三里塚は農民の希望の星 鈴木教授のTPP講演を聞いて

週刊『三里塚』02頁(0950号02面03)(2016/08/22)


三里塚は農民の希望の星
 鈴木教授のTPP講演を聞いて

(写真 参加者が会場を埋め尽くした鈴木宣弘教授のTPP講演会【7月30日】)

 千葉県の匝瑳(そうさ)市で行われた農民有志によるTPP反対の鈴木宣弘(東大教授)講演会に参加した。講演会は、新自由主義の農業破壊に対する農民の切迫感に溢れていた。
 参加者は130人。主催者の予想を大きく上回ったようで、受付に長蛇の列ができ、急きょ席を増設した。
 鈴木氏は、質疑での農民の発言に「質問ありがとうございます」「ご指摘ありがとうございます」と感謝しつつ応答を行っていた。このような鈴木氏の農業・農民問題に対する誠実な姿勢は、好感が持てた。
 鈴木氏の講演内容は、専門家としてTPPの問題点を具体的に暴いたものだ。安倍の農政改革は、これまでの戦後的な農業制度を「既得権を守っている」「岩盤規制だ」と攻撃し、それを壊して「1%」の大資本の利益のために市場を奪おうとしている。鈴木氏は、「『今だけ、金だけ、自分だけ』という、自分の利益だけしか考えない人たちにわれわれの経営や地域が壊されようとしているのを、自身の経営と地域を守ってきたわれわれが見過ごすわけにいかない」と強調する。
 そして、「このままの政策体系では、日本の食と農を持続的に守るのは困難な情勢、これにTPPの影響が加わればどうなるのか」と警鐘を鳴らす。
 私たちは、鈴木氏と同じく、農民の「安全な」農産物提供者としての自負心、社会や地域への貢献を誇りにして労働に勤しんできた農民の気持ちや怒りに寄り添わなければならないと感じた。
 そもそも農民は、「猫の目農政」と言われるような農業政策の無策に翻弄されるとともに、戦後復興・高度成長の労働力供給源などとして大資本の収奪の下に置かれてきた。新自由主義は、「1%」が生き残るために、さらなる収奪を農民に行い、農業・農村を徹底的に破壊しようとしているのだ。精農家であればあるほど怒りは大きいし、根源的だ。鈴木氏の講演はこの点でも正鵠を射ていた。
 また、成長ホルモン剤、遺伝子組み換え食品の拡大、食品添加物の基準・表示の緩和など、今日、食の安全性が根底から脅かされている点に関する警告にも衝撃を受けた。TPPは、それを決定付ける。
 そもそも「食に安さだけを追求すること」は、「命を削り、次世代に負担を強いる」人間破壊的な行為だ。これは食糧の本源的性格から真逆の転倒した姿であり、それ自体が最末期資本主義の腐朽性だと感じた。
 質疑は、活発だった。「いい講演でしたというだけでは、農業危機の単なるガス抜き。大事なのはこれから具体的にどうするか」という発言。また養鶏家の「高齢化し、日本農業は崩壊しているのではないか、日本農民の将来はどうなるのか」と農業政策に対する怒りの声があげられた。鈴木氏は、「こうやって集まること、熱心な方が意見交換し輪を広げることが大事」と原則を強調した。
 そして、パリの道路を封鎖したフランス農民の闘いを紹介し、「トラクターで国会に突入したいと言う皆さんの気持ちを共有したい」と応答した。
 鈴木氏は、「こうやればいいという決定打はない」と言う。確かに問題は、根本的であり、安易な解決などない。司会者は、「成田では50年闘争が続いています。市東孝雄さんという農民に対して農地法を使って土地収用が行なわれようとしています。全国で闘っている農民と団結することです」「農民は、農業経営の努力だけでは生きていけない。遅いと言う話も出ましたがそうは思わない。これだけの方が集まったのが希望」とまとめた。
 これが的確であると思う。三里塚闘争勝利こそ、日本農民の希望の星であり、新自由主義農政=TPP攻撃を粉砕するテコである。労働者と農民の団結による新社会の建設が歴史的に求められている。
 「深海に生きる魚族のように、自らが燃えなければ何処にも光はない」(ハンセン病と闘った歌人・明石海人の言葉。故大島渚映画監督の墓石に刻まれる)。これは農業破壊に直面する日本農民に求められている信念だと思う。
(大戸 剛)

このエントリーをはてなブックマークに追加