原子力災害対策指針を断罪する 事故発生でも避難させず毎時500マイクロまで被曝強制

週刊『前進』08頁(2689号04面02)(2015/07/13)


原子力災害対策指針を断罪する
 事故発生でも避難させず毎時500マイクロまで被曝強制

SPEEDIの活用を削除

 指針は2012年10月に制定され、以後、4回の改定を経て今日に至っている。今回の改定で最も許しがたいのは、住民の避難が必要か否かを判断するのにSPEEDIを使わず、実測モニタリング(監視)で放射能を測定し判断するとしたことだ。
 指針はSPEEDIを活用しない理由として、「(福島第一原発事故の際)実際にはまったく機能しなかった」と述べているが、完全なうそだ。福島原発事故においてSPEEDIの予測は現実の放射性物質の拡散とほぼ合致しており、有効性を発揮したことは明白だ。にもかかわらず、実際には政府がSPEEDIの情報を隠したことによって放射能のより高い北西部に住民を避難させ、そのために多くの人が被曝させられたのだ。
 安倍政権と規制委員会がSPEEDIの活用を放棄するのは絶対に許されない。

放射線放出に住民をさらす

 今回の改定だけが問題なのではない。そもそも12年の制定から4回の改定をとおして、指針には再稼働と原発政策推進のためには労働者人民を被曝させてよいとの意志が貫かれている。特に問題なのは以下の点だ。
 一つ目に、指針は、避難などが必要かどうかを判断するための対策の「重点区域の設定」として原発から「約5㌔メートル以内(PAZ)」と「5〜30㌔メートル(UPZ)」を設定している。改定前は「30㌔メートル圏外」の区域もあったが、今回の改定ではこれをなくしてしまった。
 問題は、過酷事故が発生した場合、放射能の影響が及ぶ範囲はこれをはるかに超えるということだ。これらの区域設定そのものが放射能の汚染範囲を極端に狭め、過小なものと印象づけるために行われているのだ。
 福島原発事故の場合、大量の放射性物質が大気中と海洋に放出され、世界中に流れていった。福島県と東日本一帯が高濃度の放射能に汚染され、特に福島県の東半分はチェルノブイリ事故の基準で言えば「強制避難区域」となった。また、大飯原発3、4号機の運転差し止めを求めた裁判で福井地裁は昨年5月21日、〝原発から250㌔圏内は放射能被害を受ける危険がある〟と認定したほどなのだ。
 指針がこのような区域設定をしているのは、住民を避難させないことを目的としているからだ。
 二つ目に、緊急事態か否かを電力会社が判断するための基準として指針が設定している「緊急事態区分及び緊急時活動レベル」なるものの超重大性だ。これは「警戒事態」「施設敷地緊急事態」「全面緊急事態」の三つのレベルに区分され、それぞれのレベルの事態として指針は十数個の具体例を挙げている。
 「緊急事態区分」は最初のレベルでさえとんでもない大事故だ。だが指針では破局的な事態になるまで住民を避難させないと決めている。
 例えば、「原子炉への全ての給水機能が喪失」(警戒事態)という大事故が発生しても誰一人として避難させないのだ。さらに進んで、「放射性物質又は放射線が原子力事業所外へ放出」(施設敷地緊急事態)された事態になっても一般住民は避難させない。5㌔圏内の要援護者の避難のみだ。最後の「全面緊急事態」で「原子炉を停止することができない」「放射性物質又は放射線が異常な水準で原子力事業所外へ放出」といった局面に至って住民を避難させ始めるというのだ。
 だがこの段階でさえ、避難させるのは5㌔圏内のみだ。5〜30㌔圏内の住民はこの段階でもなお避難させない。この圏内の住民は、放射線の値が毎時500㍃シーベルトとなった段階で初めて避難となる。毎時500㍃シーベルトとは、原発労働者が1年間に浴びる限度と法律が定めた50㍉シーベルト(これ自体、許すことができない高線量だ!)に、ほぼ4日で達してしまうほどのものだ。しかも先に述べたように、ここに至っても30㌔以遠の住民は避難させないのだ。

「避難計画」も発動させない

 原発事故が発生した際は指針に基づいて、国が避難指示を出すか否かを決める。原発地元自治体の「避難計画」は、この指示によって実行に移されるという関係だ。だから、この指針は悪名高い避難計画さえ発動させない役割を果たすものであり、避難計画に輪をかけて犯罪的なものだ。
 安倍政権がこれほどまでに住民を避難させようとしないのは、福島原発事故によって起こった事態への政府と資本家階級の恐怖がある。原発の再稼働強行によって事故が発生し数十〜百万人単位での避難となれば、避難者を先頭にした労働者人民の怒りが大爆発し、「こんな政府は倒せ!」とプロレタリア革命が労働者人民の要求となってしまう。何十兆円、あるいはそれをも超える賠償金の発生も資本家階級の支配を崩壊させるものとなる。だから、安倍政権と規制委員会は原発事故が起こっても〝避難の必要はない〟と強弁し、住民に被曝を強制して支配の危機を乗り切り、生き残ろうとしているのだ。
 動労水戸を先頭に被曝労働拒否で闘う労働組合をつくり上げ、ゼネストに向かって突き進もう。その力で再稼働を阻止し安保・戦争法案を粉砕して安倍政権を打倒しよう。NAZEN東京が主催する7・19高円寺デモ・中野集会に集まろう。
(北沢隆広)

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SPEEDI 正式名称は「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」。原発から放出された放射能の量・時間と、その時の気象・地形などのデータから、放射能がどのように拡散するかを予測する。
PAZ、UPZ PAZの正式名称は「予防的防護措置を準備する区域」、UPZは「緊急時防護措置を準備する区域」。だが、ペテン的な名称であり、実際には住民の防護はまったく考えていない。

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