明日も耕す 農業問題の今 「みどり戦略新法」が成立 それは有機農業なのか?

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週刊『三里塚』02頁(1087号02面04)(2022/05/09)


明日も耕す 農業問題の今
 「みどり戦略新法」が成立
 それは有機農業なのか?


 農業の環境負荷低減をうたった「みどりの食料システム戦略」を推進する新法が4月22日、可決・成立した。表向きの理念とは裏腹の、有機農業を全く別物に変えてしまうような中身と対決しなければならない。

 みどりの食料システム戦略(以下、みどり戦略)は、具体的な動きも含め随時取り上げていこうと思う。その上で、このみどり戦略を考える上で参考になった話をひとつ紹介したい。
 日本有機農業研究会の機関紙『土と健康』の1、2月合併号で、同会理事長の魚住道郎さん、同会幹事の槌田劭(たかし)さん、そして京都大学准教授の藤原辰史さんの鼎談が掲載された。「いまこそ求められる有機農業の思想」と題してまとめられた話は、興味深い内容がいくつもあった。
 『ナチス・ドイツの有機農業』という本を著している藤原さんは、有機農業をやる人は基本的に平和主義者だと思っていたと言う。そして、「人間をネズミ以下だと思っているようなやつらが有機農業に関心を持っていた、という矛盾に陥った」のだそうだ。

ナチとうり二つ

 藤原さんによれば、ナチスは健康主義的で、彼らが有機農業や健康食に関心を持つ動機は、戦争するためにドイツを二度と飢えない国にする、戦争を起こして海外から輸入のルートを遮断されてもいいように、国内の食料自給率を上げることだったというのだ。
 あれ、どこかで聞いたような……。そうだ、今の日本じゃないか。
 岸田政権は、改憲と大軍拡、自衛隊の侵略軍隊化に突き進んでいる。他方、国会ではウクライナでの戦争を奇貨として食料安全保障が盛んに論議され、今になって食料自給率の低さが取り沙汰されている。そして有機農業を広げるというみどり戦略新法の成立だ。まさにうり二つではないか。

高く売れるから

 藤原さんはさらに、「僕が絶対に許せないのは、有機農業で健康になるべきはドイツ人だけ、アーリア人種だけというナチスの考え方です」と述べている。
 ナチスの差別主義は大問題だが、みどり戦略は自国民の健康すら二の次だ。付加価値・差別化で国際競争に参入し、「輸出拡大推進に貢献」することがねらいだ。こちらの方がタチが悪い。
 槌田さんは、農薬で苦しんだ農家の経験の中から生まれた日本の有機農業が、「今は有機野菜なら高く売れるというJAS法の世界になっている、魂が失われたままに進んでいる」と言う。
 魚住さんは、「有機栽培の表示を国が規制したことが有機農業運動の芽を摘んだ」と指摘し、「生産者がもっとおおらかに自分の農産物を、有機栽培で作ったので食べてほしいと言える環境を、自分たちの手で取り戻す運動が必要だ」と主張する。一口に有機農業といっても、中身が問われる時代になった。あらためて原点に迫りたい。
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