国際労働運動の暦 2月20日 1933年多喜二虐殺 特高が拷問の末に殺害 戦争に突き進む日帝の脆弱性と凶暴性を示した治安維持法下の大弾圧

月刊『国際労働運動』48頁(0461号06面01)(2015/02/01)


国際労働運動の暦 2月20日
 1933年多喜二虐殺
 特高が拷問の末に殺害
 戦争に突き進む日帝の脆弱性と凶暴性を示した治安維持法下の大弾圧

(写真 多喜二の亡骸を悼む友人たち)


 2月20日は「多喜二忌」と呼ばれる。戦前のプロレタリア作家・小林多喜二が特高警察に逮捕・拷問され殺された日だ。「蟹工船」や「不在地主」などを発表して社会的に大きな評価を得ていた多喜二は、30年に日本共産党に入党し、上京、32年から地下活動に従事していた。この日、小林多喜二は潜入していたスパイの通報で、赤坂で特高に発見され、逮捕された。
 築地署で3時間に及ぶ拷問を受け、虐殺された。警察発表は「心臓麻痺」だった。まだ29歳だった。
 自宅に戻った多喜二の遺体は「ものすごいほどに青ざめた顔は激しい苦痛の跡を印し、知っている小林の表情ではない。左のコメカミには打撲傷を中心に5、6ヶ所も傷痕があり、首には一まき、ぐるりと細引の痕がある」。そして、全身が打撲による内出血で黒ずみ、右手人差し指は反対側に折り曲げられていた。

▼30年代の闘い

 特高による多喜二虐殺は、戦争体制を強化していく当時の日本帝国主義権力が、労働者階級の決起を押さえ込むことに必死になっていたことを示している。
 日本帝国主義は、1931年9月18日の柳条湖事件と翌年の「満州国」をデッチあげ以降、大恐慌下の帝国主義としての生き残りをかけて戦時体制の強化を図っていた。そしてそのためには、労働組合の完全な翼賛化、共産主義運動の壊滅が不可欠だった。1917年のロシア革命は全世界の労働者階級に解放への展望を大きく指し示すものであった。
 33年2月初めには、「長野県教員赤化事件」と名付けられた、教員に対する大量逮捕攻撃(138人検挙)が起こる。一方で、柳条湖事件以来の日帝の行動に対する国際連盟の調査団の報告書(リットン報告)を国連総会が42対1で承認したことに対して、松岡洋右日本代表が退場し、国連脱退に至る事態もこの2、3月に起こっている。国際的な孤立化と無謀な侵略戦争の拡大へと突き進んでいく転機だった。

▼国際的な反響広がる 

 多喜二虐殺の報は、全世界にもたらされ、非常な衝撃を与えた。中国の作家魯迅は、弔電を送った。「日本と中国の大衆は、もとより兄弟である。資本家階級は大衆をだましてその血で世界を描いた。また描きつつある。しかし無産階級とその先駆者たちは、血でそれを洗っている......われわれは堅く同志小林の血路にそって前進し、握手するのだ!」
 フランス共産党機関紙「ユマニテ」は3月14日に「革命作家小林、日本軍国主義の手により東京にて殺害さる」「ロマン・ロランの呼びかけに応じてこの犯罪に対する無数の抗議の声が湧き起こった」と報じた。
 すでに多喜二の小説は各国で翻訳され、「日本の代表的なプロレタリア作家」としてその名が知られていた。
 多喜二が殺されたのは、「一九二八年三月十五日」という作品で特高警察の拷問の実態を生々しく暴露された権力が、憎しみを倍加させていたからだという面がある。同時に、多喜二が、戦争に猛烈に反対して、論陣を張っていたことも大きな要素だ。

▼恐怖の現れ

 荻野富士夫著『特高警察』によると、戦前の日本で拷問による虐殺80人、拷問による獄中死114人、病気による獄中死1503人とある。これらの虐殺者たちはなんら処分されなかった。特高警察は、表向きは拷問死を否定したが、その一方で、その後の取り調べにあたって、「お前も小林多喜二のようにしてやるぞ、覚悟しろ」と恫喝するのを常とした。
 これらは、凶暴ではあるが、日本の労働者階級の自己解放闘争、労働組合、共産党に対する支配階級の恐怖を表すもので、その強さの現れではない。
 戦後、特高は表面上解体されたが、罰せられずに温存され、そのまま戦後の公安警察に横滑りした。国家権力の暴力性、階級対立の非和解性の構図は変わっていない。

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多喜二虐殺のころの出来事

1.12 経済学者・河上肇検挙
1.30 ヒトラー、ドイツ首相に就任
2. 4 長野県で教員などの一斉検挙始まる。138人検挙(教員赤化事件)
2.20 閣議、対日勧告案を国際連盟が可決の場合は連盟脱退を決定
2.20 小林多喜二検挙され、築地署で虐殺
2.23 日満軍、熱河省へ侵攻
2.24 国際連盟総会、リットン報告を承認(42対1)。日本代表松岡洋右、対日勧告採択に抗議して退場
3. 5 ドイツ最後の総選挙でナチス過半数を制する
3.27 内田外相、国際連盟脱退を通告
4.22 文部省、京都帝大教授滝川幸辰の『刑法読本』が共産主義的であるとして辞職要求。5・26、休職発令、法学部長以下抗議して辞表提出(滝川事件)
6. 7 共産党幹部佐野学・鍋山貞親、獄中で転向声明