COMMUNE 1997/08/01(No.264 p48)

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08月号 (1997年8月1日発行)No.264号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉  60年安保改定と島ぐるみ闘争

●翻訳資料1 QDR(四年ごとの戦力見直し)〔上〕 アメリカ国防省 1997年5月19日発表  松永洋訳

    全国で戦いの火ぶた

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翻訳資料

 翻訳資料

QDR(四年ごとの戦力見直し)〔上〕

  松永洋訳

アメリカ国防省 1997年5月19日発表

【解説】

 六月八日、米日帝国主義は、新ガイドライン作成作業の中間報告を発表した(本誌4n参照)。これは、米日帝国主義の朝鮮侵略戦争の作戦協定である。日帝は、海外で大戦争を行う戦争国家への総改造を、ついに開始した。
  これを米帝側から見れば、第二次大戦での激突に勝利して以来、再び日帝を米帝に対する挑戦者とさせないように巨大な歯止めをかけてきた政策(緊張・矛盾をはらみながらも相互補完してきた、戦後憲法と日米安保条約を柱とする政策)を事実上、ついに転換したことを意味する。米帝は、日帝が朝鮮侵略戦争への参戦を通じて戦争国家化し、米帝への軍事的対抗勢力となっても、その日帝を軍事的に粉砕すればよいという戦略を立場に立った。
  新ガイドライン中間報告に先立って提出されたQDRは、この意図をあからさまに示している。
  QDRは、短期的には、二つの“MTW”(「大規模戦域戦争」)にいつでも突入できる即応力を保つことを宣言している。九三年の「ボトム・アップ・レビュー」という報告書では、「例えば、〔中東〕湾岸地域と朝鮮半島で、他の地域であるかもしれない」と見え透いてはいるが、それなりにベールをかけていたのに、今回のQDRでは、直線的に「湾岸と朝鮮半島」と名指ししている。しかも、「大規模地域紛争」という名称であったものが、今度は露骨に「大規模戦域戦争」とされている。朝鮮侵略戦争を、いよいよ開戦しようとしているのである。
  そしてQDRは、中期的(現在から二〇一五年)には、地域的に米軍に対抗しうる強国の台頭、長期的(二〇一五年以降)には、米軍と世界的レベルで肩を並べるライバルが出現する可能性があるという。これは、両方とも、日帝(および独帝)のことである。(米帝の九五年のナイ・レポートでは、「地域的ヘゲモニーの台頭」と言っていたのが、QDRでは、さらにエスカレートさせて、「世界的なライバル」とされている)
  その見通しに立って、この将来の挑戦者と戦って勝つ高度な軍事力を、準備するために、高度技術にもとづく新兵器システムの開発・生産・購入、部隊編成の合理化を今から開始すべきだという。
  この現在の即応体制の維持および実際のMTWへの突入と将来の軍事力のための大投資の両方を同時平行的に行うということが、QDRの核心である。これは世界帝国としてしか延命できない米帝にとって、それ以外にない選択である。だが、米帝の経済危機・財政危機は、あまりにも深刻であり、この両方を実行することは、財政負担が重すぎる。
  そこで、即応体制の維持、特に海外への米軍の駐留の費用、そしてMTWおよびそれ以外の小規模侵略戦争の戦費を同盟国に負担させ、米帝の財政負担を軽減し、その分を将来の軍事力のための投資に回すという。
  将来の対日戦向けの技術革新投資の資金を作るために、現在の米軍の維持費と戦費をできるかぎり日帝に負担させるのである。
  日帝は、それを承知で、戦争国家化という未曾有の困難を越え、将来の米帝との激突の準備をしようとしている。
  双方とも、危機に瀕した帝国主義の必死の延命策動であり、それが凶暴な朝鮮侵略戦争への突進を生み出しているのである。
  侵略戦争、帝国主義間戦争をする以外には延命できない帝国主義は、労働者階級の力で打倒するしかない。闘う朝鮮−アジアの人民と連帯し、侵略を内乱に転化しよう。世界革命を勝ち取ろう。
【〔 〕内は訳者の補足】

……………………………………

 ●T.QDRの企画、アプローチおよび執行

 QDRは、冷戦終結後の四回目の包括的なわが軍の見直しである。QDRは、九一年のベース・フォース・レビュー〔基礎戦力見直し〕、九三年のボトム・アップ・レビュー、九五年のCORM〔軍の任務と役割に関する委員会〕の経験の上に立っている。…
  国防省は、一九九七年から二〇一五年までのアメリカの防衛に必要なもの・・潜在的脅威、戦略、部隊編成、即応体制、軍近代化計画、防衛インフラ、および防衛計画の他の諸要素・・を根底的、包括的に検討してQDRを作った。戦略を基礎にした、バランスのとれた、そして実現可能な防衛計画の青写真とするために、QDRが作られたのである。…

 ●U.世界の安全保障の環境

第一に、われわれはさまざまな地域的脅威に直面している。
もっとも重大なものは、決定的な地域における合州国の同盟国および友好国にたいする、大きな軍事力をもった敵対国による脅迫、大規模な国境を越えた侵略である。南西アジアでは、今もイラク・イラン両国が、近隣諸国への脅威であり、また、その地域からの石油の自由な搬出への脅威となっている。石油へのアクセスは、予見しうる将来にわたって、米国にとって国家的必要条件でる。中東では、この地域における公正かつ持続的な和平とイスラエルの安全保障がもたらされるまでは、紛争の火種は残るであろう。
東アジアでは、朝鮮半島の分断が続いている。北朝鮮は、攻撃的軍事力を南朝鮮との境界にそって前方展開しつづけている。経済はますます悲惨な状況で、これが巨大な圧力になっている。これらの結果、北朝鮮は、きわめて予見しがたい脅威を与えつづけている。この地域の別の所では、主権問題といくつかの領土問題が、今も紛争の潜在的原因となっている。
現在から二〇一五年の間に、一つ以上の野心的な地域強国が、米国の利益に軍事的に挑戦する意志と手段を持つに至るという想定は、現実的なものである。
そのうえ、場合によっては、崩壊した国家、あるいは崩壊しつつある国家が、米国が死活的ないし重要な利害を持っている地域で、不安定や内紛、人道的危機を起こしかねない。ソマリアや旧ユーゴスラビア、あるいは現在のアルバニアやザイールのように、政府が公安を維持し、また自国人民の需要を満たす能力を失い、騒乱と飢餓、国外への大量難民を発生させ、またそれが、近隣諸国の侵略的行動や大量虐殺を発生させることになる場合がある。
第二に、国際社会が最善をつくして努力しても、国家が機密情報の流通をコントロールすること、また軍事的にあるいはテロリズムに利用できる先進技術の拡散を規制することはますます困難になってきている。…
特に懸念されることは、核・生物・化学(NBC)兵器とその運搬手段〔ミサイル・爆撃機等〕、情報戦争能力、先進通常兵器、ステルス技術、無人飛翔体、ならびに宇宙へのアクセス能力および宇宙へのアクセスを妨害する能力の拡散である。NBC拡散の傾向は特に旧ソ連で大変な問題になっている…。中東では、先進技術の拡散で、イランなどのならず者国家が地域の安全保障を脅かす高度な手段を入手しており、東アジアでは、拡散は、領土対立がはいびこっているこの地域の微妙なバランスを脅かしている…
  第三に、…〔ここは、在外アメリカ人の安全が脅かされていることを述べている〕
  第四に、冷戦期に比べて、われわれは格段に安全になったとはいえ、米本土が外部の脅威から自由になったわけではない。他の諸国の戦略核兵器の脅威に加えて、大陸間弾道弾および大量破壊兵器がさらに拡散する可能性もある。さらに、他のテロリズム等々の非通常攻撃が、わが国の外交官や軍隊や在外民間アメリカ人だけでなく、将来は国内のアメリカ人も脅かすようになっていくであろう。そして、情報戦争(わが国のインフラストラクチャーへの、コンピュータによる情報ネットワークを通じた攻撃)の脅威が、増大している。
  通常戦の土俵では米国が圧倒的であるため、敵は、わが国の海外部隊や権益、国内のアメリカ人にたいする非対称的手段による攻撃を行うようになっている。…
  潜在的敵対者に対して米国がすでに大差をつけており、また能力を増大させている領域(例えば、宇宙にある施設、指揮・統制・通信およびコンピュータ、情報・監視および偵察)でも、われわれが攻撃に備えておないならば、潜在的敵対者につけこまれる固有の弱点(例えば、商業通信へのわが国の依存を狙われること)がありうるのである。このような非対称的な挑戦への対処は、防衛戦略の重要な要素でなければならない…
  現在から二〇一五年までの期間の安全保障環境の特徴は、ソ連が冷戦期に行ったような、米軍にたいする世界的な軍事的挑戦をなしうる“〔米軍と〕同等の世界的競争相手”が現れない可能性が高いことであろう。しかも、米国の軍事的潜在力が紛争地域に全面的に動員・展開された時に、その米軍に勝利しうる通常軍事力を集結させうる地域的な強国あるいはその連合が、この十〜十五年では出現しそうもない。米国は、現在、世界唯一の超大国であり、一九九七〜二〇一五年の期間を通じて、そうあり続けるであろう。
  〔しかし〕二〇一五年以降は、地域大国または〔米国と〕同等な世界的競争相手が台頭しうる。ロシアと中国がこうした競争相手になる潜在力を持っていると見なす者もいる。だがしかし、両国の未来は、きわめて不確実である。
  ロシアの未来は、経済発展の能力いかんによってほぼ決まるであろう。その経済発展は、政治状況の安定にかかっている。ロシアは、新たな民主的諸機構を作りだし、米国は、ロシアとの間で、政治・経済・安全保障の領域で、協力関係を築く多大な努力を行い、多くの場合、それに成功をおさめてきた。ロシアのNATOとの合意は、ロシアを欧州の大きな安全保障構造の中に統合していく一助になっていく。…さらなる縮小・再編をはじめとした大きな変革を行わないかぎり、ロシア軍の危機深刻化のプロセスは止まらない。ロシアは、研究・開発計画に力を入れており、戦略核能力の近代化とその継続的作戦効率を最優先している。しかしながら、多くの兵器システムを生産に移すには、経済復興の成功がなくてならない。
  中国は、アジアにおける大軍事強国になる潜在力をもっている。米国は、中国への関与を継続し、両国の利害が一致する分野での協力を推進し、中国が地域の安定に寄与し、国際社会の責任ある一員として活動するよう働きかけていく。おそらく中国は、経済インフラなどの開発、近代的市場経済と全体主義的政治システムの間の緊張などの国内的難題に今後も直面し、それが軍の近代化を遅らせていくことになるであろう。しかも、中国が軍を近代化し、その投入能力を高めようとすれば、秘密にはできず、この地域の他の諸国の懸念をまき起こすであろう。
  最後に指摘しておけば、こうした安全保障環境の予測は、二つの基本的な想定の上に立っているということである。一つは、米国が次の十五〜二十年間政治的・軍事的に世界に関与しつづけること、あと一つは、それによって、米国が現在と将来のライバルよりも軍事的に優位に立ちつづけるということである。…

 ●V.防衛戦略

 …

 ◆米国の安全保障戦略の鍵となる概念

 …

 米国は、単独で行動する能力を保持するが、連合作戦を重視する戦略は、世界におけるわが国の国益を貫くために欠かせない。世界において、わが国は、他の国と協調して、わが国にとって好ましい国際条件を作りだし、わが国の基本的目標を確保せねばならないことが多い。実際、わが国が直面している諸課題は、共同の、多国籍的なアプローチによって、志向を共有する諸国の間で責任の負担を分け合うことができる。… 強力な軍の維持と、国益および共通の利益を守るためにそれを行使する意欲は、二十一世紀を間近にしたわが国の関与戦略にとって、不可欠なものである。今日、米国は、並ぶ者のない軍事力を持っている。われわれは、国境を遠く離れて、大規模で効果的な統合軍事作戦を実施できる、世界で唯一の国民である。このことによって、われわれは類のない地位に立っているのである。わが国は、大規模な地域的脅威に効果的な軍事的対処を組織しうる、世界唯一の強国であり、多くの相互利益のための同盟と安保協力の要石であり、世界の鍵となる諸地域の安定の基礎となっている。この指導的地位の保持のためには、即応力があり、柔軟で、大規模侵略の抑止と撃破から小規模有事への参加やテロリズムなどの非対称的脅威への対処にいたる広範な軍事行動と作戦を遂行する能力を持つ部隊を維持する必要がある。
  しかしながら、米国のさまざまな国益からいっても、限られた資金からいっても、軍を使用する場の精選が大切であることは明らかである。米軍の第一の目的は、米国に対する組織的暴力の脅迫を抑止し、打ち破ることである。軍隊を使用するか否か、いつ使用するかの決定は、何よりもまずそれぞれの場合に脅かされている米国の国益・・死活的な国益、重要な国益、人道的性格の国益等々・・いかんによって、またその場合の軍事行動の利益の費用や危険との釣り合いいかんによって、行わねばならない。死活的国益にかかわる時には、つまり、その国益が米国の存続、安全保障、活力に広範な影響を及ぼし、最優先されるべき重要性を有している時には、それを守るために必要なことは何でも行うべきである。必要なら、単独でも軍事力を行使する。
  米国の死活的な国益とは、まず次のことであるが、それらに限定されるものではない。
◇米国の主権、領土、住民の護持および米国へのNBC攻撃やテロリズムを含む脅威の阻止と抑止
  ◇敵対的な地域的連合や覇権国の台頭の防止
  ◇公海の自由航行権、国際海上・航空・宇宙交通の安保の確保
  ◇決定的な市場・エネルギー生産・戦略資源への自由なアクセスの確保
  ◇米国の同盟国・友好国への侵略の抑止および必要な場合のその撃破
  他の場合には、かかっている利益は、重要ではあっても死活的ではない。つまり、それは、国の福利や国をとりまく世界の状況には大きく影響するが、国の存続には影響しない。このような場合には、軍の使用が米国の利益を拡大する場合にのみ、また目標達成の確率が高い場合にのみ、そして、他の手段では目標達成に不十分である場合にのみ、軍を使用すべきである。このような力の行使は、当該の国益の重要度に応じて、精選してなされるべきである。
かかっている利害の性格が、主要に人道的なものである時には、一般に、米軍は、危機対処の最善の手段ではない。しかし、ある状況の下では、米軍にしかない能力が必要であり、また適切である。たとえば、人道上の破局が、文民救援機関の能力をはるかに越える場合、あるいは、緊急援助の必要性が切迫している場合である。こうしたケースでは、米軍の支援を決定した時は、米軍部隊の負う危険性を最小限とし、米軍の実質的な参加を、広範な国際的支援が軌道に乗るまでの、初期的な支援に限定するようにすべきである。
米軍の関与が考慮されるあらゆるケースにおいて、費用と危険が米国の利害と釣り合っているかどうかの計算を、決断の中心とすべきである。また、このような決断は、派兵される軍は何を任務とするか、最終的にどんな情勢を作り出すべきか、撤兵するための戦略をどうするのかを、明確化したうえで行わねばならない。

 ◆防衛戦略

 この国家安全保障戦略を支えるために、米軍と国防省ができなければならないことは、米国の利害にかなうように国際的安全保障環境の形成を助けること、指示があればあらゆる種類の危機に対処すること、不確実な将来の挑戦に打ち勝つために今から準備することである。この三つの要素・・形成、対応〔応戦〕、準備・・が、現在から二〇一五年にいたる米国の防衛戦略の核心である。(つづく)