3・4控訴審闘争のために (中) 西村正治弁護士に聞く 転用目的は虚構、解約は無効

週刊『三里塚』02頁(0913号02面02)(2015/02/09)


3・4控訴審闘争のために (中)
 西村正治弁護士に聞く
 転用目的は虚構、解約は無効


 市東さん農地裁判の3月4日の弁論勝利にむけて、西村正治弁護士にお話を伺った。2回に分けて掲載する。今回は、NAAによる市東さんの農地(底地)の買収が、「転用のための買収=農地法第5条」として行われたにもかかわらず、実際には転用されず、市東さんの耕作が15年以上も続けられていた実態を捉えて、「農地所有のための買収=農地法3条に該当する」という主張について解説してもらった。「3条による買収では県知事の許可がいらない」とは農地法のどこにも書かれていおらず、NAAの買収は違法となる。つまり、1988年の買収自体が農地法違反であり、無効だということだ。すると、NAAは市東さんの農地の所有者ではなくなり、市東さんに農地の明け渡しを要求する法的根拠が崩壊する。この点について強調してくれた。

 ――西村弁護士は三里塚裁判でお世話になっていますが、あらためて自己紹介をお願いします。 西村 三里塚裁判には市東さんの農地取り上げ訴訟の最初からたずさわっています。市東さんの農地法裁判の控訴理由書では、農地法20条違反(賃借人の同意なき許可)と手続き違反を担当しました。また、昨年NAAがヤグラの撤去を求めて起こした新訴訟も担当します。
 ――農地法20条違反のところは、農地法裁判の要ですね。今回のインタビューで詳しく解説していただきたいと思っていますが、その前にヤグラの新訴訟について解説していただけますか。
 西村 市東さんの天神峰農地に反対同盟が作った二つのヤグラと二つの看板があります。市東さんの裁判で、NAAはこれを市東さんのものだとして市東さんに撤去を求めていました。これに対し、反対同盟は一審の段階でこれは同盟のものだとして確認の裁判を起こしましたが、多見谷裁判長は反対同盟の主張を無視した判決をしました。 ところが、今になって、NAAが、ヤグラなどが反対同盟のものだと認めて、反対同盟に撤去を求める裁判を新たに起こしてきたのが、新ヤグラ訴訟です。
 多見谷判決が正しければこんな訴訟を起こす必要はないのですから、NAAがこの訴訟を起こしたこと自体が、多見谷判決を否定することになります。
 このことを突きつけて控訴審でも争っていきますし、新訴訟では、公団の土地所有権取得が違法・無効であることを最初から主張して全面的に争っていきます。
 ――それでは控訴審の話題に戻りますが、控訴審の弁論では一審判決批判の、どの点が深められたのでしょうか。
 西村 控訴審で新たに主張したのは、NAAによる農地法5条での底地のデタラメな取得の批判をより進んで展開したことです。現実に起こっていることを客観的に見るとそれは農地法3条違反の農地の売買です。(注)
 つまり、公団は具体的な転用の差し迫った計画がない段階で底地を取得して、そのまま小作地として使用し続け、その結果、15年間その状態が続くことになりました。これはどう考えても、転用して農地でなくすることを目的にした農地売買ではない、それだったら3条での農地売買じゃないですか。
 これを法律構成として鮮明にして、NAAの描いている虚構を打ち砕いたということが大きいです。
 そのことは、農地法20条の知事の許可における小作権者の同意の問題も関連してくるのです。本来なら小作人がいる場合には、5条の許可と20条の許可を一体的にやるんだと言われているし、そういう通達があります。 5条と20条は、分けられないという関係にあるから、実務的に一体でやりなさい、とあります。実際にも、実務はこのように行われています。普通は、そもそも5条の許可処分は小作人の同意が不可欠なのです。
 市東さんの場合、NAAが二つの手続を分けてしまい、時間的にとんでもなく別個のものにしてしまいました。しかも空港公団は農地法5条第1項4号の、知事の許可が不要であることをもって、「小作者の同意はいらない」としました。そういう手続で、こっそりとやってしまった。
 だからこそ問題となっているわけです。そうだとすると、20条の許可をする場合に、知事の判断の中に「小作人の同意」が取り込まれる手続として残っているはずである、というのが正当な法解釈なんですね。

耕す者に権利あり

 ――NAAは農地法5条1項4号農林省令の例外規定を使って小作者の同意なき違法な農地買収を行った。農地売買の時に「小作者の同意」を省いているならば、20条の知事の転用相当判断には小作者の同意が必須条件でなければならない、と言うことですね。簡単に農地法3条、4条、5条の説明をお願いします。 西村 農地法は3条が基本です。5条は、その例外規定です。農地の売買をする場合は、3条の規定で行われた。つまり昔は小作人以外に売ることができなかった。今は売ることはできるが許可がいります。それが農地売買の大原則です。
 4条は、地主が自分の土地を農地以外のものに転用する場合の規定、5条は農地以外のものに転用するために売買する場合の規定です。この場合、知事の許可があれば売買できる、ということです。20条が、賃貸借契約解約の通知にあたっては、知事の許可を求めなければならないということです。
 もともと農地改革後、農地所有は、小作人を自作農にするための売買しか認めなかったのです。時代が変わり、そこまで厳しくしないで小作人以外の農業をやりたい人に売ることも認めていいんじゃないかということになって、広げましたが、あくまでも厳格に農地の売買を規制しています。それが農地の売買の大原則で、例外は狭くしか認められないのです。
 ――農地解放の原則が耕作者の農地所有であり、これを制度化した農地法が農地の売買や転用、賃貸借の解約手続きを行政の許認可で規制しているのは、小作権者の権利を保護するためですね。
 西村 そうです。耕作者の権利の保護は議論されるまでもなく、学者も含めて農地に関わる人の当然の前提であったのです。「耕す者に権利あり」です。
(つづく)

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(注)農地法の3条と5条 3条は農地を農地のまま使用するための売買を規制する条文。5条は農地を他の用途に転用するための売買を規制する条文。NAAは「5条」と偽って、実際には「3条」に該当する農地買収を知事の許可を得ずに行った。農地法違反だ。

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