焦点 世界経済は分裂・ブロック化へ 米トランプが貿易戦争

週刊『前進』02頁(2924号02面02)(2018/03/15)


焦点
 世界経済は分裂・ブロック化へ
 米トランプが貿易戦争


 米トランプ大統領は3月8日、鉄鋼とアルミニウムに輸入制限の発動を命じる大統領令に署名した。それぞれ25%、10%の関税を23日から課す。原則すべての国を対象とするが、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉を進めるカナダとメキシコを当面猶予した。日本や欧州などの「同盟国」とも関税の修正や適用除外を協議する余地を残した(9日、オーストラリアを除外する方針を発表)。
 中国や欧州連合(EU)などは報復関税や国際貿易機関(WTO)提訴などで対抗する構えだ。
 貿易戦争だという懸念に対して、トランプは2日、「貿易戦争は良いことであり、楽勝だ」とツイッター上に投稿した。
●世界戦争危機を促進
 トランプの保護主義的通商政策、特に今回の鉄鋼・アルミ輸入制限は、米帝をはじめ帝国主義の主導で1995年に発足したWTO体制と自由貿易主義の建前を自ら破壊し、1920~30年代のような保護主義と貿易戦争、為替戦争を激化させる世界史的踏み切りだ。他国からの輸入品に高関税をかけて締め出し、自国資本を保護する通商政策は相互の国の資本の生き残りをかけた全面的で熾烈(しれつ)な関税引き上げや為替政策の応酬をもたらす。それは世界経済の分裂と収縮を一挙に促進し、ブロック化と勢力圏構築、帝国主義間・大国間の軍事的衝突―世界戦争すら招くものとなる。
 すでに金融バブルの極限的な膨張で2008年リーマンショックを超える金融大恐慌が爆発する寸前に来ている。没落する米帝の巻き返しと生き残りをかけたトランプの保護主義と貿易戦争は、米国資本の産業競争力を一層衰退させると同時に、世界経済の混乱と破滅、世界戦争勃発の危機を増大させるのだ。
●中国を最大の標的に
 トランプは、過剰生産問題の原因とみている中国を最大の標的にしている。米国の鉄鋼輸入全体に中国が占める割合は2%にとどまるが、中国産の鉄鋼がベトナムや韓国を通して米国に輸出されていると問題視しており、トランプは「迂回(うかい)輸出を食い止める」と強調した。
 安全保障を理由とする輸入制限、すなわち通商拡大法232条の発動は36年ぶりだ。鉄鋼であれば、中国などの不当廉売(ダンピング)で国内供給力が落ち、武器製造や防衛技術の維持が難しくなるという理屈だ。トランプは8日、「鉄とアルミは国家安全保障の生命線だ」と主張した。
 だが、鉄鋼・アルミの輸入制限は米国内の資本家、与党共和党、政権内部からも強い批判を浴びている。6日、米経済政策のトップ、コーン国家経済会議(NEC)委員長が数週間以内に辞任すると述べた。米商工会議所の会頭も7日に新たな関税を課すことに反対と語った。
●産業・経済の首絞める
 輸入制限は米国の産業・経済の首を絞めるものとなる。自動車メーカーは、燃費をよくするために軽くて耐久性の高い鋼鈑や棒鋼を使う。これらは米国製では代替できない。鉄道用のレールやガス・石油掘削用の鋼管の多くも日本製だ。米政権はすでに多くの輸入鉄鋼製品に反ダンピング関税を課しており、鉄鋼価格は上昇している。これに輸入制限が加われば、代替の難しい高品質の鋼材の調達コストが高騰し、それを製品価格に転嫁すると価格競争力が落ち、物価も押し上げられ、消費が低迷し米国経済に打撃となる。
 米国の輸入制限は米国に輸出し、製造拠点を置く日本の資本に致命的な影響を及ぼしかねない。安倍政権は世耕弘成経産相と河野太郎外相を欧州・米国に派遣し、米国に適用除外を求める。貿易戦争、朝鮮戦争、政権倒壊の三重の危機に陥る日帝・安倍は、一層なりふり構わず改憲・戦争にのめり込む以外ない。安倍を今こそ打倒しよう。

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