危険だらけ 羽田新ルート 都心人口密集地を超低空飛行

週刊『三里塚』02頁(1023号02面01)(2019/09/09)


危険だらけ 羽田新ルート
 都心人口密集地を超低空飛行



(写真 都心上空テスト飛行【8月30日】)

国交省が3月開始言明

 首都圏空港機能強化の一環として都心上空を飛行する羽田空港の新ルートが、反対の声を押し切るように急速に運用に向けて動き出している。
 石井啓一国交大臣は8月8日の記者会見で、「地元の理解が得られた」として「来年3月29日から増便と都心低空飛行をスタートさせる」と言明した。
 8月23日には新聞各紙に羽田新ルート増便にかかわる国交省の全面広告が掲載され、8月29日には、新ルートが通過するすべての地域(後述)に「国交省からのお知らせ」として「飛行検査」案内の新聞折り込みチラシが配布された。
 8月30日から始めた飛行検査は年内いっぱい、ほぼ連日行われ、来年1月末には旅客機で試験飛行するという。
 新ルートによる増便で国際線発着数は現在の年6万回から9万9千回に増えることになり、1日当たり50便が新たに追加されるというが、8月21日、このうち24便がアメリカへの路線に割り当てられると発表された。9月2日には残りの枠についても決定し、計9カ国・地域に配分することが報道されるなど、矢継ぎ早に事を進めている。
 新ルートはどのようなコースを飛行しようとしているのか。
 南風時の着陸機は埼玉県を通り東京23区を北西から南東方向に縦断する。練馬、中野、新宿区上空を次第に降下し渋谷、港、目黒、品川、大田区は爆音地域となる。
 南風時の離陸機は滑走路を南西方向に飛び立ち、これまで危険地帯として飛行が制限されていた神奈川県川崎市の石油コンビナート上空を飛ぶ。 
 北風時の離陸機は滑走路を北東方向に離陸し、江東、江戸川区から荒川を北上し、葛飾、墨田区上空を通過する。
 膨大な人びとが暮らす密集市街地、石油コンビナート上空を航空機が超低空で飛ぶことは安全破壊以外の何ものでもない。航空労働者の命は常に危険にさらされる。ルート下の人びとは日常的にすさまじい騒音、排気ガス、落下物の危険と隣り合わせとなり、生活が破壊される。

騒音被害と落下物事故

 住民が最も懸念するのが騒音被害と落下物の危険性だ。
 始められた飛行検査は、地上の誘導設備などが正常に機能するかを確認するもので小型ジェット機が用いられているが、「小型機でも音が普通に聞こえているから、これジェット機だったら本当に相当な轟音になる」「あの高さを実際は大型機が飛ぶのかと思うと、脅威でしかない」と不安の声が広がっている。
 騒音に対する住民の怒りの前に、運用時間を1日3時間に限定したが、限定的であることで、逆に防音工事の助成は学校・病院など限られた施設にしか適用しようとしないのだ。
 密集地における落下物は、命の危険に直結するものだ。
 航空機からの部品脱落や機体に付着した氷塊の落下は、その大半が着陸直前に航空機が着陸装置を出す(脚下げ)時に発生する。成田では、海の上や人家のないところで車輪を出すように指導されているが、羽田の新ルートでそのようなところはない。
 国交省は、「点検・整備の徹底指導」「駐機中の航空機の抜き打ちチェック」で対策を強化すると言うが、機体稼働率を上げるため整備時間を短縮し、外注化・合理化で安全が破壊されているのが現実ではないか。空港労働者に無理を強いて、事故が起これば責任を転嫁するだけだ。現に成田でも落下物はなくなるどころか、ここ数年、後を絶たないというのが実情だ。
 それどころか国交省は、騒音対策と称して、危険な運航をパイロットに強制しようとしている。着陸時の進入角度を3・0度から3・5度に引き上げることで、騒音を軽減させるというのだ。例えば、高度610㍍だった渋谷付近は、0・5度引き上げることで高度701㍍になるとされる。しかし、北海道大学の松井利仁教授によれば、これで軽減されるのは1デシベル程度で、「住民に違いはわからない」という。
 また、元日航機長の杉江弘さんは、「世界的にもほとんど例がない急な角度で操縦の難度が増す。尻もち事故の危険がある」と話している。航空機事故が最も起こりやすい危険な離着陸時にパイロットに無理を強いるなど言語道断ではないか。

空港機能強化策阻止を

 2014年に話が公になるとすぐに、ルート直下の各地域で住民はこんなデタラメな計画に対する反対の声を上げてきた。今回の新ルートは、住民の反対の声を一顧だにせずに強行しようというものだ。
 小池百合子東京都知事は「東京大会(オリンピック・パラリンピック)の円滑な実施にとって羽田の機能強化は極めて重要だ」と許しがたいコメントを出しているが、空港機能強化はオリンピックで終わりではない。
 8月22日付読売新聞は、「東京都は羽田空港で5本目となる滑走路の増設に向け、国土交通省との本格的な協議に着手する方針を固めた」と報じている。
 首都圏空港拡張が打ち出されたのは、安倍内閣の成長戦略、「日本再興戦略改訂2014―未来への挑戦」においてであり、2017年1月の通常国会施政方針演説で安倍首相が「内閣としての体重をかける方針」と明らかにしたように第一級の国策なのだ。
 空港機能強化策の本質は、世界戦争の切迫に対応する軍事空港建設であり、日本帝国主義の経済的基盤の再構築を狙うものだ。沖縄の辺野古新基地建設同様に、民意を足蹴にして何が何でも強行しようというものだ。
 羽田の都心上空新ルートの問題は、成田空港機能強化・第3滑走路建設と一体であり、労働者・農民・住民の生きる権利を守る重要な課題だ。都心ルートに反対する住民と連携してともに闘おう。
(神部俊夫)

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