「被曝による過剰発生」 岡山大教授ら論文発表 福島の小児甲状腺がんは全国平均の実に20〜50倍

週刊『前進』06頁(2704号04面02)(2015/11/02)


「被曝による過剰発生」 岡山大教授ら論文発表
 福島の小児甲状腺がんは全国平均の実に20〜50倍

「避けられないさらなる多発」

 福島県の小児甲状腺がんの発症率が日本全国の年間発生率と比較して最大50倍に上るという、実に恐るべき事実が明らかとなった。岡山大学の津田敏秀教授らのチームが執筆した、福島県内での甲状腺がん発生に関する疫学論文による。同チームは甲状腺がん多発の原因を「被曝による過剰発生」としている。
 同論文は10月7日、国際環境疫学会の学会誌『エピデミオロジー(疫学)』電子版に掲載された。データは福島県が行っている甲状腺検査で、被曝による小児甲状腺がんの激増を県が隠蔽(いんぺい)していることを明らかにした。津田教授は翌8日、外国特派員協会で記者会見を開き、論文の概要を説明した。
 津田教授らは、福島県の甲状腺検査の1巡目の検査(14年3月末まで)、2巡目の検査のうち14年12月末までの検査で甲状腺がんと確定した110人を対象に研究。県内を9地域に分け、国立がん研究センターのデータによる同年代の全国平均推計発生率と比較し、潜伏期間を4年として補正して分析した。
 その結果、中通り地域中部(二本松市、本宮市、大玉村、三春町)で発生率比が50・38倍と最も高かった(図参照)。これは100万人あたり605人の割合となる。
 続いて高率だったのは中通り地域南部(天栄村、西郷村、白河市、泉崎村)の40・49倍、いわき市の40・46倍、郡山市の38・54倍。甲状腺がんが検出されなかった県北東部の相馬市と新地町を除き、他の地域の発生率比はみな20〜50倍だ。
 津田教授は記者会見で「放射線の影響による著しい甲状腺がんの多発が起こっている。チェルノブイリで4年以内に観察された多発と同じような状況。チェルノブイリで起こった5、6年目以降の大きな多発がこれから起こるような状態が避けがたい」と述べた。

スクリーニング効果論に反論

 記者の「県の検討部会などでは、『過剰診断』『スクリーニング効果』と言われているが?」という質問に対して、津田教授は「そう言う先生はスクリーニング効果や過剰診断でどのくらいにせの多発が起こってくるのか、倍率を示した論文を読んだことがない人。せいぜい2〜3倍、あるいは6〜7倍。福島県では20倍から50倍の多発が起こっている。スクリーニング効果があったとしても、この20倍から50倍の多発のほんの一部」と真っ向から反論した。
 さらに被曝を避けるための対策を何も行わない政府や県を強く批判し、「安定ヨウ素剤を全員の子どもに飲ませておけば甲状腺がんは半分ぐらいになることが期待できた。チェルノブイリの経験が生かされていない。『若い人ほど放射線の影響は大きい』という知識を教えるべき。被曝量の多い場所にいる時間を短くすることでも大きく変わる。不要な被曝を避けるための知識を福島県に住み続けなければならない人たちにきちんと与えるべき」と強調した。
 「スクリーニング効果」「過剰診断」などと言って甲状腺がん激増を否定することはまったくの大うそだ。子どもたちをこれ以上被曝させてはならない。
 しかし政府や県は避難指示の17年3月一斉解除を始め、住民を高線量地域に無理やり帰還させ被曝させようとしている。帰還と被曝の強制は川内、伊方と立て続けに狙われる原発再稼働と一体のものだ。福島の怒りと深くつながり、再稼働と帰還・被曝強制を許さず闘おう。
(里中亜樹)

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福島県の小児甲状腺がん これまでに1巡目で約36万人、2巡目で約17万人が受診し、1巡目で113人、2巡目で25人、計138人が「悪性ないし悪性疑い」と診断された。1巡目では113人全員の手術が終わり112人が悪性、2巡目では6人を手術し全員が悪性だった。県民健康調査検討委員会は健康被害を過小に見せるため、手術の結果「良性」と判明した1人を「悪性ないし悪性疑い」の人数からはずして発表している。しかしこの1人も手術され甲状腺が摘出されたことには変わりない。そのため本紙はこの1人も「悪性ないし悪性疑い」の人数から削っていない。

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