●翻訳資料 2014QDR(4年毎の戦力見直し) (上) 2014年3月4日 アメリカ国防省 村上和幸 訳

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月刊『国際労働運動』48頁(0455号04面01)(2014/07/01)


●翻訳資料
 2014QDR(4年毎の戦力見直し) (上)
 2014年3月4日 アメリカ国防省
 村上和幸 訳

(写真 QDRに最初に掲載されている写真はアフガニスタンのカンダハル空軍基地のMQリーパー無人機。パキスタン、イエメンなどでも多くの民間人を虐殺している)

【解説】

アジア太平洋へのリバランスと核戦略

 ここに翻訳したQDR(4年毎の戦力見直し)は、4年毎に改定されるアメリカの重要な戦略文書の14年版である。
 2014年QDRのキーワードは「リバランス」だ。重点を移し、態勢を変更するということである。
 一つは、米軍の配備を他地域では大幅に減らし、アジア・太平洋地域で大幅に増強する。あと一つは、陸軍を減らし、海軍、空軍を増強する。
 90年代から、米軍事戦略の対中国シフトの方向性は示されていたが、アフガニスタン・イラク戦争、中東の激動のため米軍は股裂きとなった。その状態は今も変わらない。しかし2011年、オバマ政権は「アジアへの旋回」を打ち出し、中国包囲戦略の重大なエスカレーションを行った。
 米、欧、日の80年代からの新自由主義の外注化、海外移転推進によって、中国は、外注先・移転生産拠点として急速に拡大し、大国化していった。それに対してアメリカ帝国主義は、中国包囲戦略を強め、また中国スターリン主義は、それへの軍事対抗をしてきたのだ。それは同時に、日本帝国主義に対するアメリカ帝国主義の争闘戦という要素も濃厚にはらんでいた。
 そして今、日本帝国主義は安倍政権のもとで反米極右路線を走り、日米同盟そのものが重大な危機に陥っている。
 何よりも、アジアの労働者階級の怒りが大爆発する時を迎えている。「世界の工場」となったアジアに全世界の大恐慌の激烈化の矛盾が集中しているからだ。
 これらのことから今次QDRは、いたるところでアジア太平洋地域をトップにすえて論じ、米軍配備の大幅変更の計画を具体的に示している。
 アジア太平洋へのリバランスは核をあらためて米軍戦略の軸にすえることでもある。09年4月、オバマはプラハ演説であたかも「核のない世界」を目指すかのような宣伝をしたが、現実には、核予算を増やし、公式の戦略文書QDRでも核兵器の位置づけを高めている。今次QDRでは従来のQDRで強調していた「非政府組織によるテロ」「ならずもの国家によるテロ支援」との戦いを後景化し、大国との国家間戦争にリバランスしている。
 そして「暴力的な抗議行動の急拡大の脅威」強調し、全世界の労働者階級のストライキ、デモ、蜂起に対する介入の必要性を訴えている。

緊縮財政下での軍事費確保

 さらに大きな特徴は、軍事費確保を徹底的に力説していることだ。「はじめに」の結論で「戦闘力への財政支出を守るという強固な意志」を強調し、「緊縮財政時代」ということをあらゆる章、節で繰り返し述べている。「2015年度予算案では、米軍は任務を遂行できるが、リスクは高まる。それ以降、さらに予算が削減されたら次の紛争に戦力を投入し、勝利することができなくなる」
 11年のBCA(予算管理法)に基づいて13年1月から実施された歳出強制削減措置は、ソーシャルセキュリティー(元々一般財政とは別建ての公的年金)、メディケア(高齢者、障害者医療制度)、退役軍人給付制度を除き、あらゆる部門の歳出に自動的に適用され大幅な予算カットが行われた。連邦、州、地方自治体の各省庁の閉鎖や公務員への無給休暇の強制が行われ、生活への打撃は深刻である。したがって国防省は、歳出削減の努力をしていると強調しているのである。だが、民主・共和の超党派決議で、歳出強制削減措置の緩和を決定し、《軍事費は当初計画と比較すれば削減》ということになった。つまり、比較の対象が元々大幅増額だったのだから、軍事予算の実質的削減はされないのだ。
 米政府の財政は絶体絶命の危機に陥っているが、それでも軍産複合体は死活をかけた予算獲得戦を展開し、財政を食い尽くしているといえる。

大恐慌と戦争・軍産複合体、軍の民営化

 現在の巨大な米軍は29年世界大恐慌の中から生まれた。ルーズベルト政権は、公共事業、雇用対策などのニューディール政策により恐慌対策をしようとしたが、過剰資本・過剰生産力という根本問題は解決できないから、恐慌は再び激化した。そのため、軍需生産拡大と第2次大戦による世界的生産力の破壊に「解決」を見出していった。
 アメリカでは、第2次大戦終結で軍需生産が縮小すると、たちまち大不況となり、労働者が決起し、ストライキの大波が全米を席巻した。そこで、アメリカ帝国主義は、「東西冷戦」、核兵器を軸とする大軍拡競争によって、それを「解決」しようとしたのだ。軍産複合体は、もはや抜き差しならないものとして、政治・経済の中にビルトインされた。
 第2次大戦の破壊から30年で74~75年恐慌が勃発し、80年代に世界的な新自由主義の時代に入るが、そこでアメリカ帝国主義レーガン政権の政策の柱になったのはスターウォーズ(ミサイル防衛)戦略であり、大軍拡だった。「新自由主義=小さな政府」は真っ赤なウソで、政府予算の超巨大化が真相だ。
 そして新自由主義のもとで米軍の民営化が急速に進んだ。01年、03年に開始したアフガニスタン、イラク侵略戦争では、米軍兵士数より、民間軍事会社に雇われた者のほうが多くなっている。兵站、施設部門だけでなく、直接の戦闘部隊までも民営化が進められているからだ。
 兵器の開発・製造から戦場まですべてが利潤追求の論理で動かされている。この資本の利益のためにイラクなどの人民の命、米兵の命が奪われ続けている。
 さらには、侵略戦争に勝利するという、アメリカ帝国主義支配階級の全体的な利害さえも、軍産複合体、軍事会社の暴利を上げるために食い物にしている。例えば、F22戦闘機(1996年~2011年製造)は667億㌦、F35戦闘機(2006年~製造)は1兆㌦以上かかるという。だが、イラクなど現実の戦場ではまったく使えない。中国の空軍力と比べても不必要だ。他方、装甲車、艦船、航空機などは老朽化や整備不良でボロボロになり、米軍の装備は10年前、20年前に比べて格段と劣化している。
 「財政危機→軍事予算削減→米軍戦力の低下」という単純なものではない。80年代、90年代、00年代と軍事予算が大幅に拡大した時に、すでに米軍戦力の激しい低下が起こっているのだ。
 帝国主義支配階級にとって、新自由主義以外に延命の道はない。その新自由主義が、29年恐慌をも上回る大恐慌を引き起こし、また、軍事力の危機をももたらしている。
 そしてこの軍事力の危機が激化すればするほど、「最先端高性能兵器」「IT化」「無人兵器」に、そして核兵器にますます傾斜し、大国間、帝国主義間の軍事的争闘戦を促進するほかない。

■目次
国防長官の書簡(略)
要旨(略)
本文
はじめに
第1章 安全保障環境の将来
第2章 防衛戦略
第3章 統合軍のリバランス(以上本号)
第4章 防衛機関のリバランス
第5章 歳出強制削減措置レベルの防衛費削減の影響とリスク
第6章 本QDRについての議長の評価

■はじめに

 2014QDR(2014年の4年毎の戦力見直し)は、戦略主導のプロセスであり、また財源問題を意識したプロセスであった。2014QDRの焦点は、緊縮財政の時代において、国防省が将来に備え、優先順位を決定するということであった。本QDRは、三つの重要な構想を推進するものである。第一に、本QDRは2012年発表の国防戦略指針に基づき、米国の利益を向上させ、米国のリーダーシップを持続させることである。第二に、本QDRは、変化しつつある財政環境の中で、国防省がいかにして、責任を持って現実的に統合軍の主要構成要素のリバランスを行うかを述べている。第三に、緊縮財政の時代において戦闘力を侵食する恐れがある国防省の内部コストをコントロールする取り組みの一環として、国防省自体のリバランスを行う意志を示すものである。
 2014年QDRの戦力見直しを行うにあたり国防省が最初にアセスメントを行ったのは、国際的安全保障環境の困難性についてであった。幹部たちは、2012年の国防戦略指針の発表以後に出現してきた脅威、難題やチャンスに特に注意しつつ、短期、中期、長期にわたって米国が直面しうる将来の戦略的・作戦的な諸問題を特定する努力をしていった。そしてこのアセスメントに基づき、米国の国家安全保障上の利益を守るために国防省が必要とする可能性が高い諸目標を特定し、また統合軍がそうした必要性を満たすために十分となるものは何か、またそのための熟達とは何かのアセスメントを行った。これらのアセスメントの結果は、国防省の戦力立案を導くものとなり、また大統領の2015年度予算提案に情報提供するものとなった。このQDRのプロセスにおいて、幹部たちは、予算レベルの低下――歳出強制削減措置レベルの削減を含む――の国防省の国益防衛能力への影響についても考慮していった。本QDRの基礎となっているものは、米国の目標を達成する新たな道と国防省の事業を改革する新たなアプローチを見出しつつ、戦闘力への財政支出を守るという強固な意志である。

■第1章 安全保障環境の将来

 米国はアフガニスタンでの移行過程を完遂し未来を展望していくが、国際的安全保障は、不確実で複雑であり続ける。米国が多岐にわたる脅威とチャンスに直面する確率は高く、今後何年にもわたって脅威にもチャンスにも効果的に対応するための準備をしなければならない。
 強力な世界的諸大国が台頭しつつある。重心の移動によって、小規模国家や非国家的主体が力を得つつある。グローバルな結合関係が増殖し深まっており、その結果、国家、非国家的主体、私人の間の相互作用が増大している。根本的にグローバル化した世界において、アジアの経済成長、米国、欧州、中国、日本の国民の高齢化、中東とアフリカの不安定性の継続、そしてその他多くのトレンドがダイナミックに相互作用している。かつて主要国に限定されていた作戦能力が、テクノロジーによって、広範な主体に入手可能となっている。情報の拡散の急速な加速は、いくつかの政府の自国民統制・治安維持の能力に困難をもたらしている。それは同時に、戦争遂行と支援の動員・組織のあり方を変えている。
 安全保障環境の地域的・世界的なトレンドは、財政緊縮の拡大とあいまって、米国が世界的なリーダーシップを維持していくためには、以前よりも迅速に適応し、またより革新的なアプローチとパートナーシップを求めることを不可欠なものとしている。

地域的トレンド

 米国は1世紀以上にわたって太平洋大国であり続けてきた。この地域に深く、持続的な経済的・安全保障的な絆をもってきた。特に過去60年間米国は、自由で開放された通商の推進、国際秩序の正義の推進、公海への自由アクセスの維持によって、アジア太平洋地域の平和と繁栄に寄与してきた。米国のこの地域との経済上の絆、安全保障上の絆、そして人と人の絆は、強力であり、拡大し続けている。
 アジア太平洋地域は、ますます世界的通商、政治、安全保障の中心になってきている。この地域の防衛支出は、増大し続けている。この地域の諸国が軍事的・安全保障的な能力を高めるにつれて、領土主権や天然資源をめぐる長年の緊張が破壊的な競争に拍車をかけたり、紛争を爆発させたりして地域の平和、安定、繁栄を逆転させるリスクが高まっている。特に、中国はあらゆる分野に及ぶ軍近代化を速いペースで進め続けている。また、軍の能力と意図について中国の指導者は、比較的透明性、公開性に欠けている。
 ASEANや人道支援・海上安全保障・反テロなどで協力する地域の諸主体などからなる多国間の安全保障の仕組みが台頭し、緊張抑制と紛争予防に寄与している。これまで地域安全保障を安定させてきたオーストラリア、日本、韓国などやインド、インドネシアなどの成長しつつある大国は、新たなリーダーシップをとりつつあり、意思疎通と共通理解を促進している。
 多くのアジア太平洋地域の諸国はさらなる繁栄の達成、地域的基準の確立、安定した軍事バランスを求めているが、北朝鮮は、今も閉鎖された全体主義である。北朝鮮の長距離ミサイルと大量破壊兵器開発計画、とりわけ国際的義務に違反した核兵器の追求は、朝鮮半島と北東アジアの平和と安定に対する重大な脅威であり、米国に対する直接の脅威を増大させるものとなっている。
 中東でも摩擦点が残っている。宗教の相違、特にスンニ派とシーア派の対立の拡大は、この地域の国家間対立の源泉の一つになっている。エネルギーや水などの資源をめぐる競争は今後緊張を高めるであろう。それは地域的対立をより広範な紛争へとエスカレートさせかねない。特に脆弱な国家ではそうである。この地域ではイランが国際法に挑戦し、核兵器を開発しうる能力を追求することによって安全保障を脅かし、不安定化要因であり続けている。イランの他の不安定化活動も中東――特に米国の同盟国やパートナー――への脅威となり続けるであろう。
 中東とアフリカの多くの国では、大きな政治的・社会的な変動の渦中にある。チュニジア・リビア・イエメン・エジプトなどの諸国の国民は、統治に対するより大きな発言権を求め、その過程で従来の権力の中心を転覆している。テロリストグループは、これまでの諸政府を利用しようとし彼らの影響力を拡大しようとしている。宗派対立の中で、シリアの国内衝突が続き、多くの人命が失われている。シリアは世界的なジハード運動を引き付けている。現在の政権が存続するかぎり、この状況は続くであろう。現在、こうした状況が周辺に及ぼしている深刻な事態の中には、外国人戦闘員の流入や隣国への難民の洪水などもある。こうした政治的移行期の困難性は、これらの事態が長い年月続くであろうことを予感させるものだ。おそらく、数十年かかるかもしれない。
 アフリカでは、テロリスト、犯罪組織、民兵、腐敗した官僚、海賊が、アフリカ大陸や周辺海域の統治されていない地域や統治が不十分な地域を利用している。特に脆弱な国家において、暴力的な抗議運動やテロ攻撃を含む脅威が急速に拡大し、米国の利益への差し迫った障害になりかねない。同時に、ここにはより強力な統治機構を作り、あらゆる地域的安全保障の困難性に対処するため米国のパートナーとなりうる、プロフェッショナルで有能な軍隊を建設する大きなチャンスもある。国連、アフリカ連合や小地域の諸組織の下での多国間平和作戦は、国際的安全保障の維持と回復のためにますます大きな役割を果たしている。従来は多国間行動をできにくくしていた脅威的環境下での大量虐殺阻止・軽減の作戦もこうした作戦に含まれる。
 欧州は、グローバルな安全保障を推進する主要なパートナーであり続けている。特に中東と北アフリカでの騒乱と暴力が続いているので、欧州は、それらに対処するために決定的である。欧州は、わが国の最も堅固で有能な同盟国やパートナーの本拠であり、世界的な課題に対処するために米軍が迅速に派遣軍を送るために不可欠な戦略的アクセスを提供している。現在、多くの欧州諸国は安全保障を作り出す側であるが、バルカンと欧州周辺部での不安定性は引き続き安全保障上の課題となるであろう。米国はシリア、イラン、2014年後のアフガニスタンなどをめぐって、利害が一致すれば、二国間でも地域的にもロシアとの安全保障協力を進める用意がある。
 アメリカ大陸では、もはや主要に国家間紛争や右翼準軍事組織、左翼蜂起から発生する大きな安全保障上の困難は起こらない。今日の脅威は、麻薬や他の多国籍組織犯罪から起きている。その影響は、自然災害や不平等な経済的チャンスによってさらに悪化しかねない。これらの諸課題は各国共通であり、主権国家の国境を越えている。これらの非国家主体からの脅威を破綻させ、解体し、打ち負かす地域的能力を統合し、発展させることはことは、アメリカ大陸のすべての諸国の相互の利益である。

グローバルなトレンド

 今後の安全保障環境を決定していくグローバルなトレンドの特徴は、変化の早さであり、また多種多様な相互作用、相互影響から生じる複雑性である。その結果、情報がますます入手しやすくなり、情報が世界中に流れているにもかかわらず、世界的な脅威とチャンスがどのように生まれてくるかを予測するのはますます困難になっている。
 消極的な意味でも積極的な意味でも、グローバルなトレンドを作るうえで、米国が注意を払い関与し続けることが重要であろう。多くの地域で、その地域の安全保障上の生産的な役割を担う国際的なパートナーが出てきている。主導的な役割を担う国さえ、出てきている。テクノロジー、旅行、貿易、ソーシャルメディアによるかつてないレベルのグローバルな相互連結性が、国際協力の促進と行動規範の共有化のインセンティブを作り出し、また効率的手段を生み出している。グローバリゼーションの力が、世界で最も困窮した諸地域においても大きなマクロ経済的な変化に寄与している。民間部門における技術的・科学的なイノベーション、特にエネルギー市場におけるイノベーションは、全産業に革命をもたらす潜在力を持っているだけでなく、将来の米国の安全保障に新たな道を示す可能性も持っている。
 同時にテクノロジーが可能にした21世紀の作戦環境によって、国家やテロリストのような非国家主体が米国の弱点を利用する非対称的アプローチを行う新たな道具も出てきた。今後、中国などの諸国がアクセス阻止/エリア拒否(A2/AD)の手法を用い、また他の新たなサイバー技術、宇宙技術を用いて、米国の強さに対抗することを今後も追求するであろう。それに加えて、それらの諸国や他の諸国は高度な総合的防空を開発し続けており、それが領土外の公海や空での作戦上の自由を制限することになりうる。通常兵器搭載の精密な弾道ミサイルと巡航ミサイルの数の増加は、米国とパートナーの海軍力と陸上施設にさらに費用がかかる難題を突きつけている。
 新たな手法による通信を行い、富の生産と蓄積を行い、基本的なサービスを提供し、また国家安全保障上の機能を果たすために、米国はサイバー空間にますます依存するようになってきた。米国の生活様式にとって、そして国家安全保障にとって、サイバー空間は重要であるから、それが、米国の安全保障と経済秩序に挑戦したい者たちにとっての格好のターゲットになっているのだ。
 宇宙は米国の安全保障とグローバル経済にとって死活的である。宇宙は、日常的な宇宙活動によっても無責任な行動によっても、混雑がひどくなってきている。米国の宇宙施設にとっても、宇宙環境自体にとっても、脅威が増大し続けている。いくつかの諸国は、米国が軍事作戦を展開し、世界的に戦力を投入する能力を破壊し、あるいは低下させるために、宇宙施設を妨害する能力を開発している。その影響は回復可能なものもあるが、永続的影響をもたらすものもある。また、多くの国が、自国のシステムを宇宙施設を使って精密化し、米国の資産を脅かしている。
 他の高度技術の拡散も、新たな困難を生み出している。ステルス技術に対抗するテクノロジーは、兵器システムがいかに高度に進んだかを示す一例である。かつては、大きな研究開発能力と巨額の予算を持った諸国のみに入手可能だったものが拡散し、戦争遂行上の均衡を変えてしまった。自動化され自律化されたシステムやロボット技術は、すでに商業的、産業的、軍事的に広範に応用されている。このトレンドは今後も続くであろう。低価格の三次元プリンターが入手できるようになったことで、戦争に関連した製造や兵站を革命的に変革できるようになった。バイオテクノロジーのブレークスルーなどによる大量破壊兵器の新たな開発手法で、危険な物質が広範に入手可能になり、察知し、阻止することが非常に困難な、動きの速い脅威をもたらしかねないものだ。このようなテクノロジーが結局戦場にどのような影響をもたらすかは、まだ明らかになっていない。
 ハイテクを利用しようと、そうでない兵器を用いようと、テロリストの米国の利益に対する脅威は続いており、2001年以来大きく進化している。米国内への攻撃を企画し遂行したアルカイダの指導者の多くは、捕虜になるかあるいは殺された。アルカイダのコアが深刻なダメージを受けたとはいえ、中東の不安定性とシリア内戦で、アルカイダはグローバルな影響力と新たな地域での活動を拡大できるようになった。テロリストは米国、米国市民と米国の利益を脅かす意志を持ち続けている。また、大量破壊兵器を入手する意志を示し続けている。アルカイダに加盟している外国のテロリストグループも、個々のテロリストリーダーも、欧米人を獲得し、米本土への攻撃を遂行させることを狙っているようだ。米国育ちの暴力的な過激分子が、すでに国防省の要員や施設などを攻撃しているのだ。米国内で害を与えることができないグループであっても、海外での米国の利益や人員を脅かしうる。暴力的な抗議行動やテロリストの攻撃などの急速に拡大する脅威が米国の国内外の利益を直接に脅かすものに急速にエスカレートしかねないという可能性は、米国にとって重大な問題である。
 気候変動は、米国と世界全体にとって、あと一つの重大な問題である。温室効果ガス放出が増加し、海水面が上がり、地球の平均気温が上昇し、過酷な気象パターンがさらに進行している。こうした変動は、人口増加・都市化・裕福な層の拡大、インド・中国・ブラジルなどの大きな経済成長他のグローバルな動きとあいまって、住居・土地・インフラを荒廃させていく。気象変動によって引き起こされたプレッシャーは、資源をめぐる競争に影響を与える。それはまた、全世界の経済的、社会的諸機関、統治機関にさらなる負荷となる。それらの結果、脅威は倍加され、貧困、環境破壊、政治的不安定、社会的緊張などを深刻化し、それはまた、テロ活動と他の暴力の条件となる。

アメリカの強さとチャンス

 この困難な環境に対処するため、米国はわが国の多くの比較優位性に依拠していく。米国経済は、世界経済恐慌の後で強化され、米国の力の基礎となっている。米国の経済的な強さは、安定した国際秩序と密接に結びついている。その秩序は、米国や同盟国・パートナーがアクセスの自由と通商の自由を保障する軍事的役割を担うことによって裏打ちされているのだ。シェールガスの発見と埋蔵層へのアクセスを可能とした新たなテクノロジーによって、この数十年米国がエネルギーの純輸出国になる可能性が大きくなった。アメリカ経済の将来の展望は強力だ。
 共通の利益と共通の価値観を基礎にして、米国の同盟関係とパートナーシップは比類のないものになっている。世界中の人々が、アメリカ市民が享受している自由、平等、法の支配、民主的統治に引き付けられている。グローバルな規範の設定からテロリストの撃破や人道支援にいたるまで、米国は同盟国やパートナーと協力し、広範な戦略的、作戦的、戦術的目標を達成していく。われわれは、国連や他の多国間の場での安全保障上の問題についての世界的な協力を推進する米国のリーダーシップと能力を活用していく。近年を見ても、米国は欧州の同盟国やパートナーとアフガニスタンやリビアで協力し、アジアの同盟国やパートナーと地域安全保障問題で力を合わせてきた。これらや他の枢要な同盟とパートナーシップは、米国が将来の危機と有事に対処する力を補強するであろう。
 米軍には、わが国のテクノロジーと人的資本の強さを活用する態勢がある。米国は、創造的な開発とテクノロジーの利用において、世界的なリーダーであり続ける。例えば海中戦闘などの領域において枢要な能力上の優位性をもたらしてきた米国の戦争遂行における技術革新は、わが国の防衛産業基盤の継続的な強さを基礎にしたものである。これが、国防省が強力に支持している国家的な資産なのである。先進技術は、新たな戦闘能力をもたらすだけでなく、陸海空軍、海兵隊の軍人の待遇に、生活を変えるような進歩をもたらす。そして教室での厳しい訓練と戦場での困苦の末に獲得した経験で鍛えられた米軍人の戦闘能力は、誰にも負けないものであり続けるであろう。(つづく)