地権者・住民の怒りと結び中間貯蔵施設建設阻止を

週刊『前進』06頁(2679号04面02)(2015/04/27)


地権者・住民の怒りと結び中間貯蔵施設建設阻止を

(写真 試験輸送初日の3月13日、防護服とマスクに身を包んだ作業員が、汚染土などが入ったフレコンバッグを一時保管場の地面に置いた【福島県大熊町】)


 政府が福島県大熊町と双葉町で、県内の除染で出た汚染土など高濃度の放射性物質を保管する「中間貯蔵施設」建設を始めた。〝30年以内に県外に最終処分場を造る〟と言うが、「中間」とは名ばかりの最終処分場であることはあまりにも明らかだ。しかし原発事故によって土地を追われた人びとの怒りゆえ、用地買収はまったく進んでいない。「福島を核のゴミ捨て場にするな!」という福島の怒りとつながって、中間貯蔵施設建設に絶対反対し、原発再稼働を阻もう。

「試験輸送」の名目で搬入

 中間貯蔵施設の建設予定地は、福島第一原発を囲み、全域が帰還困難区域とされ住民全員が避難している大熊町と双葉町で、面積は羽田空港に匹敵する16平方㌔に及ぶ。保管量は東京ドーム18杯分に相当する約2200万立方㍍とされる。
 3月13日に大熊町、同25日に双葉町、4月に田村市都路(みやこじ)地区から、中間貯蔵施設予定地への汚染土などの試験輸送が始まった。
 初日の13日、大熊町の仮置き場で、汚染土が入った黒いフレキシブルコンテナバッグ(フレコンバッグ)が「除去土壌等特定廃棄物運搬車」と旗がついた10㌧トラックに積まれ、搬出された。向かう先は町内沿岸部にある一時保管場だ。場内は放射線量が高いため、内と外を走るトラックを分けている。汚染土はまず保管場内を走る専用トラックに移し替えられ、別のスペースに運ばれた後、クレーンで一つずつつり上げられ、保護シートで覆った地面に置かれ、搬入が終了した。汚染土袋の表面の放射線量は最大で1時間あたり25㍃シーベルトだった。
 その後1カ月がたったが、6月末までに試験輸送を終える計画の9市町村のうち、搬入が始まったのは大熊、双葉、田村の3市町のみ。搬入量は4月10日現在、合わせて約1700立方㍍だ。
 環境省は約1年の試験輸送で、県内43市町村から約1千立方㍍ずつ計4万3千立方㍍を一時保管場に運び込む計画だとしている。用地取得が進まない中、とりあえず企業から借りた土地に一時保管場を設置したが、一時保管場ですら3千立方㍍分はまだ確保できていない。しかも1年間で約4万3千立方㍍が運び込まれたとして、それは最大計画量2200万立方㍍の0・2%にすぎない。

売買契約成立は1件のみ

 16平方㌔にわたる用地確保をめぐる地権者2365人との用地交渉はまったく進んでいない。
 これまでに売買契約が成立したのはたった1件。売却意向を示す工業団地の企業の土地を足しても予定地全体の広さの2%にしかならない。しかも政府によれば、登記簿上の地権者のうち、半数の約1200人分の土地が実際は「所有者不明」となっている。
 「国は地権者をないがしろにしている」「先に地権者が土地の売買などに同意してから進めるべき」。搬入を強行して既成事実として押し通そうとする政府・環境省に対する地権者の怒りは深い。先祖代々の愛着の深い土地であるにもかかわらず、昨年9月から10月に行われた地権者説明会の後、政府・環境省は地権者に何の情報も提供せず、マスコミ報道で状況を知るばかりなのだ。
 福島第一原発から約2㌔の双葉町郡山地区には、茶色の屋根瓦に黄色のペンキでくっきりと「国有化反対」の文字が刻まれた家がある。
 昨年6月、当時の環境相・石原伸晃が中間貯蔵施設説明会翌日に「最後は金目(かねめ)でしょ」との大暴言を吐いたが、これこそ国の本音であることを地権者はみな十分わかっているのだ。
 用地取得の展望がまったくない中で政府は、「福島復興再生特別措置法」改定による「帰還環境整備交付金」を使っての土地強制収用を狙うなど、凶暴な攻撃にのめりこもうとしている。

被曝労働を強制汚染も拡散する

 汚染土の輸送作業は、運搬を担う輸送労働者、国道などに配置される警備労働者、一時保管場に運び入れる労働者など、膨大な数の労働者の被曝労働なくして成り立たない。大熊町の予定地では線量計は毎時16・5㍃シーベルトの放射線量を示した。作業員たちはみなマスクと白い防護服に身を包み、除染をして周辺の線量を下げてから搬入作業に従事している。
 また住民からは、放射性物質の落下・飛散などの汚染の拡散を心配する声があとを絶たない。
 放射性廃棄物を積んだトラックは、住民の身近な道路を行き交う。加えて輸送中の事故は、積載している放射性廃棄物を散乱させる深刻な事態を招く。試験輸送を終えて1年後に本格輸送に移ると、環境省の試算では年間700万立方㍍を輸送するようになる。そう仮定すると、県内全域で1日当たり10㌧トラック1500台が走行することになるのだ。
 他方、県内では662カ所の仮置き場だけでは足りず、学校や住宅の軒先などに置く「現場保管」が増加している。その件数は8万3328カ所(昨年12月末現在)で、前年同期より3万8797カ所も増えた。

「3年」の期限を過ぎる仮置き場

 環境省が当初、「仮置き場に廃棄物を置くのは3年間程度」と説明していたため、県内の各市町村は3年間を目安に仮置き場の用地を借りた。しかし、中間貯蔵施設への搬出が始まらないまま、一部の仮置き場で3年が経過している。
 耐用期間が3年から5年とされるフレコンバッグの劣化や破損も深刻な問題だ。汚染土や草木などがむき出しになったり、水を含んだ汚泥や植物なども一緒に詰められているので、腐敗ガスが発生してパンパンにふくれ上がり、草木から芽が出て袋を突き破るというケースもある。

展望なき「30年後の最終処分」

 政府は県知事と大熊・双葉両町長の屈服を取り付けるにあたって、「中間貯蔵施設への搬入開始から30年以内の県外最終処分の完了」を法制化した。しかし30年以内の県外最終処分などまったくの絵空事だ。政府が福島を永久に「核のゴミ捨て場」にしようとしていることは明らかである。原発再稼働に突き進む安倍政権は、原発事故を引き起こした結果として人が住めない放射能汚染地域が広大に生まれたことを奇貨として、「核のゴミ」をすべて福島に押し付けることを狙っているのだ。

核のゴミ捨て場にするな

 何の展望もないにもかかわらず、政府があくまでも中間貯蔵施設建設に突き進もうとしているのは、原発再稼働を強行するためだ。
 政府に屈服した勢力は「除染で出たゴミは福島で受け入れるしかない」「汚染土の土のうをいつまでも庭や公園に置いたままでいいのか」と脅して、原発事故を引き起こした政府・東電を免罪し、住民に分断と対立を持ち込もうとしている。
 しかし、核燃料の最終処分問題を「解決」するすべなどけっしてないのと同様、原発事故がつくり出した大量の放射性汚染物質の行き場所はどこにもない。仮置き場、中間貯蔵施設、最終処分場のいずれもが行き詰まり破産しているこの現実こそ、原発・核と人類はけっして相いれないことを示している。原発事故を引き起こした政府・東電の責任を徹底追及し、原発再稼働をやめ、すべての原発をただちに廃炉にする以外の選択はないのである。
 原発事故によってふるさとを奪われた人びとの怒り、悲しみと深くつながって、中間貯蔵施設建設絶対反対の闘いを貫こう。それこそが、全国で巻き起こる再稼働阻止の闘いと連なり、原発再稼働を阻む力だ。

「地権者無視を許さない」 
施設予定地の地権者に聞く

 こうして搬入が始まった中間貯蔵施設予定地の地権者の一人、Kさんを4月半ばに訪ねた。福島第一原発から3㌔地点に住んでいたKさんは今はいわき市で避難生活をしている。
 祖父が明治時代に福島で暮らし始めて3代目というKさん。父親、Kさん、息子さんと3代続く郵政労働者で、Kさん自身、全逓(全逓信労働組合)のばりばりの活動家で、原発反対運動も積極的に担っていた。退職し、息子夫婦と2人の孫とともにのどかに過ごしていた暮らしを一変させたのが3・11だった。
 「中間貯蔵施設の建設に同意している地権者なんて、一人もいないよ」ときっぱり語るKさん。
 「『30年だけ』と言うが、最終処分場が一体どこにできるというんだ。核のゴミの行き場所も決まっていないっていうのに、できるわけがない。中間貯蔵施設を認めたら、結局は最終処分場にされてしまう。おれたちのふるさとはめちゃくちゃに汚染され、二度と帰れなくされてしまうんだ。政府や行政のやり方は、とにかく『日程ありき』。しかも私たち地権者には何の話もない。具体的な話が何もない以上、中間貯蔵施設はできません」。「国のやり方はいつも同じだ」と憤るKさんは「福島は沖縄の二の舞いになる。成田だってそうだ。このままじゃ福島は土地収用法がかけられて、第2の成田闘争になるよ」と語る。
 3・11に対するKさんの悲しみと怒りは根底的だ。部屋の仏壇には、先祖とともに一人息子の遺影が掲げられている。Kさんを継いで郵政労働者になった息子さんは3月11日から連絡がとれず、1週間後に職場の人から「津波で流されたんじゃないか」と教えられた。浪江町請戸(うけど)の郵便局の仕事の応援に行き、そのまま行方不明になったのだ。
 原発事故ゆえ立ち入りが禁止された請戸では捜索が困難を極め、息子さんの自動車が見つかったのは事故から2年半たってからだ。自動車には、息子さんの眼鏡もあった。仏壇にはその眼鏡も大切に飾ってある。
 毎月11日の月命日、お連れ合いとともに請戸に通い、3・11当時生まれたばかりだった孫たちの成長を報告し続けているKさん。「二度とこんなことを繰り返しちゃいけない」。その言葉の重みをしっかり胸に刻んだ。
(里中亜樹)

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