■News & Review 台湾 台湾鉄道労働者が減速抗議闘争 人員不足、踏切保安設備の早期更新などを訴え

月刊『国際労働運動』48頁(0463号02面02)(2015/04/01)


■News & Review 台湾
 台湾鉄道労働者が減速抗議闘争
 人員不足、踏切保安設備の早期更新などを訴え

(写真 踏切を通過する台湾の列車)

(写真 台湾の新幹線)

(写真 弾圧に抗議する中華航空の航空労働者たち【1月29日】)

6万人の足に影響、馬政権を震撼させる

 2月14日、台湾の全国鉄道運転士聯誼(れんぎ)会の鉄道運転士ら800人が、台湾鉄道局に対して人員不足に抗議し、踏切保安設備の早期更新を訴えて〝減速抗議〟闘争を行った。運転士が各地の踏切で警笛を鳴らし、大幅に減速して通過する抗議活動を展開したという。
 1月16日に新北市樹林区俊英街の踏切で列車の通過直前に遮断機が上がり、車両が自動車・バイク8台に衝突しかけるというトラブルが発生した事件が、この闘争の発端となった。台湾政府はこの事故は人為的ミスであるとし(つまり労働者の側の責任であるとし)、全463カ所の踏切を検査して異常もなく、安全に問題がないとの声明を2月13日に発表した。この声明に対する鉄道労働者の怒りが翌14日に爆発したのだ。さらに台湾では、1月18日に桃園市、台中市、台南市でそれぞれ人身事故が発生し、さらに1月19日午前5時25分頃、台湾鉄路基隆駅構内のポイントが故障するトラブルも起きている。
 全国鉄道運転士聯誼会会長の林聡吉氏は「台湾は近年、新しい車両を導入し、長距離旅客の旅行時間が大幅に短縮されたが、全台湾の各所の踏切システム設備が向上せず、運転士も足りていないために労働者の疲労が激しい。そして問題が起きれば労働者に責任が転嫁されてしまう。旅客の安全を考えて、明日、踏切を通過する時にすべての列車の速度を60㌔まで落とします」と13日に発表し、減速抗議に立ち上がった。
 台湾政府は、この減速抗議闘争で6万人の足に影響が出たとした。鉄道運転士聯誼会は、問題が解決しない場合は19日から始まる春節(日本で言う「旧正月」)期間中にも再度減速抗議闘争を行うとしていた。春節は、中国、台湾の人々にとって、最も大切な休暇期間であり、その混乱は政権にも大きな影響を及ぼす。馬英九総統は「春節輸送に影響が生じてはならない」と、早期解決を台湾鉄道局に求めたという。
 こうして追いつめられた台湾鉄道局は16日に、乗務員や保線作業員の追加採用を行うほか、安全性向上のために踏切設備の更新に係る経費を予算に計上するなどの現状改善を労働者側に約束した。台湾鉄道労働者の減速抗議闘争は、労働者側の全面勝利となった。
 動労千葉の反合理化・運転保安闘争と同じような闘いを、台湾でも鉄道労働者が行い、歴史的な勝利をかちとった。ここには新自由主義との闘いにおける、反合理化・運転保安闘争の普遍性が示されている。動労千葉の反合理化・運転保安闘争が、新自由主義の崩壊の中で全世界の労働者の闘いと結びつき、全世界の労働者の団結が拡大していく展望がここにある。

日帝JRの危機と一体

 しかも台湾の場合、特に見ておかなければならないことは、日帝・JRとの関係の深さであり、そのJRの破綻が台湾鉄道の危機を促進しているという関係である。とりわけ台湾新幹線(台湾高鉄)の破綻である。
 台湾新幹線は、日本の技術でつくられた最初の新幹線、つまり日帝の新幹線輸出の一番最初のケースとされている。首都台北と南部の高雄(345㌔メートル)を約1時間半で結んでおり、2007年に運行が始まった。当初は欧州(フランス・ドイツ)のみの落札が予定されていたが、日本と関係が深い当時の李登輝総統に働きかけることで土壇場でひっくり返され、システムは欧州、技術と車両は日本という日欧混在の形になった。音頭を取ったのはJR東海であり、それを支配する葛西敬之であった。
 だが、この鳴り物入りでつくられた台湾新幹線が今、破綻し、破産の危機に直面している。累積赤字は470億台湾ドル(1786億円)にも達するとされ、一部の株主が配当金の支払いと株の買い戻しを訴えて訴訟を起こしている。高鉄は手元に18億台湾ドル(66・6億円)しか資金がないとされており、3月にも出ると言われている判決で払い戻しが確定すれば、必然的に破産するしかないのである。ことここに至って交通部(交通省)は、借金の返済期間を35年間から75年に延長し、1年当たりの減価償却費を圧縮するなどの財務改善法案を立法院に提出し、何とか破産を逃れようとした。
 だが、与党、中国国民党の立法委員団は1月7日、この当局の法案への反対を決定。葉匡時交通部長(国土交通相)は責任をとって9日辞任した。高鉄の范志強董事長(会長)も辞任に追い込まれた。
 この台湾新幹線破綻の最大の理由とされるのが、日本の新幹線のコストの高さである。コストが高いため、その建設当初の借金が返済不能となり、累積赤字を生み出し、とうとう破綻したのである。台湾新幹線は1990年代から構想が始まったが、その後の新自由主義の崩壊、世界経済の世界恐慌への突入が、この破綻を一層促進した。利用者も予想どおりには伸びなかった。
 建設を推進したのは台湾政府であり国家事業であるが、形としては民間経営となっている。民間に資金調達をさせて経営させて、借金を返済した後(当初の予定では35年後)に、公共に施設を移管するというやり方である(「BOT方式」と呼ばれている)。つまり最初から国家の鉄道事業を民間に経営させ、それによって膨大な借金を返済させ、経営が安定したのちに公共施設にするというわけである。本質的には公共事業の民営化の一形態といえる。このやり方が壮大な破産を遂げたのであり、民営化政策の破綻そのものと見ることができる。
 破綻がすでに必然化したとされる民間経営の台湾新幹線であるが、破産するからといって政府がそのまま放置し黙って倒産させておくことなども当然できない。形は民間経営とはいえこの台湾新幹線は国家事業であり、その破綻は直接的に台湾経済にも政治にも果てしない影響を及ぼす。政財界を根底から揺るがすような事態になるのは目に見えている。そのために交通部は、実際に破綻した場合には運行を維持するため6月末までに資産を買い取るとしており、完全公営化による公的負担は7千億台湾ドル(2兆6600億円)にも達すると言っている。台湾はその経済の危機から、2014年度は約35・7兆台湾ドル(135・66兆円)の赤字となっており、この完全公営化がなされた場合、それが台湾の国家財政を一層破綻に追い込むことは明らかである。
 国家負担を軽減化するために最初から民営で経営したものの、それが破産して結局は国家が膨大な借金をかぶり、国家財政を追いつめるというマンガのような事態が進んでいるのである。
 この台湾新幹線をめぐって進んでいる全体像は、まさに新自由主義政策の破産であり、民営化政策の破綻である。そして日本の新幹線輸出の破綻の本格的な開始である。今起きている台湾高速鉄道の破産は、日帝JRの鉄道政策・経営の破綻と一体であり、特に新幹線輸出政策とそれを軸にした帝国主義・大国間争闘戦での日帝の敗北につながろうとしている。

国境を越え、戦争を止める国際連帯

 そしてこの大恐慌への突入と新自由主義の破産、台湾鉄道と台湾の国家財政の破綻はどこに向かうのか? それは何よりも労働者への攻撃となって向けられてくる。合理化、非正規職化、外注化など、新自由主義の攻撃がますます現場労働者、鉄道労働者に襲いかかり、同時に安全がドンドン切り捨てられていく。一方でこの破綻は膨大な増税となって襲いかかり、徹底した収奪の攻撃としても全労働者に強化されてくる。
 今回の台湾の鉄道労働者、運転士の減速抗議闘争は、まさに日本のJRと一体となった台湾の鉄道事業の破綻、その中で強行されているリストラや安全切り捨てに対する現場労働者の怒りの決起として闘われ、台湾の政財界を揺さぶったのである。そしてJRの危機と台湾鉄道の危機が結びついているように、労働者の側も、動労千葉の闘いと台湾の労働者、さらには全世界の労働者の闘いが一体となって結びつき進んでいく状況に入ったのである。
 つまり、国際連帯闘争の新たな発展の段階への突入である。
 2015年の冒頭に起きた「イスラム国」による日本人人質事件は、新たな世界戦争が始まっており、マルクス主義の思想と闘いの発展が求められていること、そして国際連帯闘争の発展が求められていることを示した。動労千葉の闘いは、アメリカ、韓国、東アジアから中東まで、あらゆる国の全世界の労働者、新自由主義と闘う労働者と結びつこうとしている。反合理化・運転保安闘争、そして「外注化阻止」「非正規職撤廃」の闘いは、全世界の闘う労働者の共通する課題であり、新たなインターナショナルをつくりだしていく核心的なスローガンであり、世界革命に向けた闘いそのものである。この闘いの中にこそ、世界革命の炎がやどっている。それを端緒的にせよ示したのが、今回の台湾での鉄道労働者の減速抗議闘争ともいえる。
 そしてこうした大恐慌と戦争の時代の本格化の中で、実際に労働者は国際連帯を求めて次々と決起している。労働組合が国際連帯の声を上げている。
 1月22日、やはり台湾で、台湾中華航空の航空労働者たちが長時間労働や年末ボーナスの低さに抗議して、街頭で抗議行動に立ち上がった。これに対して会社は、4人の客室乗務員と1人の操縦士を無期限停職の処分にした。この労働者への処分は、航空労働者の怒りをさらに燃え立たせ、29日に再び中華航空台北支社への抗議行動が闘われるという争議が起きた。
 この台湾の航空労働者の争議に対して、1月28日、香港のキャセイパシフィック航空、香港ドラゴン航空、ブリティッシュエアラインの香港の客室乗務員組合、怡中航空職工会の四つの航空関連の労働組合が「同じひとつの空の下、海峡を越える団結のメッセージ」と題する声明を発表し、台湾の中華航空の労働者を徹底支援することを明らかにした。
 この声明は、「キャセイパシフィック、香港ドラゴン、ブリティッシュエアライン及び怡中航空の労働組合は、中華航空労働組合第3分会の闘いを支持します!」と連帯を高らかに明らかにし、「中華航空が年末ボーナスに関する労働組合の要求についていまだ正面から答えていないことに対して、さらにこのような卑劣な手法によって労働組合を弾圧し、労働組合の活動を機能停止に追い込もうとしていることに対して、私たちは徹底的に弾劾するものです」と資本を徹底弾劾している。
 そして「私たちは中華航空第3分会の崇高な仲間たち、多数の組合員に敬意を表します。同じひとつの空の下、皆さんは孤立していない。悪辣な財閥や資本家に対して、私たち労働者の最強で最も有力な武器は団結し互いに結びつくことです。がんばれ、第3分会! 徹底的にがんばれ!」と心からの国際団結の檄を送っている。
 これに示されるように、労働者階級は本質的に国際的である。今、新自由主義のもとで労働者が生きられなくなり、それどころか戦争で殺し合いをさせられる時代に入ろうとしているがゆえに、必然的に国際連帯を求めて労働者、労働組合が世界で次々と立ち上がっているのである。
 まさに今こそ、国鉄闘争、動労千葉労働運動を軸にして、この大恐慌と戦争の時代をひっくり返す闘う労働者、労働組合の国際連帯闘争を本格的に拡大していくときだ。
 2015年を、国際連帯闘争の画歴史的な年にすべく、国鉄闘争を全力で闘いぬこう!
(河原善之)