■News & Review イギリス 100万人の公共部門労働者が一日ゼネスト 鉄道労働者の2、4月ストに続く闘い

月刊『国際労働運動』48頁(0456号02面02)(2014/09/01)


■News & Review イギリス
 100万人の公共部門労働者が一日ゼネスト
 鉄道労働者の2、4月ストに続く闘い

(写真 国会議事堂の前でピケットを張るPCSの組合員【7月10日 ロンドン】)

(写真 ストに立ったユニゾンとGMBの組合員)

英揺るがす24時間スト

 7月10日、イギリスの100万人にのぼる公共部門の労働者が一日ゼネストに決起した。今年2月4日から6日まで、そして4月28日から30日までの二度にわたる交通・運輸労働者(RMT=鉄道・海運・運輸労働組合とTSSA=運輸職員労働組合)による48時間ストライキに続く、大闘争が大恐慌下の英帝国主義を揺るがした。
 ストを行ったのは、次の労組である。
▼NUT(全国教員組合)は、全国で2万人以上の教員がストライキに参加し、ピケットを張り、集会を開催。ストライキはケンブリッジ、レスター、スウォンジ、トーキーなどの町や市、さらにワイト島にまでに広がっている。イングランドでは約21%、6千の学校が休校となり、ウェールズでは912校が休校、215校が部分的休校になった。
▼FBU(消防士組合)は、 10時から19時まで、賃金と退職年令の問題でストライキを行った。
▼PCS(公共・民間従業員組合)は、公務員、旅券発行業務労働者、その他の公共部門労働者が、賃金と年金の切り下げ、公的業務の民営化に反対してストライキを行った。
▼GMB(都市一般労働組合)は、学校給食労働者、街路掃除・ゴミ収集労働者、介護士、学校支援労働者などが、賃金問題でストライキを行った。
▼UNITE(ユナイト=地方自治体労働者組合)は、職員、現場労働者、学校職員などが、「侮辱的な」1%という低額の賃上げ提案に反対してストライキを行った。イギリス最大の組合であり、6月30日にスト権投票を行い、68%の賛成でストライキを決定している。
▼ユニゾン(UNISON=公共職員労働組合)は、州議会の建物、地方自治体の建物、裁判所、図書館、美術館、博物館、職業紹介所などの前にピケットを張り、事実上、これらの公共機関は終日閉鎖された。
▼RMTは、 ロンドン市交通局下の地下鉄の電力区労働者が賃金と年金をめぐってストライキ継続中である。ロンドン地下鉄当局による、すべての切符売場・窓口の廃止と960人の人員削減の攻撃に対して、2月以来、RMTは全力で闘っている。
 ロンドンでは、国会議事堂の前に、ピケットが張られ、都心の統一的デモがロンドン中心部オックスフォードサーカス近くのBBC本社前から出発し、トラファルガー広場に向かってのコースを進んだ。

中軸を担ったNUT

 ゼネストの中心を担ったのは、NUT(全国教員組合)であった。キャメロン政権の新自由主義攻撃によって、教育労働者の賃金、年金、労働条件は、年々悪化している。
 NUT書記長のクリスティーン・ブロワーは、「教師たちは、仕事をやる気を失っており、教育現場の雰囲気は最悪の状態である」「数千人の優れた経験豊かな教師たちが、仕事を辞めることを、もしくは辞めるかどうかを考えている。教師不足の危機は迫っている」「これはすべて政府の教育政策が原因だ」と語っている。「5人に2人が、教職についてから5年以内に辞めている」と、教育監督局(OFSTED)自身が認めている。
 今回のストライキのひとつの特徴は、数多くの生徒たちが参加したことである。生徒たちは、政府のやり方が気に入らないと言っている。10歳のベルさんはこう言っている。「私は、マイケル・ゴーブ教育相がきらいだ」「彼は先生の生活を苦しくさせていて、いつも物事を変えている。週末に先生たちは疲れ切っているように見える。先生たちは激しく仕事をしなければならないようになっている」と。実際、教育労働者は、小学校では週60時間、中学校では週56時間の労働を強いられている、とNUTの活動家は語っている。

政府のスト攻撃

 政府は、今回の公共部門ゼネストを前にして、「献身的な公共部門労働者の圧倒的多数は本日のストライキ行動に賛成投票をしなかった」「ストへの参加は前回のストライキより少なく、公務員数のほんの5人に1人の割合程度だろう」「ストライキは状況を何ら変えるものにはならないし、誰の利益にもならない」などと、ストを軽視するそぶりをしてきた。そして、とりわけ、教育労働者に攻撃を集中し、「NUT(全国教員組合)のストライキは生徒の教育を破壊し、教職に対する信用に損害を与えるものとして、教育省によって非難されてきた」「実際にはほとんどの学校が開校するだろう」などと攻撃を加えていた。
 今回のストが、政府の予想を超えて、圧倒的な教育労働者の参加で強力に打ち抜かれたことに動転したキャメロン首相は、責任逃れのために、ゴーブ教育相をストライキの5日後、7月15日に更迭した。
 キャメロン政権は、すでに2月以来のRMTなど鉄道労働者の闘争に対して、スト権投票によるストライキ決定の条件を厳しくする、などという凶暴な攻撃を公言してきたが、今回のゼネストをめぐって、再び、こうした攻撃が激化しつつある。すなわち、スト権投票の効力に時間的制限を加えるべきだとか、有効投票率のしきいを高くすべきだ、などとマスコミを動員して主張し、法改正を議会で提案しようとしている。

ゼネストを支持したTUC書記長

 このような対決の激化のなかで、労働党指導部(元首相たち、トニー・ブレアとゴードン・ブラウンなど)は、予想されたことであるが、今回の公共部門100万人のゼネストを支持するのを拒否した。
 これに対し、英労組のナショナルセンターであるTUC(イギリス労働組合会議、加盟組合員総数は650万人)のフランシス・オグレイディ書記長は、「今回のゼネストは、公務員労働者が本当にどれほど怒っているのかを明らかに示すものだ」と語り、闘争の現場におもむいた。
 彼女は、2013年1月にTUC書記長に選出された。アイルランド出身、祖父は鉄道労組の組織者、父は自動車工場の職場委員で、親子三代におよぶ労働者階級の闘士である。書記長就任前は、TUCの役員として活動。同年6月に開催されたRMTの年次総会に出席した際に、故ボブ・クロウRMT書記長が、彼女に対して、ゼネストを決行する必要がある、その日取りを決めるべきだ、という要求を出した。これに対して、オグレイディ書記長は、「私が書記長である間は、TUCは労働者の行動を支持する。賛成投票があればどんなことでも大規模なストライキに至るまで実行する」と語っていた。
 さらに彼女は、「イギリスの鉄道を再国有化することが、成長のためのグリーン戦略の中心部であるべきである」と語り、「保守党による鉄道事業の売却はイギリスにとって災害であった」と語った。
 ボブ・クロウ書記長の突然の死に対して彼女は、「これは、ショッキングなニュースである。ボブは傑出した組合活動家であった。彼は、自分の組合員、産業、そして広範な労働組合運動のために、努力を重ねて闘いぬいてきた。彼は常に私にとって、良い友人であったし同志であった。われわれは彼を失った。われわれの思いは、困難の中にある家族とRMTと共にある」と。
 このようなTUC書記長の言動は、イギリス労働者階級の内部に、労働党政権―保守党政権と受け継がれてきた新自由主義政策、とりわけその緊縮政策に対する怒りが蓄積し、労働運動の新たな戦闘的指導部を求める声が、ナショナルセンターを激しく揺るがしていることを示している。

ゼネストにおける労組の要求

 今回のゼネストの最大の争点は、キャメロン保守党=自由民主党連立政権による実質的な賃金削減、生活水準の切り下げへの反対であった。2010年に公共部門の賃金が凍結されたのち、2012年に賃金の年間上昇上限が1%に決められ、現在もそれが継続されている。これは、賃金の実質20%カットを意味するもので、基本給が急激に低下した。
 今回の公共部門ゼネスト直前に発表された、いくつかの調査結果によると、現在イギリスでは500万人の労働者(TUCの加盟組合員は650万人)が、水準以下の賃金・生活を強いられているという。現在のイギリスの法定最低賃金は、時給6・31㍀(1090円)である。この最低賃金のもとで暮らす労働者は、たとえば、自分の働くスーパーの商品さえ買うことができない状態だという。そして、〝フードバンク〟(貧困層に食料を提供する民間の団体)の利用者が、90万人にのぼり、昨年からの増加率が、163%になったと伝えられる。
 これは、昨年春から始まった住宅保護の削減(〝ベッドルーム・タックス〟と呼ばれている)などの緊縮政策のいっそうの強行の結果に他ならない。これに対し、政府は「自己管理能力のない人が増えたということだ」とコメントして、怒りを買っている。
 現在イギリスでは、「ゼロアワー契約」という非正規雇用が拡大し、140万人が、「時間を決めず、仕事があるときだけ働く」「有給休暇・病欠なし」という状況に置かれている。
 今回の公共部門労働者のゼネストは、2011年のゼネストをはるかに上回る規模の大闘争であり、実に1926年の大ゼネスト(注)を思いおこさせるものである、とイギリスのメディアは、書き立てている。
【注】1926年5月、第1次世界大戦で疲弊しきったイギリス帝国主義は、100万人の炭鉱労働者の賃下げ反対のストに対して、ロックアウトで鎮圧しようとした。これに連帯して、鉄道・運輸・新聞・印刷・鉄鋼・金属・重化学・建築・電気ガスなどの労組が、ストや支援闘争に立ち上がり、ゼネストとなった。「イギリスを揺るがした9日間」として、大恐慌爆発直前のヨーロッパ階級闘争の一焦点となった。

2011年、公共部門ゼネスト

 2011年11月30日、イギリス全土で一日ゼネストが闘われた。ストライキに参加した公共部門労働者は200万人にのぼる。
 13万5千人の公務員がストライキを行い、それは全公務員の4分の1となる。
 イングランドの2万1700の公立校のうち、62%に当たる1万9000校が休校か、部分的に休校した。スコットランドでは、2700の公立学校のうち開校したのは30校でしかなかった。ウェールズでは、約80%が休校になったとされ、北アイルランドでは、1200の学校のうち50%以上が休校となった。教育省も、このストの巨大さを認めざるをえなかった。3万の緊急でない手術のうち、6千が延期になった。
 ウェールズの各組合では、合計17万人の組合員がストライキを行い、スコットランドでは30万人が参加した。全国で、1千にも上るデモ行進と集会が行われた。ロンドンでは集会に先立って4人が逮捕された。
 このゼネストに引き続いて、今回のゼネストは、この3年間におよぶキャメロン政権の新自由主義攻撃の激化のなかで、イギリス労働者階級の怒りを結集して闘われた。
 労組の活動家は、「キャメロン政権は、われわれに対して、〝階級戦争〟を宣言しているのだ」「ストに立つ以外にない」と決意を表明している。世界大恐慌の激化のなかで、争闘戦の熾烈化に直撃されているイギリス帝国主義の「墓掘り人」の役割を、労働者階級が引き受けつつあるのだ。
(城山 豊)