焦点 米中戦争を叫ぶランド研 〝開戦が遅くなると不利〟と勧告

週刊『前進』02頁(2780号02面04)(2016/09/15)


焦点
 米中戦争を叫ぶランド研
 〝開戦が遅くなると不利〟と勧告


●中国への恫喝と戦争挑発
 7月末、ランド研究所が『中国との戦争----考えられないことを考え抜く』という報告書を発表した。研究主体は、米政府の予算によって運営されているランド研究所アロヨセンターであり、「中国との戦争」というテーマを委託したのは、米国防総省の陸軍省次官局である。
 こうした準公文書といえる出版物で『中国との戦争』という相手国を名ざしした題名を付けたことそのものが重大な戦争挑発行為だ。報告書は、最初から中国当局に読ませることを想定して書かれている。「本報告書の主な読者は米国の政策当局者であるが、われわれは、中国の政策当局者も戦争がたどるありうべき道筋とその結果を考え抜くことを望んでいる。戦争は、近代中国が達成したものの多くを破壊しかねない」
 確かにアメリカ帝国主義は1990年代からQDR(「4年ごとの防衛計画見直し」)などの戦略文書で中国を想定して地域大国化、世界的大国化への懸念とそれへの対策を論じてきたが、事の重大さゆえに「中国との戦争」の明示な表現は避けてきた。だが現在の朝鮮侵略戦争の切迫情勢の中で、あえてこの一線を越えたのだ。
 この報告書のもう一つの核心は、2015年時点と2025年時点の米軍・中国軍の戦力を比較し、2025年には中国のA2/AD(接近阻止・領域拒否)能力が大幅に向上するため戦力差が縮み、米側の損害が大きくなることを強調していることだ。つまり、開戦は早いほどいいと示唆しているのだ。
●朝鮮戦争・核戦争は欠落
 この報告書が想定している戦争は、南中国海や東中国海ないしその周辺の戦争である。2015年時点と2025年時点で米国と中国の力関係がどう変化するかが論じられているが、その中心は中国のA2/AD能力であり、中国の領域への米軍の接近や進入を、中国軍が阻止する能力を問題にしている。
 個々の戦闘行為がどうであろうとも、本質的に米軍は一方的に攻撃する側であり、中国軍は防衛する側だということだ。
 「戦争は両者の経済を害するが、中国への損害のほうがはるかに大きい」「西太平洋の大部分は戦争地域となるために、中国のこの地域、また全世界との貿易は大きく減少する」「海から運ばれる中国へのエネルギー供給は特に損害を受ける」
 そして戦闘は、海上・海中・航空戦力を主力にして行われ、「地上軍の使用は朝鮮再統一への介入の場合を除いて考えられない」とされ、この報告書には地上戦闘の分析がない。
 だが、北朝鮮・金正恩体制はいつ崩壊してもおかしくないほど危機的だ。韓国・民主労総は決死の闘いを展開し、パククネ政権の危機も煮詰まっている。米軍自身、作戦計画5015策定、サード(高高度迎撃ミサイルシステム)の韓国配備決定、韓国軍と史上最大規模の軍事演習を行うなど、米日韓による朝鮮侵略戦争は超切迫している。
 また、この報告書では「核兵器を米軍も中国軍も使わない」とされている。だが二つの核大国が死活をかけた大戦争をやって核が使われない保障はない。
 もう一つの欠落は、国内的・世界的な反戦闘争(階級闘争)の問題だ。中国よりはるかに小さいベトナムへの侵略戦争に、なぜアメリカが敗北したのか!
 ランド報告書は、朝鮮戦争、核戦争、そして何より階級闘争の大爆発の重大性を押し隠し、戦争へのハードルを低くしようと狙っているのだ。
●〝日本の戦闘参加が決定的〟
 さらにアメリカのアジアでの同盟国では、日本との関係が対中国戦争時には決定的だと言っている。「中国とのつながりが深い韓国は米軍への慎重な支持にとどまる」とする一方、日本について次のように言う。
 「もっとも決定的な国は日本であり、軍事力が増強されている。中国との関係は敵対的である」「最近の安倍内閣の憲法解釈の変更で、中国との戦争時の米国に対する軍事的支援が合法化された」
 「日本の潜水艦、水上艦、戦闘機、打撃兵器、ISR(情報・監視・偵察)能力は、2025年までの激しい戦争において決定的な役割を果たす」
 「日本が戦闘に参加すれば、長期の激しい戦争においては、中国軍の損失が増大し、米軍の損失が相殺される。あるいは米軍の損失が減少しさえする」
 明らかに、自衛隊の最前線での戦闘参加が対中戦争計画に組み込まれているのだ。
 日本での労働者階級の決起と日韓を軸とした労働者の国際連帯こそが、戦争を阻止する決定的な力だ。

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