刑事司法の大改悪 新捜査手法法案阻もう 盗聴・司法取引‒団結破壊許さず6・15国会大行動へ 〈寄稿〉 弁護士 西村正治

週刊『前進』06頁(2684号06面02)(2015/06/08)


刑事司法の大改悪 新捜査手法法案阻もう
 盗聴・司法取引‒団結破壊許さず6・15国会大行動へ
 〈寄稿〉 弁護士 西村正治


 「戦争をする国」への転換を狙う戦争法案の国会審議の開始と並行して、5月26日から戦争体制構築の一環である「新捜査手法」法案=刑訴法等改悪法案の法務委員会の審議も始まった。
 これは、戦争準備態勢に突入した安倍政権の治安強化=戦時司法体制構築の一環であり、テロ・組織的犯罪対策の名のもとに完全黙秘の闘いを解体する攻撃であり、闘う労働組合や民衆の団結を破壊するための国家権力の武器の強化にほかならない。秘密保護法、共謀罪などと一体の攻撃であり、労働者民衆の闘いの爆発によってなんとしても打ち砕かなければならない。

録音・録画は捜査側の武器

 新捜査手法法案の悪辣(あくらつ)さは第一に、取り調べの録音・録画制度をあたかも「捜査の改革」であるかのように百パーセント逆に描き出し、法案推進のテコとしていることである。
 警察・検察による取り調べの録音・録画は、一から十まで捜査側の武器であり、それ以外の何物でもない。録音・録画の義務づけと言っても、自白調書が争われた場合にその自白場面の記録が法廷に出されるだけであり、何一つ「可視化」されない。
 しかも、捜査官の判断で記録しなくてもいいという例外が広範にあり、捜査側の都合で自由自在なのだ。
 国会審議で、法務省は、昨年10月から検察庁が、供述が立証上重要な事件、任意性が争われる事件については(参考人調べも含め)罪名を問わず独自に録音・録画を行っていると強調している。しかし、検察が広く録音・録画する理由とは何か。
 今年2月12日付で最高検は「取り調べの録音・録画を行った場合の供述証拠による立証の在り方等について(依命通知)」を全国の検察に通達した。そこには、「録音・録画した記録媒体を実質証拠として請求」「当初から記録媒体を実質証拠として請求することを目的として録音・録画を行っても差し支えない」とある。要するに、録音・録画は、自白の任意性の立証のための捜査側の武器どころか、自白内容をビジュアルに証明する実質証拠とするためであるというのが検察庁の狙いなのである。
 録音・録画制度には評価しうるところなどみじんもなく、徹頭徹尾許し難いものだ。

(写真 「新捜査手法」法案の衆院審議が始まった5月19日、国会前で徹底弾劾しシュプレヒコール)

警察官だけで盗聴し放題に

 新捜査手法法案の悪辣さは第二に、盗聴の拡大と自由放題化である。
 現行法では薬物、銃器など4罪種に限定されていたのを、殺人、傷害、窃盗、詐欺などの一般刑法犯や爆発物取締罰則、児童ポルノ関連犯罪などに大幅に拡大する。事実上すべての犯罪を対象にできる。盗聴の対象となる通信は、すべてが自動的に警察施設に送信され、警察施設の中で専用装置で受信して警察官が盗聴を行うことが可能になり、通信事業者の立ち会いはなくなる。警察官だけで好きな時に好きなように盗聴できるのだ。
 盗聴は、本質的に予防盗聴であり、犯罪のおそれがあると見なした対象の日常活動を継続的に監視するものである。闘う労働組合や市民運動も「犯罪のおそれがある団体」として、ターゲットになることは間違いない。闘う団体の団結破壊こそが狙いなのだ。

「司法取引」で他人売り渡す

 新捜査手法法案の悪辣さは第三に、日本版司法取引の導入である。
 日本版司法取引は、自分が助かるために他人を売り渡す制度だ。「証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度」と言い、他人の犯罪事実について捜査協力する見返りに、検察官が不起訴や軽い求刑などの約束を、被疑者・被告人と正式に文書で交わす制度である。
 自分の犯罪を明らかにして軽くなる外国の司法取引と異なり、他人の犯罪の情報に特化している。ウソの供述を強制し、デッチあげ弾圧に加担させることが狙いだ。
 具体的にどのように取引が行われるのか。通常の取り調べの中で、取調官から被疑者Aに取引が持ちかけられる。「Bのことを話してくれないか。君に有利に取引できるんだが」と、露骨に利益誘導がされる。取調官がほしい話が出てこなければ取引にはならないから、Aは取調官が求めているストーリーを競って話そうとする。取調官から示唆されれば、それが求められているストーリーとわかり、それに沿って供述する約束をさせられるのだ。
 こうして、Aの供述が他人Bの刑事事件で有利に利用できると判断されてはじめて、協議手続きに入ることになる。Aは協力行為を終えるまで不起訴などの恩典を受けられない。途中でやめると、合意からの離脱として不利益を受けるので、離脱しないよう圧力を受け続ける。しかも、Bの刑事裁判で合意と違う内容を証言したら、虚偽供述罪で5年以下の懲役になりかねない。
 他方、ターゲットとされたBの側では、司法取引による供述の弾劾はきわめて困難である。また、Aの供述には補強証拠は不要で、Aの一方的な供述だけで有罪となるので、ターゲットとされると一方的に不利な立場に置かれる。
 司法取引には弁護人も立ち会うが、弁護人は何も証拠を見られずAの供述結果しか知らない状態で合意書面に署名を迫られることになる。弁護人がデッチあげ弾圧に協力させられる構造になっており、弁護活動の解体攻撃である。
 検察官の方から免責を与えて証言を強制する刑事免責制度もある。協力しない参考人を証人尋問に呼び出し、免責の条件で裁判所が証言を強制する制度である。「あなたは免責だ」とすることで証言拒否権を奪い、証言拒否罪で威嚇(いかく)して証言を強制するという、参考人に対する究極の黙秘権剥奪(はくだつ)攻撃なのだ。他人売り渡しの証言強制であり、司法取引の強制でもある。まさに、人間の結合、団結を破壊し、冤罪をつくり出すのが司法取引なのである。

実態も暴けない「匿名証人」

 新捜査手法法案の悪辣さは第四に、警察協力者などの証人を隠す制度新設である。
 証人が氏名・住居を隠したいと言えば、法廷でも訴訟の記録上でもすべて匿名にするばかりか、被告人や弁護人にすら住居氏名を開示しないで匿名を認めることになる。証人を別の場所でビデオリンク方式で尋問できるようにもなった。
 被害者保護制度だと誤った報道がなされ見過ごされがちであるが、被害者保護制度は別にある。匿名を求める証人というのは、警察に協力する情報提供者が念頭に置かれている。さらに、潜入捜査の究極の形として、潜入捜査官が身分を隠したまま匿名で証言することも想定されているのだ。匿名証人は実態を暴くことも追跡調査もできない。匿名証人の秘匿情報を暴く弁護人には懲戒請求も待っている。
 警察によるフレームアップも可能にし、それを暴くことも困難にする恐るべき制度なのである。
 人民への裏切りを鮮明にした日弁連執行部は、法案が国会に提出されてからも早期成立を呼びかけるという恥ずべき会長声明を2度も出しているが、それに抗し、20の単位会が法案への反対声明を出している。
 裏切りの日弁連執行部を打倒し、新捜査手法法案をなんとしても阻止しよう。完全黙秘・非転向の闘いと団結の拡大こそ勝利の道だ。6・15国会包囲大行動の爆発で、戦争法案もろとも新捜査手法法案を葬ろう。

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