日本農業の危機にどう立ち向かうか 全国農民会議共同代表 小川浩さんの訴え 市東さんの農地を守ろう

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週刊『三里塚』02頁(1081号02面01)(2022/02/14)


日本農業の危機にどう立ち向かうか
 全国農民会議共同代表 小川浩さんの訴え
 市東さんの農地を守ろう



 全国の農民は今、農業で食べていけない、生きていけないという危機に直面し、どんどん廃業に追い込まれています。

大暴落する米価

 昨年の米価はご存じの通り2014年に続いての大暴落で、1万円を切っています。かつて安倍政権のもとで生産費が1万6千円の時に、4割生産費を下げるということが盛んに提唱された。そうすると1俵9600円です。昨年はそれを割っています。今の農政の一番の課題は、主食用米の生産をいかに減らすかになってしまっています。だから、農家がみんな一生懸命収穫しようと努力していると、それが米価の下落につながる。
 これまで「小さい農家ではやっていけない。 コスト削減、所得増のために規模拡大を進めよう」と言われて、10町歩、20町歩、30町歩に増やし、あるいは100町歩という大規模農家も出てきました。だが実際には規模拡大すれば収入が伸びるということにはまったくならず、大規模化した農家ほど今年は打撃が大きく、「この先どうしたらいいのか」という大きな危機感が広がっている。
 日本の米の民間在庫は180〜200万㌧とされ、現在それを十分満たしていると言われています。それを超えると余って処理しきれないから、どんどん値段を下げて業者も買わないということになる。
 だが200万㌧と言ったらどうですか。今何らかの理由で輸入がストップしたら、わずか3カ月で備蓄のコメは食いつくされ、皆さんはコメが食べられなくなる、そういう状況です。日本の食料自給率は今37%です。この数字によって、「日本は潜在的な飢餓国だ」という人もいます。
 農水省は飼料用米の「戦略作物の生産拡大」を明確に位置づけ、作付転換をどんどん奨励しています。農家とすれば少しでも収入を多くして農業を続けたいから、エサ米とか加工米とかへの転換をやらざるをえないし、大きい農家は7〜8割をそちらに換える。昨年は人間の食べる米よりも、牛や豚の食べる米の方が高くなりました。
 どこかおかしくありませんか。
 「米の在庫が余っている」というのなら、生活に困っている人の支援に向けたらいい。アメリカでも困窮者への食糧支援を大いにやっている。
 政府は、減反政策廃止以降、「米余り」は農家の責任だという。だが本当に米は「余っている」のか。昨今、コロナで外食産業が時短や休業をして外食用の米の消費量が減ったから米価が下がったと言われているが、外食しないからといって人は家で食べないでいるわけにはいかない。
 やはり労働者が雇い止めとか首切りに遭い、あるいは賃金が下がり収入が減って、3食十分に食べられない人が増えた、その結果米の消費量が減ったということではないでしょうか。

食の安全が危機

 日本は食料の6割以上を外国からの輸入に頼っているわけですが、食の安全性についてもっと真剣に考えなくてはなりません。
 今皆さんの食べているほとんどの食パンからは、グリホサートという除草剤・残留農薬が検出されるそうです。
 なぜかというと日本では除草剤を雑草にかけるが、アメリカでそれを刈り取り前の小麦に直接かける。収穫時に雨に降られると小麦が発芽してしまうので、先に除草剤で枯らせてから収穫する。そうすると非常に楽に刈れるというのです。だから輸入小麦を使ったほとんどの食パンからは農薬が出てくるそうです。知らないうちに食べてしまっているんです。
 これまでは「中国の食品は農薬が多くて危険だけど、日本の国産なら安全」という安全神話が通じていたかもしれませんが、今や中国はEUへの有機農生産物の最大の輸出国になっています。
 農薬に対する規制強化の流れは世界的なものになっています。日本は逆にアメリカのつごうに合わせて安全基準を緩和してどんどん輸入しており、われわれは世界一たくさんグリホサートを摂取しているのです。
 肉についても、アメリカからの要請を受けて、日本は成長ホルモンの残留基準を大幅に緩めています。
 普段知らず知らずに食べている物の安全性が脅かされているのです。

遺伝子操作と種

 ゲノム編集されたトマトが市場に出まわるようになりました。この技術を使い、血圧を下げるとされる「GABA」というアミノ酸を多く含むように品種改良したものです。ゲノム編集は「別の遺伝子を組み込むわけではないので、従来の品種改良と安全性は変わらない」とされ、届け出るだけで表示の義務はありません。だが本当に安全か。まだわからないところがあまりにも多い。
 一方、GM(遺伝子組み換え作物)については、「表示の厳格化」が進められています。どういうことかというと、今までは、意図せざるGM混入が5%未満だったら「遺伝子組み換えでない」というノンGMの任意表示ができたんですが、これを厳しくして、例えば0・1%でも混じっていたらそれを表示できなくしてしまうと(2023年4月施行)。
 すると結果的にはノンGMの努力を表す手段が奪われ、アメリカの遺伝子組み換え作物がフリーパスでどんどん入ってきて店頭に一緒に並び、消費者は何を選択していいかわからないという状況にもなることが懸念されます。
 種子法廃止、種苗法改悪で、主要作物の公的な種の開発をやめて、これまで積み重ねてきた種子や苗のいろんな知見を民間に譲れ、農家は種の自家増殖をやめろという流れになっています。
 結局、遺伝子組み換えの種と肥料、農薬をセットにして販売するような農業巨大企業が、生産から流通まで農業そのものを支配していく、そういうことが狙われているのではないか。
 ヨーロッパでは農業補助金は、農民のためだけではなく消費者のためとして出されます。日本政府はまったくそんなことをする気はなく、農家は自分でなんとかしろと。
 一方で防衛予算・軍事費は伸び続ける一方で、ステルス戦闘機F35を147機もアメリカから購入するという。維持費を含めて、6・6兆円かかると言われています。

三里塚は羅針盤

 コロナ禍のもと、あらゆる集会が自粛・中止に追いやられてきた中で、昨年11月に「日本農業の危機」をテーマにした講演会を匝瑳市で開きました。講師の東京大学・鈴木宣弘教授は『農業消滅』(平凡社新書)の著者で、農業の現状に警鐘を鳴らしています。今残っている農民がここでがんばらないと、文字通り日本の農業が消滅しかねないという事態であることを、みんなが認識し始めてきています。農民同士が個別の規模拡大や「6次産業化」で競争させられ分断されてきたけど、そういうやり方では農民は生きていけません。農民の団結というものが今こそ問われていると思います。
 新自由主義のもとで農業がどんどんつぶされていく中で、どうやったら農業を守れるのかと言えば、農民同士が連帯して農業をつぶそうとする者に対して闘う姿勢をはっきりさせる必要があるんじゃないか。
 そういう今の農業つぶし攻撃の象徴が市東さんの農地の取り上げだと思います。
 三里塚闘争56年の闘いは日本全国の農民にとっても闘いの羅針盤であり、市東さんの農地決戦は、全国の農民の尊厳のかかった闘いです。市東さんの農地は全国農民の土地であり、NAAや国家権力と闘い抜いて、絶対に守り抜かねばなりません。あらゆる機会をとらえて三里塚との連帯を追求していきます。そこにこそ今の農政を変え、労働者と共に社会を変え、農民が生きていく道があるということを訴えていきます。

(写真 除草剤グリホサート)

(写真 ゲノム編集トマト)

(写真 米国産牛肉は安全か)
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