COMMUNE 1998/01/01(No.269 p48)

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1月号 (1998年1月1日発行)No269号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉  日米争闘戦と新安保

●翻訳資料 日米防衛新指針 共同発表文 安保協議委員会 森下渉訳

 

    盛大に草茅姫祭り

三里塚ドキュメント(10月) 内外情勢(10月) 日誌(9月)

羅針盤 沖縄圧殺との闘い

  沖縄・辺野古の海上へリポート基地建設をめぐる闘いは、新安保ガイドライン決戦の最初の激突点である。朝鮮侵略戦争のための戦争マニュアルであり、日帝・自衛隊の参戦協定である新安保ガイドラインは、同時に沖縄基地の永久化、侵略最前線基地化の攻撃である。沖縄闘争圧殺=新安保ガイドライン貫徹なのだ。日帝・橋本は「米への施設の提供(海上へリ基地の建設のことだ)に日本の国家の存立がかかっている」と語った。まさに普天間基地代替へリポートの建設がうまくいかなければ日米安保は破たんする。新安保ガイドラインはその最初の段階でとん挫することになる。日帝は背水の陣でこの攻撃を仕掛け沖縄に対する差別政策を貫こうとしている。新安保との闘いの成否をかけて海上ヘリ基地を粉砕することが必要だ。
 海上ヘリ基地建設問題の行方は当面、十二月二十一日の名護市民投票の帰すうにかかっている。十一月五日に久間防衛庁長官が沖縄に行って提示した海上ヘリ基地の基本案は、何の根拠も示さず自然環境への影響はほとんどないとごまかし、一方で経済効果は大きい、と利益誘導して海上ヘリ基地受け入れを迫っている。これは市民投票を「環境対策や経済効果が期待されるので賛成」に誘導する目的で提示されたものだ。侵略戦争のための最新鋭基地を(七二年「復帰」後初めてだ)建設するという重大な攻撃を、自然は破壊されないなどのデマと買収、政府を挙げた地元切り崩しで押し通そうとしているのだ。「復帰」後二十五年は祝うべきものであるどころか、今こそ七二年「返還」政策に根底的な拒否をたたきつける時なのだ。
 十月末の世界同時株価暴落は一九八七年のブラックマンデー以来の衝撃を全世界に与えた。現代帝国主義の末期的危機が一九三〇年代を上回る巨大な規模で深まっていることを示している。帝国主義世界経済の長期大不況の一層の深刻化と帝国主義間争闘戦の激化が爆発過程に向かっているのだ。米帝はドル危機の爆発の恐怖の中で一層日帝に攻撃を集中せざるを得ない。日帝の歴史的没落は不可避だ。こうして各国帝国主義は、生き残りのために一切の矛盾を労働者階級に犠牲転嫁し、他帝国主義と利害の衝突を激化させ、侵略戦争、帝国主義間戦争に向かって突進する。〈戦争と大失業の時代〉がまさに現実のものとなってきているのである。したがって、それは闘わなければ生きていけない労働者階級の階級的反撃の時でもあるのだ。
 連合は「安保は抑止力」と、新安保ガイドラインと朝鮮侵略戦争に翼賛し、現代の産業報国会に向かっている。ファシスト・カクマルは、この連合路線の先を走っている。カクマルは、新ガイドラインに反対しないことを日帝に誓約し、第三次安保・沖縄闘争に敵対している。辺野古海上へリ基地問題についても、「住民投票ナンセンス」と名護住民の闘いに敵対している。また、日本共産党スターリン主義は、ますます祖国擁護主義を深めている。日共が新安保ガイドラインに「反対」する理由は「アメリカの始める戦争に自動的に参戦する仕組みだから」ということに尽きる。しかし、これは日米帝国主義間の激しい争闘戦に対して、日帝の立場を擁護し応援するものでしかなく、闘争の方向を侵略戦争反対から反米愛国主義にねじ曲げるものだ。第三次安保・沖縄闘争の発展のためにはこうした反革命勢力との闘いが不可欠だ。  (た)

 

 

翻訳資料

 日米防衛新指針全文/共同発表文

 森下渉訳 

【解説】

 新聞各紙に発表された新ガイドラインの政府訳と、英語原文の正確な訳との相違点を以下に解説する。なお、参考資料として、同日に出された日米安保協の共同発表文も後ろに訳出してある。
 六月に発表されたガイドラン見直し中間報告の政府訳と比べて、今回の訳文で目立つ点は、軍事的用語が居直り的に使われていることである。
 中間報告の発表は、「公衆の討議は尽くされた」という形式を作るものでしかなかったから、できるだけ真意を隠したあいまいな用語が多用された。だが、今回の最終報告は、今後の日本人民の戦争への動員の根拠となる文章である。したがって、人民に何をさせるのかを、かなり露骨に明らかにしている点も多いのである。

●「死傷病者」/「傷病者」
(正しい訳/政府訳の順)

 この用語の原文は、casualtiesカジュアルティーズである。これは米国防省発行の軍事用語辞典で戦争での「死者+負傷者+病人」のことだと定義している。中学生用の初歩の英語辞典にさえ「死傷者」だと書いてある。
 戦争では負傷や病気だけではすまない。政府訳では、戦死者が隠されている。

●「衛生」/「衛生」

 W 2(3)(X) の「衛生」の原文は、medical servicesメディカル・サービシズである。同じ語が、中間報告では「医療」と訳されていた。
 「医療」は、医師や看護スタッフが主体であり、野戦病院や後方の病院での活動が中心となる。「衛生」では、衛生兵が大きな役割を果たす。衛生兵は、砲弾飛び交う前線で戦死者や負傷者を捜し出し、野戦病院まで運搬する。
 日帝は、訳語を「衛生」と改めて、自衛隊衛生部隊及び民間人の最前線派兵を居直り的に打ち出したのである。

●「主たる責任をとる」「開始する」/「主体的に」

 政府訳では、七カ所にもわたって繰り返し「( 日本・自衛隊は) 主体的に〜する」という訳語を使っている。
 初めの五カ所は、Wの2にある。これの原文は、have primary responsibility ハブ プライマリー リスポンシビリティーである。プライマリーは「第一次的な」あるいは「主な」、リスポンシビリティーは「責任」であって、ここは本来「主として責任をとる (持つ) 」「第一次的に責任をとる」と訳す以外ない。政府訳も、ほかでは、そのように訳している。「避難民が日本の領域に流入してくる場合…主として日本が責任をもってこれに対応し、米国は適切な支援」〔X2(1)(イ) 〕。その他三カ所、primarily プライマリリーという語を「主として」と訳している。プライマリリー は、形容詞を副詞の形にしただけで、意味内容は同じである。政府訳自体、「主として」が当たり前の訳だと告白したのである。
 また「日米両国政府が各々主体的に行う活動…」〔X2(1) 〕 (別表の左上の欄も同じ) という政府訳文言の原文は、activities initiated by either government アクティビティーズ イニシエイテッド バイ イーザー ガバメントである。イニシエイトは「始める」であって、ここは本来「いずれかの政府によって開始される活動」と訳す以外ない。
 「主体的」という語を以上の七カ所に押し込んだのは、日帝の強烈な意志表示である。自衛隊が独自の軍事行動をする主体だと宣言し、その国民的認知を要求するために、強引きわまる゛誤訳”が行われたのだ。

 ●「連絡将校」/「連絡員」

 Y 2の第二段落の政府訳「連絡員」の原文は、liaison officersリエゾン・オフィサーズである。「連絡将校」以外の何物でもない。「連絡員」は、軍事色を薄めるためのごまかしだ。リエゾン・オフィサーは文官ではありえない。また単なる使い走りでもない。
 ●「情報及び諜報」/「情報」  
 原文は、information and intelligenceインフォメーション・アンド・インテリジェンスである。インテリジェンスとは、米国防省の軍事用語辞典によれば、「@外国又は外地に関して得られる情報(インフォメーション) を収集、処理、統合、分析、評価、及び解釈した生産物、A観察、調査、分析又は識別を通じて得られた情報と知識」である。
つまり、「諜報」は「情報」に含まれるが、「情報」とイコールではない。たとえば、味方の部隊が、自分たちが今どこで何をしているかを司令部に報告することは「情報通信活動」であるが「諜報活動」ではない。
 なお米帝CIAの゛I”もインテリジェンスの略である。敵国や国内階級闘争に対するスパイ活動や分析活動は、「諜報」である。

 ●「情報の共有」/「情報の交換」

 原文はinformation sharing インフォメーション・シェアリング。実際には、すでに以前から、自衛隊と米軍の間では、情報共有が行われている。つまり、レーダーなどで情報を得た後に時間をかけて相手方にわざわざ情報伝達するのではなく、同じ情報が、瞬時に、自衛隊にも米軍にも伝送されるシステムになっているのである。あらかじめ゛共有”しているのである。
 最終報告で新たに加えられた個所〔W 2(ニ)〕では、「共有した情報」と訳されている。

 ●「平時」/「平素」

 normal circumstancesノーマル・サーカムスタンシズは、すなおに訳せば、「平時」。「平時」という言葉は、「戦時」とセットになった言葉なので、政府訳は「平時」を避けたのである。(中間報告も同じ)

 ●「二国間」/「日米共同」「共同」等

 bilateral バイラテラルは、unilateralユニラテラル(一国・一方的)、multilateralマルチラテラル(多国間)の反対語である。外交用語としては、普通「二国間」という意味である。契約などの用語としては「双務的」という意味で使われる。
 新ガイドラインでは、「二国間」の意味で主要に使われつつ、「双務的」という意味も含ませている。
 バイラテラルは、単なる「共同」ではない。゛多国間とは違う”ということが、米帝の側から何度もクギをさされているのである。国連・NATO・ASEAN地域フォーラムなどの多国間関係とは異質のものだということである。(一七〜一八n参照)
 もう一つの意味、「双務的」とは、これまでの「片務的」と言われた日米安保条約を実質上全面的に転換し、自衛隊も海外での戦闘を行うということである。

 ●「作戦」/「運用」「作戦」

 中間報告では、operation オペレーションを「運用」と訳していた。だが、最終報告の政府訳では、「作戦」と「運用」が交じっている。
 中間報告から受け継いだ項目では「運用」とされていて、最終報告に新たに加えられた項目では、ほとんどが「作戦」とされている。たとえば、W2(1)(イ) の「整合のとれた共同の作戦」、同(2) の「作戦構想」等々である。
 日帝は、新ガイドラインを人民にペテン的に飲ませる段階から、正面から「作戦」=戦争の必要性を人民に宣伝し、戦争に動員する段階へと移りつつある。

 ●「即応(即応態勢)」/「準備」「即応態勢」

 これに対応する原文は、readiness レディネスである。レディネスとは、個々の武器についていう場合には、たとえば大砲であれば、砲弾が込められ、照準が標的を捕らえており、「撃て」の号令でいつでも砲撃できる態勢を指す。部隊についていう場合には、休暇や訓練などで外出していた将兵が帰隊し、修理に出していた装備が隊に戻り、これから定期点検に出す装備はそれを延期し、いつでも戦闘に出発できる態勢を指す。
 これを、即応性の程度で区分したものが「即応段階」である。
 中間報告では、すべて「準備段階」と訳されていたが、最終報告で新たに加えられた所では、「即応」と訳されている。ここでも、「作戦」の訳語と同様、正面突破がはかられている。

 ●「兵站支援」/「後方支援」

 logistic supportロジスティック・サポートは、「兵站支援」である。「兵站」とは戦争用物資・人員の輸送・補給・整備・医療のことである(死傷者の輸送+医療=衛生も含まれる)。つまり、砲弾飛び交う最前線まで物資・人員を輸送するのである。政府訳は、後方だけでの活動という印象を与えるペテンである。
 なお、政府訳V第三段落の「日米物品役務相互提供協定」は、本来「日米兵站支援物品役務相互提供協定」と訳すべきである。「兵站」を隠しただけでなく、そのペテン的言い換え=「後方支援」さえ抹消している。

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     日米防衛協力の指針

     9月23日 日米安保協議委員会

 T 指針の目的

 この指針の目的は、平時から、並びに日本に対する武力攻撃の場合及び日本周辺諸地域事態に際して、いっそう効果的かつ威信ある日米協力を行うための堅固な基礎をつくることである。また指針は平時からの、及び有事における両国の役割及び任務並びに協力及び調整の方法について、全般的な枠組み及び政策の方向を示す。

 U 基本前提及び原則

 指針及びその下で行われる取り組みは、以下の基本前提及び原則に従う。
1 日米安全保障条約及びその関連取り決めに基づく権利及び義務、並びに日米同盟の基本的枠組みは、変更されない。
2 日本は、その憲法の制約の範囲内で、また専守防衛、非核三原則等の日本の基本的立場に従って、そのすべての行為をなす。
3 日米のすべての行為は、紛争の平和的解決及び主権平等をはじめとする国際法の基本原則、並びに関連する国際合意、たとえば国際連合憲章などに合致するものとする。
4 指針及びその下での取り組みは、いずれの政府にも立法上、予算上又は行政上の措置を義務づけるものではない。しかしながら、二国間〔双務的〕協力のための効果的な枠組みの構築が指針及びその下での取り組みの目標であることから、両政府がみずからの判断にもとづき、これらの活動の結果を、それぞれの具体的な政策や措置に適切な形で反映することが期待される。日本のすべての行為は、その時々の現行法令に合致するものとする。

 V 平時からの協力

 両政府は、現在の日米安全保障の取り決めを堅く守っていく。また、各々必要な防衛態勢の維持に努める。日本は、「防衛計画の大綱」にのっとり、自衛のために必要な範囲内で防衛力を所持する。米国は、そのコミットメント〔約束〕を守るため、核抑止力、アジア太平洋地域における前方展開兵力を維持し、かつ、来援しうる他の兵力を保持する。
 両政府は、各々の政策に基づき、日本の防衛及びいっそう安定した国際安全保障環境の構築のため、平時から密接な協力を維持する。
 両政府は、平時から様々な分野での協力を強化する。この協力には、日米兵站支援物品役務相互提供協定及び日米相互防衛援助協定、並びにこれらの関連取り決めに基づく相互支援活動などが含まれる。

1 情報共有及び政策協議

 両国政府は、正確な情報及び的確な分析が安全保障の基礎であると認識し、アジア太平洋地域の情勢を中心にして、双方が利害を有する国際情勢についての意見の交換並びに情報及び諜報の共有を拡大する。また両国は、防衛政策及び軍事態勢についての緊密な協議を継続する。
 このような情報共有及び政策協議は、できるかぎり多様なレベルで、最大限に広範な対象分野について行われる。これは、SCC〔日米安全保障協議委員会〕及び日米安全保障高級事務レベル協議(SSC)などのあらゆる機会をとらえて遂行される。

2 安全保障協力の様々なタイプ

 安全保障面での地域的な諸活動及び地球規模の諸活動を進めるための二国間協力は、いっそう安定した国際的な安全保障環境の構築に寄与する。
 両政府は、この地域における安全保障対話・防衛交流及び国際的な軍備管理・軍縮の重要性と意義を認識し、これらの活動を促進するとともに必要に応じて協力する。
 日米いずれかの政府又は両国政府が国際連合平和維持活動又は人道的な国際救援活動に参加する場合には、両者は必要に応じて、相互支援のために密接に協力する。両国政府は、輸送、衛生、情報共有、教育訓練などの分野の協力の要領を準備する。
 大規模災害の発生を受け、日米いずれかの政府又は両国政府が、関係政府又は国際機関の要請に応じて緊急援助活動を行う場合には、両政府は、必要に応じて密接に協力する。

3 二国間の取り組み

 両政府は、日本に対する武力攻撃に際しての二国間防衛計画の立案及び日本周辺諸地域事態に際しての相互協力計画の立案をはじめとする二国間作業を行う。こうした作業は、双方の関係機関が参加した包括的メカニズムの中で行われ、二国間協力の基礎を構築する。
 この共同作業を検証するとともに、自衛隊及び米軍をはじめとする両国の公的機関及び民間の機関の円滑かつ効果的な対応を可能とするため、二国間演習・訓練が強化される。また、両国政府は、関係機関が参加する、有事に運用される二国間調整メカニズムを平時から構築しておく。

  W  日本に対する武力攻撃 への対処行動

 日本に対する武力攻撃に際しての二国間行動は、日米防衛協力の中核的要素である。
 日本に対する武力攻撃が差し迫っている場合には、両政府は、事態の重大化を予防するための措置をとるとともに、日本の防衛のために必要な準備を行う。日本に対する武力攻撃がなされた場合には、両政府は、適切な二国間行動を行い、極力早期にこれを撃退する。

1 日本に対する武力攻撃が差し迫っている場合

 両政府は、情報及び諜報の共有、並びに政策協議を強化するとともに、二国間調整メカニズムの運用を早期に開始する。両政府は、適切に協力しつつ、合意によって選定された即応段階に従い、整合のとれた対応を確保するために必要な準備を行う。日本は、米軍の来援基盤を構築し、維持する。また、両国政府は、情勢の変化に応じ、諜報収集及び監視を強化するとともに、日本に対する武力攻撃に発展し得る行為に対応するための準備を行う。
 両政府は、事態の重大化を予防するため、外交努力などのあらゆる努力を払う。
 日本周辺諸地域事態が日本への武力攻撃に発展しかねないと認識したとき、両政府は、二つの要件、すなわち日本防衛のための準備及び日本周辺諸地域事態への対応又はその準備、の間の密接な相互関係に留意する。

2 日本に対する武力攻撃がなされた場合

(1) 整合のとれた二国間行動の原則
 (イ) 日本は、日本に対する武力攻撃に即応して行動し、極力早期にこれを撃退する主たる責任をとる。米国は、日本に対して適切な支援を行う。このような二国間協力は、武力攻撃の規模、タイプ、局面の推移、その他の要素により異なりうる。この協力は、整合のとれた二国間作戦の準備及び実施、事態のいっそうの重大化を予防するための措置、監視及び諜報共有などとなり得る。
 (ロ) 二国間作戦においては、自衛隊及び米軍は、各々の防衛力を整合性をもって、適時かつ効果的な方法で使用する。その際、双方は、各々の陸・海・空部隊の効果的な統合作戦を遂行する。自衛隊が主として日本の領域及びその周辺の海域・空域で防衛作戦を行い、米軍は、自衛隊の作戦を支援する。米軍は、また、自衛隊の能力を補完する作戦を実施する。
 (ハ) 米国は、兵力を適時に来援させ、日本は、その兵力の展開をしやすくするための基盤を構築し、維持する。
(2) 作戦構想
 (イ) 日本に対する航空攻撃を迎撃するための作戦
 自衛隊及び米軍は、日本に対する航空攻撃を迎撃するための作戦を二国間で実施する。
 自衛隊が、防空のための作戦の実施に主たる責任をとる。
 米軍は、自衛隊の作戦を支援するとともに、打撃力の使用を伴う作戦などを実施して自衛隊の能力を補完する。
 (ロ) 日本周辺海域の防衛及び海上交通の保護のための作戦
 自衛隊及び米軍は、日本周辺海域の防衛及び海上交通の保護のための作戦を二国間で実施する。
 自衛隊が、日本の主要な港湾及び海峡の防衛、周辺海域における船舶の保護並びにその他の作戦に主たる責任をとる。
 米軍は、自衛隊の作戦を支援するとともに、機動力と打撃力を付加する作戦などを実施して自衛隊の能力を補完する。
 (ハ) 日本に対する着上陸侵攻を撃退するための作戦
 自衛隊及び米軍は、日本に対する着上陸侵攻を撃退するための作戦を二国間で実施する。
 自衛隊が、日本に対する着上陸侵攻を阻止し撃退する作戦の遂行に主たる責任を取る。
 米軍は、主として自衛隊の能力を補完する作戦を実施する。米国は、侵攻の規模、タイプ、その他の要素に応じ、極力早期に兵力を来援させ、自衛隊の作戦を支援する。
 (ニ) その他の脅威への対応
(i) 自衛隊が、ゲリラ・コマンドウ攻撃等、日本領域に軍事力を浸透させて行う非正規型の攻撃を極力早期に阻止し撃退することに主たる責任をとる。自衛隊は、関係機関と密接に協力し調整するとともに、事態に応じて米軍の適切な支援を得る。
(ii) 自衛隊及び米軍は、密接に協力し調整して、弾道ミサイル攻撃に対応する。米軍は、日本に必要な諜報を提供するとともに、必要に応じ、打撃力を付加する部隊の使用を考慮する。
(3)作戦のための諸活動及び作戦に必要な事項
 (イ) 指揮及び調整
 自衛隊及び米軍は、緊密に協力し、各々の指揮系統に従って行動する。効果的な二国間作戦を実施するため、役割分担の決定、作戦の整合性の確保等についての手続きをあらかじめ定めておく。
 (ロ) 二国間調整メカニズム
 両国の関係機関の間の必要な調整は、二国間の調整メカニズムを通じて行われる。効果的な二国間作戦を実施するため、自衛隊及び米軍は作戦、諜報活動、兵站支援を、二国間調整所の使用をはじめとするこの調整メカニズムを通じて、緊密に調整する。
 (ハ) 通信電子活動
 両政府は、通信電子能力の効果的な活用を確保するため、相互に支援する。
 (ニ) 諜報活動
 両政府は、効果的な二国間作戦を実施するため、諜報活動について協力する。これには、諜報活動の成果の要求、収集、処理及び配付などについての調整が含まれる。各々の政府は、共有した諜報の保全に責任を負う。
 (ホ) 兵站支援活動
 自衛隊及び米軍は適切な二国間の取り決めに従って、効率的かつ適切に兵站支援活動を実施する。
 兵站の効率性を向上させ、かつ能力不足を軽減するために、両政府は、中央政府及び地方公共団体の権限及び能力並びに民間部門の能力を適切に利用しつつ、相互支援活動を実施する。その際、特に次の事項に配慮する。
(i) 補給
 米国は、米国製の装備等の補給品の取得を支援し、日本は、日本国内における補給品の取得を支援する。
(ii) 輸送
 両政府は、補給品の米国から日本への航空輸送及び海上輸送等の輸送作戦について、緊密に協力する。
(iii) 整備
 日本は、日本国内において米軍の装備品の整備を支援し、米国は、米国製の品目の整備で日本の能力が及ばないものについて支援を行う。整備支援には、必要に応じ、整備要員の技術指導も含める。日本は、サルベージ及び回収についての米軍の需要についても支援する。
(iiii) 施設
 日本は、必要に応じ、日米安全保障条約及びその関連取り決めに従って新たな施設・区域を提供する。効果的かつ効率的な作戦のために必要な場合には、自衛隊及び米軍は、同条約及びその関連取り決めに従って、自衛隊の施設及び米軍の施設・区域の統合使用を実施する。
(iiiii) 衛生
 両政府は、衛生の分野で、死傷病者の治療及び後送等の相互支援を行う。

 X 日本周辺諸地域における事態で日本の平和と安全に重要な影響がある時の協力

 日本周辺諸地域事態は日本の平和と安全に重要な影響を与える。日本周辺諸地域事態という概念は、地理的概念ではなく、事態の概念である。両政府は、日本周辺諸地域事態が発生することのないよう、外交努力などのあらゆる努力を行う。両政府は、個々の事態の状況について共通の認識に到達した場合に、各々の行う活動を効果的に調整する。なお日本周辺諸地域事態に対応する際にとられる措置は、情勢に応じて異なり得る。

1 日本周辺諸地域事態が予想される場合

 日本周辺諸地域事態が予想される場合には、両政府は、その事態について共通の認識に到達するための努力をはじめとして、情報及び諜報の共有並びに政策協議を強化する。
 同時に、両政府は、事態の重大化を予防するため、外交努力などのあらゆる努力を行うとともに、二国間調整所の活用を含め、二国間調整メカニズムの運用を早期に開始する。
 また両政府は、適切に協力しつつ、合意によって選択された即応段階に従い、整合性ある対応を確保するために必要な準備を行う。また情勢の変化に応じて、諜報収集、監視を強化するとともに、情勢に対応するための両国の即応態勢を強化する。

2 日本周辺諸地域事態への対応

 日本周辺諸地域事態への対応に際しては、両政府は、事態の重大化の予防のためのものを含む適切な措置をとる。これは、前掲Uの基本前提及び原則に従い、かつ、各々の決定に基づいて行われる。両政府は、適切な取り決めに従い、必要に応じて相互支援を行う。
 協力の対象となる機能及び分野並びに協力項目例は以下に整理し、別表に示すとおりである。
(1) いずれかの政府が開始する活動における協力
 いずれの政府も以下の活動を各自の裁量の下に実施することができるとはいえ、二国間協力はその実効性を高めることとなる。
(イ)救援活動及び難民の取り扱いのための措置
 各々の政府は、被災地の現地当局の同意と協力を得つつ、救援活動を行う。両政府は、各々の能力を勘案しつつ、必要に応じて協力する。
 両政府は、難民の取り扱いについて必要に応じて協力する。難民が日本の領域に流入してくる場合については、日本がその対応の在り方を決定するとともに、主として日本が責任をもってこれに対応し、米国は適切な支援を行う。
(ロ) 捜索・救難
 両政府は、捜索・救難作戦で協力する。日本は日本領域及び戦闘作戦が行われている地域と区別される日本周囲の海域で捜索・救難作戦を実施する。米国は、米軍が作戦を遂行している際には、作戦区域及びその付近での捜索・救難作戦を実施する。
(ハ)非戦闘員を退避させるための作戦
 日本国民又は米国国民である非戦闘員を第三国から安全な地域に退避させる必要が生じる場合には、それぞれの政府は、自国の国民の退避及び現地当局との関係について各々責任を有する。
 両政府は、各々が適切であると判断する場合、各々の有する能力を相互補完的に使用しつつ、輸送手段の確保、輸送及び施設の使用に係わるものを始めとして、非戦闘員の退避計画に際して調整し、またその実施に際して協力する。日本国民又は米国国民以外の非戦闘員について同様の必要が生じる場合には、それぞれの国が、各々の基準に従って、第三国の国民に対して退避に係わる援助を行うことを検討することもある。
(ニ)国際的な平和と安定の維持を目的とする経済制裁の実効性を確保するための活動
 両政府は、国際的な平和と安定の維持を目的とする経済制裁の実効性を確保するための活動に対し、各々の基準に従って寄与する。
 また両政府は、各々の能力を勘案しつつ、適切に協力する。そのような協力には、情報共有、及び国際連合安全保障理事会決議に基づく船舶の臨検に際しての協力が含まれる。
(2) 米軍の活動に対する日本の支援
(イ)施設の使用
 日米安全保障条約及びその関連取り決めに基づき、日本は、必要に応じ、新たな施設・区域の提供を適時かつ適切に行うとともに、米軍による自衛隊施設及び民間空港・港湾の一時的使用を保証する。
(ロ)後方地域支援
 日本は、日米安全保障条約の目的の達成のため作戦を行う米軍に対して後方地域支援を提供する。この後方地域支援の主目的は、米軍が施設の使用及び種々の作戦を効果的に行うことを可能にすることである。日本による後方地域支援はその性格上、主として日本の領域において提供されるが、戦闘作戦が行われている地域とは区別される日本周囲の公海及び国際空005域において提供されることもある。
 後方地域支援を行うにあたって、日本は中央政府及び地方公共団体が有する権限及び資産・能力並びに民間が有する資産・能力を適切に使用する。自衛隊は、日本の防衛及び公共の秩序維持のための任務の遂行と整合を図りつつ、適切にこのような支援を行う。
(3) 日米作戦協力
 日本周辺諸地域事態が、日本の平和と安全保障に重要な影響を及ぼすとき、自衛隊は、生命・財産の保護及び航行の安全確保のために、情報収集、監視、機雷除去等の活動を行う。米軍は日本周辺諸地域事態により影響を受けた平和と安全保障の回復のための作戦を行う。
 関係機関が参加した協力及び調整により、自衛隊及び米軍の双方の活動の実効性は大きく高められる。
    Y 指針の下で行われる効果的な防衛協力のための二国間の取り組み
 指針の下での二国間協力を効果的に進めるためには、平時、日本に対する武力攻撃、及び日本周辺諸地域事態という安全保障上の種々の状況を通じ、日米が協議を行うことが必要である。二国間防衛協力が確実に成果を上げていくためには、双方が様々なレベルにおいて十分な情報を受けつつ、調整を行うことが不可欠である。このため両政府は、SCC〔日米安保協議委員会〕及びSSC〔日米安保高級事務レベル協議〕等のあらゆる機会をとらえて情報及び諜報の共有並びに政策協議を充実させていくほか、協議の促進、政策調整及び作戦機能の調整のための以下の二つのメカニズムを構築する。
 第一に、両政府は、二国間計画の立案、並びに共通の基準及び実施要領の確立のため、包括的メカニズムを構築する。これには、自衛隊及び米軍のみならず、各々の政府のその他の関係機関が参加する。
 両政府は、この包括的メカニズムを必要に応じて改善する。日米安保協議委員会は、このメカニズムの行う作業に政策的方向を示す上で引き続き重要な役割をはたす。日米安保協議委員会は、方針を提示し、作業の進捗を確認し、必要に応じて指示を出す責任をとる。防衛協力小委員会は、二国間作業において、日米安保協議委員会を補佐する。 
 第二に、両政府は有事に各々の活動の調整が行えるように、両国の関係機関を含む二国間調整メカニズムを平時に構築しておく。
1 計画立案並びに共通の基準及び実施要領の確立のための二国間作業
 双方の関係機関が参加する包括的メカニズムにおいては、以下に掲げる二国間作業を計画的かつ効率的に進める。これらの作業の進捗及び結果は節目節目に日米安保協議委員会及び防衛協力小委員会に対して報告される。
(1) 二国間防衛計画の立案及び相互協力計画の立案
 自衛隊及び米軍は、日本に対する武力攻撃に際して整合のとれた行動を円滑かつ効果的に実施し得るよう、平時から共同防衛計画を立案する。両政府は、日本周辺諸地域事態に円滑かつ効果的に対応し得るよう、平時から相互協力計画を立案する。
 共同防衛計画の立案及び相互協力計画の立案は、種々の状況を想定しつつ行われ、その結果が両政府の計画に適切に反映されることを期待される。両政府は、実際の状況に照らして、各々の計画を調整する。両政府は、共同防衛計画の立案と相互協力計画の立案との間の一貫性を図るよう留意することにより、日本周辺諸地域事態が日本に対する武力攻撃に波及する可能性のある場合又は両者が同時に生起する場合に適切に対応しうるようにする。
(2) 準備のための共通の基準の確立 
 両政府は、日本の防衛のための準備に関し、共通の基準を平時において確立する。この基準は、各々の即応段階における諜報活動、部隊の活動、移動、兵站支援などの事項を明らかにする。日本に対する武力攻撃が差し迫っている場合には、両政府の合意により共通の即応段階が選定され、これが自衛隊、米軍その他の関係機関による日本の防衛のための準備のレベルに反映される。
 同様に、両政府は、日本周辺諸地域事態における協力措置の準備に関しても、互いの合意により共通の即応態勢を選定し得るよう、共通の基準を確立する。
(3) 共通の実施要領の確立
 両政府は、日本の防衛のための整合のとれた作戦を円滑かつ効果的に実施できるよう、共通の実施要領をあらかじめ準備しておく。これは、通信・標的位置情報の送信・諜報活動及び兵站支援並びに同士討ち防止のための要領などである。また、共通の実施要領には各々の部隊の作戦を適切に律するための基準もある。自衛隊及び米軍は、情報電子活動等に関する相互運用性の重要性を考慮し、相互に必要な事項をあらかじめ定めておく。
2 二国間調整メカニズム
 両政府は、両国の関係機関が参加して、二国間調整メカニズムを平時から構築し、日本に対する武力攻撃及び日本周辺諸地域事態に際して各々が行う活動の調整を行う。
 調整の要領は、調整すべき事項及び参加する関係機関に応じて異なる。調整の要領には調整会議の開催、連絡将校の相互派遣及び連絡窓口の指定が含まれる。自衛隊及び米軍は、この調整メカニズムの一環として、双方の活動を調整するため、必要なハードウエア及びソフトウエアを備えた二国間調整所を平時から準備しておく。

 Y 指針の適時かつ適切な見直し

 日米安全保障関係に関連する諸情勢に変化が生じ、その時の状況に照らして必要と判断される場合には、両政府は、適時かつ適切な形でこの指針を見直す。(おわり)

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 共同発表文

 9月23日日米安保協議委員会

1 マドレーン・オルブライト国務長官、ウィリアム・コーエン国防長官、小渕恵三外務大臣、久間章生防衛庁長官は、一九九七年九月二十三日ニューヨークで安全保障協議委員会(SCC)を開催し、日米防衛協力の指針(ガイドラン)の見直し、沖縄問題及び地域的安全保障問題をはじめとした、二国間のさまざまな重要な関心事について討議した。
2 この会合は、ガイドライン見直しの完遂という極めて重要な一里塚となった。一九七八年以来ガイドラインは、アジア太平洋地域の平和・繁栄・安全保障の維持に寄与してきている六〇年の日米安全保障条約にもとづいた歴史的な二国間同盟の強化に役立ってきた。
3 この二国は、一九九六年四月十七日の日米安全保障共同宣言において、冷戦後の安全保障の新たな課題に対処するために、さらに同盟を強化することを合意した。新ガイドラインの目的は、一九七八年のガイドラインの目的と同一である。すなわち、平時からの、そして有事における日米防衛協力に全般的枠組みと政策的方向を示すことである。
4 SCCは、新ガイドラインの下で、直ちに二国間の作業を開始することに合意し、次のことを取り決めた。
 ――包括的立案メカニズム〔訳注〕の設置は決定的に重要である
 ――防衛協力小委員会(SDC)は、二国間防衛計画の立案及び相互協力計画の立案のための基礎的作業を速やかに完遂しなければならない
 ――日本防衛庁運用局長をSDCの構成員にする
 ――両国は、新ガイドラインの下で協力するにあたって、情報共有及び政策協議を強化する。
5 ガイドライン見直し〔過程〕を通じて、また一般原則として、両国は日米同盟についての透明性の維持のために尽力してきた。透明性の約束は固く守られてきたし、今後も守られる。
6 両国は、沖縄に関する特別行動委員会(SACO)最終報告の実施についても討議した。最終報告は、沖縄の人々に対する米軍の駐留の重荷を軽減するため、沖縄における米軍の施設・区域の再編成・統合・削減、及び在沖米軍の活動方法の調整の計画・措置を述べている。SACO〔実施〕過程のカギとなる要素は、普天間空港の移転である。SCCは、この移転に関連する諸問題に取り組んだ。そして両国は、最終報告の着実な実施を保障する約束を守っていく。
7 両国は、弾道ミサイル防衛(BMD)の重要性について討議し、二国間の研究の継続を確認した。また両国は、二国間関係の中で重要な要素である接受国支援についても討議した。
8 米国と日本は、この地域の安全保障状況についての意見を交換した。両国は朝鮮半島に関する諸問題を討議した。この地域の安定と繁栄のためには、中国が前向きで建設的な役割を果たすことが極めて重要であるという見解で、両国は一致した。またこの脈絡の中で、両国が中国との協力を推進することに引き続き利害を有していることを強調した。
9 SCCの共同作業の成功に踏まえ、SCCは一九九七年とそれ以降のさまざまな共通の安全保障問題に取り組んでいく決意を再確認した。それらは、次の諸問題などである。
 ――各々の政府によりまた二国間作業を通じて練り上げられた措置及び適切な政策による新ガイドラインの推進
 ――普天間空港の移転を始めとするSACO最終報告の着実な実施を保証するための緊密な協議の継続
 ――互いに関心を有している国際的安全保障問題についての緊密な協議の継続
10 最後に、米国と日本は、二国間同盟が地域的安全保障を強化し続けることで合意し、また日米安全保障共同宣言で略述された新世紀の課題に取り組むためにこの重要な関係を強化することを誓約した。       (おわり)

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〔訳注〕ガイドライン本文にある「包括的メカニズム」と同じ。