イラク空爆の根底に石油利権 米・英・独・仏の争闘戦も激化

週刊『前進』06頁(2647号05面04)(2014/09/08)


イラク空爆の根底に石油利権
 米・英・独・仏の争闘戦も激化


 今日、米帝を始めとして英・独・仏などの諸帝国主義は、クルド自治区およびその周辺地域に侵攻した「イスラム国(IS)」への空爆やクルド自治政府への大量の武器、資金の援助を行い、イラク内戦に全面的に介入している。この軍事介入の根底には、イラクの石油利権の略奪と帝国主義の争闘戦がある。「人道的支援」や「対テロ戦争」の一環などというものでは断じてない。
 6月にISがイラクに侵攻した当初の段階で空爆に消極的であった米帝が、クルド自治区の主要都市アルビルに侵攻してきたISに対して8月8日に急きょ空爆に踏み切ったのは、米帝が2010年ごろからクルド自治区で獲得してきた石油利権を守るためである。アルビルには米系メジャー(大手石油資本)のエクソンモービル、シェブロン、仏系メジャーのトタルなどの拠点があり、数千人の社員が常駐している。ISがアルビルを占領し、クルド自治区の油田を掌握すれば、米帝や欧州帝が全力を投じて確保してきた石油利権が一挙に失われかねない。このため米帝はあわてて空爆に踏み切り、クルド自治区の油田に対するISの脅威が除去されるまで無期限に空爆を実施する決断をしたのだ。
 米帝の空爆は8月31日までに120回、その規模も当初の2機態勢から4機態勢プラス無人機の投入へとエスカレートしている。米帝は再びイラク侵略戦争の泥沼に足を踏み入れたのだ。

自治区の油田確保狙う米帝

 米帝にとってクルド自治区の油田の開発権の獲得は、イラク全土の石油を支配する戦略の決定的な一環をなしている。
 03年3月のイラク侵略戦争開始から11年12月の完全撤退までの間、米帝はイラク全土の石油を支配するために必死となった。最大の目的は、メジャーの進出を強固に阻んでいたイラクの国有石油企業を、民営化法案(石油法)を暴力的に成立させることによって解体し、民営化してメジャーに売却させることにあった。こうしてイラクの全油田の支配を狙ったのだ。だが、この策動は、イラクの石油労組連盟(IFOU)の労働者たちの何回もの大規模ストライキを始めとする偉大な闘いとイラク人民の反米帝武装抵抗闘争によって完全に粉砕されてしまった。石油労働者の闘いはイラクの全人民を石油民営化阻止の陣営に獲得し、ついに国会でも石油法は成立しなかった。このため米帝は南部の主要油田の開発を個別的契約に基づいて行わざるを得なくなり、得られる利益も目的とした額よりはるかに少ないものになってしまった。
 ところが、独立を目指して財政基盤を確立しようとしていたクルド自治政府が、米欧の石油開発会社に対して生産物分与協定という極めて有利で巨額の利益が獲得できる方式での開発を提示すると、エクソンモービル、シェブロン、フランスのトタルなどの米欧系のメジャーはイラク中央政府の反対を押し切って次々とクルド自治区に進出した。クルド自治区にはリビアの埋蔵量に匹敵する450億㌭の石油が埋蔵されている。ここで有利な条件で石油開発を開始して利権を確保した上で、この開発方式を弱体化したイラク中央政府にも押し付けようというのが米欧帝国主義の戦略である。今回、米帝がISへの空爆を決断したのは、こうした帝国主義の石油略奪戦略を維持するためである。

イラク労働者階級と連帯を

 米帝は他の帝国主義を蹴落としながらクルド自治区の油田を支配するためには、空爆を主導し、今後もクルド自治政府からさらなる利権を獲得しなければならないと考えている。他方、英・独・仏などの帝国主義国も、米帝と対抗しながら空爆支援作戦や武器供与などの形でISとクルド自治政府の内戦に全面的に介入し、分け前を分捕ろうとしている。イラクの石油をめぐる帝国主義の争闘戦こそが、イラク内戦を激化させているのだ。
 日帝・安倍もまた7・1閣議決定後の国会審議で、中東の石油権益の確保のために自衛隊を海外派兵し、武力行使をも辞さないと言い放った。まさに米欧日帝国主義の争闘戦が軍事化・戦争化する中で、今こそ国境を越えた労働者階級の団結で帝国主義の侵略戦争と対決する闘いが求められている。とりわけ、階級的労働運動の発展の中で宗派・民族間の分断を克服して、帝国主義とそのかいらい政権と対決して闘っているイラク石油労働者との国際連帯がますます重要になっている。
(丹沢望)
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