社会保障解体許すな⑤ 医療 混合診療解禁で荒稼ぎ 公的保険は崩壊の危機

週刊『前進』06頁(2644号03面04)(2014/08/18)


社会保障解体許すな⑤ 医療
 混合診療解禁で荒稼ぎ
 公的保険は崩壊の危機


■新成長戦略の〝目玉〟
 安倍首相は6月に発表した新成長戦略で、「混合診療の大幅な拡大、解禁」を打ち出した。
 混合診療とは、公的な医療保険が使える診療と、全額自費負担の自由診療を組み合わせるものである。現在は一部を除いて原則禁止している。その理由は、効果や安全性が確認されていない診療や、根拠のない診療に公的保険の金が費やされることを防ぐためである。それを安倍は「時代遅れの岩盤規制だ」とやり玉に挙げ、大幅に解禁しようとしている。
 具体的なやり方は、現在、混合診療が認められている例外的な制度の中に「患者申し出療養」を新設する。患者の「希望」があり、一定の基準を満たせば、全国の病院や診療所で実施できるようにする。病気の種類や治療法に制限は設けない。来年度に法を改悪し、16年度から実施することを狙っている。
 これは簡単に言えば、病気の治療法のメニューを作って患者に選ばせるものである。金がある者は、効果が期待できる薬や手術法を用いる高額のAコース、金のない者は保険診療の範囲内で治療するCコースというわけである。「この治療法が抜群の効果がある」と医者に言われて、その言葉がうそか本当かを見抜ける患者はそんなにいないだろう。だから、患者は医者の言いなりにされ、「命が惜しければ金を出せ」となる。数百万、1千万円という高い金を負担できる者だけが手厚い治療を受けられ、金のない者は病院から締め出される。まさに「医療の質もカネ次第」となる。

■労働者から医療を奪う
 製薬資本も、保険適用外の非常に高額の薬を売って、巨額の利益を上げることができる。また自由診療部分が高額になれば、民間の医療保険に加入せざるをえなくなる。民間保険はコスト抑制と利潤追求のため、なるべく健康な人を加入させて低所得者や病人を排除する。これで民間保険会社は巨額の利益を得る。低賃金の労働者階級は民間医療保険にも入れない。アメリカは民間保険が中心で、国民の7人に1人が無保険者だが、日本でも混合診療が解禁されて、医療の中心が自由診療に移っていけば、実質的な無保険者がどんどん増えていくだろう。
 さらに、公的医療費の膨張を抑えたい政府は、先進医療や新薬が混合診療のもとで全額自費で受けられるようになれば、それを公的医療保険に組み込まなくなる。患者の自己負担分を増やすことによって、公的医療費(保険支払い)の増大を抑えられるからである。
 実際、産業競争力会議では「かぜの自己負担は現在の3割から7割へ」「小額な医療費は全額自己負担」などという議論がされている。公的医療保険の崩壊の危機だ。

■職場から反撃に立とう
 日本の医療は「非営利」を一応の原則としてきた。「医療で金もうけをしてはならない」「公的保険制度のもとで公平に医療が受けられる」という原則だ。1980年代以降、急激に進んだ新自由主義のもとで解体されつつあるとはいえ、その原則はまだ残っている。ところが安倍は、これを根っこから解体し、医療を資本家の金もうけの場に全面的に変えようとしている。
 新成長戦略には「持ち株会社方式による医療・福祉の大規模再編」が盛り込まれたが、これは混合診療の解禁と一体である。岡山大学メディカルセンター構想(2638号3面参照)のように、大規模な病院再編(統合・廃止)、公的病院の民営化、大合理化が狙われている。混合診療と株式会社経営の解禁、そして病院の大再編=大合理化をもって、大きな利潤追求の場をつくりだそうとしているのだ。
 混合診療と持ち株会社方式は、病院間の競争を激化させ、医療労働者に一層の労働強化と賃下げと非正規職化をもたらすものである。労働者の団結した闘いでこの攻撃を打ち破ろう。
(畑田治)

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