SANRIZUKA 2000/07/01(No562 p02)

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週刊『三里塚』(S562号1面1)

 神社立木、進入表面破る 暫定滑走路

 部落の「総有」、伐採できず

 滑走路の運用、さらに440メートルも短縮

 8メートル突出、公団がく然

 意味のない暫定滑走路 軒先工事、即時中止を

 農家の軒先で工事が強行されている暫定滑走路に、大きな障害のあることが明らかになった。東峰神社の社(やしろ)と立木が、滑走路南側で航空法に定める進入表面を大きく侵害していたのである。その結果二一八〇bの暫定滑走路は、仮に完成しても、計画からさらに四四〇b短い一七四〇b滑走路としてしか使用できない。国際空港としては事実上使用不可能な滑走路だ。神社敷地の所有権は東峰部落の総有関係にあり、公団は立木などを勝手に処分できない。買収も不可能だ。三十五年間におよぶ三里塚闘争の地平が凝縮したような事実の浮上に、反対同盟農民は勝利への確信を新たにしている。
 東峰神社のある場所は、もともと平行滑走路の予定地内だ。土地収用法による事業認定の消滅が確定するまでは強制収用の対象地だった。しかし平行滑走路建設が挫折し、暫定滑走路計画に変更になったことで、神社は滑走路南端(着陸帯南端)から六十bの地点に位置することになった。これが新たな障害となったのである。(地図参照)
 滑走路の延長線上には、着陸時の障害とならないように、着陸帯末端(滑走路末端から六十bの帯状の舗装帯)から五十分の一の勾配で進入表面が設定されている。神社は着陸帯末端から六十bの位置にあるので、障害物が一・二bの高さを超えると進入表面を突き出る。立ち木は高さ約十bなので、約八・八bも進入表面を侵害している。運輸省・公団にとって深刻このうえない事態である。
     *
 進入表面の侵害が明らかになった東峰神社の立木について、公団は「法的に伐採できる」といっている(産経6・10付)がそれはできない。最大の理由は、神社の土地所有権が東峰部落全体の所有=「総有」だからである。管理権も部落全体にあり、公団は勝手に手を触れることはできない。
 東峰神社が設立されたのは一九五三年十一月二十三日。戦後入植が一段落した頃だ。部落の合議で、当時の土地所有者・寺田増之助(東峰戦後入植)が土地を部落に寄贈し、伊藤音次郎(同)が戦前、津田沼に所有していた「伊藤飛行機製作所」内にあった「航空神社」を移遷した。

 第1節  産土神として

 ここで重要な点は、神社移遷の際、部落合議の末に「勤労の神」二宮尊徳をまつり、「部落の産土(うぶすな)神社」としたことである。産土神は村落共同体などの地域的な守護神とされ、個人や一族を守る氏神(うじがみ)とは区別される。東峰神社落成の際は神主を呼び、部落の全戸参加による落成記念行事も行われた(証拠となる記念写真も現存)。この事実が決定的な意味をもっている。
 神社の土地の所有権は、この時点で法的に部落の総有に移行したのである。「総有」という慣習的な共同所有形態ゆえに登記は行われず、登記簿上はその後も個人所有のままとなった。しかし部落全員の合議で“部落の神社”として設置された瞬間から、神社の土地は個人所有ではありえず、契約による権利取得・売買も不可能となった。
 総有という権利関係の取得は、共同体住民の同意という慣習的取得である。契約による個人売買はそれ以後認めないというのが、すでに民法上の定説となっている。これは入会(いりあい)権と同じ扱いだ。

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週刊『三里塚』(S562号1面2)

 実質1740メートルの滑走路

 地方空港より短い

 国際空港として問題外

 軒先工事は運輸省の確約違反

 暫定滑走路南端(着陸帯南端)からわずか六十b地点にある東峰神社の立木について公団は伐採できないことが明らかになった(記事別掲)。
 その結果暫定滑走路は、二一八〇bという短い設計よりも、さらに四〇〇b以上短い滑走路として運用せざるを得ない。ただでさえ短く使いものにならない計画が、さらに短縮されるのだ。致命的である。
 立木の高さは約十b。進入表面は五十分の一の勾配なので、ここから滑走路南端(着陸帯南端)までの必要距離が五百bという計算になる。現在の暫定滑走路計画では、神社と着陸帯南端の距離は六十b。したがって実用上の滑走路南端の位置を、現在の設計より四百四十b北側にずらさなければならなくなった。暫定滑走路の実用上の長さは[二一八〇b−四四〇b=一七四〇b]となる。
 一七四〇bとはどういうレベルの滑走路か。日本国内の空港で比較すると、地方空港のなかでも小さな部類の第三種空港なみだ。
 一例をあげると八丈島空港(一八〇〇b)。南紀白浜空港(一八〇〇b)。対馬空港(一九〇〇b)。大島空港(一八〇〇b=予定)などだ。
 地方空港のなかでも主要空港(第二種空港)は二五〇〇b〜三〇〇〇bが主流で、国際線の近距離便が就航しているような空港は、最低でも二五〇〇b以上の滑走路が設置されている。新潟空港(二五〇〇b)。仙台空港(三〇〇〇b)。秋田空港(二五〇〇b)。広島空港(二五〇〇b)などである。
 控えめにいっても成田暫定滑走路の実質一七四〇bという短さは、国際空港としてはまったくの論外、問題外といえる。
 暫定滑走路の運用予測について、中型機の近距離用の運航実績が全発着枠の三%に満たない成田空港の現状から「一日わずか十四便程度」と推測した(本紙547号)が、さらなる下方修正が必要となった。暫定滑走路は、YS11などの小型レシプロ機やビジネス機以外にほとんど使い道のない滑走路となる。
 この惨状ともいうべき暫定滑走路が、本来計画の平行滑走路(三三〇〇b)に戻る展望は限りなくゼロに近い。東峰地区の未買収地は農家の農地や家屋に加え、滑走路予定地を完全に横切っている開拓組合道路(部落共有地)や一坪共有地、そして今回焦点となった東峰神社(部落の総有)など、成田空港建設において将来的にも解決不可能な未買収地が散在している。土地収用法による強制収用が不可能になった現状で、平行滑走路の完成は絶対に不可能である。
     *
 政府・運輸省は成田暫定滑走路建設からただちに撤退せよ! 三十五年間にわたる農民殺しと、現在も強行されている軒先工事の暴挙にすべての責任がある。「地権者の同意なき着工の見切り発車は一切行わない」(運輸省鈴木審議官=九八年十一月)と明言した運輸省の確約は何だったか。「平行滑走路は地権者の同意が必要」とした円卓会議の最終所見は何だったか。手のひらを返した暫定滑走路建設強行の責任は、徹底的に追及されなければならない。

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週刊『三里塚』(S562号1面3)

 強力な「総有」関係

 売買や登記、すべて無効

 東峰神社の土地提供者である寺田は、その後一九六一年に家と畑全部を浅沼輝男(元東峰住民)に売却した。この時点で、登記簿上は、神社の土地は「浅沼」名義となる。さらに浅沼は一九六九年三月に、公団にその全部を売却した。この際、前記のような総有関係を公団用地部は承知していたため、神社の土地だけを分筆し、神社以外の家と畑だけを買収するという形になった。
 したがって現在に至るも、登記簿上の名義は「浅沼」だ。公団も、神社の土地が未買収状態にあることを否定できない。しかし地元では、移転した条件派の土地ゆえに事実上公団の手に渡っているだろうというのが一般的理解だった。
 しかし事実は、浅沼には最初から所有権も管理権もなかったのである。そもそもの所有権は、元の地主・寺田(前記)が土地を神社に提供した時点で、すでに部落の総有に移行していた。総有の下で、部落の一員として認められていた管理権も、住居を移転した者については、その瞬間から権利を失う。
 したがって東峰神社は、現在も完全に東峰部落の所有物件なのである。
     *
 また公団は、神社の立木について「航空法四十九条第三項で除去できる」ともいっているが、これも無理である。
 滑走路進入表面を侵害する物件を航空法四十九条で除去する場合の規定は、東峰神社のように飛行場設置(暫定滑走路)の告示以前から物件があった場合は、「通常生ずべき損失を補償して、除去を求めることができる」(三項)というものだ。所有者が自己の権利を主張し、拒否した場合はすぐに強制撤去することはできない。その場合は損害分を供託し、裁判に訴えることになる。長期裁判は必至である。
 また日本では、墓地や神社などの信仰にかかわる物件について、所有者の意志に反して除去などの強制執行を行った例はまれである。とりわけ神社信仰は、日帝支配階級が人民統治に利用してきた度合いも大きく、強制執行はきわめて困難だ。これも東峰神社の推移をめぐる現実的問題としては大きい。東峰部落住民全員の同意がなければ、強制除去は不可能なのである。部落全員の同意など絶対に不可能だ。
 したがって東峰神社の立木について、公団は伐採できず、滑走路のさらなる短縮は避けられない情勢となった。暫定滑走路にとって致命的問題である。
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 「総有」とは
 (解説)【総有】多数の者が、同一の物を共同で所有する場合の一形態。総有では、その物の管理・処分などの権限は、多数の者で形成する団体自体に属し、団体の各個人は、その物を使用する権限を有するにとどまる。共同所有の形態のなかで、もっとも団体主義的色彩が濃い。一坪共有地などの「共有」と比べると、構成員個人の持ち分はなく、分割請求権もない。
 日本では江戸時代の村落の共同所有は総有であったといわれ、現在も残る入会(いりあい)権は、その後進として同じ性格を持つ。成員個人は共同体から抜けると自動的に権利を失う。
 また入会権と同様、登記という近代的な所有権明示行為になじまず、契約による権利取得も認められない。個人売買が仮にあっても無効となる。

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週刊『三里塚』(S562号1面4)

 写真

 闘う労働者人民の代表を国会へ
 東京杉並の都政を革新する会から衆議院選挙に立候補した長谷川英憲さん(東京八区)の戦いに、多くの反対同盟員が応援に駆けつけた。写真は長谷川さんの応援演説を行なう北原鉱治事務局長(6月13日 高円寺)

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週刊『三里塚』(S562号1面5)

 ピンスポット

 ついに本音「3000メートル級」!!

 総裁「その通り」

 暫定滑走路の欠陥うきぼり

 成田空港対策協議会の鬼沢伸夫が、平行滑走路計画を「三〇〇〇b級」にすべきとの声明を、六月九日の総会で発表した。二一八〇bという極小の暫定滑走路(実質はさらに短縮!)の惨状に、地元利権関係者が業を煮やしている現れ。公団総裁もこれに応じ、「全くその通り」と本音をむきだしにした。軒先工事の暴挙が、いかに地権者農民を無視しているかを証明する事態だ。
 「地権者の同意なしに平行滑走路は造らない」とした「円卓会議最終決定」はどうなったか! 会議自身が平行滑走路の一方的建設決定という不当なもので、「同意」云々は反対派をだますためのペテンだった。とはいえ全国のマスコミを通して運輸省は「地権者の同意が前提」と宣言したのだ。あまりに露骨な手のひら返しである。
 声明と公団の賛意の理由は明白で、二一八〇bの暫定滑走路は全く使いものにならないのだ。軒先工事をただちに中止せよ! 平行滑走路計画を即刻廃棄せよ!

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週刊『三里塚』(S562号1面6)

 団結街道

 高価だが高性能の「リチウム電池」を開発した電機メーカーによれば、金属リチウムを薄く延ばして加工する技術を開発するのは大変な難問だった。金属リチウムは、空気中の水分と反応してすぐさびてしまうという▼メーカーが試した方法は、大きな密閉容器にアルゴンガス(金属がさびない高価なガス)を入れ、小さな窓からのぞきながら加工する方法。これは作業効率が悪く採算があわなかった。結局、リチウム精錬工場やビスケット工場などの例を参考に、空気の湿度を極端に下げた工場で加工することにした。湿度一%という工場である▼工場内では多くの人がのどの渇きを訴えた。しかし欧米の同様の工場では「のどが渇く」ことが話題になっていないことから、日本人は高温多湿の環境に慣れているのでのどが渇くのではないかとメーカー側は語るが…。常識的には、途中で水を飲みに行ってのどを潤すひまがない労働環境だったのではないか▼三里塚地方の田んぼは高温多湿。畑もまたしかり。農作業においては高温多湿であってもいくらでものどは渇く。なぜだか知らないが、田んぼ仕事は特にのどが渇く。問題はのどを潤す水があるかどうかだ。欲した時に水が飲める労働環境が大切なのだ▼今年も「泥負い虫」の発生する季節。葉を食害する「葉虫」という小さい甲虫の仲間で、幼虫は自分の糞を背に負うので泥を背負っているように見える。「谷津田」や山間部の田に多い虫だ。これをていねいに駆逐する。それはもう渇きますよ。ここで一杯の水。冷たければなおよし。これにまさるものなし。

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週刊『三里塚』(S562号1面7)

 闘いの言葉

 戦争への道が迫ってきている状況で三里塚の使命は重大。真の反戦、平和、平等な社会を目指して闘う。
 反対同盟事務局長
 北原鉱治

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週刊『三里塚』(S562号2面1)

 ストップ&クラッシュ  有事法制

 総動員法復活阻止しよう (4)

 有事法制の終着点・三矢作戦研究を暴く

 開戦と同時に軍政移行

 「87本の戦時法、2週間で国会通過」

 徴兵、徴用、治安弾圧・・・戦中の戦時法が手本

 有事立法ゆるせばこうなる

 戦争の道許さぬ決起を!

 今回は、日帝・森政権が進めている有事法制の究極的中身をなす三矢作戦研究を暴露する。一九六三年に行われた自衛隊の極秘研究「三矢作戦研究」は、戦前型戦争国家体制づくりをめざす日帝の狙いを示している。同研究は、日米共同の朝鮮侵略戦争計画の研究と朝鮮有事に対応した国家総力戦体制づくりについて赤裸々に論じているが、総力戦体制づくりの研究においては明治憲法下の強権的規定が中心を占め、ついには自衛隊による軍政への移行まで主張している。現在の日帝・森政権による有事法制攻撃の目指すものは、実は三矢研究とほとんど同じである。労働者人民の目の前で進行している現実はまぎれもなく“戦争への道”である。

 第1章  憲法停止

 三矢作戦研究の正式名称は「昭和三八年度統合防衛図上研究」。一九六三年二月一日から六月三十日まで自衛隊の中堅幕僚約九十人をフル動員して行われた極秘の軍事研究である。朝鮮侵略のための日米共同作戦研究では米軍も参加した。
 終盤では研究だけではなく、具体的な図上演習が、六月二十三日から三十日まで統合幕僚会議事務局の置かれている自衛隊市ヶ谷駐屯地の「統合図上作戦講堂」で行われた。
 三矢作戦研究が明るみに出たのが一九六五年二月。当時の社会党国会議員(岡田春夫)が同研究の一部を入手し、二月十日の衆議院予算委員会で追及した。
 追及を受けた当時の佐藤栄作首相が中身を知らず、また内容が憲法停止を要求する激しさに満ちていたことから、「自衛隊によるクーデター計画だ」と労働者人民の怒りが沸騰、国会がストップするほどの大問題となった。アジア諸国からの非難も相次いだ。(別掲記事および左写真参照)
 三矢研究は@基礎研究=1〜4、A非常事態措置諸法令の研究、B状況下の研究=第一動〜第七動、の三つからなり、五分冊計千四百十九ページという膨大な内容である。
 @の基礎研究は、朝鮮有事を想定した自衛隊組織の臨戦体制化と各省庁間の連携の研究。Aの非常事態法令の研究は国家総動員体制づくりの研究、Bの状況下の研究が日米共同の朝鮮侵略戦争作戦研究である。
 そのうち明らかになっているのは基礎研究の一と四、非常事態措置諸法令の研究および状況下の研究のうちの第三動だけで、ページ数にして百ページ、全体の十四分の一程度でしかない。一九六五年当時、「三矢作戦の全文を公開せよ」との労働者人民の要求を佐藤政府は拒否しつづけ、岡田議員によって公開された以外の部分は秘匿されたままなのだ。
 しかし、明らかになっている一部の内容だけでもその中身は、度肝をぬくような強権的規定で満たされている。
 以下ここでは非常事態措置諸法令の研究(「諸法令の研究」と省略)の部分を取り上げ批判する。

 第2章  総動員制

 左に掲げた表が「諸法令の研究」のほぼ全文である。全てが国家総動員法を中心とした戦前明治憲法下の戦時立法の再現だ。
 「諸法令の研究」自体も四つに分かれている。第一が国家総動員体制の確立、第二が政府機関の臨戦化、第三が自衛隊行動基礎の達成、第四が自衛隊内部の施策(表では省略)である。
 このタイトル名だけでも時代が戦前に引き戻されたような思いにかられるが、中身もまたすさまじい。
 「国家総動員体制の確立」のうち「人的動員」で言われているのは、一般労務の徴用、防衛物資生産工場におけるストライキの制限、徴兵制の確立、官民研究所の防衛目的への動員、国民世論の善導である。いずれも「超憲法」的内容で驚かされる。
 さらに「物的動員」でも防衛産業の育成強化にはじまり防衛生産施設・防衛生産権の国家収用、防衛物資配分の国家統制等々と戦前そっくり。
 また「国民生活の確保」では強制疎開、非常時民法・非常時刑法の制定、国家公安の維持、非常時に政府への権限委譲……となっている。つまり、いったん戦争に入れば、戦前型の戦争国家体制に移行するということなのだ。
 また左の表で明白なように、それぞれの項目に対応して参考にすべき戦前の戦時法の名称が逐一記載されている。朝鮮・中国侵略戦争下で猛威をふるった戦時立法の数々を参考にし、それに則った戦争体制づくりを今度の朝鮮侵略戦争においても強行すべきと主張していることが一目瞭然だ。
 現在策動されている有事法制との関連で最も重大なのは第二の「政府機関の臨戦化」の諸項目だ。
 中でも内閣総理大臣の権限強化、最高防衛指導機構の確立の二つとりわけ後者が深刻な意味を持つ。この二つの項目には「備考欄」に「国防会議に最高防衛指導の性格を付与」となっており(表では省略)、戦前の機構としては「大本営政府連絡会議にあたる」となっている。
 つまりこれは、統合幕僚会議議長が参加する国防会議が最高防衛指導=最高戦争指導の任にあたるということであり、自衛隊軍部の入閣に等しい。しかも戦争下ということを考えれば、戦争当事者の発言権が極大化するのは明白である。こうして、実際の軍政がめざされている。また、「状況下の研究」では、八十七本の戦時法を準備しておき有事の際二週間で国会を通過させる暴挙まで画策されている。
 このほか、「自衛隊行動基礎の達成」の項目でも郷土防衛隊の創設、戒厳令、消極防空に対する統制権限、国家非常事態宣言、出動命令前武力行使基準(ROE)など戦争用規定が並ぶ。ここで注目すべきは防衛司法=軍法会議の設置と戦前の軍事機密保護法の制定である。交通通信の項目では、船舶や航空機の防衛統制が盛り込まれている。「強制的な動員」が明文化されていることは明白で、今日の周辺事態法の中身をエスカレートさせた内容となっている。

 第3章  最終目的

 問題は、以上の三矢研究が約四十年前の「戦前の亡霊」ではなく、今日の有事法制制定運動の原点であり最終目的になっていることである。
 三矢作戦研究自体、一九五三年に始まり、十年も続けられた自衛隊内での有事法制=非常事態法研究の「成果」であった。そして三矢研究が終わった六三年の十月には同研究をふまえた「臨時国防基本法」という法案が航空幕僚監部によって具体化されている。
 その後も非常事態法の研究は続けられ、「国防会議基本計画本文」(国防会議幹事会・六四年)、「法制上今後整備すべき事項について」(防衛庁法制局調査室・六六年)、「非常立法要綱」(海上自衛隊・六八年)、「国際平和維持協力のための特別措置法」(外務省・六八年)、「わが国の防空体制について」(国防会議・六九年)という文書となって残っている(解説参照)。それまで防衛庁等の研究であったものが、一九七七年には政府による研究に格上げされた。それが前回述べた防衛庁による有事法制研究である。
 そして新安保ガイドラインを契機として一九九七年、「緊急事態法制の提言案」(自民党)、「国民非常事態法の提言」(平和・安全保障研究所)が出された。それをもって包括的非常事態法制定の動きが一気に具体化し、今年の森首相の「有事法制立法化」表明となっているのだ。
 現在の有事法制攻撃がいかに危険な戦争国家体制づくりをめざすものであるか、明らかであろう。「神の国」発言、「国体」発言をくり返す森自民党政府打倒へ全人民のたたかいを作り出そう。有事法制・改憲攻撃を粉砕しよう。
【なお三矢研究の朝鮮侵略戦争作戦にかかわる部分も、今日の新安保ガイドラインのめざす内容を自己暴露していて重要である】

解説

《その後の有事法制研究》 三矢作戦研究の後、有事法制研究はより本格化していく。一九六四年七月の「国防会議基本計画本文」は、政府による有事法制研究の本格的な第一弾であり、その後の研究の起点をなしている。防衛庁内局である法制局調査室が作成した「法制上、今後整備すべき事項について」(一九六六年)は、三矢研究を全面的に踏襲した等々。
 これらが福田首相の指示を受けた一九七七年からの防衛庁による公式の有事法制研究につながっていく。

 三矢研究暴露

 予算委員会ストップ
 中国、ソ連等も抗議

 三矢作戦研究は、社会党の岡田春夫議員が一九六五年二月十日の衆議院予算委員会で一部を暴露したことから社会的大問題になった。社会党は三矢研究を究明する特別委員会の設置を要求し、研究の全文公表を求めた。自民党政府は「自衛隊内部の単なる研究にすぎない」と全文の提出を拒否、予算委員会審議はストップした。
 二月十二日には「防衛図上研究(三矢研究のこと)等に関する予算小委員会」が設置され、攻防の場を同小委員会に移した。
 社会党は平行して党声明を発表、「防衛庁の実権が制服に握られ、彼らが憲法と国会をじゅうりんし、政治に介入して旧軍部の再現を企図していることはおそるべきことだ」と政府による事件の究明と関係者の処分を要求した。
 十七日には中国の新聞「大公報」が「なんという思いあがったオオカミの野心か」という見出しの抗議論文を掲載、二十二日にはモスクワ放送が「三矢作戦計画は米国の対日政策と緊密に結びついている」「警戒心を強めなければならない」との論評を行った。
 しかし政府自民党は「空想的な研究にすぎない」との立場を固持、研究の全文提出には最後まで応じなかった。

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これが三矢研究だ!

下が三矢研究のうち「緊急事態措置諸法令の研究」のほぼ全文。「自衛隊内部の施策」と「備考」だけ省略している。戦時中と見まごうばかりの強権的法規が並んでいる
項 目
事  項
法令研究
大東亜戦争間
1 国家総動員対策の確立 1  戦力の増強達成 1 人的動員 1 一般労務の徴用
2 業務従事の強請
3 防衛物資生産工場におけるストライキ制限
4 官民の研究所・研究員を防衛目的に利用
5 防衛徴集制度の確立(兵籍名簿の準備・機関の設置)
6 国民世論の善導
隊法103条の強化
(隊法103条)
罰則制定
徴用令 緊急国民勤労動員方策要綱
敵側思想謀略確保方策及対敵宣伝方策
伝方策、等
2 物的動員 1 防衛産業の育成強化
2 防衛生産修理施設の収用・管理
3 防衛資源の培養・確保
4 防衛物資配分の強制
5 交通・通信の強制的統制
6 防衛研究・開発事業の育成(助成金)
7 防衛生産等 権・工業所有権の国家収用
(隊法103条)
罰則制定
戦力増強企業整備基本要綱
企業整備資金措置法
行政査察規定
戦時物資統制
2  国民生活の確保 1 国民生活衣食住の統制
2 生必品自給態勢の確立
3 強制疎開
4 戦災対策
5 非常時民・刑事特別法
6 国家公安維持
7 非常事態に際し政府に対する権限委譲
  都市疎開実施要綱
戦時緊急措置法
2、政府機関の臨戦化 (1)中央 1 内閣総理大臣の権限強化
2 最高防衛指導機構の確立
3 重要生産増強のため行政機能の一本化
4 国家総動員法施策実施のための機構整備
5 非常時行政特別法(生産性拡充、総合力拡充措置)
6 非常時行政簡素化
国防会議構成法の改正
庁法62の改正
大本営政府連絡会議
支那事変最高戦争指導会議
航空機製造事業法
軍需省法、等
(2)地方 1 自衛隊の行動に適応する地方行政機構の整備
2 非常事態様相に応ずる地域別独立性の付与
  地方行政協議会、地方代鑑府、等
3 自衛隊行動基礎の達成 1 官民による国内防衛態勢の確立 @民防 1 重要施設・機関、都市等へ空襲騒擾に対する防衛組織
2 民間防空・民間防空監視隊、官庁防空
3 郷土防衛隊の設置(自衛隊に付与)
4 消極防空に対する統制権限(自衛隊に付与)
5 災害保護法等の制定
  総動員準備要綱
国内防衛方策要綱
義勇兵役法

A民事 1 自衛隊の行う作戦警備の直接補助組織
2 自衛隊行動に対する後方業務援助
3 戒厳
隊法103条、罰則制定
総動員警備要綱、等
戒厳令
2 自衛隊の行動を容易ならしめるための施策 @出動下令前 1 国家非常事態宣言
2 出動命令前武力行使基準
3 海上自衛隊の行動準則
4 敵性船舶に対する処置準則
5 非常時特設部隊・特設機関の設置
海上自衛隊用兵綱領
政令に委譲
海戦法規
捕獲審検令
A出動命令 1 防衛出動待機命令
2 防衛出動命令
   
B隊員補充 1 防衛徴集
2 防衛召集
3 強制服役
4 志願召集
5 志願服役
6 大量募集のための全国警察機構・医療保険組織の協力態勢
防衛被徴集者の任用期の確立
非常時措置法、隊法70条の改正
兵役法、陸軍武官服務令
海軍志願令、海軍招集規則
C防衛資材施設の補給管理 1 非常時物資収用法(徴発)
2 防衛物資の優先取得(統制・収用)
3 隊法103条の政令
4 総理大臣に公用負担をかけ得る権限付与
5 非常時補償の確立
7 戦利品取扱手続の準則を設ける
8 雇入船舶の管理手続の制定
9 船舶、航空機の製造、修理調達手続の簡素化
10 艦船、航空機、武器の造修を防衛庁の権限に加える
11 自衛隊施設の活用を容易ならしめる(各法規適用除外)
12 米海軍施設の共同使用の確保
13 MSAに関する物品請求と代金支払方法の簡素化
14 輸入防衛資材の手続簡素化
15 高圧ガス取締法の適用除外拡大
16 火薬類取締法の適用除外拡大
17 港内における火薬類取締制限の適用除外
18 土地収用(非常時に際し)
隊法103条の拡大非常時措置法(土地収用法、国家賠償法)(公用負担、非常時保険制度)
庁法
建築基準法、消防法、航空法、港湾法、海岸法、旧軍港撤収法、制量法、港域法
日米安全保障条約
(1)通関手法(2)防衛庁納入物品の免除(3)外貨割当の権限委任
貯蔵、運搬、製造
土地収用法の改正
徴発令、軍事特別措置法
海軍戦利品取扱規定
土地収用法、軍事特別措置法
D防衛司法 1 防衛司法制度の確立(自衛隊の裁判)
2 特別刑罰の設定
3 裁判機構内に防衛庁専門の法廷設置
4 刑務官の権限強化(秘密事項に関し)
最高裁判所規定第10号
防衛司法特別措置要綱
軍報会議法
軍刑法
E防衛保護 1 国防秘密の保護
2 軍事秘密の保護
3 国防のため防衛に関する人的物的資源の保護
5 防衛施設の保護
6 特別情報庁の設置(捕虜情報その他)
特別情報庁設置
国防保安法
捕虜収容所令
F防衛費 1 臨時防衛特別会計法
財政・会計特例法要綱
会計戦時特例、臨軍費
G給与 1 出動時給与諸施策(出動者の優遇措置)
2 公務災害補償の向上強化と認定手続の簡素化
3 給与支払い方法の簡素化
4 出動時特別勤労等の恩給加算
5 傷病遺族の救恤
6 招集者等の職業保障
防衛徴集者等の職業指導措置要綱
大東亜戦争給与法
恩給法
軍人扶助法特別助金令
恩給法、等
H衛生医療 1 日本赤十字社等の特別措置
2 墓地埋葬等の特例死亡者取扱準則
3 一般医療機関の医療支援確立
4 各種法規の適用除外
  医療法21、27、第2章、薬剤師法3条、等
5 製薬工場の収用、管理
日本赤十字社等特別措置要綱
隊法改正要綱
 
I交通通信 1 輸送交通の一般法規適用除外(防衛使用、統制)
2 船舶保護、運用統制
3 海上保安庁の統制権補充(海自へ指揮権委譲)
4 海上輸送力確保の措置を講ずる船舶割当管理制度、船舶車輌制限適用除外、等
5 航空の一般法規適用除外、防衛統制
6 通信能力の向上強化策
  有線無線通信について電波制限
  法令の適用除外の拡大
  部外通信設備の利用を可能にする
  通信防衛対策を民間通信にも適用させる
7 防衛郵便法
隊法103条等、罰則制度の要綱
隊法107条改正
電波法、有線電機通信法
隊法101条強化
電波法
隊法改正要綱
鉄道軍事供与令
戦時海運管理令
船舶保護法、海運統制令
海運国家管理要綱戦時海運管理令
海運国家管理要綱戦時海運管理令
軍事電気通信法、等
軍事郵便規制
軍用資源秘密保護法
陸地測量部会

 

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週刊『三里塚』(S562号2面2)

 北総の空の下で

 飼い犬チャオ

 仲間に”優” 敵に”憤”

 入梅は激しい雨と大風で始まりました。ひょうの被害は免れたものの不安定な天気が続きます。今年は豆類が豊作で、油虫に弱いソラマメがこんなに穫れたのは初めてのこと。雨がうっとうしいのは動物も同じで、萩原進さん宅のチャオも大好きな散歩がおあずけになってしまいます。
 家の敷居もまたげなかった子犬の時にもらわれてきた萩原家三代目の犬は、今では体重二十五キロ。元気盛りです。一家はチャオのことを「うちの息子」と言います。援農 に入る現闘の人間にもよくなついていて、私にとっては「弟分」です。けれどそれ以外の人には激しく吠えます。たまに顔を出す現闘メンバーにはチャオが“仲間として認めてやろうかどうしようか”迷っている人もいて、激しく吠えられたりします。
 チャオの散歩係は進さん。私も時々散歩を引き受けることがあります。夕方になると、通りかかるたびに甘えたい声を出し「早く早く」とせがむので、その気にさせられてしまいます。
 冬の頃のことですが「土曜日、宣伝カーのボイス係で家の辺も宣伝してたでしょう? チャオが北里さんの声のするほうにぐるっと首を動かしてたよ」と静江さん(進さんの妻)に言われたことがあります。
 うれしくなってチャオの所に行き、「私の声を聞き分けてくれたんだね」と話しかけましたが当人は「昼寝中なんだから静かにしてくれない?」とばかり薄目を明けたのみ。こういういマイペースな所もチャオの魅力です。夕食は釜屋(土間のある台所)に入れてもらって皆と一緒に食べます。ソラマメとビールで盛り上がる人間たちをチャオはどんな目で眺めていることか。(北里一枝)

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週刊『三里塚』(S562号2面3)

 2000 三里塚現地日誌

 反対同盟と共に歩む

 6月7日〜6月20日(火)

●空対協が暫定滑走路の3000bへの延長を要求 成田市の空港利権団体で構成する成田空港対策協議会(会長鬼沢伸夫)は総会を開き、2180bの暫定滑走路を3000bに延長することを要求する声明を採択した。これは運輸省の羽田空港の国際線化方針を阻止できないと判断した同協議会が、「羽田国際化を認める代わりに成田暫定滑走路の3000bへの延長を要求する」との条件闘争に切り替えたもの。(9日)
●運輸省が羽田空港の陸上旋回を承認へ 運輸省は今まで認めてこなかった羽田空港離陸航空機の陸上側への旋回(左旋回)を7月1日からの増便に合わせて認める方針を決定した。(9日)
●東峰神社が暫定滑走路を阻止 東峰神社の立ち木が暫定滑走路の進入表面から8bも飛び出し、同滑走路の運用に重大な障害となっている事実が報道された。(10日付産経=1面に記事)
●敷地内デモで軒先工事弾劾
 反対同盟と支援はエスカレートする軒先工事の暴挙にたいして抗議と弾劾の東峰・天神峰敷地内デモを行った。(11日=写真)
●長谷川候補出陣式へ 北原鉱治事務局長を始め反対同盟多数が衆議院選挙の公示日に、長谷川英憲候補の衆議院選出陣式へかけつけた。(13日)
●成田市長が共生財団の改組主張 成田市の小川国彦市長は成田市議会で、騒音下住民への利権ばらまき機関である「成田空港周辺地域共生財団」について「見なおす時期にきている」との考えを明らかにした。千葉県官僚の天下り機関になっている現状への批判に答えたもの。(12日)
●運輸省が関西新空港へ財政支援へ 巨額債務をかかえる関西国際空港会社にたいして運輸省は財政支援に乗り出す方針を固めた。開港以後、乗り入れ便数は増えるどころか減少の一途で、赤字解消の見通しが立たなくなったための措置。事実上の破綻である。(16日)      
●芝山鉄道の迂回ルートを認可 運輸省は芝山鉄道が申請していた迂回ルートを認可した。採算ラインは1日5400人とされており、「16年目で単年度黒字、28年目で累積黒字」との目標を示したが、需要予測については示せなかった。(20日)
●東京都、羽田国際化を最重点要求に 来年度予算で東京都が国に要求する最重点要求に羽田空港の国際化方針を入れることが明らかになった。(20日)

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