ZENSHIN 2000/09/25(No1974 p06)

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週刊『前進』(1974号1面2)

連載 新潮流運動の大躍進へ 資本攻勢の嵐と対決を 4

 雇用破壊と大失業 民事再生法の現実
 倒産処理申請が3倍に 分割で全員解雇し再雇用

 失業率4・7%実態は一層深刻

 資本による労働者への攻撃のもっとも凶暴なものは雇用破壊(リストラ・首切り)の攻撃である。九五年の日経連プロジェクト報告と九八年五・二八反動判決を歴史的契機に、日本経済の恐慌の深まりの中で、雇用破壊の攻撃が一段と強まっている。
 総務庁が八月二十九日に発表した七月の完全失業率は四・七%で、前月と同率の最悪水準のままだ。男女別にみると、男性は前月比〇・一ポイント増の四・九%、女性は〇・三ポイント減の四・三%となっている。労働省が同じ日に発表した七月の有効求人倍率は〇・六〇倍で、前月に比べ〇・〇一ポイント上昇した。雇用者増加の中身をみると女性のパート労働者の増加が特徴的である。
 労働省は「雇用情勢の改善の動きは続いている」としているが、実態をみれば雇用情勢の悪化が続いていることは明らかだ。就業者数全体が十六万人も減少しており、その一方で非労働力人口は七十二万人増えて四千二十万人となっている。また、新たに求職活動を始めたものの結果として就職できなかった「その他」失業者は六万人も増えている。完全失業者が減少した陰に、職がなくて求職活動をあきらめた層が大量に存在するのである。
 非農林業雇用者数は五千三百二十九万人と、前年同月比で五十二万人増えているが、常用雇用者は十万人減少して四千六百五十六万人となっている。臨時雇用と日雇いが増加したのであり、それぞれ五百五十一万人(五十四万人増)、百二十二万人(八万人増)となっている。
 労働者に対する雇用破壊が激しく進む中で不安定雇用化が強まっているのである。労働省が六月二十六日に発表した「一九九九年就業形態の多様化に関する総合実態調査」では、労働者全体に占める非正規社員の割合が二七・五%と、前回九四年の調査に比べて四・七ポイントも上昇している。
 雇用破壊をめぐるこの間の動向で特徴的なのは、この四月から施行された民事再生法による倒産がきわめて多いことである。四月から八月二十二日までに民事再生法の適用申請が三百件に上った(帝国データバンク発表)。昨年の会社更生法や和議法を使った再建型の法的倒産手続きの申請件数が月二十件弱なのに対し、ほぼ三倍に増えた。
 五月十一日に上場企業で初めて民事再生法が適用された電炉小棒メーカーの東洋製鋼(茨城県石岡市)の場合、労働組合にも何も知らせず、労働者全員解雇の攻撃がかけられた。会社は、四月十四日に民事再生法の手続き開始を申請し、その日の夕方、労働組合三役に「民事再生法手続き開始に伴い営業譲渡するので工場は閉鎖し、従業員は全員解雇する」と通告した。
 翌日十五日、従業員全員に対する説明集会が開かれ、一カ月後の五月十五日をもって雇用関係を終了させるという内容の「解雇予告通知書」が全員に渡された。裁判所が五月十一日に営業譲渡の許可を出し、埼玉県の朝日工業に営業譲渡された。朝日工業は東洋製鋼の営業譲渡を受けることを理由に産業再生法の適用申請を行っている。
 百二人いた労働者のうち朝日工業に受け入れられたのは十五人だけだ。解雇に伴って通常は支払われる「養老見舞金」や「慰労金」などの退職金の加算部分も支払われなかった。
 一切の犠牲を労働者に転嫁して資本が再生を図ろうとする民事再生法の反動的本質がこの事例の中に如実に示されている。

 会社分割簡易化で労働者犠牲に

 こうした中で五月二十四日、会社分割を簡素化するための商法改悪案と労働契約承継法案が参院本会議で可決され、成立した。資本が不採算部門を分割して別会社にしたり、他の会社に吸収分割させることを容易にしようというものだ。
 労働契約承継法は、「労働者の保護を図ることを目的とする」とうたっているが、まったくのペテンだ。実際には、民法で保障されている転籍・移籍に対する労働者の拒否権の規定に違反し、「分割される部門の業務を主たる職務としている労働者」には、移籍の拒否権が保障されていない。会社には二週間前までに労働者や労働組合に通知することを義務づけているのみである。
 会社分割法制の可決に当たって、「合併・営業譲渡など企業組織再編に伴う労働者保護に関する諸課題については、学識経験者を中心とした検討の場を設け、立法措置を含めて検討する」という付帯決議がなされたが、可決・成立させるためのペテンにすぎない。
 しかもいったん会社分割を許せば、分割された赤字部門を引き継いだ会社では、赤字を理由に徹底した賃下げが行われ、早期退職勧奨などの首切りが強行されることは不可避だ。赤字部門を切り離す資本にとってみれば、厳しく制限が加えられている整理解雇が形を変えて行える、ということを意味しているのだ。
 民事再生法は、経営危機に陥った資本が破産にいたる前に労働者に犠牲を転嫁して再建を図ろうとするものだ。これに対し改悪商法と労働契約承継法は、資本が経営危機ではなくても一部の赤字部門を別会社として分割することで資本を強化し、分割された別会社については、労働者を犠牲にすることで生き残れる場合以外はつぶしてしまおうとするものだ。労働組合を解体し、労働者の団結を破壊することに重大な狙いがある。
 改悪商法と労働契約承継法の施行を前にして、労働者への事前の通知義務や労働協約の承継を避けるために、駆け込みで会社分割を強行しようという動きが強まっている。また大手でも改悪商法と労働契約承継法の施行によって会社分割を行う動きがでている。

 京王電鉄がバス部門の分社化案

 京王電鉄は今年四月、バス部門を分社化するという計画を明らかにした。その内容は、来年四月に新会社を設立し、十月に自動車事業部門のすべてを新会社に譲渡する、自動車事業部門在籍者全員と子会社の京王バスへの出向者全員が新会社に転籍し、転籍を希望しないものは雇用契約を解除する、というものである。
 分社化に伴って賃金は年俸制となり、基本年俸には年功要素はなくなる。業績年俸は査定により上下二〇%の格差を付け、家族給、住宅手当、教育手当は廃止される。乗務員の賃金は営業収益に人件費が連動する体系となり、結果として平均年収で二割のダウンとなる。しかも新たに設立される新会社の路線は段階的に京王バスに移管され、新会社は二〇〇八年に消滅するという計画である。
 京王電鉄自身は、九九年度に五十八億円の利益を上げており、分社化しなければならない差し迫った理由があるわけではない。だが、バス部門の赤字を理由に分社化し、切り捨てようとしている。「従わないものは雇用契約解除」という恫喝によって労働者に犠牲を強い、より多くの利潤を得ようとしているのだ。七年後には消滅させる会社への転籍を強制すること自身が事実上の首切りだ。
 二十万人の労働者を職場からたたき出し、二百人の労働者を死に追いやった国鉄分割・民営化型の攻撃が全労働者階級の頭上に吹き荒れようとしている。今こそ労働組合の存在意義が問われており、労働者の団結が求められている。首切り・リストラ、大失業の攻撃に猛反撃しよう。〔柿坂信二〕

 

 

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