インバウンド・観光立国政策破産の実情 水泡に帰した「訪日客4000万人、消費8兆円」構想 成田空港は経済損失の元凶に

週刊『三里塚』02頁(1049号02面01)(2020/10/12)


インバウンド・観光立国政策破産の実情
 水泡に帰した「訪日客4000万人、消費8兆円」構想
 成田空港は経済損失の元凶に


 反対同盟が鋭く指摘しているように、成田空港の惨状は安倍政権の国家的戦略としてのインバウンド(外国人観光客誘致)・観光立国政策の破産であり、全国の観光地などにも回復しようのない混乱と被害がもたらされている。コロナさえなければそれはうまくいったのか?

観光は自動車に次ぐ輸出品

 2019年の訪日外客数は3188万人、旅行消費額は4・8兆円という巨額に達した(13年と比べいずれも3倍)。
 日本の業種別輸出額は、第1位が自動車で約12兆円。次いで半導体等電子部品が約4兆円。ここでインバウンド消費を一つの「輸出品」と考えると、その額は電子部品を完全に追い抜き、「2位」に躍り出たことになる。政権がなりふり構わずインバウンドを進めた理由がここにある。
 第2次安倍政権は、12年12月に発足するとリーマンショック(08年)、東日本大震災・福島原発事故(11年)のダメージからの脱却をかけて、直ちに観光立国推進へアクセルを踏んだ。13年9月に「20年東京五輪開催」が決まった。14年には「訪日外国人数2千万人を五輪の年に実現する」との目標をぶち上げたが、この目標は15年にほぼ達成されてしまい(1974万人)、ますます調子にのって途方もない目標を掲げる。
 「訪日外客数と旅行消費額を、20年に4千万人、8兆円に。30年には6千万人、15兆円に!」
 この数字が、安倍政権と経済界を中毒的に駆り立てた。
 「安倍内閣の発足から3年。戦略的なビザ緩和、免税制度の拡充、出入国管理体制の充実、航空ネットワークの拡大など大胆な改革に取り組み続けてきた」「観光は、まさに地方創生への切り札、GDP600兆円達成への成長戦略の柱。国を挙げて、観光を我が国の基幹産業へと成長させる」「めざせ!観光先進国」(安倍主導の「明日の日本を支える観光ビジョン」16年3月策定)
 この興奮したかけ声で、外国人を迎えるために各地方の観光地で通信・交通・宿泊・決済などの環境整備が急がされ、プロモーション活動が活発化した。成田では「空港機能強化」=第3滑走路計画に国、NAA、県、地元市町が総出でのめりこんでいく。
 そうした一切が新型コロナで水泡に帰した。

菅が率先して規制緩和推進

 菅義偉こそ、安倍政権におけるインバウンド推進の張本人だった。
 菅は官房長官就任早々、治安を理由にビザ取得要件緩和について否定的な法務省や警察庁の幹部を呼びつけ、こうすごんだ。「外国人が日本に来ると犯罪が増えると言うが、犯罪を増やさないようにするのが君たちの仕事だろう」
 菅は「観光立国推進は安倍政権の最大の成果」と触れ回り、自ら観光担当大臣然として入国の規制緩和と制度整備、観光市場拡大にいそしみ、関係業界の尻をたたいてきた。首相となった現在も、悪評が絶えないGoToトラベルやIRを厚顔無恥に推進している。
 その菅が頼るブレーンの一人が、著書「新・観光立国論」を持つ英国出身の元金融アナリストで経営者のデービッド・アトキンソンだ。「観光客という名の『短期移民』にお金を落としてもらうのが、経済成長には最も効率的」などと菅に吹き込み、中小企業をもっとつぶしていいなどと「提言」する、最悪の新自由主義者である。

新自由主義は未来を閉ざす

 インバウンド政策で「地方創生」を成し遂げようというもくろみはついえた。安倍政権が「稼ぐ自治体」を呼号し、各都道府県が観光一辺倒の「経済活性化」競争に没頭したことで、結果的に地方は傷を深めた。
 一方、農業をはじめ住民の生活と直接あるいは有機的に結合し根付いた産業と生活様式の多くが、「採算がとれない」ことを理由に切り捨てられてきた。首都圏への人口集中と地方の過疎化には歯止めがかからない。
 コロナショックによる今年の「インバウンド消費の減少額」推計値を都道府県別に見ると、1位が東京都の8689億円、2位が大阪府の5933億円。3位は千葉県で4589億円。成田空港に極度に依存した経済構造ゆえに、千葉県は巨大な痛手を被ったのだ。「空港との共生・共栄」は幻と証明された。
 そして、全世界的観光ブームが新型コロナの感染拡大を促進した。未曽有のパンデミックは、新自由主義によってもたらされた次のような条件の上に発生した。
 ①人類が未開地の奥深くまでの破壊的開拓・乱開発を進め、生態系に強く干渉したこと、②グローバリズムのもとで、高速・頻繁・大量に人と物が世界を駆け巡るようになったこと、③都市部への極端な人口集中が促進されたこと。
 もはや、航空燃料を際限なく消費し、旅行客やビジネスマンが世界を飛び回る時代は、完全に終わりを告げられた。
 資本主義の高度に発展した生産力は「既存の生産諸関係と矛盾する」(マルクス)のみならず、人類の存続にとっての阻害物にまでなりつつある。この現実を見すえ、今や資本主義の時代に終止符を打つべき時を迎えているのである。
(田宮龍一)
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