明日も耕す 農業問題の今 種苗法改悪に反対の声を狙いは種の企業支配だv 農民の自家採種が「原則禁止」される

週刊『三里塚』02頁(1039号02面03)(2020/05/11)


明日も耕す 農業問題の今
 種苗法改悪に反対の声を狙いは種の企業支配だv
 農民の自家採種が「原則禁止」される


 安倍政権は、連休明けの国会で種苗法改悪案の審議を開始しようとしている。コロナ情勢を逆手にとって反対の声を封じ込め、ほとんど審議もなしに改悪案の強行成立を図ろうするもくろみに怒りの声が高まっている。

 改悪案の審議が眼前に迫る中で、注目ワードになりつつある種苗法だが、「種子法とどう違うの」という疑問の声も多く聞く。今号では改めて種子法と種苗法についておさらいしてみたい。

種子法との違い

 まず種子法。正式名称は「主要農作物種子法」という。主要農作物とは米、麦、大豆のことで、戦後の穀物生産の安定化を図るために1952年に制定された。
 私たちの主食である米、麦、大豆について優良な種子の生産および普及を「国が果たす役割」と定め、品質管理や安定的な供給をすべての都道府県に義務づけた。その結果、地域に合った多様な品種が開発され、新潟県の「コシヒカリ」や北海道の「ユメピリカ」などの優良銘柄が誕生している。
 しかし、2018年に「企業の開発意欲を損なう」との理由で廃止に。
 これに対し、種苗法は種を開発した人の権利を守る法律だ。
 種は新しい品種を開発するのに多くの手間と時間とお金がかかる。せっかく開発しても勝手に売り買いされたら開発にかかった費用を回収できず、どんどん権利が侵害される。そこで開発した人の権利も守らなければいけないとできたのが種苗法というわけだ。
 新しい品種が登録されると、登録した人以外は勝手に増やしたり売ったり譲ったりしてはいけない、違反すれば1000万円の罰金ですよと。
 そのうえで、農民の種採りの権利も認めていて、農家の自家増殖(採種)は原則OKとしていた。それを今回の改悪では、原則OKから原則禁止に180度変えてしまおうとしているのだ。

「種は戦略物資」

 種子法と種苗法は、できた背景もその目的も全く違う。しかし、種子法の廃止と種苗法の改悪は一体の問題だ。
 出発点は2016年10月に行われた規制改革推進会議農業ワーキング・グループと未来投資会議の合同会合で、種子法廃止がはじめて提起された。その資料の中の一節には「戦略物資である種子・種苗については、国は、国家戦略・知財戦略として、民間活力を最大限に生かした開発・供給体制を構築する。そうした体制整備に資するため、地方公共団体中心のシステムで、民間の品種開発意欲を阻害している主要農作物種子法は廃止する」と書かれている。
 注目すべきは「種は戦略物資」という考え方だ。ここでもう一つ合わせて見なければならないのが2017年に施行された農業競争力強化支援法だ。これは都道府県などが開発した種の開発データを企業に提供せよ、そうすれば公的な機関と企業が平等に競争できて活性化し、もっとイノベーションが進んでいくという内容だ。
 ①種子法廃止で日本の公共種子事業をやめさせ、②農業競争力支援化法で県などがつくった種の情報を企業に譲渡させ、③種苗法改悪で自家採種は禁止する、この3点セットで種を「企業のもの」にすることが核心だ。

在来種も標的に

 今回の種苗法の改悪については、さらに2つの点を述べておきたい。
 ひとつは、農水省が「禁止するのは新しく登録される品種だけで、在来種は種苗法の対象とならず、自家増殖は守られる」としていることだ。
 たしかに、現時点では登録品種は限定的で、ただちに影響を受ける品目は多くない。
 しかし、農水省はこの間、登録品種を急拡大させているのだ。種苗法成立当初、登録品種は59種で、2016年段階でも82種だったものが、2017年に農業競争力強化支援法が施行されてから登録品種は急増し、2019年には387種になった。農水省はさらに大幅な拡大をめざしていて、自家採種には適さないF1品種の野菜も登録に向け動いているという。
 中にはほうれん草や人参など、現時点で登録品種がゼロでも品目としてはリストに加えられているものもあるのだ。
 米も新しく開発された品種はどんどん「地域ブランド」として品種登録されている。種子法廃止と農業競争力支援化法で企業の参入が進めば、米の企業支配だって起こりうる。
 「在来種は登録されない」というが、鹿児島の安納芋のように良い芋を選抜して育種し、「安納紅」「安納こがね」として品種登録された例もある。
 在来種だから大丈夫などと言ってられない状況に進むことは必定だ。

背景に国際競争

 もうひとつは、種苗法改悪の世界的な背景だ。
 農水省は「自家増殖の原則禁止は国際的な流れ」だという。背景にあるのは1961年に成立した植物の新品種に関する国際条約=UPOV(ユポフ)条約だ。「育成者権」を保護するために自家採種を原則禁じる条約で、グローバル企業の種子支配、農業支配の根拠になっている。
 実は種苗法は、UPOV条約に日本が加入するために、それまであった農産種苗法を全面改定して1978年に作られた。UPOV条約は1991年に改定され、全植物種の細胞ひとつにまで権利や特許を認めたが、種苗法も条約に合わせて改定を重ねてきたのだ。
 だが、UPOV条約に加盟していても、自家採種の原則禁止ではなく、あらかじめ例外を設けている国も多い。それに世界的な流れというなら日本も批准する植物遺伝資源条約では、農民の自家採種の権利が明記されている。2019年に国連総会で決議された「小農の権利に関する国連宣言」でも、自家採種の権利が「種子の権利」として盛り込まれている。そして種を守ろうというさまざまな取り組みや運動がある。
 種苗法改悪は、こうした世界の動きには真っ向から反し、TPPや日米貿易協定を見すえて国際競争に勝ちぬくために、とことん種の企業支配を強化しようというものだ。種苗法改悪のもくろみを広く知らせ、絶対反対の声をあげよう。
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