JR体制破産と崩壊⑬ 鉄道めぐる争闘戦は一層激化 破産に直面する台湾高速鉄道 日本の新幹線輸出は絶望的に 労働者国際連帯が勝利の鍵だ

週刊『前進』06頁(2666号02面04)(2015/01/26)


JR体制破産と崩壊⑬
 鉄道めぐる争闘戦は一層激化
 破産に直面する台湾高速鉄道 日本の新幹線輸出は絶望的に
 労働者国際連帯が勝利の鍵だ


 鉄道の海外輸出をめぐる帝国主義間・大国間の争闘戦は、レーニンが『帝国主義論』を著した時代よりも激烈な形で進行しつつある。
 JR東日本は12年10月に「グループ経営構想Ⅴ」を策定し、鉄道車両製造事業を「経営の第4の柱」に位置づけた。それは、海外の鉄道プロジェクトに参画し、海外市場で日本製鉄道車両を売り込むというものだ。だが、その思惑は今や完全に壁にぶち当たった。

「民活」方式が完全に裏目に

 日本が新幹線の海外輸出に成功した唯一の実績が、台湾高速鉄道だ。その台湾高速鉄道が、経営破綻問題で揺れている。
 日本の国土交通省に当たる台湾行政院交通部は、台湾高速鉄道が今年3月にも破産するとして財務改革案を策定したが、立法院の合意が得られず、交通部長と台湾高速鉄道会長が1月9日、辞任に追い込まれた。
 台湾高速鉄道を建設し運営しているのは、民間会社の「台湾高速鉄道公司」だ。台湾高速鉄道の建設にあたっては、民間会社が鉄道を造り、35年間、運営して利潤を上げた後に資産を政府に移管する、BOTと呼ばれる「民間活力導入」方式がとられた。だが、建設資金は予定以上に膨れ上がり、同社の財務構造は高利の借入金に依存するものになった。それでも不足する資金は優先株の発行でまかなわれた。
 07年開業後の乗客数は予測を大幅に下回り、09年には早くも経営危機に陥った。優先株にも配当できず、株主から株の買い取りを求める訴訟が起こされて、破産の危機はついに表面化した。
 台湾高速鉄道は、ポイントなどの設備はドイツ製、列車無線はフランス製、車両は日本製だが、もともとは独仏が受注しようとしていたところに日本が割り込んだ経緯がある。その台湾新幹線の経営破綻は、日本の新幹線を導入すれば割高になることを、全世界の前で実証してしまった。
 JR東日本は今年7月、東京に全世界の鉄道関係者を集めて「世界高速鉄道会議」を開催し、高速鉄道建設プロジェクトの主導権をとろうとしているが、こうしたJR資本の思惑は今回の事態で暗雲に閉ざされた。
 ヨーロッパの鉄道車両メーカービッグスリーに比べ日本企業の競争力は格段に立ち遅れている。世界の鉄道市場の6割はカナダのボンバルディア、フランスのアルストム、ドイツのシーメンスの3社が押さえ、日本の鉄道車両メーカーは日立、川崎重工、東芝など主要6社の合計でも10%前後のシェアを占めるだけだ。

中国の台頭で争闘戦が加速

 加えて昨年末、中国の政府系企業・南車と北車が合併し、売上高では世界一の鉄道車両メーカーにのし上がった。
 中国高速鉄道の総延長は世界最長の1万4620㌔メートルに達した。安全を無視して高速走行にのめり込む中国スターリン主義の反人民性ははなはだしいが、中国は日本の3〜5割と言われる建設コストの安さを武器に高速鉄道輸出に乗り出している。
 習近平体制のもと中国は、国外の高速鉄道プロジェクトにかみ込んで、北京―モスクワ―欧州間のユーラシア鉄道、ウルムチ―中央アジア―イラン―トルコ―欧州間の中央アジア鉄道、昆明―ラオス―タイ―マレーシア―シンガポール間の汎アジア鉄道の3大高速鉄道網をつくり出すという、きわめて大国主義的な構想を打ち出した。
 中国が建設を受注し昨年7月に開通したトルコのアンカラ―イスタンブール間の高速鉄道は、中央アジア鉄道構想の一環だ。さらに昨年10月、中国と東欧諸国はベオグラード―ブダペスト間の高速鉄道を共同で建設することに合意した。
 ユーラシア鉄道構想をめぐっては、昨年10月、中ロ首脳がモスクワ―カザン間の高速鉄道建設を中国が請け負うことで合意した。ロシアのモスクワ―サンクトペテルブルク間の高速鉄道にはドイツ企業シーメンスの車両が使われているが、ウクライナをめぐり欧ロの対立が激化する中で、中国はロシア市場に食い込み、ロシアも中国に助けを求めたのだ。
 アジアは日中欧の激突の場になっている。今年中にマレーシア―シンガポール間の高速鉄道の入札が行われる予定だが、中国は低価格を武器に落札を狙っている。

アジアでは日仏中が激突

 これに対して日本は、安倍がトップセールスでマレーシアに新幹線を売り込み、JICA(国際協力機構)関係者が「たとえゼロ円でも落札する」と発言、JR東日本副会長の小縣方樹も「絶対に落札したい」と息巻いて、受注の獲得に躍起になっている。仏独もこの競争に参入した。
 タイ軍事政権は昨年11月、ラオス国境からタイ湾に至る鉄道を中国と共同で建設する覚書を了承した。他方、タイを東西に横断する鉄道の建設は日本に請け負わせる意向を示している。
 インドでも日仏中のつばぜり合いは激しい。インド政府はアーメダバード―ムンバイ間の高速鉄道の調査事業をJR各社が出資する日本コンサルタンツに委託した。同区間の調査事業はフランス企業も請け負っている。一方でインド政府は、デリー―チェンナイ間の高速鉄道の調査事業は中国に行わせると表明した。
 これらの状況は、第1次世界大戦を前にドイツ帝国主義がベルリン―ビザンティウム(イスタンブール)―バグダードを鉄道で結ぶ3B政策をとってイギリス帝国主義と激突した歴史を思わせる。本紙新年号1・1アピールが指摘するように、「鉄道が国内階級支配と他国への侵略、勢力圏化の道具であることは、今も変わらない。いや大恐慌が戦争に転化し、鉄道輸出が争闘戦の焦点となっている新自由主義的帝国主義の現在こそ、鉄道をめぐる階級的激突は一層決戦化している」のだ。
 鉄道をめぐる争闘戦の激化は、大合理化・外注化を促進し、戦争を引き寄せる。労働者国際連帯と外注化粉砕闘争で反撃しよう。
(長沢典久)
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