2008年11月 3日

大恐慌の唯一の出口は世界革命だ 実体経済に波及し大不況へ 島崎 光晴

週刊『前進』08頁(2366号4面1)(2008/11/03)

大恐慌の唯一の出口は世界革命だ
 29年大恐慌にもなかった 全世界覆う信用収縮
 実体経済に波及し大不況へ
 島崎 光晴

 9月15日の米大手証券リーマン・ブラザーズの破綻を機に、世界金融大恐慌は本格的爆発の真っただ中にある。29年大恐慌の時にも起きなかった世界的な信用収縮によって、世界の株価が暴落を繰り返している。全帝国主義国が銀行への公的資金の投入策に踏み切ったが、なんの効果もない。しかも、米欧日だけでなく中国・アジアも含めて世界中で実体経済が急降下しはじめた。日本帝国主義は、輸出激減と円高、株価暴落で最も深刻な打撃を受けつつある。今や帝国主義の全問題、特に70年代以来の帝国主義の延命策の全矛盾が、29年をも上回る大恐慌となって爆発しつつある。破産した新自由主義に代わるものなどない。ついに世界革命の時がやってきたのだ。

 第1章 リーマン破綻で株価が暴落 輸出の激減で大打撃の日帝

 労働者を搾取しつづけてきた資本主義が、今や音をたてて崩れている。この期に及んでも資本家階級とブルジョア・マスコミは、「恐慌」とは呼ばない。恐慌や大恐慌と言うと、資本主義の是非が全労働者の問題となるからだ。しかし、これが大恐慌でなくて何か!
 リーマン・ブラザーズの破綻は、世界金融大恐慌を本格的に爆発させる画期となった。リーマン・ブラザーズの創設は1850年で、29年大恐慌でも生き残ってきた巨大独占企業だ。このような大手の金融機関の破綻は世界史上初めてである。「リーマンだけでなく他の金融機関も米住宅ローン関連の巨額損失を抱えている」「他の金融機関も危ない」という疑心暗鬼が一挙に全世界に広がった。リーマン破綻を機に、金融機関同士の貸し渋りが全世界の金融市場に及んだ。米国内だけでなく世界中で銀行間取引がほぼ停止してしまったのだ。これほどの信用収縮は29年大恐慌の時も含めて例がない。
 10月に入ると、この世界的な信用収縮で、米国だけでなく欧州やアジアの巨大金融機関が資金繰り難で次々破綻しかねない状態となった。特に欧州の大銀行は、米国の住宅ローンを証券化した商品を多量に保有しており、その損失が巨額に上っている。また、イギリスやスペインなどは自身の住宅バブルが崩壊し、その損失も抱える。
 一方、国際金融市場の資産残高に占める欧州の銀行の比率は約73%にも上り、米・日よりもダントツに大きい。それほどの位置を持つ欧州の大銀行が、リーマン破綻後の信用収縮で破綻しかねない状況に入った。これはもう、狭い意味での〈世界金融恐慌>だ。29年大恐慌の際は欧州金融恐慌によってドイツなどの大銀行が破綻したが、今回のような世界金融恐慌はなかった。

 第1節 公的資金投入も効果はなく

 うろたえる帝国主義国はこれに対し一斉に、銀行に対する公的資金の大々的な投入策に転じた。10月8日の英政府を始めとして欧州諸国が相次いで、銀行の国有化、公的資金による金融機関への資本注入、銀行間取引への政府保証などを決めた。銀行間取引が凍りついているものだから、政府が保証をつけてなんとか取引を再開させようというのだ。欧州主要国の公的資金枠と政府保証の総額は約268兆円にも及ぶ。
 一方、米帝は10月初めに金融救済法を成立させ、金融機関の不良資産を買い取ることを決めた。最大7000億㌦の枠のうち、まず2500億㌦を拠出することとした。07年夏以後に投入を決めた公的資金の総額は1兆3640億㌦(約140兆円)にも達した。ところが、それでも株価暴落は収まらず、10月半ばにブッシュ政権は、銀行への資本注入策に踏み切った。金融機関が持っている証券化商品などの不良資産を公的に買い取るだけでなく、金融機関の自己資本不足を救済するために公的資金で資本注入するというものだ。直接には金融機関の株式を公的資金で買い取る。日本で98年、99年に行われた公的資金投入と同じやり方である。
 ところが、こうした公的資金の投入策でも株価の暴落は食い止められていない。効果がそれほどないからだ。米住宅価格はピークからまだ2割強しか下がっておらず、今後も延々と下落していく(図参照)。住宅価格下落→住宅ローンの焦げつき拡大→住宅ローン関連の証券化商品の損失(不良資産化)と住宅ローン自体の不良債権化、という流れが果てしなく続いていく。公的資金で処理しても、次々と新しい不良資産・不良債権が発生する。それでも米帝が公的資金を投入しつづけるというのであれば、米財政赤字をますます膨張させ、ドル大暴落を早めるだけだ。

 第2節 GMとトヨタが最大危機に

 さらに10月になって、米欧日だけでなく中国などBRICs諸国も含め、実体経済が急激に下降していることが明らかになった。この実体経済の下降こそ、世界金融大恐慌の本体だ。そして、実体経済の急降下が、世界的な株価暴落に拍車をかけている。
 米経済の9月の鉱工業生産は前月比2・8%低下し、74年12月以来の落ち込みとなった。74〜75年恐慌の時以来の急激な生産低下が始まったのだ。特に9月の米新車販売台数(年率換算)は前年比350万台も減少。日本のバブル崩壊では約20年間で250万台の減少だったのに比べ、急激な減少だ。GMの株価は暴落し、時価総額は10月半ばに27億㌦弱と29年当時の40億㌦を下回った。GMは来年には手元資金の枯渇で破産する可能性が強い。GEも利益の大半を金融業に依存しており、手元資金が危うい。
 米銀最大手のシティグループだけでなく、米資本主義を代表するGM、GEも経営破綻に突入しつつある。これが資本主義の、帝国主義の終わりでなくて何か! 資本家どもは「大変な経済危機だけど、それでもなんとかなる」と労働者をたぶらかそうとする。シティ、GM、GEがつぶれて「なんとかなる」わけがないではないか! 労働者階級が団結して権力を握るしかないのだ。
 現に日本経済も急降下している。8月の鉱工業生産は前月比3・5%の低下で、ITバブル崩壊後の01年1月以来の低下幅となった。日本経済の頼みの綱だった輸出が減少しているからだ。輸出減少・生産低下により、製造業では在庫が増え、設備が過剰になりはじめた。設備投資の先行指標とされる機械受注は、7〜9月期に10年ぶりの2ケタ減少となる見込み。さらに、4〜6月期の企業の経常利益は前年同期比10・5%と4半期連続でマイナスとなった。
 つまり、輸出減少→在庫増→生産低下→設備過剰化→利益減少、となっている。恐慌や不況の大元は、資本が過剰になることだ。具体的には〈生産能力の過剰を伴った生産物の過剰による利潤率の低落>である。日本経済はまさにこの過剰資本状態に入った。
 特に深刻なのは、利益の6割を北米市場に依存してきたトヨタだ。今後、米国での自動車販売の激減により、GMとともにトヨタも吹っ飛んでいく。自動車を頂点にした産業構造の日本経済全体も総崩れとなる。トヨタがダメになれば、日本の大企業すべてがダメになるのだ。
 こうした実体経済の急降下により、日本の株価は10月27日に7162円にまで暴落、バブル崩壊後の最安値を下回った。実に82年10月以来、26年ぶりの低水準に落ちこんだ。また、投資家が資金を引き揚げて円にする動きが加速し、円高が急進展している。この株安と急激な円高によって、日本の大手金融機関は株式含み損に転落したため、一挙に貸し渋りを強めている。企業も建設や不動産投資信託を始めとして破綻が増えはじめた。
 そして自動車・精密機械など輸出産業で、派遣社員−非正規雇用の切り捨てが急増している。「生きさせろ」のゼネストが切実に求められる情勢が、刻々と煮詰まっているのだ。
 さらに、世界的な信用収縮と実体経済の急降下のもとで、アイスランド、ハンガリー、ウクライナ、パキスタンなどが資金流出によって国家破綻に陥りはじめた。世界金融大恐慌はついに国家破綻の局面に入ったのだ。破綻した資本主義国家に対し労働者階級が団結して国家権力を奪うしかない、そういう時がやってきているのだ。

 第2章 70年代以来の全矛盾が爆発 サブプライム危機の重大性

 資本家どもは労働者に対し、「経済危機はそのうち回復する。だから今まで以上に資本家に従え」と言う。何を言っているんだ! 回復などあるものか! 29年大恐慌がそうだったように、世界金融大恐慌は20〜30%もの大失業を引き起こしながら、帝国主義が打倒されない限り続いていく。資本主義にそのような回復力などない。プロレタリア革命以外に出口はない。
 今の世界金融大恐慌の核心は何か。米住宅バブルは史上最大のバブルだった。米住宅ローン総額は10・6兆㌦(約1000兆円)にも及ぶ。しかも、返済のあてのないサブプライムローンが膨れあがり、住宅ローンの証券化商品が世界中にばらまかれた。サブプライムローンが組み込まれた証券化商品は約1兆㌦。それほど巨額で異様な借金が返せなくなり、貸し手である金融機関がパンク、経済全体が総崩れしはじめたのだ。いや、住宅ローンだけでなく、商業用不動産ローン、企業買収ローン、クレジットローンなどがすべてバブル化していた。
 しかも米帝だけではなく欧州も中国も、つまり世界中がバブル化していた。資本主義国14カ国の住宅資産の時価総額は計60兆㌦で、うち約20兆㌦(約2000兆円)が過大評価との試算もある(表参照)。20兆㌦は世界のGDPの3分の1に相当する。そのバブルがすべて吹っ飛びつつある。
 なぜこれほどバブル化したのか。もともと70年代初めから半ばまでで、帝国主義経済は終わっていた。74〜75年世界恐慌で世界経済は過剰資本状態、長期不況に陥った。製造業でのモノ作りは行きづまった。その後30年以上も、資本家階級はモノ作りではなく金融面での投資、投機によって生き延びてきた。カネの自己増殖で利益をかすめ取る、という腐り切った延命でしかなかった。
 そうした金融投機に湯水のようにマネーを供給する背景となったのが、71年の金ドル交換制の廃止だった。ドルは金と交換できない不換紙幣となった。本来なら保有している金の量に規定される通貨供給量が、これで自由になった。米帝は巨額の財政赤字・貿易赤字を生み出しながら、世界に大量のドルをまき散らした。しかも製造業での没落を巻き返そうと、ドルを基軸通貨として世界に押しつけて垂れ流した。その結果、帝国主義金融は実体経済とかけ離れて肥大化してきた。世界の金融資産総額は140兆㌦、1京4000兆円という驚くべき額に達した。
 そして、金融投機の歯止めを外したのが、80年代以来の新自由主義およびグローバリズムだ。29年大恐慌の後に大恐慌を防ぐために金融規制が作られたが、次々と撤廃された。資本家の好き放題に金融の自由化・国際化が繰り広げられた。
 モノ作りが歴史的に行き詰まり、ドルが大量に世界にばらまかれ、資本による金融操作が完全に自由となった。だからバブルの満展開となったのだ。80年代の日本のバブル、90年代後半の米ITバブル=株バブル、02年からの米住宅バブル・世界バブルと、バブルを繰り返してきたのだ。「ITで経済は生まれ変わった」と言われてきたが、全然違う。この30年間ずっと自動車・電機が基幹産業のままで、しかも過剰資本状態が基底にある。むしろITが一番多く導入されたのは金融界であり、大量で高速の金融投機を助長する手段となったにすぎない。今のような制御できない金融商品とその取引を生み出したのは、ほかならぬITと金融工学なのだ。
 このバブルを繰り返す中で、87年10月の株価の大暴落(ブラックマンデー)、00年からのITバブル崩壊と、何度も大恐慌寸前の危機が襲った。そこで29年大恐慌の再現となってもおかしくはなかった。しかし現代帝国主義は、それを無理に無理を重ねてのりきった。その結果、帝国主義経済が抱える矛盾はますます深まった。そしてついに、今のような29年恐慌を上回る世界金融大恐慌となって爆発するにいたったのだ。
 70年代以来の帝国主義の延命はこれで完全に終わった。新自由主義の破産のあとはもう何もない。それ以前の国家独占資本主義に舞い戻ることなどできはしない。帝国主義にはその場しのぎの小手先の対策しかない。

 第1節 「生きさせろ」ゼネストへ!

 世界金融大恐慌とは世界革命の時だ。29年大恐慌の時もそうだった。世界中でプロレタリア革命が労働者の生活上の死活課題となる。何十%もの失業率のなかで、革命をやる以外に労働者は生きていけなくなるからだ。
 しかし、30年代の革命は敗北した。労働者が巨万の規模で立ち上がったにもかかわらずだ。それは、当時のスターリン主義によって革命が圧殺されたからだ。最も恐慌が激しかった米帝では、スターリン主義のアメリカ共産党がルーズベルト大統領とそのニューディール(新規まき直し)政策を支持した。その結果、資本主義−帝国主義は生き延びた。大恐慌にもかかわらず延命した帝国主義は、世界経済のブロック化から世界戦争に向かっていった。
 それを二度と繰り返してはならない。30年代の敗北は、スターリン主義といういわば労働者側での裏切りによってもたらされた。労働者階級が団結して真に闘えば、必ず勝利できるのだ。しかも、すでにスターリン主義が歴史的に破産している。いま世界中で起きているストライキや暴動は、反スターリン主義や非スターリン主義の潮流に主導されたものだ。だから、世界大恐慌から世界戦争に転落していくということは絶対にない。あっていいはずがない。今度こそ必ず世界革命に転化しなければならない。
 すでに米欧で、大銀行への公的資金投入策に対し「刑務所行きだ、救済するな」というスローガンでデモがたたきつけられている。29年大恐慌の時には、「救済するな」と誰も叫ばなかったのだ。いや、アメリカ共産党のように資本家階級と一緒になって資本主義を救済しようとしたのだ。「救済するな」のスローガンとデモは、30年代の敗北をのりこえる歴史的意味を持つ。
 終わりを迎えた資本主義など救済する必要はない。労働者と資本家は非和解だ。折り合う余地などみじんもない。少しでも資本家と和解しようとすると、果てしない屈服と転向の道が待っている。国鉄闘争での4者・4団体路線がそうだ。動労千葉のように階級的労働運動路線で闘うこと、それこそが世界金融大恐慌を世界革命に転化できる唯一の道だ。11・2の地平に立って、09春闘で「生きさせろ」のゼネストを実現しよう。
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 表 バブルによる住宅資産の過大評価額(単位:億ドル)
国名 住宅資産時価総額 過大評価額
米国 233,022 49,010
フランス 84,346 31,706
英国 80,912 33,838
イタリア 67,566 14,346
スペイン 57,441 28,408
オーストラリア 30,143 13,073
カナダ 28,161 13,324
オランダ 9,795 3,465
スウェーデン 7,565 2,961
アイルランド 6,632 1,826
ニュージーランド 4,509 1,761
ノルエェー 3,405 1,366
デンマーク 2,417 978
フィンランド 2,148 735
合計 608,062 196,796
 (住宅資産時価総額は07年末、もしくは06年末時点)