特集 戦争・民営化と闘う中東の労働者 労働組合の国際連帯で中東侵略戦争を阻止しよう Ⅰ 侵略戦争・内戦下の労働運動――生きるために闘うイラクの労働者

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月刊『国際労働運動』48頁(0461号03面01)(2015/02/01)


特集 戦争・民営化と闘う中東の労働者
 労働組合の国際連帯で中東侵略戦争を阻止しよう Ⅰ
 侵略戦争・内戦下の労働運動――生きるために闘うイラクの労働者

(写真 エジプト・マハラの繊維労働者のストライキ【2014年2月15日】)

(写真 国際連帯を呼びかけるイラクの石油労働者の集会【2013年4月8日 バスラ】)

(写真 クルディスタンの建設労働者の労働組合)


中東における労働者階級の新自由主義との闘いは、今日一大転機を迎えている。「恐慌の中の恐慌」の爆発と、帝国主義間の争闘戦の中東における戦争への転化という情勢下で、中東各国の経済危機は一層激化し、労働者階級は生きるための闘いに陸続と決起し始めている。それはイラク、シリア、イラン、イスラエルを始めとする中東諸国を巻き込む中東大戦争情勢が労働者階級に未曽有の犠牲を強いていることに対する巨大な反撃としてある。全世界の労働組合の国際的団結で帝国主義の侵略戦争を阻止しよう。
 今号の特集では第Ⅰ章でイラク、第Ⅱ章でエジプト、第Ⅲ章でイラン、第Ⅳ章でトルコにおける新自由主義政策の現状とそれに対する労働者階級の反撃の闘いについて分析している。
 2011年にチュニジア、エジプトから始まった中東革命は、この労働者階級の闘いに引き継がれている。

 今日のイラクはイスラム国家(IS)のイラク侵攻を契機とした米・西欧帝国主義によるイラクの石油再分割戦争の激化の渦中にある。このきわめて困難な状況下でイラクの労働者階級は米欧帝国主義、イラク政府、ISによる労働運動弾圧と対決し、闘い抜いている。
 大恐慌情勢下の帝国主義間争闘戦のイラク侵略戦争への転化や内戦と真に対決し、イラク労働者人民の未来を切り開くのは、労働者階級の闘いを軸にした全イラク人民の団結した闘い以外にない。本章では新自由主義攻撃と対決して生きるために闘う石油労働者を始めとする労働者階級の闘いの現状を明らかにする。

民営化政策と闘う労働者階級

 イラクでは2003年の米帝によるイラク侵略戦争後、「サダム・フセイン後の経済はミルトン・フリードマンの諸原則に従って再構築されるべきである」として、米英占領当局(CPA)によって国営企業の全面的民営化が強行された。米英帝国主義は、この戦争でイラクの石油を支配することで帝国主義による石油支配体制を圧倒的に管理する力を獲得するとともに、イラクでの新自由主義政策の実施をてこに中東全域に新自由主義政策を導入しようとした。CPAはこの目的を実現するために、2003年9月新外国投資法を制定し、イラクの国営企業すべての民営化、外国企業によるイラクの企業の100%の所有権の承認、外国企業がイラクで獲得した利益の自国への無制限の送付の承認、関税の全廃などを打ち出した。
 だが、最大の民営化対象であった国営の石油産業部門で、石油労働者のストライキと激しい抵抗闘争によって石油民営化法案が粉砕され、イラク国営企業の全面的民営化は核心的な部分で阻止されてしまった。米帝は03年のイラク戦争終結後、大量の石油関係の顧問や技術者をイラクに送り込み、石油省を完全に支配した。戦争で破壊された油田や関連施設はアメリカのハリバートン社の子会社であるケロッグ・ブラウン社などによる最新技術を駆使した再建活動が始まるまで放置された。
 ところがイラクの石油労働者たちは新たな労働組合を立ち上げ、占領軍の暴力的支配を跳ね返して英雄的に闘い、ついに石油民営化法案を阻止してしまった。米英帝は民営化によって油田を所有する権利を失い、原油1バレルあたり2㌦の利益を得るという業務契約の下に生産せざるをえなくなった。こうして米英帝のイラク民営化政策は基本的に破産したのだ。
 だが他方、インフラ、公共サービス、鉱業、化学、建設、港湾などの石油部門以外の部門では民営化が進んでおり、各省庁や国営企業の労働者は大幅に削減され、失業者が急増した。また、民営化された企業は外国資本や米英政府や資本と密接な関係をもつ国内の資本家に譲渡され、労働者の安全や労働条件や生活の改善よりも利益を優先する経営が行われた。したがってそれは労働者の団結権や団体交渉権などを全面的に否定するものでもあった。
 イラクの国営企業は67企業(それぞれ100人から4000人を雇用する240工場)あったが、労働者の強い抵抗によって民営化は2009年ごろまでほとんど進展しなかった。
 だが2010年代に入ると、次々と民営化計画が推進されるようになった。日本の丸紅による肥料工場の建設やスウェーデンやドイツの自動車メーカーの工場の建設など外資の導入も始まっている。
 こうした状況下で、イラクの労働者たちは米英帝国主義やイラク政府による新自由主義政策と民営化政策との闘いを開始している。
 それは石油労働者の労働組合であるIFOU(イラク石油労組連盟)の闘いを軸に、国有企業や民営化された民間部門で闘う労働組合を結成し、新自由主義に反撃する闘いとして発展しつつある。この闘いはイスラム国家(IS)とイラク政府との内戦の激化、ISによる労働組合弾圧という困難な情勢の下でも決して衰えることなく展開されている。

内戦下の労働者の闘い

 2014年7月のISのイラク侵攻によってイラクは政府支配地域とクルド自治政府支配地域、IS支配地域に3分割されてしまった。政府軍とイラク政府が崩壊状態に陥り、石油収入も激減するなかで、財政危機も深刻化した。公務員労働者への給料の支払いが滞り、文字通り生きていかれない状態が現出している。その上に10月には政府は原油価格の下落とISとの戦費の増大を理由にして、400万人の公務員の賃金大幅削減を打ち出した。内戦による国内生産の停滞(2014年の経済成長率予測はマイナス2・7%)と輸送網の分断、輸入価格の高騰という状況下で、民間部門の労働者もどん底の生活を強制されている。
 こうしたなかで、未払い賃金の支払いや賃上げを要求する労働者階級の闘いが各地で爆発している。
 その闘いの突破口はイラク最強の労働組合である石油労組連盟によって切り開かれた。2014年10月14日、2000人の石油労働者たちはバスラで石油労組連盟の重要な一翼をなす南部石油労組が組織した集会とデモに参加し、失業労働者の雇用や危険な労働への割り増し賃金を要求した。石油省との賃上げ交渉が行き詰まるなかで石油労働者たちは実力で賃上げをかちとる闘いを開始した。
 石油労働者の闘いに勇気づけられて、11月には皮革、繊維、植物油などに関連する各地の工場で数カ月におよぶ未払い賃金の支払いを要求するデモや抗議集会が行われた。バビロンの工場ではストライキが行われ、ミサンの植物油工場やナジャフの被服工場、ディワニヤとクートの繊維工場では抗議デモが行われた。バクダッドでもカラダーの皮革工場でデモが行われた。
 これらの国営企業の労働者たちは独立採算制の国有企業は利益が上がらず財源が不足すると労働者に給料を支払わなくなるため、国家が直接国有企業の労働者の給料を支払う制度に転換することを要求して闘った。
 このような全国的・集中的抗議行動に追い詰められた政府は、11月17日、未払い賃金の一部を国営企業に代わって産業省が支払うことを約束せざるを得なくなった。12月にはこの約束の実施を産業省に要求する国有企業の労働者のデモが全国で行われている。

IS支配と闘う労働者

 ISの支配している地域では労働組合の活動は厳しく弾圧されている。たとえば8月初旬、ティクリットではIS支配下で無給で働かされていることに抗議する公共労働者のストライキをISがやめさせようとしたことに対して不服従の態度を示したとして、8人の公衆衛生労働者が拉致され、殺害された。教育労働者もIS支配下では、イスラム教の戒律に反する教育をしたなどの理由で処刑されたり学校から追放されたりしている。ISは世俗的な教育や教育労働者の組合による自治的活動を一切認めず、暴力的に教育労働者の組合を破壊しようとしている。
 石油労働者たちもISが油田や製油所を暴力的に支配するなかで、労働組合と組合活動を破壊されている。だがこのような困難な状況下でもイラクの労働者たちは、宗派間対立を煽ることで労働者を支配しようとするイラク政府やISと対決して、労働組合の下に団結した労働者階級こそが内戦を克服し、労働者階級が主人公の社会を建設することができると確信して闘っている。
 また内戦の過程でクルド自治政府が労働組合の活動を否定し、敵対的政策をとっていることに反対して建設労働者たちが新たなクルディスタン建設労働組合を結成して闘っている。この組合は現在スレイマニア市やエルビルですでに1000人以上を組織しており、組合員数を急速に拡大させている。民族間対立を克服する重要な闘いとして、このような労働組合がクルド自治区で結成されたことは注目すべき出来事だ。
 以上のようなイラクの労働者の闘いは、新自由主義政策と帝国主義の争闘戦の戦争化という現実と対決する闘いとして発展している。われわれはこのような困難な闘いに英雄的に決起しているイラクの労働者階級との国際連帯の闘いをさらに強化していこう。