世界の火点で迫る戦争危機

週刊『前進』04頁(2767号04面04)(2016/07/25)


世界の火点で迫る戦争危機


 世界大恐慌下で戦後世界体制の瓦解(がかい)が進行し、韓国・フランスを始め全世界でゼネストが爆発している。各国帝国主義はその圧殺をかけ、スターリン主義の軍事的あがきをえじきにして世界戦争へと突進している。火点は東アジア、中東、ウクライナだ。この情勢を労働者階級の国際連帯で世界革命に転化するために、ウクライナと東アジア情勢について見ていきたい。

東欧
 NATOが4千人新部隊配備
 米欧がロシアと激突の危機

 7月8〜9日、ポーランドの首都ワルシャワでNATO(北大西洋条約機構)は首脳会議を開き、ロシアに近接するポーランドとバルト3国に4千人の新部隊を2017年に配備すること、IS(イスラム国)掃討作戦の強化、アフガニスタン駐留の継続を決めた。「冷戦期以来の最も強力な防衛体制の強化」とストルテンベルグNATO事務総長は述べた。
 ウクライナの勢力圏化をめぐって米欧―NATOとロシアとの政治的軍事的対立が激化し、それぞれが軍事体制と軍事演習を年々激化させ、いよいよ全面的な激突の危機が切迫している。
 EU(欧州連合)離脱を決めたイギリスは、今後も欧州の安全保障に貢献していくとキャメロン首相が強調。オバマ米大統領も「ロシアの脅威」への対抗としてポーランドに1千人の米軍部隊を派遣すると表明し、「ロシア抑止」のNATOの理念が揺るがないことを示した。
 NATOは前回の首脳会議(14年)で即応部隊や速攻部隊の新設・配備などロシアに対する「即応行動計画」を策定した。今回の決定は、その総仕上げにあたる。アメリカはポーランド、イギリスはエストニア、カナダはラトビア、ドイツはリトアニアで展開する部隊の中心を担う。黒海周辺でもルーマニアを中心とする多国籍旅団の設置が合意された。アメリカがつくったミサイル防衛(MD)システムをNATOの管理下で運用することも決まった。

ロシアをめぐり米英・仏独が対立

 NATO首脳会議には加盟28カ国のほかに加盟交渉中のモンテネグロや「中立」を掲げてきたスウェーデン、フィンランド、オーストリアも参加した。加盟を希望するウクライナのポロシェンコ大統領も討議に加わった。「ロシア包囲網」が広がっている。今回の部隊配備は、「仕掛け線(trick wire)」と言われている。ロシアがNATO同盟国に侵攻すればNATO軍は全面戦争に突入する意思をもっていることを突き付けている。
 その一方でロシアとの関係をめぐる米英と仏独の対立も際立っている。
 オランド仏大統領はNATO首脳会議直前、「ロシアはパートナーだ」と語り、フランスが新部隊の主導国となることを拒否した。ドイツ外相も首脳会議準備中に、ポーランドで軍事演習を行ったNATOを批判した。しかしメルケル独首相は「対話と抑止」のNATO路線を支持し、ドイツがリトアニアの部隊の中心となった。米帝の衰退と没落の中でドイツは欧州と世界に影響力を強めようとしている。
 こうした対ロ宥和(ゆうわ)姿勢にポーランドなど東欧諸国、バルト3国の首脳らはいらだち、NATO部隊の自国への配備を強く望んできた。

ロの軍事的対抗が戦争危機促進

 こうしたNATOの動きにロシアは強硬に対抗している。そもそもソ連・東欧の集団防衛機構だったワルシャワ条約機構を91年に解体したにもかかわらず、NATOが存続し拡大していること自体がロシアにとって不当であり、脅威である。NATO軍は東欧諸国や旧ソ連諸国に核兵器や大規模な部隊を恒久的に追加配備しないという基本文書を交わした97年以後、NATOロシア理事会でこの地域の軍事問題を協議してきた。しかし、14年3月のロシアによるクリミア併合はこれを打ち砕いた。
 以後、NATOはバルト海沿岸や東欧諸国でジョージア(グルジア)やアゼルバイジャンなども加えて大規模演習を繰り返し、4万人の対ロシア即応部隊を新たに配備した。AWACS(空中警戒管制機)でロシアとの国境を24時間監視している。米軍はルーマニアに建設したMDシステムを5月から運用し始め、ポーランドにもMDを建設中だ。
 ロシアはNATOの東方への拡大と兵力配備を「合意違反」「戦力均衡破壊」と非難し、対抗的に軍備を拡張している。ポーランドとリトアニアの国境に接するロシアの飛び地カリーニングラードに核弾頭の搭載可能なミサイルや戦車、新規部隊を展開したり、西部国境付近や近海、クリミア半島での軍事演習、部隊配備を強化している。
 大恐慌の世界戦争への転化を阻止するために、世界の労働者人民のゼネストと国際連帯で帝国主義・大国を打倒し、プロレタリア世界革命を実現しよう。
(藤沢明彦)

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南中国海
 仲裁裁判所が中国の領有否定
 戦争危機深める米日と中国

 7月12日、オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所は、中国がフィリピンなどと領有権を争う南中国海問題について、中国の主張する境界線「9段線」(図)に国際法上の根拠はない、との判決を出した。
 中国が9段線内の南沙(スプラトリー)諸島に築いた人工島についても、排他的経済水域、大陸棚が認められる「島」ではないと判断し、南沙の海域に法的な「島」はないとした。
 これに対し、中国外務省は「(判決は)中国の合法的な権利を著しく侵害し、不公正だ」「無効で拘束力はなく、受け入れない」とただちに声明し、習近平国家主席もEU首脳らとの会談で「中国は仲裁裁判の判決に基づく主張と行動を受け入れない」と表明するなど、今回の判決に中国スターリン主義は猛反発している。
 判決の直前には、中国軍はベトナムなどと領有権を争う西沙(パラセル)諸島を含む海域で軍艦100隻、軍用機数十機を動員した大規模軍事演習を実施。中国国防省は「いかなる仲裁結果が出ようと、中国軍は国家主権と海洋権益を断固守る」と軍事的手段もちらつかせて激しく威嚇(いかく)した。

領土・領海めぐる争闘戦が先鋭化

 中国スターリン主義・習近平政権は、中国バブル崩壊と国内階級闘争の激化(労働者人民のスト・暴動などへの決起)に追い詰められ、軍事力と一体で猛然と対外進出に乗り出し、なりふり構わず海洋権益拡大へと突き進んでいる。そのあまりにも傲慢(ごうまん)で大国主義的な主張と行動は、領土・領海をめぐる戦争に火を放つものだ。
 他方、アメリカ帝国主義は判決を受け、南中国海での「航行の自由」作戦や軍事演習などを中国と対抗してエスカレートさせる構えだ。国防総省は横須賀基地に配備された原子力空母ロナルド・レーガンを南中国海での演習に投入することや、駆逐艦や爆撃機の派遣も検討するとしている。
 また日帝はこの間、2月にフィリピンと防衛装備品の移転や技術協力に関する協定を結び、4月には海自最大級の護衛艦「いせ」を始め、潜水艦や護衛艦を相次いでフィリピン・スービック港に寄港させている。スービックは一昨年の米比防衛協定に基づき、近いうちに米軍の再駐留が見込まれており、これに中国は激しく反発している。
 今判決は南中国海問題をなんら解決できないばかりか、同海域の緊張を一層激化させ、さらには全世界で領土・領海をめぐるむきだしの争闘戦と戦争危機を先鋭化させるものでしかないのだ。

労働者には国境も領海もない!

 そもそも国際的に単一の階級である労働者階級には、「祖国」も「国境」も「固有の領土」も存在しない。今日、地球上に引かれている「国境線」は、その土地に住む住民の意思とはほとんど無関係に、帝国主義やスターリン主義の国家によって得手勝手につくられたものにすぎない。
 だが、もはやそうした戦後世界の枠組みそのものが最後的に崩壊しつつある。今こそ国境を越えて団結した労働者の力で帝国主義とスターリン主義を打倒し、労働者が主人公の社会をつくろう。
(水樹豊)

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