「高齢者の地方移住」提言許すな 地方に追放し介護切り捨て 「生産性」掲げ資本の餌食に

週刊『前進』10頁(2692号02面03)(2015/08/03)


「高齢者の地方移住」提言許すな
 地方に追放し介護切り捨て 「生産性」掲げ資本の餌食に

10年後には介護難民13万と脅し

 〝10年後には東京圏で13万人が介護難民となるから、高齢者は地方に移住するよう促せ〟
 民間研究機関「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相)は6月4日、団塊の世代が75歳以上になる10年後には、介護施設と人材の不足で東京圏(1都3県)で13万人、全国で約43万人が必要な介護を受けられない「介護難民」になると試算。高齢者を「余裕のある地方に移住させる」などと提言し、マスコミが大々的に報じた。安倍政権は6月30日に閣議決定した骨太方針や地方創生基本方針に、提言に基づく施策を盛り込んだ。
 これに対して、反対の声がごうごうと巻き起こっている。「高齢者の切り捨てだ」「医療や介護を地方に押しつけるのか」「政府の医療・介護予算削減で余裕のある地方などどこにもない」
 安倍政権は、人びとが生きていく土台というべき医療や介護を奪って住んできた土地から追い出し、そこをも更地化して都市再開発の餌食としようとしている。それは、1%の資本家の利益と権益のために、戦争に突進することと一体だ。
 日本創成会議は安倍の旗振り役だ。昨年、「少子化と人口減少が止まらず存続が危ぶまれる」として全国896の市区町村を「消滅可能性都市」と名指ししてキャンペーンを展開した。『中央公論』14年7月号の特集タイトルは「すべての町は救えない」だった。「選択と集中」と称して地方を切り捨て、施設の統廃合・民営化を進めて資本のもうけとする意図を隠そうともしない。
 JR資本は最大の先兵だ。鉄道・駅業務の全面外注化・無人駅化、総非正規職化、ローカル線廃止とともに、20年の東京オリンピックを契機・口実に「国家戦略特区」による規制撤廃をも使った駅周辺丸ごと再開発で巨利を得ようとしている。同時に常磐線全線開通で福島の高放射線量地域への「帰還」と被曝労働を強制しようとしているのだ。国鉄決戦こそ、この新自由主義に立ち向かい打ち倒す最大の闘いだ。
 現状ですら大恐慌下の貧困と社会保障削減で介護崩壊が進行している。

社会保障削減で介護崩壊が進行

 昨年の提言で「消滅可能性都市」とされた秋田市は今回、医療介護体制に「余力がある」とされた。しかし市内の特別養護老人ホーム(特養)に入所希望の待機者は約1千人。「職員が慢性的に不足し、介護報酬も引き下げられて厳しい」と職員は語る。入所待ちの高齢者を抱えている地方自治体がほとんどであり、東京圏と変わらない。
 それでも全国の病院の病床や介護施設は「過剰」とされ統廃合されようとしている。
 厚生労働省は医療・介護費抑制のために、14年6月成立の医療・介護総合法のもとで、患者が長期入院する「療養病床」の削減を進めようとしている。「10年後には最大20万床の抑制が可能」としている。自宅や介護施設などでのケアに切り替えようというのだ。しかし受け皿となる介護施設も削減される。在宅での訪問診療の拡充の余地などないまま、「介護難民」の大量発生が迫っている。
 介護保険料は、制度が始まった00年度は平均月額2911円だったが、今年4月から5514円に上昇し、生活困窮と保険料の値上げが高齢者を直撃している。保険料を払えず2年以上滞納したペナルティーで、自己負担が通常の1割から3倍の3割になった高齢者が13年度で1万人超に上った。
 さらに8月から、収入が年金で年間280万円以上あるだけで2倍の2割負担になる。厚労省はその対象は在宅で15%、特養の入居者で5%ほどと見込む。またこれまで、特養などの施設を利用する高齢者で市町村民税が非課税の人なら受けられた自己負担の軽減が、単身なら1千万円、夫婦の場合は計2千万円を超える資産がある人は軽減されなくなった。
 悲鳴が上がり、必要な介護も控えざるをえない圧力となっている。

成長戦略に盛り込み強搾取促す

 6月30日閣議決定の骨太方針は医療・介護の「基幹産業化」を掲げ、成長戦略は小売業や飲食業、道路貨物運送業などとともに「生産性向上に官民挙げて取り組む」とした。非正規職労働者をこき使って暴利を得てきたコンビニや「すき家」、「和民」などを手本に、介護労働者をさらに劣悪な労働条件で働かせようとしているのだ。
 安倍政権は〝医療・介護でもうける〟全額自己負担の「保険外介護」を進めようとしている。医療格差を拡大し皆保険制度解体につながる「混合診療」と同じだ。外出時の付き添いや日帰り施設での弁当販売といった保険適用外の指針を作り、民間事業者の参入を促すとする。介護保険外の市場規模は現在の0・6兆円から20年度には1・5兆円に増えるとの民間企業の試算も出ている。

「命の経費」まで削る安倍を倒せ

 新自由主義の破綻と命を奪う攻撃はここまで来た。
 すでに4月からの介護報酬削減で労働環境は一層悪化し、これと激突する労働組合の闘いが始まっている。労働者の誇りと怒りを爆発させて、労働と社会を取り戻そう。国鉄決戦を基軸に、労働者階級の未来をかけて安倍打倒のゼネストとプロレタリア革命に立ち上がろう。
(大迫達志)

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