私の兄は天皇に殺された 西川重則さん(百万人署名運動事務局長)に聞く 労働組合の共なる闘いと国際連帯が戦争を止める

週刊『前進』04頁(2785号04面01)(2016/10/03)


私の兄は天皇に殺された
 西川重則さん(百万人署名運動事務局長)に聞く
 労働組合の共なる闘いと国際連帯が戦争を止める


西川重則さん 1927年、香川県生まれ。とめよう戦争への道!百万人署名運動呼びかけ人・事務局長、平和遺族会全国連絡会代表主な著書 『「昭和館」ものがたり』/『「靖国」増補版―有事法制下の靖国神社問題』/『「新遊就館」ものがたり』/『わたしたちの憲法―前文から第103条まで』ほか多数(写真は、臨時国会が開会した9月26日、国会前に立つ西川重則さん)


 9月26日、臨時国会が開会した。安倍政権は今、安保戦争法のもとで戦争と改憲に突き進もうとしている。「戦争は国会から始まる」と危機感を募らせて国会傍聴を続ける、とめよう戦争への道!百万人署名運動事務局長の西川重則さんにお話をうかがった。(編集局)

国会傍聴を続けて17年

 ----秋の臨時国会が9月26日に開会しました。
 この臨時国会で安倍政権は憲法改悪を狙っている。そのことを知らせる責任がわれわれにある。戦争絶対反対の立場で日本国憲法に習熟し運動をやってくださいと、私は話しているわけです。
 ----国会傍聴を続けて17年とのことですが、どのような契機で傍聴を始めたのですか?
 私がなぜ国会に傍聴に行くのか。傍聴して直接見て、聞く、これが事実を正確に知る秘訣(ひけつ)だからです。
 すぐ上の兄が24歳でビルマで戦病死しました。1945年8月15日、兄はビルマにいて敗戦を知りました。兄たちは南へと逃げて逃げて1カ月、兄は9月15日に戦病死しました。この耐え難い経験が、私が天皇に反対する原体験です。
 戦前、男は20歳になると徴兵検査があった。甲乙丙、健康なのが甲。甲種合格した兄は、家族に会うこともなく、そのままビルマ戦線に送られた。その時も本当に泣きに泣く母でした。
 1945年7月26日のポツダム宣言の後、8・6広島―8・9長崎に原爆が投下され、天皇が終戦の詔書(しょうしょ)を出したのは8月14日だ。翌15日までなぜ天皇は戦争をやめなかったのか。兄はなぜ24歳で死ななければならなかったのか。この疑問がどうしても解けなかった。

靖国神社法案と闘い廃案にした

 私はクリスチャンです。戦後、キリスト教関係の出版社に勤務し、出版部の中で国会担当になりました。
 1969年6月30日、靖国神社と日本遺族会が推進してきた「靖国神社法案」を、自民党が国会に初めて提出した。その時、靖国神社法案が審議される委員会を傍聴しました。自民党は戦没者を「英霊」と呼び、「名誉」の戦病死した人は例外なしに靖国神社に祭り、「英霊尊崇」するために靖国神社法案を出してきたわけです。「英霊尊崇」とは、「英霊をほめたたえる」ことです。
 この靖国神社問題を機に国のあり方がよくわかるようになった。自衛戦争ではなかったのです。侵略戦争であり、日本は侵略・加害の歴史を繰り返してきた。私はこの学びを通して、「戦争は国会から始まる」と考えるようになりました。
 私の教派も大会で断固許さないと決議し、私は靖国神社法案反対委員会の最初の委員長になりました。靖国神社の「国家護持」に絶対反対し、寝る暇もないほど忙しくなりました。結果、廃案にすることができました。
 この原体験があり、日本の国が悪くなる悪法については断固反対をする。これが私の当たり前の認識になりました。
 退職を機に99年の通常国会、日米新ガイドラインをめぐる国会から徹底傍聴を始めました。私の生涯の課題にしようと決意したわけです。
 ----憲法の徹底学習を提唱されています。
 憲法の前文は、国民主権、すなわち主権在民から始まり、基本的人権の尊重、平和主義の三つの柱でできている。9条1項の戦争放棄は日本だけではなく、全世界にかかわる普遍的な価値を持ったものであることをよく認識してほしい。第2項は、陸軍、海軍、空軍という軍隊を持つことはできないと書かれている。
 よく読んでほしいのが19条思想・良心の自由、20条信教の自由、政教分離、21条表現の自由、そして、すべての公務員が日本国憲法を尊重し擁護する義務を負っているというのが99条です。だから内閣総理大臣、閣僚といえども、日本国憲法の主権者・有権者が考えていることにまじめに耳を傾けて、それを政治に生かさないといけない。これが本来の日本国憲法の考え方です。
 ところが、安倍首相は勝手放題、集団的自衛権の行使までやっている。現在、野党も含めて自衛権は必要だ、自衛のための戦争は支持すると考えている。9条の認識が非常に不十分、読み違えています。

天皇の戦争責任は明白

 ----憲法の第1条が象徴天皇制ですが。
 もちろん、私は天皇制については絶対反対です。憲法1条は象徴天皇制ですが、私は象徴であろうと天皇制の存在を許さない立場です。
 8月8日、天皇がビデオメッセージで永久的に象徴天皇制が必要だという発言をした。これは、憲法に違反する政治的発言です。
 なぜ天皇制が要らないのか。わかりやすくいうと、天皇制という制度があったために、日本は、軍人の最高の責任者「大元帥陛下」となった天皇の名において戦争を始め、戦争を終わらせたのです。しかも昭和天皇は、自らの「国体護持」のためにポツダム宣言受諾を遅らせた。早く終わらせれば、兄をはじめ広島・長崎など多くの人たちが死なずに済んだ。
 日本の戦争は例外なく侵略・加害を伴う戦争であったために、日本軍に殺された側の人たちは、特に中国、朝鮮、シンガポール、インドネシアなどアジア全域に及んでいます。私の兄は何人もいたからインドネシアにも出征していて、戦争で殺す側にいたわけです。
 しかし、天皇の終戦の詔書でも負けたとは言っていない。天皇は自らの戦争責任に言及しない。これが天皇制の一大特徴です。
 私は重慶大爆撃の被害者と連帯する会・東京の事務局長ですが、昭和天皇は、宜昌(ギショウ、現・湖北省)という所に陸軍を駐屯させよと命令しました。九州からは遠すぎるが、宜昌からなら重慶まで600㌔だから飛んでいって日帰りができると、昭和天皇が作戦を指揮し、重慶無差別大爆撃をやった。
 しかし、弱いと思っていた中国がそうじゃなかった。重慶裁判の原告になった人たちを含めて中国の民衆がこぞって抗日戦争に立ち上がった。
 戦争を始めたのは日本です。中国が日本に戦争を仕掛けたのではない。これは天皇の戦争責任を明白にする上で非常に重要です。

沖縄を犠牲にし天皇は延命した

 天皇には戦後責任もあると、私は明言しています。1947年9月、天皇が御用掛を通じてマッカーサーに「天皇メッセージ」を伝えました。驚くべきことに天皇は、どうぞ沖縄を50年でも占領してくださいと、事実上沖縄をアメリカに売り渡したんです。
 戦中も、米軍から日本本土を守るためだと、平気で沖縄の「捨て石作戦」までやった。許せないでしょう。天皇の名において沖縄が犠牲を覚悟して戦うという考え方は、天皇制教育の結果です。沖縄戦を経験し、戦後の米軍支配から今も続く基地の島の現実に、沖縄県民が非常に悲しい思いをし、怒りを持っているのは当たり前です。
 天皇制は要らないということが社会通念になったら天皇制の廃止は当然である。著名な憲法学者の発言を待つまでもない。私たちは「前文」に明記されている通り、日本国憲法の確定者であるからです。
 私の兄を殺したのはやはり天皇です。兄を殺した天皇制をなくすために社会を変革する運動が必要です。あえて主体的に社会を変えるという意味で私は「変革」という言葉を使っています。
 われわれ主権者・有権者には、社会を変革する責任があるという自覚が必要です。

11月共同行動が重要だ

 ----日韓の労働組合から11月国際共同行動が呼びかけられています。
 8・15実行委員会で国際連帯の重要性がアピールされ、私も当然そうだと思っていましたから国際連帯を強調しています。連帯という言葉は、重慶の人たちもよく使います。抗日戦争における「共に戦う」という原体験から普及したのではないかと思っています。
 最近私がもう一つ、大事だと話していることですが、労働組合の闘いです。労働組合は戦前も早くからありましたが、労働組合が完全に解体された1940年の11月23日に大日本産業報国会が創立されました。産業で国に報いるという、すごい名前です。それで翌41年、太平洋戦争が始まる。
 だから国境を越えて世界が平和になるためには、外国の労働組合も日本の労働組合も一体関係で共なる労働組合として存在しなければなりません。戦争に対してノーと言い得る労働組合であるべきです。
 アメリカが戦争をしようとするなら、アメリカと日本の労働組合が共なる闘いをして戦争を止めることは不可能ではない。私はアメリカに行ったら日本の労働組合と共なる闘いが必要だと話しています。
 韓国も中国も、世界中の労働組合が連帯し共なる闘いをする時です。今こそ、国際的にはもちろんのこと、国内的にも共なる闘いが必要です。そのための11月の国際共同行動は非常に重要だと思っています。

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靖国神社法案 宗教法人靖国神社を非宗教の特殊法人として内閣総理大臣の監督下に移管し、また「英霊に対する国民の尊崇の念を表すため」の「儀式行事等」の業務を靖国神社が行う際に、国や地方自治体が経費を支出できるとした法案。75年までに5回、国会に提出され、いずれも廃案。


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