■特集 労働者の国際連帯で戦争阻止 戦後世界体制最後的崩壊の扉を開いたウクライナ情勢 Ⅲ ウクライナ労働者の現実 今も続くチェルノブイリ事故

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月刊『国際労働運動』48頁(0454号03面03)(2014/06/01)


■特集 労働者の国際連帯で戦争阻止
 戦後世界体制最後的崩壊の扉を開いたウクライナ情勢 Ⅲ
 ウクライナ労働者の現実
 今も続くチェルノブイリ事故


 世界大恐慌の激化のただなかで、帝国主義間・大国間の争闘戦が、戦争的切迫性をもって火を噴いているウクライナ情勢、その根底にあるのは最末期帝国主義の矛盾の激化であり、同時に、その矛盾の犠牲を一身に負わされてきたウクライナの労働者人民の苦しみであり、怒りである。

ユーロマイダン

 ユーロマイダンとして、腐敗した反労働者的なヤヌコビッチ体制への怒りと憎悪を爆発させたのは、スターリン主義体制崩壊後、二十数年にわたって、新自由主義的・資本主義化攻撃を身をもって受けてきたウクライナの労働者階級であった。
 その怒りの激しい爆発が、中東を始め、EUを含め全世界で決起を開始している労働者人民と合流し、結合することこそ、米欧帝国主義者とロシアの支配階級が最も恐れていることである。
 その恐怖こそが、凶暴なファシスト部隊をもって大衆決起を暴力的に乗っ取り、分断し、ねじ曲げ、米欧帝国主義に承認される反動的・反労働者的なウクライナ暫定政権を生み出したのである。

「連合協定」絶対反対

 暫定政権は3月21日、EUと「連合協定」を締結し、自由貿易、国内の構造改革だけでなく、政治・防衛政策にわたる協力を約束し、「今や、新自由主義政策を実行するチャンスだ」「ギリシャ型緊縮政策」をとるとうそぶいている。
 これに対し、ウクライナ労働者は、「IMFが典型的な緊縮政策を要求し続けている」「ウクライナの賃金、年金、他の社会福祉は欧州で最も低い。高い失業率と組み合わさって、貧しい人々への社会福祉を削減する緊縮政策を推進する努力はこの国をより一層不安定にする危険がある。社会保障の欠如はウクライナ人民がマイダンに向かう一つの主要な理由であった。西側諸国に支持された緊縮政策の脅威はまた、ヤヌコビッチ支持者によって都合よく使われた。一方的に労働者と貧しい人々に打撃を与える年金、賃金、燃料・電気・水道代への補助金を削減する緊縮政策は、ウクライナの紛争の火に油を注ぐだろう」(KVPU〔ウクライナ自由労働組合総連盟〕の声明)と、訴えている。

労働者人民の現実

 スターリン主義体制からの体制移行をして四半世紀をへた今、ウクライナの労働者人民が直面しているのは、どんな現実か〔以下、KVPUの資料に基づく〕。
 ①低賃金、徹底的な貧困。ウクライナの平均賃金は月額400㌦(約4万円)、賃金水準は、欧州43カ国の中で42位。人口の70%が貧困生活を強いられている。
 ②大量な失業者。人口4600万人のうち170万人が失業者で、失業率は8%。700万人が、国外で労働している(出稼ぎ)。
 ③労災・事故の頻発。10年の1~9月間で、8500人の労働者が負傷した。特に事故が多いのは東部鉱山地帯で、この期間だけでも2000人の炭鉱労働者が、老朽化した設備のためにケガをした。
 ④非正規労働者の激増。とりわけ、この間進出してきた外国資本・多国籍企業が、正規の契約を嫌うことから、未登録の「闇労働」まで含めて、不安定雇用が普遍化してきている。
 ⑤こうした状況をさらに悪化させているのが、さまざまな形の不当労働行為である。組合の設立を認めようとしない企業の存在、組合活動家への首切り攻撃の集中、さらに公務員労働者への賃金不払い。

経済の低迷

 1991年の「独立」以後、ウクライナの経済成長は激烈な落ち込みを経験し、99年のGDPは、10年前の水準の半分以下にまで縮小した。その後、2000~08年に急成長をとげ、世界で45位の経済規模にまで回復した。しかし、08~09年間に、世界金融恐慌の打撃でGDPが15・1%減少、現在に至るまで低迷を続けている。
 ウクライナの主要産業は、鉄鋼業、化学産業、戦略的軍事産業複合体、燃料産業、自動車産業、航空・宇宙産業、造船業、IT産業、農業などである。スターリン主義体制崩壊過程で、これらの産業が民営化されるが、その際に旧国有財産を簒奪したオリガルヒという新たな特権支配層が誕生したのである。ロシアとそっくりだが、ロシアではプーチンがオリガルヒの政商化を力で抑え込んでいる。石油産業の再国有化を進めた。
 この過程は、東欧諸国へのNATOとEUへの包摂の波の中で進行した。ウクライナは、早くも92年に、IMFと世界銀行に加入し、欧米資本の影響下に入ることになった〔WTO(世界貿易機関)への参加は08年〕。
 IMFは、融資の条件として受取国に対し、構造改革・財政安定・緊縮政策を要求し、その実施をめぐってウクライナはIMFとの緊張関係に入ることになる。10年、ウクライナは、ハンガリー・ルーマニアに次いで、IMFへの第3位の債務国となった。
 一方、ウクライナの産業・経済は、別の項目で述べてあるように、ロシアとの歴史的構造的な関連の中にある。
 こうして、ウクライナの労働者人民は、①腐敗したオリガルヒの支配、②IMFによる緊縮政策の強制、③大恐慌に至る世界経済の動向、④ロシアへの依存性、という諸要因に発する重圧のもとに置かれてきたのである。

労働運動の現実

 このような状況に、ウクライナ労働者階級を陥れたのは、体制内労働組合・労働運動である。ウクライナの労働組合には、旧体制下の労働組合を継承した労働組合、独立労働組合、そして明白な企業内御用組合の三つの潮流が存在している。(別掲参照)
 ウクライナ労働運動のなかで最も戦闘的なのは、東部の鉱山地帯ドンバスに集中した10万人の炭鉱労働者で、1989年、スターリン主義体制下における初めてのストライキに決起し、91年に至る流動状況を切り開くという歴史的任務を担った。「体制移行」後もオリガルヒ支配に対して、90年代を通してストライキを継続してきた。
 近くは、世界大恐慌爆発後の09年、賃金の未払いや首切りの波、劣悪な労働環境などに抗議する250万人規模の集会が、独立系労組の統一行動として、ウクライナ全土で行われている。

炭鉱労働者の決起

 今回の激動におけるマイダン運動の爆発に際して、労働者の参加は、労働組合としての組織的行動ではなく、個々の労働者の街頭への登場にとどまり、その弱点をファシストに徹底的に衝かれ、反労働者的な暫定政権の成立を許してしまった。
 4月22日、炭鉱労働者がウクライナ東部ルガンスク州で賃上げと安全な労働環境を求めてストライキに立ち、2千人で会社の本部を占拠する闘争を行っている。
 しかし、こうした職場からの戦闘的大衆的決起と、個々の政治的グループが提起している「新自由主義の緊縮政策反対」「ウクライナ、ロシア、ヨーロッパの労働者の国境を越えた団結を」というスローガンの結合が、民族主義的なイデオロギーによって阻まれているのが現状であると思われる。
 この二十数年、ウクライナの労働組合運動は、階級的指導部の不在から、体制内派(ヤヌコビッチの地域党に依拠している)だけでなく、自立を名乗る組合でさえも、ティモシェンコの祖国に依拠しているだけでなく、個々の戦闘的潮流にとどまる、という欠点を内包してきた。今回の激動は、まさにそうしたウクライナの労働組合運動を試練に直面させ、ロシア革命時の階級的労働運動を復権することが、死活の課題として提起されているのだ。

チェルノブイリ事故から28年/原発依存を強めるウクライナ

レベル7の過酷事故

 1986年4月26日に事故を起こしたチェルノブイリ原発4号機は、電気出力100万㌔ワットの黒鉛減速チャンネル炉で、ウクライナの首都キエフの北方約100㌔メートル、ベラルーシとの国境近くにあった。原子炉の制御に失敗し、出力暴走事故を起こし、炉心が溶融(メルトダウン)、大量の蒸気が発生・充満し、原子炉と建屋が2度にわたって爆発した。事故は後の基準で最悪のレベル7(深刻な事故)に分類される。
 黒鉛火災と放射能放出を止める作業に約86万人が動員され、そのうち31人が直後に病院で死亡し、5万5千人が今日までに死亡している。作業員の9割近くが病気になっている。石棺と呼ばれるコンクリートの覆いが完成したのは11月だった。
 放射能汚染はウクライナ、ベラルーシ(農地の5分の1)、ロシア連邦、全欧州、日本を含む北半球全域に広がり、今日まで自然・環境、経済・社会生活のあらゆる部面に破滅的な影響を及ぼし続けている。ベラルーシの子どもの約8割が病気だ。事故から28年たった今も溶融した炉心の様子は分からず、事故は収束していない。拙速で造った石棺のすき間やひびから放射能が漏れ、傷みも激しいため、2013年2月から欧米日の協力により巨大な新シェルターの建設が始まっている。

人口激減、農業破壊

 原発事故の影響でウクライナ(さらにベラルーシ、ロシア)では人口減少が激しい。ウクライナの人口は1989年段階で5170万人だったが、2010年には4596万人と約574万人も減少した。欧州などへの移住・出稼ぎが数百万人に上るため、一概に言えないが、原発事故による放射線被曝の健康影響がウクライナの人口減少の大きな原因となっていることは間違いない。小児甲状腺がんを始めがんや白血病の多発が報告されている。
 また農業も壊滅的な被害を受けた。ウクライナの黒土地帯は欧州の穀倉と呼ばれ、農産物はウクライナの主要な輸出品目だったが、今日では2010年、GDPの約8%、輸出の7・7%を占めるにとどまっている(鉄鋼・金属は33・7%)。

ソ連崩壊の要因

 事故を契機に全ソ連で激しい反原発運動が起こった。ソ連スターリン主義の過酷な治安弾圧体制のもとでは考えられなかった巨大な大衆運動が爆発的に巻き起こった。
 当時、ソ連共産党のゴルバチョフ書記長がスターリン主義体制の延命と再生のために「ペレストロイカ(立て直し)」と「グラスノスチ(情報公開)」をスローガンに掲げていたこともあって、当局は反原発運動、環境保護運動の形をとった反体制運動を抑え込むことができなかった。
 ペレストロイカの失敗で経済が崩壊するなか、チェルノブイリの運動は独立を求める人民運動に転化した。ウクライナ西部を中心に「ルフ」と呼ばれる運動体がつくられた。独立運動はソ連の全域で起こり、ソ連スターリン主義を歴史的な崩壊に導いた。

原発依存度は5割

 チェルノブイリ4号機の石棺の整備後、事故にあわなかった1~3号機が再稼働した。これらは新シェルターの建設資金提供と引き換えに2000年までに閉鎖されたが、現在もウクライナ国営のエネルゴアトム社が4カ所のサイトで15基の原発を稼働・操業している。さらに2004年に2基が新設された。「アレバNP社」(仏アレバ社の子会社)と「アトムトロイエクスポルト社」(ロシア国営ガスプロム社の子会社)が建設したものだ。
 石油・天然ガス供給の70%をロシアに依存する状況につけ込み、フランスとロシアの原子力産業最大手が巨大な利益を得るために原発を造り続けているのだ。
 電力需要に占める原子力の割合は47・2%(2011年)にも達する。エネルゴアトムはこれを2020年までに50~52%にするとしている。2013年7月に閣議了承された2030年までのウクライナエネルギー戦略は、2030年までに原発での発電量を現在の約1・5倍にする計画だ。

15年に新シェルター完成

 チェルノブイリでは現在、新しい石棺が建設中だ。新シェルターは高さ108㍍、長さ150㍍、幅260㍍という巨大なかもぼこ型。4号機の西側にある空き地で組み立てられ、レール上を移動して現在の石棺ごとすっぽりと覆う。建設費は9億9千万ユーロ(約1050億円)が見込まれており、完成予定は2015年10月。耐久年数も100年と見積もっている。

燃料棒輸入をめぐる問題

 ウクライナはロシアへの依存を減らすため、原発の燃料供給をロシアから西側に切り替える動きを2005年から始めた。しかしウクライナやチェコの旧ソ連製原発でウェスチングハウス社製燃料を使ったことが原因で大事故寸前に至った例がある。
 チェコのテメリン原発でも2006年、ウェスチングハウス社の燃料を使ったために気密性が失われる事故が起きた。この事態の後、チェコはウェスチングハウス社の燃料供給を受けないことにした。原発の修理および新たな燃料の購入に何百万㌦もの経費がかかったという。
 ところがウクライナ国営のエネルゴアトムは4月11日、ウェスチングハウス社製の燃料棒供給を受ける契約を2020年まで延長すると発表した。
 これに対して4月25日、旧ソ連・東欧圏を中心に1万5千人以上の原子力産業経験者を組織する原子力エネルギー・産業専門家国際連合(IUVNEI)は声明を発表して警告を発した。「アメリカ企業ウェスチングハウス製核燃料は、ソ連時代の原子炉の技術的要求事項に合致せず、それを使用すればチェルノブイリ大惨事規模の事故を引き起こしかねない。現在までそうした事故が起こらなかったのは奇跡だ」
 米国製の原子炉用核燃料の輸入も使用済み核燃料の自国での貯蔵・保管も技術的にきわめて難しい。日米欧とロシアはウクライナの原発をめぐる争闘戦、原発=核をめぐる危険な争闘戦だ。チェルノブイリ級の大事故、大惨事を再び引き起こさないために、全原発を即時停止し廃炉にするしかない。
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 ウクライナをめぐる戦争の危機は、ヨーロッパ・ロシアを始めとする全世界の労働者階級人民に対し、決起を求めている。国際連帯と国鉄決戦、反原発闘争で世界革命への道を切り開こう。