SANRIZUKA 2002/08/01(No612
p02) 
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週刊『三里塚』(S612号1面1)
フェンス問題調査 公団「これで十分」の暴言
反対同盟・市東さん 再度の「増設」要求行動
“信じられぬ傲慢さ”
鼻をつく排ガス被害を無視
反対同盟は七月十六日、暫定滑走路に対するたたかいとして成田市空港対策部に対し、再び「ジェット噴射対策フェンスを公団に造らせろ」と要求する追及行動に決起した。「対策フェンスは必要ない」という空港公団の回答(6・28)に対する反撃である。暫定滑走路は開港後、破たん性が次つぎに暴露されている。搭乗から離陸まで五十分もかかる利便性の悪さ。滑走路が増えたのに発着枠の上限は減少するという漫画的事態。「暫定路などいらない」という声も管制官から噴き出している。アジア便から撤退する会社も現れている(JASの香港線)。「暫定路は必要なし」という実態が鮮明になってきたのだ。反対同盟の決起に連帯し開港後の〃新たな三里塚闘争”をたたかいぬこう。
(写真左 反対同盟は7月16日、市東さん宅南側の開拓道路で、暫定滑走路がカサ上げされている現状を空対部に説明した)
反対同盟が要求していた天神峰・市東孝雄さん宅のジェット噴射対策フェンスの設置要求について、空港公団が六月二十八日、拒否の回答を行ってきた。
「対策フェンスは現在のもので十分」「東峰地区で九・五bのフェンスを設置しているのは、噴射口の位置が高いDC10機用対策で、市東宅前は通らないから必要ない」というもの。
(写真右 市東さん宅のフェンス。わずか3メートル。写真のようにジェット噴射が直撃する)
しかし、実際に被害が起きている。現実によって回答は打ち砕かれている。反対同盟はフェンス設置を要求するため、七月十六日、空対部を再び現地に呼びつけ抗議行動を行った。足立満智子市議も加わった。
まず空対部の小泉孝部長ら三人を、暫定滑走路の誘導路が見渡せる市東さん宅南側の開拓組合道路に案内し、現状の深刻さを説明した。「公団の回答では三bの現状フェンスで十分となっているが冗談ではない。誘導路と滑走路は三〜四b土盛りされ嵩上げされている。だから三bフェンスの頂上が滑走路面の高さだ」「ジェット噴射がもろに噴き付け、フェンスは何の対策にもなっていない」と目の前に広がる暫定滑走路施設を指差しながら説明、弾劾した。
(写真左上 北側の十余三地区には写真のような10メートルもある対策フェンスが設置されている)
(写真左下 東峰地区にも高さ9.5メートルの対策フェンスがある。無いのは市東さんの所だけ)
第1節 成田市の責任で
つづいて市東さん宅離れに場所を移して市への追及を行った。ビデオが上映され、東峰と十余三地区では高さ九bから十bの対策フェンスが設置されているのに、最も被害を受ける市東さんの所だけ三bのフェンスしかない実態が映された。(左写真)
北原鉱治事務局長が空対部を質した。「空港公団の回答文は受け取ったが、市としてこれにどういう態度を取ったのか明らかにしてほしい」
小泉部長は「公団の回答は回答としてお渡ししたが、空対部としては公団に対策フェンスを設置してほしい、という立場で話をしているので、分かってほしい」と述べた。「だけどこんなデタラメな回答を持ってくる市も市だよ。子どもの使いじゃないんだから、市の責任でもっとまともな回答を出させるべきだ」という追及がなされた。
鈴木幸司さんが「ジェット噴射は生命にかかわる大変な問題だ。空対部はその認識をもって真剣に対応せよ」と語気鋭く弾劾した。萩原進事務局次長も「公団は対策フェンスなど毛頭造る気はない。それを何としてもやらせようというのだから、空対部も腹をすえてやってもらわなけりゃ、進まない話だよ」。市東さんは、空対部長の目の前に陣取り鋭い視線で見すえた。
同盟はここで空対部あてに、公団の回答に反論する質問状を突きつけ七月三十一日までに答える事を約束させた。
(写真右 反対同盟は成田市空対部を追及し、公団に対策塀を設置させるよう迫った)
そして木の根部落で生活道路が封鎖された問題や東峰十字路北側開拓道路が勝手に封鎖された問題について、質問状に対する回答が半月以上たってもなされていない事を追及すると、市は怠慢を認め、早急に回答する事を約束した。
反対同盟はジェット噴射対策フェンスを設置させるために総力で立ち上がっている。破たんし始めた暫定滑走路の閉鎖までたたかいぬく決意だ。夏〜秋のたたかい、そして10・13全国集会へ前進しよう。
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週刊『三里塚』(S612号1面2)
追い出しだけが目的
市東さん語る 「暫定路閉鎖せよ」
公団の回答はひどい。三年前に天神峰に帰って来て、権力や警察の理不尽さに怒りが治まらない日が続いたが、今回の文書にもあきれてものが言えない。
わずか三bの対策フェンスならざる警備フェンスを建てて、「これで噴射対策は十分だ」などと公式文書で言っている。よくも恥ずかしくないな、という回答だ。
現実にすごい排気ガスが家の畑や家にまで噴きつけているんだ。あんなフェンス何の対策にもなっていない。どこが「対策になっている」のか、と当事者の俺が言っている。
東峰には九・五bのフェンスを建てている事について、どう言うかと思ったら「東峰地区で九・五bのフェンスを建てているのは排気口が高い位置にあるDC10用だ」という。
「市東さんの方にはDC10が通らない、通ったとしても着陸用だけで、尻が向かない、だから三bでいいんだ」と。見え透いた言い逃れだ。じゃあ暫定路北側の十余三地区で十bの対策フェンスを四百bにわたって設置してある事はどうなのか。条件はうちとまったく変わらない。いやうちの方が悪い。
現闘本部北側のうちの畑にはそれこそ何の対策フェンスも設置されていない。ただ警備用の塀があるだけ。それでも「現状フェンスで十分だ」と言い張っている。うちの北側の大看板が建っている場所にもフェンスが必要だ。要求していく。
要するに騒音と排気ガスで追い出すために暫定路を運用しているんだ、という事が改めてはっきりした。向こうがそういうやり方で来るなら、こっちもがんばるだけ。墓穴を掘るのは政府・公団の方だ。
そもそも暫定滑走路自体が不必要だ。航空需要は落ち込んで、四〇〇〇b一本でまかなえるんだよ。ワールドカップの時だって客なんか来やしなかった。利用者は前の年より減ったというんだから、話にならない。暫定滑走路は地上げが目的。こんな国家暴力には絶対に負けません。
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週刊『三里塚』(S612号1面3)
「W杯」は口実だった
暫定路は不要 利用者前年下回る
サッカーワールドカップ期間中の成田空港利用者数について、当初の見込みを大きく下回った事が、六月二十七日に発表された空港公団調査で明らかになった。それによると五月二十五日〜三十一日の七日間の入国者総数は二十三万三千人で一日平均わずか三万三千人。空港公団による公式予想は一日五万人の入国者。ところが実際はその六割強でしかなかった。
出国者についても六月一日から十日までの総数は約三十二万人で前年同期を約一l下回った。中村徹総裁は「みな首をひねっている」と答えたそうだが、みえすいた芝居である。
一九九九年五月、当時運輸省事務次官だった黒野匡彦が平行滑走路の二〇〇〇年度完成を正式に断念し、暫定滑走路計画を発表した。その時の大義名分が「滑走路一本では二〇〇二年ワールドカップの需要増に対応できないため」というものだった。
ところがふたを開けてみれば、出入国者数は前年と同じかそれ以下でしかなかった。「滑走路一本で十分」だった。「W杯のため」は、強引な暫定滑走路計画を世間にごり押しするための単なる口実にすぎなかったのだ。
「地権者との合意なしに滑走路建設はしない」という円卓会議最終報告(一九九四年)を破り捨てての暫定路建設には、世論の強い批判が予想された。それをかわすために「W杯」云々を持ち出した。しかしそれも世間をだますためのウソだったことが改めて明らかになったのだ。
一事が万事この調子、政府・空港公団の住民無視、農民殺しのやり方はまったく変わっていない。今こそ暫定滑走路を閉鎖に追いこもう。
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週刊『三里塚』(S612号1面4)
荒唐無けい「北側延長」のデマ
便数増えず大型機飛べず 予算も論外
空港公団は開港直後から「暫定滑走路の北側延長」に関するデマを流し、滑走路南端近くで暮らす反対農民を脅迫してきた。「いつまでも反対を続けていると一キロ北側に延長し、今度こそジャンボ機を飛ばして住めなくしてやる」という脅しだ。しかし「暫定路の北側延長方針」は百lデマであり、実現不可能な空論である。「北側延長論」を完膚なきまでに粉砕する。
◇ ◇
「北側延長」論は、暫定滑走路の現状が想像以上に深刻なため、新たに開始されたデマ攻撃である。
暫定滑走路は@大型機が飛べない事、A空域や飛行コースが狭く限定されているため、開港以前に比べて全体の発着可能便数の上限が減少してしまっている事、Bそのため待機空域が満杯となって羽田への振り替え着陸が頻発している事、C航空管制が複雑化して「発着枠の上限が増えないのなら、暫定路はない方がまし」という声が管制官から上がっている事、D欠陥誘導路による渋滞のため、乗客の搭乗から離陸まで五十分以上もかかっている事、など、開港後わずか三カ月にして、数々の問題点が浮上している。「ジャンボ機の飛べない欠陥滑走路」の弱点が露呈し始めたのだ。
そして七月四日には日本エアシステム(JAS)が成田(暫定路)―香港線からの撤退を発表し、供給過剰による中国路線からのリタイアがついに始まった。
当初計画(従来の二五〇〇b滑走路へ南側に延長)への復帰は、空港反対農家の宅地、畑、開拓組合道路、共有地、神社、墓地、などが存在してもはや百l不可能である。
ここから北側延長論が流布され始めたのである。
(北側に延長してジャンボ機を移動させるには滑走路の左側【東側】に平行誘導路を造らなければならないが写真のように開拓道路と一坪共有地が阻んでいて不可能だ)
組合道路が阻む
しかし北側延長方針は荒唐無稽、実現性ゼロのデマである。
まず、延長滑走路は造っても飛ばす空域がなく、無意味である点について明らかにする。
暫定滑走路は現在の一日百回という運航回数が事実上の上限であり、これ以上多く飛ばす事はできないのだ。既報のとおり、四〇〇〇b一本だった時と比べ、暫定滑走路の開港で、成田空港全体の発着枠の上限が三十二回(時間あたり)から三十回に減少した。
年間に直すと二本の滑走路で十八万六千回となり、公団発表の公称発着枠=二十万回を一万五千回も下回る。A滑走路の容量が年間十三万五千回なので、暫定路の数字上の容量は五万回ということになる。したがって、暫定路を時間内制限枠を一日中目一杯飛ばしたとしても、現状(三万六千五百回)プラス年間一万五千回で、一日あたりプラス四十回が限度という事になる。しかし実際の運航ではスキ間のない無茶な運航は不可能である事を勘案すれば、暫定路は現在の発着回数ですでに上限に達していて、滑走路を延ばしても増便する余地はない事になる。空港のキャパシティという面で、暫定滑走路の延長は全く意味がないのだ。
空港公団はこの実態を百も承知の上で農民を脅すためだけに「北側延長論」が何か意味ある計画であるかのようにデマを撒き散らしている。
では、実際に計画したとして工事可能なのかといえば、この点でも可能性はゼロである。
「北側延長」の意図はジャンボ機を飛ばす事にある。そのためには現在の誘導路では狭く湾曲していて使えない。ジャンボ機を移動させるためには暫定路の東側に平行誘導路を建設する必要があるが、東峰部落の開拓組合道路反対同盟の一坪共有地(写真参照)、ががっちり阻んでおり百l不可能だ。この一点だけで「北側延長」計画は砂上の空論でしかない。
さらに深刻なのは予算問題である。
「延長計画」にしたがって北側に一`延ばすとすると東関東自動車道路にぶつかるため、同自動車道はルートを変更しなければならない。その変更部分は約十二`。ところで高速道路の建設費は一般に一`百五十億円から二百億円かかるとされる。これだけで約二千億円の費用が必要となる。さらに延長する滑走路、誘導路の用地費、工事費および新たに必要となる管制塔建設費などあわせて一千億円。合計三千億円もの莫大な予算が必要となる。地方空港が一つ造れる計算だ。
しかし空港建設予算を一手にまかなう空港整備特別会計は火の車だ。同会計は年間総収入六千二百億円に対し借入金の累積が一兆円を超えている。この財政難で八次空整(第八次空港整備五カ年計画=〇三年から〇七年)では、地方空港の建設は中止されるほどだ。
一方政府の方も金がなく、予算を削る事はあっても、一般会計からの増額など夢のまた夢。経済効果がマイナスの「北側延長」を実現するような財政的余裕は皆無であり、計画は空論だという事だ。
北側延長論はどのような角度から見てもデマでありペテンである。実現不可能な延長論を流布する公団の唯一の目的は、暫定路開港にも屈服しない空港反対農民に対し「今度はジャンボを飛ばすぞ」と脅迫する事、この一点なのだ。
公団の新たな農民殺し、国家暴力を談じて許してはならない。北側延長計画は論外だ。反対同盟を守り抜き、欠陥滑走路・暫定路を閉鎖に追いこもう。
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週刊『三里塚』(S612号1面5)
公団職員、賄賂罪で逮捕される
巨悪隠すいけにえ
内部の声「氷山の一角だ」
空港公団職員が取り引き業者からワイロを受け取り収賄罪で七月八日逮捕された。捕まったのは給油事業部事業課長代理・高村文彦(52)。
高村は一九九八年六月から二〇〇〇年六月まで公団の保安警備部警備計画課課長代理として警備の総括を担当。空港反対集会に動員された全国の機動隊員用の貸し布団を納入する業者にワイロを要求、三回計五十万円を受け取り便宜を図っていた。ワイロはフィリピン旅行などの遊興費にあてていたという。
これは氷山の一画。空港公団をめぐっては以前から汚職事件の噂が絶えなかったが、「空港反対闘争を勢いづかせる」との配慮で、千葉県警はまったく捜査に入らなかった。今回初めて摘発した背景には、県警としても無視できないほどに公団の汚職体質が悪化している事および微罪事件を派手に摘発する事で「取り締まっている」ポーズを取り、公団幹部のより悪質な贈収賄事件を闇に葬る意図の二点がある。
(汚職事件摘発で謝罪する公団幹部)
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週刊『三里塚』(S612号1面6)

アメリカ支配階級の力の源泉は石油だ。現大統領ジョージ・W・ブッシュは七八年に石油掘削会社アルブスト・エナジー社を設立。当時、父親のジョージ・H・W・ブッシュは八〇年大統領選の準備中で、選挙資金スポンサーとアルブスト社の投資家の多くが重なっていた▼会社は二度も経営危機に陥り買収された。その都度ブッシュは重役に。二度目の買収主体が、現大統領がインサイダー取引疑惑を指摘されているハーケン・エナジー社だ。同社の重役にはサウジの富豪も名を連ねる▼父親のブッシュが大統領に就任した八九年、同社はバーレーンの石油掘削権をアコモ(旧スタンダート石油インディアナ)から横取りに成功。立役者はモービル石油出身の国務省顧問。同社初の海外事業展開で株式は急騰した▼九〇年、そのハーケン・エナジー社の巨額損失発覚のわずか一週間前、重役だった現大統領は保有自社株を大量に売り逃げ、約八十五万ドルを手にした。露骨なインサイダー取引だが、SEC(証券取引委員会)は大統領の息子に事情聴取もせず捜査を打ち切った▼現副大統領のチェイニーは石油掘削機やパイプラインを販売するハリーバートン社の会長。同社は湾岸戦争後のクゥェート再建で大儲け。またコンドリーザ・ライス大統領補佐官はシェブロン(スタンダート石油カリフォルニア)の重役。ちなみに石油ガス業界からブッシュ陣営に流れた選挙資金は三十億ドルに達する▼彼らはまさに世界の富と権力を独占するために、中東・イスラム諸国人民を支配し、今も殺りくを続けているのである。
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週刊『三里塚』(S612号1面7)
闘いの言葉
米諸都市の摩天楼は、数千万もの米原住民とアフリカ人を滅亡させ、インカ文化を地上から根絶やしにした廃墟の上に打ち立てられたのだ。
スルタンガリエフ「社会革命と東方」一九一九年十月
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有事立法廃案、継続審議粉砕
7・26全国総決起集会
7月26日(金)午後1時 檜町公園(地下鉄六本木駅下車)
集会後 国会へデモ
午後7時 坂本町公園(茅場町下車)
午後7時半 国会デモ出発
主催 反戦共同行動委員会
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週刊『三里塚』(S612号2面1)
有事法制の継続審議絶対阻止へ
「北を占領」米軍公言
法成立で作戦発動
50万の米軍部隊 日本全土が戦時体制
労働者人民の反戦闘争の盛り上がりによって、今国会での成立が危機的状況に陥っている有事法制三法案について、小泉政権は「最低でも継続審議。あわよくば衆院強行採決」への巻き返しに全力を上げている。6・16代々木公園での有事法制粉砕六万人集会の空前の高揚は、労働者人民の革命的反戦闘争の新たな発展の展望を力強く示した。このたたかいの地平を引き継ぎ、あらゆる職場、学園、地域、街頭で有事法制継続審議粉砕の声を組織しよう。7・26対国会デモを断固として打ち抜こう。(1面に集会・デモの要項)
第1章 ■政府は何をやろうというのか?
小泉政権は「わが国への万一の武力攻撃に備える法整備」「備えあれば憂いなし」云々と説明するが、「わが国に対する外部からの武力攻撃」が発生する可能性など現時点でまったくない。「北朝鮮の不審船事件」(〇二年十二月。海保が機関砲で撃沈。乗員十五人全員を殺害)をことさら取り上げ、明日にも北朝鮮から攻撃されるかのような宣伝も、まともに考えれば漫画的な想定だ。
(東ティモールPKOに出兵し、強襲揚陸艇で上陸した自衛隊。海外派兵の実績づくりは進む【2002年3月】)
『ミリタリーバランス・〇一年』誌によれば、北朝鮮の国防支出は二十一億ドルで日本の五%にすぎない。さらに日本の自衛隊の認識では、北朝鮮のGDP(国内総生産)は日本の千分の三、つまり〇・三%だ(自衛隊誌『セキュリタリアン』〇一年七月)。とうてい海外派兵のできる生産力規模ではない。そもそも北朝鮮が日本を一方的に攻撃しなければならない政治的動機がない(アメリカと日本にはある)。
また「工作船の潜入」を有事法制制定の口実にする論議も、はなはだしい問題のすり替えだ。米軍と自衛隊の潜水艦や航空機が毎日のように中国・北朝鮮の領域に侵入して「情報収集」を行っている事実は、米軍偵察機接触事件(〇一年四月)で明るみにでた。その何百分の一にも満たない規模の「北朝鮮の工作船」に備えるという論議自体が侵略戦争の口実づくりだ。「工作船」云々には、すでに日本政府は現行法で武力対処している(撃沈した)。少なくとも人民を強制的に動員して国家総力戦体制をつくる有事法制という次元の問題ではない。
有事法制三法案が想定する「武力攻撃事態」とは、実はアメリカと日本が北朝鮮を攻撃する侵略戦争だ。日本が攻められるのではない。アメリカと日本が北朝鮮を攻めるという事態である。米大統領ブッシュは、北朝鮮をイラクやイランとともに「悪の枢軸国」と決めつけ、アフガニスタンに続く先制軍事攻撃の対象にすると公言した。その一部はイラクへの恒常的な爆撃の継続などの形で発動されている。日本はすでに「テロ対策法」を使い、こうした中東での米軍の軍事活動を直接支援している(米艦艇への燃料補給等)。これらは完全に現行憲法の枠を逸脱した戦争行為だ。
有事法制三法案は、こうしたアメリカの世界的規模の戦争、その一環としての対北朝鮮軍事攻撃が切迫していることに対応したものだ。「万一の事態への備え」(小泉)という次元ではなく、差し迫る朝鮮戦域での大規模な軍事行動に日本が参戦するための法律なのである。それゆえ政府は法案の早期成立に躍起となっているのだ。
第2章 ■どの程度の規模の戦争を想定しているか
小泉政権が有事法制の制定を急ぐ背景には、米日帝国主義が差し迫る具体的な戦争計画として想定している作戦規模の大きさがある。その内容を示す米韓連合軍の『作戦計画5027』(すでに公表)は、五十万人以上の米軍部隊が千数百機の作戦用航空機と数百隻の艦艇を携えて日本に殺到し、沖縄を始めとする日本全土(および韓国)を基地に、朝鮮半島での大規模な軍事行動を遂行するというものだ。
(「戦時体制」下の想定で、反戦派のデモを戦車砲でせん滅・鎮圧する治安出動訓練を行う陸上自衛隊)
「朝鮮全土へのじゅうたん爆撃」の上に「北朝鮮の首都平壌以北まで占領し、現政権(金成日体制)を転覆、『韓国主導』の南北統一を実現する」とまで明記されている。
想定死者数は「核を使用しなくても百万人」とされている。戦後日本の常識がまったく通用しない大規模戦争の世界である。
米ブッシュ政権は北朝鮮を「悪の枢軸国」と名指しし「先制攻撃」もありうると公言。さらに「使える核兵器」をキーワードとする「米核態勢見直し」(NPR=今年一月に米議会提出)も発表された。
この対北朝鮮戦争は、一方でブッシュ政権が具体的な開戦準備に入っている対イラク戦争と前後して発動されようとしている。そのキーポイントが日本の有事法制成立なのだ。
第3章 ■何が起こるのか
新日米安保ガイドライン(日米防衛協力の指針=九七年締結)以来、アメリカが日本に要求していることは、前記のような「百万人の犠牲者」を出す規模の侵略戦争に対応した日本の支援体制である。五十万人規模の米軍が日本全土を補給と出撃の基地にして朝鮮半島で軍事行動を行う。それに必要な兵站支援(後方支援)体制を日本が保証するということだ。
この米軍支援体制が完全に保証されない限り、アメリカは朝鮮半島で本格的な軍事行動を起こすことはできない。それゆえ日本の有事法制成立を、誰よりもアメリカ政府が強く要請してきたのである。
米ブッシュ政権が始めようとしている対北朝鮮戦争は、日本自身が本格的な戦時体制=戦時総動員体制をとらない限り、遂行できない構造になっているのである。
■有事法制提出までの経緯
米の対北朝鮮侵略戦争計画を前提に進められてきた。朝鮮半島などでの戦争行為を「周辺事態」と名づけ、日米両軍の共同作戦の枠組みを定めたのが一九九七年締結の「新安保ガイドライン」。日米安保条約の実質的な改定だ。これによって九九年には「周辺事態法」が制定され、海外での米軍活動への自衛隊による後方支援が合法化された。「事態法」では「戦闘行為が行われていない地域」との想定で、戦闘行為発生後は自衛隊は「引き返す」建前。自衛隊による武力行使を含む全面的な軍事協力体制の法的裏づけを、今回の有事法制で最終的に行う算段だ。
■米、対イラク開戦を公言、本格準備へ
イラク攻撃に向けたアメリカの動きが本格化している。ブッシュは7月8日に記者会見を行い、イラクに政権交代を引き起こすこと、つまりサダム・フセイン政権を倒すことがブッシュ政権の重要目標であり、そのためにあらゆる手段をとる、と表明した。
その直前には、25万人の兵力を動員し、空爆と地上軍の侵攻でフセイン政権を壊滅させる米軍の攻撃計画草案を、ニューヨークタイムスがリークした。空爆はトルコ、カタールなどを拠点に、地上軍はクウェートから侵攻するとの計画で、地上戦の主力部隊となりそうな米海兵隊第一遠征隊は、カリフォルニア州の基地で集中特訓を開始したという。
朝鮮半島での米軍の行動も対イラク戦と連動している。アメリカ帝国主義はすでに世界戦争の引き金を引いたのだ。
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週刊『三里塚』(S612号2面2)
開戦で何が必要になるのか
反戦派鎮圧も
三法案の内容は、差し迫る朝鮮半島での戦争に日本が参戦する実戦的要請に基づいている。
現時点で内容が隠されている「個別法」を含む全体の骨格は以下のとおり。
@自衛隊の武力行使を含め、米軍との本格的な軍事活動を可能にする。
A米軍と自衛隊の日本国内での活動にフリーハンドを与える(土地収用や空港・港湾・道路の占有、物資の徴発等)
Bそのために戦前の「天皇大権」に匹敵する権限を首相に与え、現代版の国家総動員体制をつくる。
C戦争への「国民の協力義務」を定め、反戦派と反戦運動を禁圧する。「スパイは死刑」と定める国家機密法(八五年廃案)も復活させる。治安維持法体系の復活である。
提出されている有事法制三法案では「総則的規定」と「整備項目」が定められ、米軍支援と国内弾圧にかかわるシビアな個別法は「二年以内に整備」と制定を義務付け、中身を隠す姑息な手法がとられている。
しかし「開戦」で具体的に何が必要になるか。すでに新ガイドライン締結(九七年)と周辺事態法制定(九九年)時に出された「米軍活動に対する日本の支援」(新ガイドライン別表)明記されている。ポイントを整理しておこう。
@国内の主要空港・港湾を米軍が占有的に使用。湾岸戦争で民間旅客機が空輸した米軍兵士の数は三十二万人。これらは民間空港が受け入れ基地となる。
A米軍の作戦用航空機が約千六百機。国内七カ所の米軍航空基地では収容できず(一空港五十機までが米軍の規定)、自衛隊の航空基地とは別に民間空港を含む約三十カ所の空港を米軍に提供。
B公共機関の労働者の強制動員命令(罰則付)
C鉄道、トラックなどの徴発と高速道などの占有
D武器弾薬を含む軍事物資、食料などの強制的徴発と保管、輸送など
E作戦上必要とされる民間の土地や建物を軍部(自衛隊と米軍)の意向で強制的に収用
F病院と医療体制の徴用。などである。
*
待ち構える事態は、まぎれもなく国民総動員型の戦時体制である。これは国家の暴力装置に担保されること、すなわち反戦派の投獄が前提なのだ。有事法制反対闘争は、これとの熾烈な階級的激突となることを銘記すべきである。
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週刊『三里塚』(S612号2面3)
「法曹として、かけがえのない三里塚」
葉山岳夫弁護士に聞く 《最終回》
農民一揆…歴史は動いた
“闘いに生きる”身をもって
民衆がお上(権力)に楯突くことは大変なことだ。農民たちが武器を手に立ち上がる。それはあの農民一揆の再現であった。江戸の昔から、農民一揆は支配者の暴政と腐敗に対する異議申し立てだ。命がけで決起する農民側に常に正義があった。三里塚闘争に膨大な労働者人民の支持が集まった理由は、無謀な土地取り上げを強行する政府・支配階級に対する農民たちの怒りが、権力に対する民衆の様々な怒りや不満を代弁していたからだ。
葉山弁護士は、民衆が自由に生きるために゛たたかう″ことの積極的な意義を三里塚が身をもって示したことを高く評価する。三里塚闘争の真髄は、この激動の時代にこそ発揮されると氏は締めくくった。
(三里塚闘争と共に三十七年間。連帯して闘い続ける葉山岳夫弁護士【58年3月15日】)
――前回、三里塚闘争が示したものという事で、「国家は人民の利益を守らない」という問題を伺いました。国家の正体を見ぬいた三里塚闘争は、権力と闘うことそれ自体のなかに積極的な意味を見出していきました。
葉山「それが二番目の教訓ですね。そもそも庶民がお上に、つまり権力に歯向かうというのは大変なことです。日本では特にその傾向が強いですね。空港建設という国策に反対して立ち上がる事は、国そのものに楯つく事であって、並大抵の事ではなかったわけです。
しかし重要な点は、農民が自分の土地を自分の意志とは無関係に一方的に取り上げられる現実に対して、自分と家族が生きるための行為として、村を守るための共同のたたかいとして権力に立ち向かったことです。農民を嘲るように扱い、問答無用で土地収用法という伝家の宝刀を抜いたお上に対して、泣き寝入りすることを断固として拒んだ。この瞬間、歴史が動いたのですよ。
それまでは力で脅して札束を見せれば庶民は言うことを聞くというのが通り相場だったんです。言うことを聞けばわずかのおこぼれは恵んでやる。歯向かうものは徹底的に叩き潰す。これが権力というものの常識でした。
この常識を民衆レベルで覆した三里塚闘争は、やはり一種の革命だと思いますね。警察や役人が大手を振って歩けない地域というものが、この日本にできてしまった。糞尿弾に悲鳴をあげて逃げ惑う機動隊の姿に、日本中の民衆が拍手喝采を送ったのです。今でも三里塚現地では警察権力は悪の象徴です。
法理論的には人民の抵抗権の行使ということなのですが、三里塚の農民は『法』の名のもとに理不尽な暴力に訴える権力に対して、実力で抵抗した。徹底的に抵抗する農民の側こそが民主主義の象徴として、圧倒的な人々の支持を獲得したのです」
――いま三里塚で反対農家を切り崩すのに、政府の役人は札束を積んでもみ手で擦り寄ってきます。
葉山「三里塚闘争が血を流してこなかったら、もみ手で札束を積むこともあり得ないわけです。とにかく『民主的な話し合いで進めている』ことを世論に演出しないと話にならない時代になった。
でも本質は何も変わっていない。暫定滑走路の開港、農家の頭上四十bを飛ばすという信じられない暴力に最後は訴えてきた。これが本質です。一方のもみ手と一方の力ずく。抵抗がなければ、お上の暴力だけがまかり通る。それが『法』の正体です。法とは言いかえれば国家による人民への暴力です。ここに現代の『民主主義』の根本問題があります。
だから民主主義とは、民衆が自分でたたかって獲得するものだということです。それ以外にないのです。たたかって始めて獲得できるのが民主主義です。たたかいを放棄したら民主主義を語る資格もない。民主主義という考え方を承認するならば、権力とたたかうことは義務ですらあるということです。このことを三里塚闘争は身をもって教えてくれたのです。
●゛貫くということ゛
そして、抵抗を最後まで貫く事の大切さですね。何十年がんばって必死にたたかっても最後の最後で屈服してしまえば、一切は無に帰してしまう。いや、もっとひどい事になる。『結局ゴネ得だった』と言われても何の反論もできなくなる。それは自らたたかいを卑しめる事です。
問題なのは、それまで無数に行われてきた国家の不法行為、暴虐の数々がすべて闇に葬られ、結局は゛免罪″されてしまいます。残るのは『やはり権力には勝てない』『国家に歯向かうと結局損をする』という悪しきあきらめです。民衆の中のこうした悪弊を補強する役割すら果たししまう。長期にわたるたたかいであればあるほど、最後に屈服するとダメージは大きい。逆にどんなに少数になっても筋を通しているたたかいは確実に歴史を動かす力になる。この点で三里塚闘争の教訓は大きいですね。
成田空港建設の過程で、権力がいたるところで『法』を破ってきた事実をこの企画でお話してきました。権力が自ら法を破る時、民衆は革命を起こす権利があります。フランス革命以来の民主主義をめぐる思想的営為のなかで革命権などといわれてきたものですが、これが現実に確保されて初めて、民主主義は民主主義たりえるわけです。
三里塚農民の実力抵抗闘争は、こうした思想を民衆レベルで培ってきた貴重なたたかいです。日本の民衆闘争の歴史を塗り替えたのです」
――最後に「法」とは何かですね。法曹として三里塚闘争にかかわってこられて、最終的に主張したいことは?
葉山「『司法は中立』と多くの人が考えています。実際はそうではありません。『法の支配』は普段は実にやさしい顔をしています。しかし権力者の死活的利益に抵触した瞬間、それはむき出しの暴力に変貌します。『法』の建前をかなぐり捨てて、国家が平気で違法行為、犯罪行為をやるわけです。それを司法が擁護する関係です。『法』というのは実は国家による暴力なんです。三里塚闘争は、この法と暴力、司法と権力の関係を見事に暴いてきました。
したがって法曹として、三里塚闘争に連帯してたたかう立場は実に貴重でかけがえのないものです。三里塚闘争とともに生きることで、はじめて『人権』を民衆のために生かすこともできる。これが三里塚闘争に三十七年間かかわってきた私たち顧問弁護団の実感です」(おわり)
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週刊『三里塚』(S612号2面4)
三芝百景 三里塚現地日誌 2002
7月3日(水)〜7月16日(火)
●アジア便からついに撤退始まる 日本エアシステム(JAS)が成田(暫定滑走路)―香港線からの撤退を発表した。暫定滑走路発着の路線については、「じきに2500bに延長されるとのデマの下、その時に備えた路線権益確保のためのかけ込み需要が相当部分を占める」と反対同盟は指摘したが、指摘を裏付ける動きが早くも始まった。撤退は香港線だけでなく、ソウル線にも拡大しそう。(4日)
●空港公団職員の汚職発覚 空港公団の給油事業部課長代理が貸し布団業者にワイロを要求、フィリピン旅行費などにあてていた贈収賄事件が摘発された。これは氷山の一角。元々空港公団がらみの汚職事件は山ほどあったが、空港反対闘争を勢いづかせる事への配慮から、千葉県警は黙認してきた。しかし、黙認の限度を越えるほど露骨になってきたため、摘発に乗り出さざるをえなくなったもの。しかし、今回の事件は「収賄金額が50万円」という「小型事件」。他の大型事件を見逃すためのスケープゴートにされた可能性が高い。(8日)
●「暫定路はW杯のため」はウソだった 全日本空輸が発表した6月の国内線利用率は60・9%で前年同期を3・3%下まわった。さらに日韓線の旅客も伸び悩んだ事が判明した。これに先だって空港公団が発表したW杯期間中の成田空港利用率でも入国者が前年なみ、出国者は前年を下回った事が明らかになった。(9日)
●北原事務局長、関西実集会へ 北原事務局長は大阪泉佐野市で開かれた「関西新空港反対集会」に参加して発言した。「三里塚は国家暴力に負けない」ときっぱり。「暫定路の閉鎖までたたかう」と訴えた。(14日)
●再びジェット噴射対策塀を要求 天神峰市東孝雄さん宅脇に「ジェット噴射対策塀を設置せよ」との要求を空港公団が拒否してきた事にたいして、反対同盟は再び成田市空対部を呼びつけ「責任をもって公団に対策塀を設置させろ」と要求する追及行動を行った。(16日=写真)
●台風でトウモロコシなどに被害 台風6号と7号がこの時期には珍しく房総半島を直撃、三里塚農家のトウモロコシ、ナス、ピーマンなどに被害を出した。茎が倒れてしまうと腐りやすくなったり、鳥に食べられてしまうために被害が大きくなる。(16日)
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