●特集 ゼネスト情勢を切り開く国鉄決戦 Ⅱ 第2の分割・民営化粉砕へ 動労総連合を今こそ全国に JR大再編の大攻撃――文字通りの第2の分割・民営化

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月刊『国際労働運動』48頁(0466号03面02)(2015/07/01)


●特集 ゼネスト情勢を切り開く国鉄決戦 Ⅱ
 第2の分割・民営化粉砕へ 動労総連合を今こそ全国に
 JR大再編の大攻撃――文字通りの第2の分割・民営化

(1)安倍政権の国策としての攻撃

 こうして闘い抜いてきた地平から、今始まっている第2の分割・民営化攻撃が何なのかを明確にしたい。第2の分割・民営化攻撃は、3月ダイ改から本格的に始まった。今後3~4年でやろうとしている攻撃だが、JR東日本などは3月ダイ改を「歴史的ダイヤ改正だ」と位置づけた。

一私企業の経営戦略ではない

 それは、単にJRという一私企業の経営戦略ではない。また、国鉄分割・民営化―JR体制の破綻とその危機を乗り切るためというだけでもない。文字通りの「国家戦略」として進められている攻撃だと見なければならない。
 その柱は二つある。
 一つは、安倍政権の社会丸ごとの民営化、「岩盤規制破壊」「成長戦略」の柱としてJRを全面的に動員しようという攻撃だということだ。
 二つは、戦争に向かって労働運動の解体・再編を成し遂げようということだ。
 第一の点から見ていく。
 安倍政権の「成長戦略」の軸は、「インフラ輸出」で、原発とともに鉄道のパッケージ輸出が柱だ。日米安保新ガイドラインを締結した、安倍の4月末から5月初めの訪米期間中、安倍は、カリフォルニア州知事と会談し、日本の新幹線を売り込むために、運転のシミュレーターまで持ち込んだ。これは、西海岸のサンフランシスコ〜ロサンゼルス間の高速鉄道の受注をJR東日本が狙っているものだ。また、東海岸のワシントン〜〜ニューヨーク〜ボストンをリニア新幹線で結ぶ計画をJR東海とともに売り込んでいる。
 JR東海が推進するリニア中央新幹線建設は総工費が9兆円もかかる。しかし、これは、これまでの新幹線のように国家財政を注ぎ込んでやるのではなくて、その9兆円をJR東海が自費で賄うという。
 今、安倍政権は「国家戦略特区」で、医療に株式会社を導入したり、公立の小中学校の運営まで民営化できるようにしようとしている。この時に、国鉄分割・民営化という新自由主義の先駆けをなす攻撃によって誕生したJRであるが、そのJRが動労千葉・動労総連合の30年に及ぶ闘いによって、外注化・非正規職化攻撃の決定的遅れを強制されているのだ。他の企業から比べても10年単位で遅れ、今も年功制賃金が残っている。こんな現状を放置したままでは、社会丸ごと民営化はできない。だから、もう一回、JRを民営化政策の最先端に押し出そうというのだ。

空前の再開発

(写真 渋谷再開発の完成予想図)

 さらに今、JRがやろうとしていることは、かつての「列島改造」的な、超巨大再開発である。
 日帝の国家財政は1000兆円を超す赤字であり、「恐慌対策」や「成長戦略」と言っても、公共投資など行う余裕はない。それを全部、JRが担っているとも言える。例えば、渋谷駅周辺の大再開発は、JRと東急が中心となって2027年完成を目指している。駅直近だけではなく、数㌔にわたる。駅ビルは地上46階、地下7階で230㍍という超高層ビルを7個も建てる。まさに空前の大再開発だ。品川駅周辺の大再開発も「21世紀を象徴する駅をつくる」という(東京駅は20世紀を象徴する駅ということ)。暫定開業は2020年で、さらに10年かかる。名古屋駅はリニア絡みの再開発で超高層ビルをいくつも建てる。
 まさに列島改造計画が恐慌対策としてやられている。こんなことができるのはJRだけだ。トヨタなどがいくら儲けているとしても、そんなことはできない。

「都市消滅」「人口減少」を「画期的」と言うJR

 では、JRの側から見るとどうか。JRはこの間、「都市消滅問題」で異様なほど躍り上がっている。JR東日本の清野会長が言っている。「去年は画期的な年だった」。なぜか。「都市消滅問題、人口減少問題で国民的議論ができるようになった年だった」と。昨年、日本創成会議が「2040年までに896自治体が消滅する」という「増田レポート」を発表した。一方で、安倍政権は「地方創生」を打ち出した。つまり、政府が「選択と集中」と言い出した。地方中核都市を人口減少の防波堤にする。それ以外は全部つぶしても構わない。これで国際競争に生き延びていくというのが政府の方針だ。だが「都市消滅」とは、新自由主義の破綻そのものである。
 これを見て、JR資本は「もう地方ローカル線なんか全部放棄していいんだ」「公共性に関わらなくていいと政府がお墨付きを与えてくれた」と考えた。だから、今回のダイ改ができた。地方ローカル線の削減どころか切り捨て・放棄だ。あとは第三セクターにするかバスだ。『JR EAST』というJR東日本の広報誌では「国家的課題としての地方創生」という特集を組んでいる。政権との一体化がここまで進んでいる。
 国交省も、地方ローカル線を存続させるには、鉄道施設や車両を地方自治体に保有させて、運営だけを民間企業にさせるしかないという「上下分離方式」への転換に踏み切った。これは、独立採算を基本とした国鉄分割・民営化方式を自ら全面否定するものだ。その途端に、JR四国の社長が「JR四国は上下分離方式にする以外にもはや存続できない」と言い始めた。JR北海道も鉄道会社の体すらなしていない状態で、分割・民営化の枠組みが全部崩壊しようとしている。JR北海道は、続発する事故を奇貨として、ローカル線の廃線を次々と進めようとしているのだ。

「地方創生は『撤退戦』から」と叫ぶ葛西

 さらに『ウエッジ(Wedge)』という雑誌がある。JR東海の葛西が「その思想を富裕な国民に広げるため」にと、JRになって創刊したものだ。定価は500円だが、東海道・山陽新幹線のグリーン車では無料配布されている。
 その5月号が「地方創生は『撤退戦』から」という特集を組んでいる。それは、「増田レポート」が言う「すべての地域に人口減抑制のエネルギーをつぎ込むのではなく、地方中核都市に資源を集中し、そこを最後のとりでにして再生を図っていく」という戦略を押し出しているものだ。例えば、「地方圏はターミナルケアを/大都市は集積化で経済成長へ」などと主張している。ターミナルケアとは、終末期の医療および看護のことだ。要するに〝地方は死ぬべき〟ということなのだ。
 さらに許せないのは、「福島、三陸から考える町づくりの『選択と集中』」という記事である。まず、東日本大震災の津波被害の激しかった岩手県陸前高田市で高台に宅地を造成する工事が進められていることについて、「1世帯あたり5000万円もの造成費」がかかるから、「被災者に現金を配って自由な自主再建を促したほうが、安上がり」と言っているのだ。
 さらに「復興遅れる福島は『選択と集中』のチャンス」と言い、浪江、双葉、大熊、富岡の4町は町を捨て、「広野町、楢葉町に投資を集中させるべき」と主張しているのだ。被災者の原発事故への怒りや苦悩など一顧だにせず、除染などもしないで、もう町を捨ててしまえと傲慢に言い放っているのである。
 このように、JR資本は、安倍政権でも簡単には言えないような被災地切り捨てを「撤退戦」だと主張し、それが「地方創生」だと言うのである。なんとも許しがたい。

(2)「国鉄改革のようなイノベーション」

 次に、第二の点を見ていく。
 JR東日本の清野会長は次のように言う。
 「一つ目は不断のイノベーション(革新)です」「イノベーションとは決して新技術の開発に限った話ではありません。......分割民営化を果たした国鉄改革、あるいは農商工連携、いわゆる『6次産業化』もある種のイノベーションと言えるでしょう」
 「6次産業化」とは例えばアグリビジネス(野菜工場など)を指すが、「国鉄改革」=国鉄分割・民営化もイノベーションだと言っていることがポイントだ。つまり、もう一度、分割・民営化のような改革=第2の分割・民営化をやるという宣言なのだ。

カクマルは再び先兵に

 こうした中で、JR東労組カクマルは、動労カクマルが国鉄分割・民営化の先兵になったのに続き、新たに第2の分割・民営化の先兵となって生き残ろうとしている。
 2月13日に開かれたJR東労組定期中央委員会で、吉川委員長は次のように言った。
 「30年前の国鉄改革は雇用を守ることを大前提に、先達は三本柱〔早期退職、一時帰休、出向〕や広域異動を担った。しかし、人口減少による雇用不安の危機が訪れようとしている。これは会社の生命線、特に地方の雇用問題に関わってくる重大な問題だ」「会社はこのような状況の中で、これまで以上にスピード感をもって外注化、業務委託、グループ会社の再編成、場合によってはローカル線の廃止まで踏み込んでくるだろう」
 一見、外注化やローカル線廃止に反対して闘うかのようだ。だが、そうではない。分割・民営化に率先協力したことをあらためて資本にアピールし、なんとかカクマルだけは切り捨てないで欲しいと泣訴しているのだ。

(3)労働運動の解体・再編に立ち向かおう

 だから問われているのは、労働組合なのだ。労働組合が団結を崩されなければ、あらゆる矛盾を突いて資本を追い詰めることができる。破綻する新自由主義にトドメを刺し、ゼネストを打ち、プロレタリア革命に向かって決定的に前進することができる。
 だからこそ、安倍とJR資本は、第2の分割・民営化攻撃をとおして、労働運動の解体・再編を強行しようとしているのだ。それは、戦争と改憲攻撃のために、労働組合をその先兵にする攻撃と一体である。
 その安倍の意図を代弁しているのが極右ジャーナリスト・櫻井よしこの「民間労組、官公労と決別を」という産経新聞のコラム(昨年11月)である。櫻井は、UAゼンセンという連合傘下の最大労組を「憲法改正を高らかに支持したUAゼンセンの理念」と持ち上げ、それに対して「地方各地で反基地、憲法改正反対運動が展開され、地元の自治労や日教組が前面に立って旗を振る」と嘆き、「連合を分裂させよ」と叫ぶのである。〔この点、第Ⅳ章で再論する〕

「動労千葉はJR東の癌」

 それはJR労働運動をめぐって、直接には動労千葉・動労総連合破壊攻撃として襲いかかる。財界の連中が主な読者の雑誌『選択』5月号が「JR東日本の『大事故』は続く」「いまだ『過激派労組』がやり放題」という記事を掲載した。そこでは、JR総連カクマル支配が崩壊する中で「『千葉動労』はいまや『JR東の鬼っ子』といわれる」と言い、千葉では「組合員のサボタージュによる遅延や運休が日常茶飯事」なるデマ(実際には、スト・争議以外には動労千葉は誰よりも正確・安全に運行している!)をふりまき、動労千葉は「客観的に見てJR東の癌」だから排除しろ、とJR資本をけしかけているのだ。

(4)攻撃の核心は究極の「外注革命」だ

 では、具体的な第2の分割・民営化攻撃の核心は何か。それは、鉄道業務のすべてを外注化する究極の「外注革命」だということだ。JR本体は企業としての輪郭すらなくし、持ち株会社と設備を保有する会社だけにする。現場で働いている労働者は全員、非正規化する。そうして労働組合を破壊するのだ。
 例えば、東京では東京駅や新宿駅も含め出発指示合図が全部廃止された。駅での運転取り扱いをなくし、ターミナル駅まで外注化する準備だ。今のようなペースで駅が外注化されれば、数年後には車掌や運転士まで外注化されていく。車掌や運転士は駅から始まって、試験を受けて登用されていくのが昇進経路だ。その駅がJR本体から切り離されていく。だから、駅の外注化は否応なく車掌や運転士の外注化に行き着くのだ。

関連企業の大再編と転籍

 さらに、外注化攻撃と一体で、JR関連企業の大再編が始まっている。千葉ではすでに63駅が外注化されており、7月に、CTSが再編・分割され、駅の運営を行うJR東日本ステーションサービス(JESS)という会社がつくられる。水戸や高崎でも同様の再編が行われる。CTSの労働者は転籍となる。その次にはさらに分割されて構内運転や車両検査をやる会社がつくられるだろう。残る清掃労働者にはさらに酷い労働条件が強制されていく。東京ではすでに2009年にJR東日本運輸サービス(JETS)という会社になっている。
 そして、その度に労働者の雇用が破壊されていく。例えばJETSは、生涯3回しか昇給しない雇用制度が就業規則で決められている。
 〝転籍〟ということの重大性をはっきりさせなければならない。それは、いったん始まったら無限に拡大していく攻撃だ。例えば、5月27日の神奈川新聞には「相鉄ホールディングスが、連結子会社相鉄バスに出向している社員207名に対し、転籍もしくは早期退職してもらう方針を決定した」という記事が載っている。相鉄HDと子会社の年収は平均350万円もの開きがあるという。それをわずかの加算金を払って転籍か早期退職かどちらかを選べという。どちらも拒否すれば相鉄HDに残るが、これまでの仕事はない。どこに配属されるかもわからない。
 さらに4月、水戸、高崎、宇都宮で駅ビルがJRの子会社から外された。他の企業と対抗してJRが巨大な商業・流通業に乗り出そうとしている。海外展開も含め、工場や車両メンテナンスを担う下請け会社もつくられている。
 こうした中で、動労千葉・動労総連合が15年間にわたる外注化阻止闘争を闘い続け、実際に外注化を遅らせてきたことの意義は実に大きい。

安全の崩壊、事故続発

(写真 山手線支柱倒壊事故現場)

 しかし、外注化攻撃は徹底的な安全の崩壊に行き着く。3月ダイ改の直後、3月30日午前7時頃、JR京浜東北線・鶴見駅で、男性が電車にはねられ死亡した。この事故により、京浜東北線の大宮~大船駅間と、隣接する東海道線の東京~熱海駅間で運転を見合わせ、8時過ぎには回復したというが、宇都宮線、高崎線、常磐線を東海道線と直通させた上野東京ラインのために、これらの線区を始めとする首都圏全域で終日、ダイヤが混乱したのだ。また、翌31日には、北陸新幹線の最速列車「かがやき」が、給水用のホースをつけたまま走行するという事態が起きた。ダイ改の目玉である上野東京ラインと北陸新幹線で破綻が起きたのだ。
 4月3日、JR北海道の特急列車が青函トンネル内で発煙事故を起こし、乗客は、青函トンネルと並行する誘導路を約2・4㌔歩いて旧竜飛海底駅(竜飛定点)、避難所、ケーブルカー乗り場へと移動し、斜坑に設置されたケーブルカーで地上に脱出した。全員が脱出するまで6時間もかかった。
 この事故は、同時に、リニア中央新幹線(品川~名古屋)の危険性を浮き彫りにした。リニアは全線286㌔のうち86%の246㌔がトンネルで、標高3000㍍を超える南アルプスのど真ん中を、長さ25㌔、最大土かぶり(トンネル上の山体の土の厚さ)1400㍍の長大トンネルで貫く。そこはフォッサマグナの縁に当たる断層地帯でもあり、地震も多発している。リニア走行中に地震が起き、仮に無事停車できたとしても、乗員・乗客は地中1400㍍をはい上がって地上に脱出できるのか。安倍の盟友・葛西敬之(JR東海名誉会長)が先頭で進めるリニア新幹線建設を許してはならない。
 さらに4月12日、山手線の秋葉原~神田駅間で架線を支える支柱が倒壊した。並行する京浜東北線の運転士が発見して緊急ボタンを押して後続電車を止めたので大事故には至らなかったが、1~2分前にも電車が現場を通過している。JR東日本は少なくとも2日前には異常を把握していたが、週末のため作業員を集められないとの理由で工事を3日後に延期したのだ。前日11日にも運転士が支柱の傾きを指摘している。事故を防ぐ可能性は何度もあった。支柱を支える梁を撤去し、支線を切断した工事は2週間前。その間ずっと放置されていた。幾重もの外注化・下請け構造の結果、強度計算の担当者も配置せず、強度や安定性も考慮されずに工事が進む状況だった。こうした現実が発覚することを恐れ、「あと3日は大丈夫」と列車を止める措置を取らなかったのだ。
 まさに外注化とそれがもたらす技術継承の断絶による事故なのだ。外注化した時点で、JR側には一切、形式上はまったく責任がなくなる。形式は下請け会社の責任になる。それに対して口を出したら、偽装請負になる。だから、外注化の最も恐ろしいところは責任の放棄である。
 この事故についての「死傷者が出なかったことは安全の神様のおかげ」なるJR東日本社長・冨田の言辞は断じて許せない。
 第2の分割・民営化攻撃がこのまま進めば、107人の生命を奪ったJR西日本の尼崎事故の再来は不可避だ。

労働運動が力を取り戻すチャンスの到来

 こうした攻撃が、現場には「去るも地獄、残るも地獄」と言うべき労働強化として襲いかかる。さらに、この8~9年の間にJRの労働者の半分(国鉄採)が退職する大量退職問題の爆発ということが外注化を加速させる。
 だが、この第2の分割・民営化は、次のようにも捉えられる。国鉄分割・民営化の時は、民営化をすれば財政赤字がなくなり、社会が豊かになる、競争し民営化することは素晴らしいことなんだと支配階級の側は言えた。今はそういう積極的なものは何もない。まさに新自由主義の破綻だ。だから、これは全部崩壊する。歴史が一回りして、国鉄分割・民営化の時に力を失った労働運動が力を取り戻すチャンスが来ているのだ。