東京メトロ九段下駅 ホーム要員を廃止し事故 猪瀬の「壁撤去」で危険増す

週刊『前進』04頁(2743号02面02)(2016/04/25)


東京メトロ九段下駅
 ホーム要員を廃止し事故
 猪瀬の「壁撤去」で危険増す

ベビーカーを100㍍引きずる

 4月4日午後3時過ぎ、東京メトロ(旧営団地下鉄)半蔵門線の九段下駅で起きたベビーカー引きずり事故は典型的なホーム事故だ。
 10両編成の押上行き電車は、6両目のドアにベビーカーの左前輪を挟んだまま発車し、ベビーカーは100㍍先のホーム端の柵にぶつかり壊れて線路に落ちた。車掌は挟まったベビーカーに気づかないまま電車を発車・進行させ、その後、乗客によって車内の非常通報ブザーとホーム上の非常停止ボタンが押されたが、非常ブレーキをかけなかった。もしベビーカーに子どもが乗っていたら大変なことになっていた。
 東京メトロ資本は、昨年4月採用でこの日が単独乗務19日目という車掌に全責任を押しつけ、同時にマスコミはベビーカーをめぐる乗客や乗客間のマナーの問題にすり替えている。しかし最大の原因は、東京メトロがホーム要員を配置していなかったことにある。
 事故現場の④、⑤番ホームはいわゆる舟形で、④番が東京メトロ半蔵門線・押上方面行きで、⑤番が都営新宿線・新宿方面行きだ。東京メトロと都営地下鉄という別の事業者の電車が、同じホームの片側ずつを使うという、ほかではありえない構造だ。
 2012年12月に東京都知事になった猪瀬直樹が民営化(特殊会社化)された東京メトロと都営地下鉄との統合・民営化を打ち上げ、13年3月にその象徴として乗換駅である九段下駅の両者を隔てていた壁が取り払われた。その結果、乗り換えを同じホーム上で行うようになって混雑は増し、駆け込み乗車などの危険が各段に増えた。
 しかし東京メトロは、乗降客の安全を確認して出発の合図を送るホーム要員を配置せず、無人のままにしていた。事故後のニュース映像にホームのガードマンの姿が写っているが、彼らは事故後に急遽(きゅうきょ)配置されたものだ。しかし外注企業のガードマンには電車を止める権限は与えられていない。
 常時配置されている都営地下鉄のホーム職員は「列車を動かすのも止めるのも最後は人です」と自分の労働への誇りを持って語ってくれた。
 今回のようなホームでの引きずられ事故や列車との接触、線路への転落などは多発している。

事故が全国一多い地下鉄駅

 マスコミはホームドアを設置すれば事故を防げるかのように言うが、ホームドアの設置に伴いホーム要員をなくしたことにより、事故はかえって増えている。
 14年度の鉄道事業者全体の事故をまとめた国土交通省の統計でも、「人身障害事故は449件、そのうちホーム事故は227件」とされている。人身事故の半数はホームで起きている。
 同年度のホームでの人身事故は、JR東日本で81件、都営地下鉄で4件、東京メトロで15件、大阪市営地下鉄で13件、名古屋市営地下鉄で2件、神戸市営地下鉄で3件起きている。東京メトロと大阪市営地下鉄は特に多い。すべて合理化・人員削減の結果だ。
 東京メトロ九段下駅は全国で一番事故を起こしている地下鉄駅だ。14年6月29日に半蔵門線のホームから転落し電車にはねられ1人が死亡、15年2月5日に半蔵門線のホーム上で電車に接触し1人が負傷、同年4月29日には東西線のホーム上で電車に接触し2人が負傷するなど、事故が頻発している。にもかかわらず東京メトロは危険箇所を放置してきたのだ。
 今回の事故に対し、安全破壊を徹底的に進めるJR東日本がしゃしゃり出てきて「安全はこうやるべき」などと指導めいた発言をしていることも本当に許せない。
 この事故では経験の浅い女性車掌や、無理にベビーカーを乗り入れさせようとした乗客が個人攻撃されている。「いっそのこと車掌をなくせ」という暴論まである。
 マスコミは意図的に「乗客マナー」の問題に事態をすり替え、さらには「マナー向上で20年オリンピックの成功へ」などとキャンペーンしている。冗談じゃない。危険を冒しての駆け込み乗車や、飛び込みによる人身事故の多発は、破綻した新自由主義が引き起こしている問題だ。

闘う労組だけが安全を守る

 車掌や乗客に事故の責任はない。ホームに要員を配置していれば、事故は防げたのだ。東京メトロは事故後にガードマンを配置したが、真に安全に責任をとるなら正規の駅員を配置するべきだ。
 同じホームを共有する都営新宿線も、ホームドアが設置されれば、いずれはホーム要員が削減されることは間違いない。併せて列車のワンマン化も図られるだろう。しかし、ホームドアが設置されてもホーム上の事故を完全に防げるわけではない。ホームドア自体が死角となって新たな危険も生じる。車掌とホーム要員がいてこそ安全が確保できるのだ。
 どの鉄道会社も「ホーム事故ゼロ」を掲げるが、それを実現させるのは労働組合の力だ。「闘いなくして安全なし」は全世界の鉄道労働者の共通のスローガンだ。要員削減、人件費の圧縮、外注化・非正規職化と労働者分断・団結破壊、労働組合破壊が安全を崩壊させるのだ。「もうけがすべて」の資本の論理を打ち砕いて、資本に安全を強制するのは、闘う労働組合の力だけだ。闘ってこそ労働者は安全と協働性を取り戻し、誇り高く生きぬくことができる。
 動労総連合を東京を始め全国に建設する闘いと一体のものとして反合理化・運転保安闘争を推し進め、東京メトロと東京交通労働組合(東交)の中に階級的労働運動の旗を打ち立てよう。
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