福島小児甲状腺がんが167人に 検討委の「放射線の影響ではない」論はすべてうそだ

週刊『前進』02頁(2738号02面02)(2016/04/07)


福島小児甲状腺がんが167人に
 検討委の「放射線の影響ではない」論はすべてうそだ


 福島の県民健康調査検討委員会が2月15日、昨年12月末現在の甲状腺検査の結果を発表し、小児甲状腺がんは疑いを含めて167人となった。11〜13年度の先行検査で診断された子どもが116人、14年度以降の本格検査で診断された子どもが51人だ。そのうち117人はすでに甲状腺摘出手術を終えている。
 本格検査で見つかった51人のうち47人が、先行検査では「A1判定(結節やのう胞を認めなかった)」「A2判定(5㍉以下の結節や20㍉以下ののう胞)」だった。先行検査以降の2〜3年で新たに発症したことは間違いない。3・11福島原発大事故による被曝は、これほど深刻な健康破壊をもたらしているのだ。
 検討委はこの間、「県民健康調査における中間取りまとめ」の作成へ向けて議論を重ねてきた。2月15日の会合には星北斗座長(県医師会副会長)がその「最終案」を提出した。

〝死にいたらぬ〟の暴論を許すな

 そこでは「わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患(りかん)統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い甲状腺がんが発見されている」と記したが、「将来的に臨床診断されたり、死に結びついたりすることがないがんを多数診断している可能性が指摘されている」とした。なんという暴論か!
 事故から50年、100年と検査を続けた結果、〝死に結びつかなかった〟と結論づけるのであれば、それはあり得るかもしれない。しかし今発見されているがんが〝生涯、臨床診断されない〟〝死に結びつかない〟などと、現時点でどうして言い切れるのか!
 からだ全体の新陳代謝を促進するホルモンを出す甲状腺の摘出は、成長期の子どもに深刻な影響をもたらす。そのため全摘出した子どもは一生、毎日ホルモン剤を飲み続けなければならない。また手術を受けたら、チェルノブイリで「チェルノブイリ・ネックレス」と呼ばれた、甲状腺摘出手術後に首に残る水平方向の手術創(傷痕)を一生抱えて生きなければならない。その深刻さを考えた時、こんな暴論は本当に許せない。

チェルノブイリに近似する発症

 「最終案」はさらに以下のように記している。
 「これまでに発見された甲状腺がんについては、①被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べてはるかに少ないこと、②被ばくからがん発見までの期間が概(おおむ)ね1年から4年と短いこと、③事故当時5歳以下からの発見はないこと、④地域別の発見率に大きな差がないことから、放射線の影響とは考えにくいと評価する」(丸付き数字は引用者)
 これらはいずれも、チェルノブイリの実態研究などをとおして、まったく事実に反することが明らかになっている。
 『世界』3月号に、ロシア研究者の尾松亮さんが「『チェルノブイリ被災国』の知見は生かされているか」という論文を掲載し、チェルノブイリ原発事故25年の2011年にロシア政府が発行した『ロシア政府報告書』を紹介した。その内容にもとづき、以下、検討委のうそを暴きたい。
 「①被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べてはるかに少ない」について。
 UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)は、チェルノブイリ原発事故の高度汚染地域は1歳児の甲状腺吸収量が500㍉グレイ、福島県の最大値は約80㍉グレイと推計している。これだけを比較すれば、福島の方が被曝量は低いように見える。
 しかしロシアでは、より低い被曝量が推定される地域でも甲状腺がんが増加した。チェルノブイリ原発から500㌔以上離れたロシアのカルーガ州南部は10〜50㍉グレイ程度の甲状腺吸収量だったが、この地域でも小児甲状腺がんは増えた。
 「②被ばくからがん発見までの期間が概ね1年から4年と短い」について。
 日本では「チェルノブイリで甲状腺がんが発生したのは4~5年後」と言われてきた。しかし『ロシア政府報告書』には、「チェルノブイリ原発事故以前、甲状腺がんの検出件数は平均で1年あたり102件であった。事故以前の時期の最小年間件数は、1984年の78件である。それがすでに1987年には甲状腺がん検出数が著しく増加し、169件に達した」とある。
 1986年のチェルノブイリ事故の翌年には増加したのだ。〝3年目までの甲状腺がんは放射線の影響ではない〟というのは事実に反する。
 「③事故当時5歳以下からの発見はない」について。
 「チェルノブイリでは事故時5歳以下の層に多発した」と言われることが多い。しかし同報告書によれば、事故時0〜5歳の子どもに増えたのは10年後で、事故直後の年から増え始めたのは事故時15〜19歳の甲状腺がんだ。福島で事故時5歳以下の甲状腺がんが増えていない現状は、チェルノブイリに近似している。
 「④地域別の発見率に大きな差がない」について。
 この点は、岡山大学の津田敏秀教授が昨年10月の論文で、地域別の発見率は明らかに差があると反論した。県内を9地域に分け、同年代の全国平均推計発生率と比較した結果、甲状腺がんが検出されなかった県北東部を除き、他の地域の発生率比は20〜50倍だった。

命と健康を守る広範な運動を!

 甲状腺がんなどの健康被害をまったく認めない日本政府や県当局に対して、国際的な批判が高まっている。
 国際環境疫学会は1月22日、政府と県に書簡を送り、甲状腺検査で通常より12倍のがんの多発が起きているのは「例外的に高いリスク」であると指摘した。県民の健康状態を記録・追跡し、原発事故によるリスクをさらに解明する手段を取るよう国や県に要請。専門家組織として調査活動を支援する意向も示した。
 安倍は4月1日の核安全保障サミットで「原子力の平和的利用を再びリードすべく歩み始めた」と演説し、原発の再稼働と海外輸出を推進することを宣言した。深刻な健康被害の責任も一切取らずに再稼働・海外輸出に突き進むことなど絶対に許してはならない。
 チェルノブイリ原発事故の被災者補償に関する「チェルノブイリ法」が制定されたのは、事故5年後の1991年だ。今年は3・11から5年。福島と全国の子どもと労働者人民の命と健康を守るため、広範な運動を巻き起こそう。全国の保養活動もますます大切だ。「避難・保養・医療」を掲げて活動するふくしま共同診療所への支援を広げよう。
(里中亜樹)

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