルコに連邦軍のパトリオットシステムを移動させるとか、アフガニスタンに派遣している治安部隊の数では、ドイツは第3位だとか、コソボの治安維持のために派遣している部隊の数では、米軍と並ぶ最大勢力であるとか、あくまで「ドイツの単独行動はありえない。あくまで、NATOなどに依拠した共同行動が基本」と言いつつ、実はすさまじい軍事力の誇示を行っているのである。

独帝の足元を揺るがす労働者の決起


(写真  2014年のVer-diのストライキ)

 しかし、こうしたドイツ帝国主義の足元を揺るがすドイツ・プロレタリア―トの決起が、世界大恐慌の深化、新自由主義攻撃の破綻の中で、開始されているのである。
 4月の協約更新期を迎えて、Ver―di(公共サービス労組)傘下の労働者が、ストライキに立ち上がった。200万人の連邦・州政府の労働者を包含する協約交渉は、3月13日に開始されたが、政府側は組合の要求は過大であるとして交渉を打ち切ったため、Ver―diはストライキを呼びかけることになった。組合提出の要求は、次のとおりである。①100ユーロ+3・5%の賃上げ、②訓練労働者への追加手当、③見習い労働者に対する永続的な職の保障、以上である。
 2年前の協約交渉で、Ver―diは、6・5%と最低2000ユーロの賃上げを要求し、3%の回答で妥結していた。これは、インフレ率にやっと見合う程度のものであるに過ぎない。
 こうしたVer―diをはじめとするドイツ労働総同盟(DGB)の体制内的屈服の結果、ドイツ労働者階級は、新自由主義攻撃のもとで、賃金カットを強制され、ついにEU内での低賃金国に転落するに至っている。加えて、非正規職化・下請け化・外注化攻撃、年金制度改悪策動などのもとで、ドイツ労働者階級の怒りは、爆発点に達しているのである。〔本誌2013年7月号の特集「ヨーロッパの革命情勢」参照〕

Ver―diストの威力

 今回の協約闘争では、金融都市フランクフルトを州都とするヘッセン州で、公共サービス労働者のストライキが、主要な都市機能をガタガタにする激しさと広がりをもって展開された。地下鉄、路面電車、バスなど、すべてストップし、保育所・ごみ収集・水道・劇場、その他、市営公営の施設は、ことごとく作業を停止した。病院労働者・看護師、障害者施設の労働者もストに参加した。教育労働者、そして子どもたちも、スト支援に加わった。とりわけ、フランクフルト近郊のオッフェンバッハ、へキスト、マイン=タウヌスなどの診療所の労働者が、民営化による首切り、賃下げの攻撃に対して、ストで抗議した。こうしたヘッセン州の巨大な闘いに先立って、ベルリンやノルトライン=ウェストファーレン州でも、Ver―di傘下の労働者11万人がストに決起した。

ルフトハンザ航空の歴史的スト

 こうした公共サービス労働者のストライキの波の中で、ルフトハンザ航空のパイロット組合が、4月2日から4日にかけて、3日間のストライキに決起し、3800便を欠航に追い込んだ。その中心地は、Ver―diの闘いの焦点となったフランクフルトの空港であった。パイロット労組の要求は、10%の賃上げに加えて、この間、懸案であった65歳での定年退職以前の早期退職(パイロットの激務のために、55歳頃からの早期退職を余儀なくされるケースが多い)の際の年金支給額をカットしようとする攻撃に対する反対、の二つであった。
 組合員5800人の95・8%がスト権投票に参加、その97・2%がスト賛成という圧倒的な体制で、3日間のストが貫徹された。ストの拠点となったフランクフルト空港では、パイロット組合のほか、客室乗務員組合、地上勤務員の組合を含めて、この6週間で3回のストライキが行われている。まさに、空港でのストが、いわば常態化している、という状況が生み出されているのだ。その背景には、航空会社間の競争、とりわけ低価格会社との競合の必要から来る労働強化が、すべての航空労働者に重くのしかかっているという現実がある。
 それを実証するように、この間、ヨーロッパ諸国で、航空ストが相次いでいる。すなわち、フランス、ポルトガル、イタリア、ハンガリー、チェコ、スロバキア、ギリシャ、スロベニア、キプロス、マルタ、オーストリアなどで、時限ストから全日ストに至るさまざまの闘いが行われている。こうした航空労働者の闘いは、現在EUが進めている航空業務の自由化に対する反対を、共通の課題としている。

年金制度改悪への怒りの高まり

 こうしたドイツ労働者階級の怒りをさらに燃え立たせているのが、年金制度の改悪策動である。年金制度の改悪は、シュレーダー社民党政権(1998~2005年)のもとでの新自由主義攻撃の柱として系統的に行われてきたドイツ帝国主義の政策であるが、世界大恐慌の激化・深刻化のなかで、いっそうの経費削減が要求され、大連立政権の手によって強行されようとしているのである。詳しくは、機会をあらためて論じたいが、賃金カット攻撃、非正規職化攻撃と並んで、ドイツ帝国主義の労働者階級に対する階級戦争の重要な柱として、階級闘争の焦点となっていくことは必然的である。
 EUとNATOの中軸国として凶暴化を深めるドイツ帝国主義を打倒する闘いの勝利のかぎは、階級的労働運動の復権と国際連帯の強化にある。日韓米の3国連帯に加えて、この間開始されたドイツ労働者人民の闘いとの交流、ベルリン都市交通の戦闘的労働者など首都の労働運動、そして35年の歴史を持つ「ドイツの三里塚」=ゴアレーベンの反核・反原発闘争との感動的出会いは、ロシア革命から100年を迎える世界の労働者階級が、プロレタリア世界革命に今度こそ勝利するためには、反帝国主義・反スターリン主義の革命的綱領で武装することを、切実な課題として要求していることを改めて明らかにした。
(川武信夫)