安全破壊のATACS 設備コストの大幅削減狙い「1閉塞1列車」の原則解体

週刊『前進』06頁(2704号02面02)(2015/11/02)


安全破壊のATACS
 設備コストの大幅削減狙い「1閉塞1列車」の原則解体


 JR体制は破産をさらけ出しつつ、外注化・非正規職化の攻撃をさらに激化させることで延命しようとしている。技術継承もままならず、大量退職時代を迎える中で、JRは外注化とともにITへの過度の依存で危機をのりきろうとしている。だがそれは一層の安全破壊をもたらすものだ。

仙石線への導入強行したJR東

 3・11東日本大震災以来、一部区間が不通となっていたJR東日本の仙石線(仙台―石巻間)が5月30日に全線開通した。仙石線にはJR東日本がATACS(先進的列車制御双方向通信システム)と名づける列車制御方式が使われている。
 JRの説明によれば、ATACSとは次のようなものだ。①列車内の装置が連続的に自らの位置を算出し、そのデータを無線で地上の中央装置に送信する、②中央装置は全列車の位置を把握し、各列車がその先行列車に衝突しないために停止すべき位置を算出して、無線で各列車に送信する、③各列車は送られたデータをもとに最適の速度パターンを作成する、④列車が策定された速度パターンを超えると、自動的にブレーキがかかる。
 JRやマスコミは、これを「今までよりもきめ細かな制御が可能になる」として、より安全なシステムであるかのようにもてはやしている。だが、ATACSが正常に機能するためには、列車は常に自分の位置を正確に把握できていなければならないし、無線通信が妨げられるような事態も起きてはならない。

首都圏への拡大狙うJR許すな

 そんなことが間違いなく保障されるのか。ATACSは安全確保の原則を根本的に破壊する。
 ATACSが導入された線区では、線路脇に信号機がない。従来の鉄道システムは、信号機から次の信号機までの間を一つの「閉塞(へいそく)区間」とし、一つの閉塞区間には一つの列車しか入れないようにして、追突事故を防いでいる。先の閉塞区間に先行列車が存在すれば信号は赤になるし、列車は赤信号の手前で絶対に停止しなければならない(図参照)。
 だが、ATACSの場合、列車が停止すべき位置は先行列車との車間距離や列車相互の速度の差によって変動する。絶対的な停止線はなくなり、「1閉塞区間1列車」の大原則は解体される。
 新幹線も線路脇に信号機はない。高速走行する新幹線の場合、運転士が赤信号を認識してからブレーキをかけても信号機の手前で止まることはできないし、次々と視界に飛び込んでくる信号を一つひとつ確認すること自体、人間の肉体的限界を超えている。だから新幹線は、現在のスピードとその時点で許容される最高速度が運転台に表示されるシステムになっている。だが、新幹線の線路も固定された閉塞区間に区切られていることに変わりはない。許容される最高速度は、先行列車がどの閉塞区間に存在するかによって算出され、「1閉塞区間1列車」の原則は守られている。
 山手線や京浜東北線も線路脇に信号機はないが、これも大きく言えば新幹線のシステムを在来線に応用したものだ。
 ATACSはこれらとは根本的に異なる。ATACSが導入されれば、信号機も、列車がどの閉塞区間に存在するかを検知するための電気回路も不要になる。それらに付随する膨大なケーブル類もいらなくなる。こうした設備を点検し修理する人員やコストも大幅に省ける。これがJRの狙いだ。IT化を進めれば労働者の熟練も必要とされず、駅も車掌も運転士も含む鉄道のすべての業務をさらに外注化・非正規職化できるというのが、JRの思惑だ。
 また、ATACSでは固定した閉塞区間がなくなるから、想定上の車間距離を短くすれば、間合いを詰めて列車を増発することも可能になる。もちろん、こうした過密ダイヤ化は、事故の危険を格段に高める。
 11年10月、震災後に一部復旧した仙石線でJR東日本はATACSの使用を開始した。安全性が確証されていないシステムを、乗客も列車本数も多い首都圏にいきなり導入できないから、地方の線区でいわば「人体実験」を行ったのだ。
 JR東日本は、ATACSを17年秋に埼京線に導入する計画だ。ATACSをさらに簡素化させたCBTC(双方向通信式列車制御システム)と呼ばれる装置を20年に常磐緩行線(綾瀬―取手間の各駅停車)に導入する計画もある。JR西日本も、ATACSをもとにした列車制御システムを17年度に導入するとして、山陰本線の園部―亀山間で試験運転を行い始めた。

反合・運転保安闘争の真価かけ

 動労千葉の反合・運転保安闘争路線は、1972年の船橋事故闘争によって確立された。同年3月に船橋駅構内で起きた列車追突事故の責任を運転士に押しかぶせる国鉄当局・国家権力と対決し、動労千葉は「事故の全責任は当局にある」を対置して闘いぬいた。
 この事故の背景には、過密ダイヤを維持するため違法な「0号信号機」を設置した上、運転士に「ATS(列車自動停止装置)が作動してもそれを解除してゆっくり進め」と指導していた国鉄当局の施策があった。船橋事故闘争は、「1閉塞区間1列車」の大原則を解体した国鉄当局にこそ事故の責任があることを突き出した闘いだった。 今、JRが強行しようとしているのは「閉塞区間」という概念そのものの解体だ。こんなことを許して鉄道の安全が保たれるはずがない。
 反合・運転保安闘争路線を貫く動労総連合の建設は待ったなしだ。最大の決戦場である東京に、今こそ動労総連合の旗を打ち立てよう。外注化・非正規職化の攻撃を打ち破ろう。
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