2008年4月 7日

司法改革粉砕/裁判員制度はいらない 対談 武内更一弁護士×森川文人弁護士

週刊『前進』08頁(2338号7面1)(2008/04/07)

司法改革粉砕/裁判員制度はいらない
 日弁連を改憲阻止の砦に
 対談 武内更一弁護士×森川文人弁護士
 武内 新自由主義を全社会的に貫く攻撃
 森川 弁護士激増・司法改革・改憲と闘う

 新自由主義攻撃に対する弁護士の反乱が始まっている。2月の日弁連(日本弁護士連合会)会長選挙で、司法改革絶対反対派の高山俊吉弁護士が得票率43%で、勝利にあと一歩に迫った。来年5月に実施が計画されている裁判員制度を前にして、日弁連は真っ二つ。日帝の新自由主義政策の柱である司法改革攻撃は大破綻(はたん)に直面している。弁護士の闘いは、4大産別の労働者階級の闘いに並ぶ階級攻防の最前線に躍り出た。司法改革・裁判員制度粉砕、日弁連を改憲阻止の砦(とりで)に――その最先頭で闘い、3・16イラク反戦全世界一斉デモをともに取り組んだ武内更一弁護士と森川文人弁護士が闘う意気込みを語った。(聞き手・編集局)

 第1章 絶対反対派を会長選で結集

 ――日弁連会長選挙は予想を上回る大善戦でした。
 武内 多くの弁護士がこのままではダメだと思い、投票という行動に現してくれた。相手候補の宮崎氏の9402票は中身がスカスカです。とにかく会派や人的つながりで入れている人たち。こっちの7043票は、みんな司法改革路線は間違いだと確信をもった人たち。密度が何倍も違う。
 私たちの運動は、選挙をやって数字を示すのが目的ではありません。弁護士会の中で司法改革路線と改憲に反対する勢力をきちんと作っていくことが大目標です。選挙もその運動のひとつです。私たちは2年後の選挙なんて今、全然考えていません。今、何をなすべきかです。集まった力をさらに前にむけて、今の日弁連の路線を打ち倒していかなければいけないと思っています。
 森川 票差が迫っているだけに当日はとにかく悔しかった。しかし、これほど運動が拡大したのは、若い力が出てきたからです。
 ――何を掲げて闘いましたか。
 武内 一つは弁護士の激増政策反対です。以前は年間約500人だった司法試験合格者を2010年までに3000人出すという政府の計画です。弁護士が弁護士事務所に就職できなくなります。また政府、国家権力は弁護士を経済的窮状に追い込み、弁護士を力のあるものに従属させることを狙っている。弁護士は自ら仕事をして生活基盤を築いています。だからこそ、誰からも強制、誘導されないで、自らの信念で活動することができます。それを奪うことが権力の狙いです。二つ目は、裁判員制度反対。三つ目は、弁護活動を抑圧する刑事裁判制度全体の改悪反対。最後は、改憲反対です。国民投票法ができ、まさに改憲が秒読みに入っています。日弁連こそが反対して立ち上がらなければいけない。大きくこの4本のテーマを対立点として訴えてきました。

 第1節 原則貫き展望開く

 森川 「増員反対は大きな声になってきているから改憲問題や裁判員制度をはずせば勝てるぞ」という声がありました。けれども改憲も弁護士増員も裁判員制度も、司法改革における新自由主義攻撃の一環で、根っこは一緒の問題です。だから、4本のテーマを一体で訴え原則的に闘って「勝った」意義は大きい。そういう意味で「めざす会(憲法と人権の日弁連をめざす会)はボルシェビキだ」(3・16イラク反戦集会での森川さんの発言)と。
 武内 新聞報道で増員問題について法務省は考え始めたとか、両候補とも一致するとか、あたかも対立点がないかのようにみせる攻撃があった。本当は違うんだけど。もし増員問題だけで勝負していたら、かなり票を奪われていた可能性がありました。私たちは、司法改革の本当の狙いは改憲と対決する日弁連を解体することだと確信を持っていたから、それをストレートに訴えました。
 ――若手弁護士の奮闘が大きかったと聞きました。
 森川 弁護士は、研修所を出て仕事しようという時に、大抵はどこかの弁護士事務所に入ります。けれども今、どこの事務所も新人を取る余裕がなくなってきている。昔だったら、事務所で就職させてちゃんと給料もある程度払うんだけど、今は給料は払わないが軒だけ貸すよという意味での「ノキ弁」が増えている。仕方なく自宅で開業する自宅弁護士という意味で「タク弁」もいる。
 弁護士就職難の中、無理やり就職して、自分の肌とあわなくて二カ月ぐらいで辞めている弁護士が大量にいるみたいだ。カップラーメンをすすって親から仕送りしてもらっている話も聞きますね。
 武内 法科大学院を出た段階で生活費の部分も含めれば、すでに数百万円から一千万円借金を負うという人も出る。最初から借金漬けの新人弁護士がたくさん生まれる。弁護士か破産者か。弁護士になったって生活が成り立つわけではない。今年は日弁連の計算でも、就職できない人が1350人もいる。「年間200万円なら払えるよ。それでもよければ来てもいい」という弁護士事務所も出てきている。
 森川 まさに新自由主義の攻撃だよ。弁護士の怒りの根源には、弁護士をめぐる今言った就職を含めての経済状況、さらには世の中全体の経済状況にあります。世の中、こんなに景気が悪くなって、賃金が9年連続下がり、年収200万円以下が一千万人を超えているというのに、なんで弁護士だけ未来があり得るんだと。政府が司法改革を始める時、仕事の増加が前提になっていた。それが今はまったく展望ない。

 第2節 3・16のように

 武内 今回の選挙では、若手の弁護士10年以下の人たちを意識して、いろいろな宣伝媒体も作ったし、メッセージも送りました。
 森川 イラストや漫画を多用して、若いアイデアを集めていろいろ工夫もしながらやった成果がでた。本音はあなたたちに若手の結集方法を聞きたい。3・16は、発言も運営も若い人が中心を担っていることがとてもすばらしい。若い力によって人を獲得する可能性がすごくある。早く3・16のような状況を作りたい。
 武内 青年労働者の集会・デモは、思っていることを思いっきり訴えるところが非常にいい。それが人の心を本当にとらえていくと思うし、権力にとっても本当に恐怖なのでしょう。

 第2章 労働者民衆と一体となって

 ――司法改革とはどういったものですか。
 森川 司法改革は、政府の方から押しつけてきた改革の一連のシリーズ。まさに新自由主義政策の司法版だと思います。
 「国民のための司法」をキャッチフレーズに、法曹人口の増員、裁判の迅速化が掲げられ、そのためにロースクールを設置し、裁判員制度を導入した。
 武内 司法改革の目的は、新自由主義を全社会的に貫徹することです。2001年6月12日発表の司法制度改革審議会の意見書に書いてある。そこでは政治改革、行政改革、経済構造改革、その「最後の要としての司法改革」という言い方をしています。規制緩和、民営化などの構造改革を実現していくための「最後の要」が司法の役割とされているのです。司法というのは強制力だからです。
 新自由主義というのは経済問題だけではなく、支配体制の転換です。資本主義経済が行き詰まる中、大企業、国家権力の支配力を圧倒的に強化していく。究極は改憲です。軍事力を行使する支配体制に変えていくための準備です。

 第1節 日弁連解体が狙い

 森川 だから改憲と対決する日弁連を解体することが政府の狙い。弁護士を国家権力の手先にしていく攻撃です。さらに市場経済の民事的な分野で、法的サービス業としての弁護士に落とし込むことも狙われています。
 武内 「良好なビジネス環境」を作るための司法とか言ってね。
 森川 『ルポ貧困大国アメリカ』(堤未果著・岩波新書)の医療現場の話と同じ。市場経済の中にたたき込んではいけない命を預かる医者と同じように、人権を扱う弁護士もそこにたたき込み、闘いの牙をもごうとしている。
 新自由主義は、三権分立の理念をもぬぐい去って、司法が完全に現実の権力をむきだしにしていくものですね。

 第2節 分断のりこえ団結

 武内 そもそも三権分立はフィクションだからね。いかにも権力がバラバラに分かれたように説明するが、違う。もともとは一個の国家権力を役割分担させているにすぎません。三権分立も民主主義も階級社会の現実を露見させないための国家権力、支配者側のオブラートだよね。それがばれたら彼らは大変なことになる。人民が直接行動に出るからね。
 森川 それがもうむきだしじゃないと資本側がもたないというのが新自由主義の現実だし、司法でもそれを貫いてしまおうということ。階級社会の現実を露呈させることがまさに革命ですね。
 武内 弁護士は、三権分立の理念を大義名分に、逆に司法を私たちのものにしようと努力しています。しかし、国家権力、支配者側は、増員反対は弁護士のエゴだとして民衆と弁護士を分断し、人権を奪い、民衆を戦争に動員しようとしている。私たちは人民とともにそれを阻止していきたい。そうしなければ体制が維持できないのならば、その体制のあり方自体が間違いだと言わなければいけない時期がきていると思います。
 森川 われわれの闘いは、労働者民衆の闘いと同じです。分断を打ち破って、団結しかつ業界的にも孤立させられないよう民衆と一体となってやっていきたい。

 第3章 4・18集会は"日弁連総会"

 ――裁判員制度の来年5月実施が計画されています。
 武内 裁判員制度が適用される対象事件は刑法などの法律上に刑罰として死刑、無期が入っているような重大犯罪です。裁判官3人、裁判員6人の合計9人で合議をし、犯罪事実の認定と量刑の決定を多数決で下します。
 裁判員は、有権者名簿から無作為にくじ引きで選ばれます。特定の事件が起きると裁判員候補者名簿から50人~100人がさらにくじ引きで選ばれ、質問状と通知が送付され裁判所へ呼び出されます。私たちはそれを「赤紙」「召集令状」と呼んでいます。そこから裁判官、検事、弁護士が6人を選び出し、即日裁判を始めます。
 被告の立場からすれば、「公平な裁判を受ける権利」が奪われます。審理期間は約3日間の超短期間。弁明を行い反証する機会が大幅に削減されてしまう。「疑わしきは罰せず」という近代司法原理にも反します。9人中無罪を主張する人が4人いても、多数決のため有罪になってしまうからです。

 第1節 戦時司法への転換

 裁判員は、人を裁き刑罰を加えるという国家作用に強制的に協力させられます。司法への「参加」などではなく上からの「動員」です。国民主権の制度だと言われていますが、権利だったら例えば選挙の投票を棄権するように放棄することができるが、裁判員は辞退することもできない。しかも、必ず有罪か無罪か意見を言わせられる。そのうえ審議の内容を口外すれば懲罰を受ける。また、裁判を始める前に行われる公判前整理手続きで裁判官が証拠選別を全部行った上での裁判だから、裁判官がいくらでも結論を誘導できます。圧倒的に情報格差がある。こんなの「国民の司法参加」でも何でもない。裁く側の都合に合わせた「迅速、重罰、簡易」の処罰を断行する制度です。
 森川 陪審制ともまったく異なります。陪審制は裁判官ぬきで陪審員だけで事実認定し、かつ多数決じゃなくて原則全員一致です。
 「迅速、重罰、簡易」こそ戦時司法の基本的特徴です。民衆を統治行為に動員し国家権力と一体化させ、治安、支配体制を強化していく。隣組みたいに。戦時司法への転換が狙いです。
 ――裁判員制度粉砕の展望を。
 武内 アンケートでは、今もって7、8割の人がやりたくないと回答します。
 森川 みんな嫌がっている。それをそのまま大きな声にすれば、動員できない。裁判員ゼネストですね。
 武内 知れば知るほど嫌になる制度だから、制度の問題点を知ってもらうことで「やらない」という人が確実に増えると思います。
 森川 4・18には弁護士激増・裁判員制度・改憲と対決する弁護士の大結集・団結のため、「われわれの日弁連総会」ともいうべき集会をやります。司法改革の問題自体を大きな社会問題にして、新自由主義攻撃の一環としてまさに労働者大衆と一緒に闘いたい。みんな来て下さい。そして特に若い弁護士の声を聞いてほしいと思います。
 武内 さらに「裁判員制度はいらない!大運動」が呼びかける6月13日、日比谷公会堂で行う裁判員制度反対の「2000人全国集会」に大集合していただきたい。4・18集会をそのステップにしていきたい。反対の声を集めればこの制度は必ずつぶれます。
 ――闘う労働者民衆に一言。
 武内 団結は力だ!
 森川 「社会の諸矛盾を暴き出す、それが社会を変える革命だ」という点では、司法の世界も同じ状態にあるから、ともにがんばりましょう。団結!
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たけうち・こういち
 高校生の時に日本国憲法を実践する仕事につきたいと弁護士を志す。在日外国人の指紋押捺拒否の弁護団で活躍。国家賠償訴訟や行政訴訟の住民側弁護も担当。労働法関係にも詳しい。
もりかわ・ふみと
 横浜事件や横田基地の公害訴訟などの弁護を担当。10・17法大クラス討論弾圧の弁護団。学生時代からバンドに明け暮れ、現在もライブ活動を続けている。父は故森川金寿弁護士。
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 4・18弁護士・市民大集会
4月18日(金) 午後6時から午後9時
弁護士会館(東京)2階クレオ(千代田区霞が関1-1-3)
◆「選挙の勢いを日弁連の再生につなげる」
高山俊吉(東京弁護士会)
斎藤貴男さん(ジャーナリスト)
新藤宗幸さん(千葉大学教授・行政学)
 若手弁護士の発言/ビデオ上映ほか
 主催/憲法と人権の日弁連をめざす会