福島の小児甲状腺がん173人に 事故当時5歳の男児も新たに発症 原発事故・被曝の影響は明らかだ

週刊『前進』04頁(2761号03面03)(2016/07/04)


福島の小児甲状腺がん173人に
 事故当時5歳の男児も新たに発症
 原発事故・被曝の影響は明らかだ


 福島の子どもたちの甲状腺がんが疑いを含めて173人にも上っている。これほどの激増が、3・11原発大事故による放射能被曝の影響であることは間違いない。この期におよんでも「放射線の影響とは考えにくい」と言い続ける政府・県の責任を徹底追及して闘いぬこう。

「人より倍も疲れる体質に」

 「私は運動がすごい得意だったんですが、ホルモンバランス的に、人より倍も疲れる体質になってしまったのが、すごいつらかったです。何をやってもすごい疲れちゃう。脱力感とか情緒不安定とか。そこはすごい嫌でした」「『遺伝でもない、原発でもない』って言われた時に、原発のせいにしたくないのかなって感じがあって、この先生は本心で話してくれない、距離感があるって感じでした」「24か25までには結婚して、子どもは3人ぐらいほしいです。でも病気のことを考えたら、自分の子どもに影響ないのかなっていうのがすごい心配です。子どもが好きなんで」
 3・11事故当時15歳、高校卒業後に甲状腺がんと診断され、甲状腺摘出手術を受けた20歳の女性の言葉だ(動画サイト YouTube「Young woman from Fukushima speaks out」より)。
 福島の子どもたちの甲状腺がんが激増している現実に対して、政府・県当局は総がかりで「放射線の影響とは考えにくい」と大合唱している。しかしそのものすごい圧力に抗して、甲状腺がんの患者本人や家族が次々に声を上げ始めている。
 この勇気ある行動を守り、彼ら・彼女らの苦しみ、悲しみ、怒りを共有して闘おう。

異常なかった子どもが発症

 福島の県民健康調査検討委員会は6月6日の会合で、11年3・11当時18歳以下だった福島の子どもたちの甲状腺検査の16年3月末段階の結果を発表した。甲状腺がんないし疑いは、合計して173人にも上った。そのうちすでに132人が甲状腺摘出手術を終えている(摘出手術後、乳頭がん130人、低分化がん1人、良性結節1人と判明した)。
 一般に「100万人に1〜2人」といわれる小児甲状腺がんが、福島県では約1600人に1人という、とんでもない高率で発症している。
 今回、新たに甲状腺がんないし疑いと診断された6人は全員、先行検査(1巡目の検査)の時には「A1判定(結節やのう胞を認めなかった)」だったことも明らかになった。先行検査の時点では異常が見られなかった子どもたちが、その後2〜3年で新たに発症しているのだ。
 とりわけ重大なのは、今回初めて、3・11原発事故当時5歳だった男児が甲状腺がんないし疑いと診断されたことだ。
 これまでがんないし疑いと診断されてきたのは、事故当時6歳以上の子どもだった。そして検討委が「放射線の影響とは考えにくい」と主張してきた大きな根拠は「被曝の影響が大きいはずの、事故当時5歳以下の子どもで甲状腺がんが発見されていない」というものだった。その根拠が完全に崩れたのだ。
 チェルノブイリ事故後、事故当時5歳以下の子どもに甲状腺がんが多発したのは、事故から数年たってからだったことも明らかになっている。
 6月6日のテレビ朝日「報道ステーション」は、チェルノブイリから80㌔の町・チェルニーヒウで事故当時5歳以下の子どもたちに甲状腺がんが多数発生したのは、事故から7〜8年たってからだと報じた。チェルニーヒウの医師は「(事故当時0〜5歳の子どもは)すぐに発症したわけではありません。12歳から14歳になって初めて甲状腺がんが見つかったのです」と証言した。
 検討委が言い続けてきた「事故当時5歳以下の子どもで甲状腺がんが発見されていないから」という主張は、チェルノブイリ事故の事実にも反しているのだ。

星座長が「評価変えず」と強弁

 しかしそれでも検討委はこれまでの主張をなんら変えなかった。会合後の記者会見で、報道陣が「『5歳以下がいないから』というのを、今回どう表現を変えるのか」と質問した。それに対して星北斗座長は「『当時5歳以下からの発症は非常に少ない』と言い換える必要があるのかもしれませんが、少なくとも5歳の人が1名出たからと言って、それによって評価を変えるということではない」と言い放った。
 もはや科学も理論も何もない。ただただ「放射線の影響とは考えにくい」と言い続けると決めているだけだ。
 また、検討委はそのもとに「学術研究目的のためのデータ提供に関する検討部会」を設置し、5月31日に第1回会合を開いた。この部会は〝学術研究目的以外に第三者へのデータは提供しない〟ことを前提にしており、メディアには一切情報を提供しない。こうして県・検討委はさらに情報を隠していこうとしているのだ。
 政府や県当局の「放射線の影響ではない」という主張はすべてうそだ。甲状腺がんを始めとする深刻な健康被害を与えている政府・東電・県の責任を徹底追及し、患者・家族とともに闘おう。
 被曝労働拒否がすべての労働者・労働組合のテーマであるのと同様、福島の労働者・住民への帰還・被曝強制と闘うことはすべての労働者・労働組合のテーマだ。
 福島の怒りと深くつながって参院選勝利へ闘おう。福島診療所建設委員会への基金運動にさらに取り組み、「避難・保養・医療」の原則を貫いて活動するふくしま共同診療所への支援を大きく広げよう。
(里中亜樹)

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「甲状腺がんないし疑い」の人数について
 県民健康調査検討委員会は甲状腺がんないしがん疑いの人数を、手術後に良性結節と判明した1人を含めて発表している。他方、マスコミなどの多くはこの1人をはずした人数で発表している。しかしこの1人も甲状腺摘出手術を受け、ホルモンバランスの崩れなどの深刻な影響を受けている被害者である。本紙は、この1人も含めて「甲状腺がんないし疑い」の人数と表現している。

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