福島 小児甲状腺がん127人に 「過剰診断ゆえ多発」の大うそ検査責任者の鈴木眞一は辞任 2巡目の検査で新たに15人にがんが判明

週刊『前進』06頁(2688号04面02)(2015/07/06)


福島 小児甲状腺がん127人に
 「過剰診断ゆえ多発」の大うそ検査責任者の鈴木眞一は辞任
 2巡目の検査で新たに15人にがんが判明


 福島県民健康調査検討委員会は5月18日、原発事故当時18歳以下の福島県の子ども約38万5千人を対象にした今年3月末までの甲状腺検査で、127人が甲状腺がん(悪性ないし悪性疑い)と判明したと発表した。昨年3月までの1巡目の「先行検査」での112人に加えて、昨年4月からの2巡目の「本格検査」でさらに15人も発見された。127人のうち104人が甲状腺摘出手術を受け、残る23人が手術を待っている。「100万人に1〜2人」と言われる小児甲状腺がんが、福島では約2300人に1人というとんでもない高率で発症している。
 しかも2巡目の検査でがんが見つかった15人は、1巡目の検査では8人が「A1」判定、6人が「A2」判定、1人が「B」判定だった。A1判定・A2判定であろうと、その後に甲状腺がんを発症することを示した、重大な事態である。
 これほどまでに小児甲状腺がんが多発していながら、同検討委員会の星北斗座長は「現時点で、放射線の影響は考えにくい」とコメントした。許すことはできない。

原発事故の影響であることは明らかだ

 そもそも「先行検査」「本格検査」という呼び方自体が、「原発事故の影響ではない」とする意図にもとづくものだ。1巡目を「先行検査」と名付けたのは、〝チェルノブイリでは最短4、5年で甲状腺がんが増加した〟という根拠のない前提にもとづく。〝3年以内に見つかったがんは原発事故の影響ではない。県内の子ども全員を対象にスクリーニング検査した結果、事故前にできていた甲状腺がんが見つかっただけ〟と言い張るためだった。
 しかしそれならば「本格検査」でなぜ15人もの甲状腺がんが見つかったのか? 127人もの子どもの甲状腺がんの原因が原発事故と放射線被曝であることが、言い逃れようのない現実としてはっきりしたのである。
 しかも福島県立医大教授の鈴木眞一が昨年8月、甲状腺摘出手術を受けた子どものうち8割以上に転移が見つかったと明らかにした。県立医大が手術した54人のうち、8割を超える45人は腫瘍の大きさが10㍉超かリンパ節や他の臓器に転移し、2人は肺にがんが転移、7人は腫瘍が気管に近接していたのだ。
 体全体の新陳代謝を促進するホルモンを出す甲状腺を取り除いてしまうことは、成長期の子どもに深刻な影響をもたらすため、摘出したら一生、毎日ホルモン剤を飲み続けなければならない。さらに一生、がんの転移を心配しなければならない。これほどの苦しみを子どもたちに与えているのが福島原発事故だ。

評価部会は「過剰診断」が原因だと強弁

 127人もの小児甲状腺がんが見つかった現実に、政府も県当局もぐらぐらに揺さぶられている。それゆえ総がかりで原発事故が原因であることを完全に否定しようと躍起になっている。
 5月18日、県民健康調査検討委員会甲状腺検査評価部会が中間取りまとめを提出した。取りまとめは、今年3月までに112人が小児甲状腺がん(疑い含む)と判定されたことを「(甲状腺がんの罹患統計などより)数十倍のオーダーで多い」と認めながら、「被ばくによる過剰発生か過剰診断(生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながんの診断)のいずれかが考えられ、これまでの科学的知見からは......後者の可能性が高い」とした。何の根拠もなく、「被ばくによる過剰発生」ではなく「過剰診断」が原因だと断じたのだ。また「これまでに発見された甲状腺がんについては、被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べてはるかに少ないこと、事故当時5歳以下からの発見はないことなどから、放射線の影響とは考えにくい」とした。
 「生命予後を脅かしたり症状をもたらしたりしないようながん」という主張も本当に許せない。転移の心配がないがんなどない。「科学」の装いをこらすことすら放棄して、ただただ大うそを書き連ねているだけだ。

国・東電・県による健康被害の否定許すな

 今ひとつ、重大な事態が起きた。5月18日の記者会見で突然、県立医大教授の鈴木眞一が甲状腺検査の責任者を辞任したことが発表された。
 鈴木は3・11から4年間、甲状腺検査の責任者を務め、甲状腺がんの子どもの約9割の手術を執刀してきた張本人だ。長瀧重信(「日本における甲状腺医学の第一人者」と言われる。長崎大学名誉教授。現在は環境省専門家会議座長)―山下俊一(長崎大学在学時代からの長瀧の直系の「弟子」)―鈴木眞一のラインの一角が完全に崩れ去ったのである。
 鈴木の後任は、県立医大教授の大津留晶。「私自身は内科医なので治療することはできない」と語っているとおり、甲状腺がんや手術の実態を掌握してもいない、まったくの素人だ。
 鈴木辞任の表向きの理由は「甲状腺がんの治療に専念するため」。こんなものはただの言い逃れに過ぎない。
 県当局は「過剰診断」論を押し通すために、「8割以上の転移」などと証言する鈴木を引きずり下ろしたのだ。甲状腺がん多発の原因が「過剰診断」なのであれば、全員の甲状腺検査を続けること自体が必要なくなる。「30年間続ける」として始めた検査を、希望者だけの検査に縮小し、公費負担もやめたい――これが県当局の本音だ。
 しかし検査を縮小したら、県民の根底的な怒りが噴き出すことは間違いない。ここにこそ敵の大きな矛盾がある。こんな体制の破産は必至だ。
 小児甲状腺がんを始めとする深刻な健康被害こそ、二度と原発事故を引き起こしてはならないこと、すべての原発を再稼働してはならないことを示している。国と東電・県当局による健康被害の否定を絶対に許さず、その責任を徹底的に追及しぬこう。
(里中亜樹)

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県民健康調査甲状腺検査の判定基準 【A1】結節やのう胞を認めなかった場合。【A2】5㍉以下の結節や20㍉以下ののう胞を認めた場合。【B】5・1㍉以上の結節や20・1㍉以上ののう胞を認めた場合/甲状腺の状態等から2次検査を要すると判断した場合。【C】甲状腺の状態等から判断してただちに2次検査を要する場合。A1、A2判定は2次検査の対象とされず、「2年後の検査まで経過観察」として放置される。

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