「北方領土」で排外主義扇動安倍の狙いは戦争と改憲だ 労働者階級に「領土」などない

週刊『前進』02頁(2994号02面03)(2018/11/29)


「北方領土」で排外主義扇動安倍の狙いは戦争と改憲だ
 労働者階級に「領土」などない

日ロの帝国主義が先住民族から強奪

 安倍首相は11月14日、シンガポールでロシアのプーチン大統領と会談し、「1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させる」ことで合意した。56年の日ソ共同宣言は「平和条約締結後に歯舞(ハボマイ)群島、色丹(シコタン)島の2島を日本に引き渡す」と明記しているが、日本はその後、国後(クナシリ)島、択捉(エトロフ)島を含む4島の「返還」を求めるようになり、「領土問題の解決後に平和条約を締結する」という方針をとってきた。いわゆる「4島一括返還」が日帝の一貫した要求だった。
 これに固執せず、あたかも「日ソ共同宣言を出発点に平和条約交渉を」というプーチンの年来の提案に合わせたような安倍の提案は、日帝としてはかつてない譲歩、方針転換だといえよう。しかし、安倍を支持してきた極右の側から、そして日本共産党を含めた野党からも一斉に「2島オンリー」になりかねないという非難や批判が続出している。
 日本は千島列島(クリル諸島)南部の「4島」を「固有の領土」として「返還」「引き渡し」を要求してきたが、この「固有の領土」なる概念もブルジョア的帝国主義的な国際外交の場では通用しない。
 そもそもプロレタリアートの立場からすれば、帝国主義のあらゆる領土要求はブルジョアジーの侵略的強盗的反人民的な要求であり、領土や国境は支配階級の利益を守るために彼らが勝手に決めたものにすぎず、プロレタリアート、被支配階級の利益に反する不当な縛りであり、なくさなければならないものだ。
 実際に「4島」を含む千島列島やサハリンを含むオホーツク地域はもともと、ニブヒ、ウィルタ、オロチなどの諸民族やアイヌ民族などが生活していた地域である。ロシアと日本は、彼ら先住民族の生活を破壊し追い出し、虐殺して、そこに勝手な「国境線」を引いて両国による分断支配を行ってきたのだ。千島列島(クリル諸島)はなんら日本の「固有の領土」ではない。強盗的領土要求を許してはならない。

日米安保のもとで「返還」はありえぬ

 「2島先行」の非現実性を示す最大の問題は、ロシアが2島を日本に引き渡したとして(ロシアは「返還」とは言わない)、そこに米軍基地が置かれない保障は何もないということである。ロシアは2016年に新型地対艦ミサイルを配備し、今年、新鋭戦闘機スホイ35が試験配備されている。クナシリ島とエトロフ島には合わせて3500人のロシア軍が駐留している。ロシアは「2島」ないし「4島」に米軍基地が置かれることを極度に警戒し、その可能性がある限り引き渡しは絶対にないとの姿勢を貫いてきた。
 日米安保条約は第6条で「アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」と規定している。「施設及び区域」とは基地のことだ。しかも日本での米軍の基地使用は自由であり、基地建設には同意が与えられる。安倍は11月7日、今臨時国会の参院予算委員会での小池晃議員(日本共産党書記長)の質問に「日米安保条約は、米国の対日防衛義務に対応する義務としてわれわれが基地提供義務を負っている」と明言した。だからロシアから引き渡された「2島」「4島」のどこかに米帝が基地を置くことを求めたら、日本は基地を提供する義務を果たさなければならないのだ。
 米帝がロシアと対立を激化させる中、トランプ政権が日本の「北方領土返還」のために対ロシア軍事圧力を弱め日本に協力するとは考えられない。
 ロシア・プーチンは、「北方領土引き渡し」をちらつかせ、それを餌に日本を交渉のテーブルに着かせ、「引き渡し」の条件として日本がロシアに経済協力をすることを求めている。プーチンの本心は「0島」であり、欲しいのは経済協力だけだ。
 結局、安倍の2島先行論への転換は、国内世論喚起のためのものにすぎない。平和条約を結んで安倍外交の成果を誇りたいのだ。それが奇跡的に成功したとしても、「2島」という「領土」を失ったら「成果」と言えなくなり、安倍外交は無意味化する。
 むしろ安倍は、4島返還論を下ろして2島先行論で譲歩した日本の要求さえ拒絶するロシアは許せないという排外主義をかきたてようとしているのだ。「ロシアの脅威」「安全保障環境の変化」論で改憲・戦争が必要だと宣伝・扇動し、政権の危機を突破しようとしているのである。

ポツダム宣言受諾で千島列島は放棄

 日帝の「北方領土(4島)返還」要求には根拠がない。千島列島(クリル諸島)全体を放棄したからだ。
 日本は1945年8月14日、連合国が7月26日に発した「ポツダム宣言」を受諾して無条件降伏した。ポツダム宣言は領土に関して「『カイロ』宣言ノ条項ハ履行セラルベク又日本国ノ主権ハ本州、北海道、九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ」と規定している。さらに日本は1951年のサンフランシスコ講和条約で千島列島を放棄した。講和会議で吉田茂全権代表(首相)はクナシリ、エトロフが千島列島(クリル諸島)の南部、南千島をなすという条約の規定になんら異論をはさまなかった。
 「北方領土」問題とは日帝の帝国主義的領土拡大、資源・市場をめぐる争闘戦、独自の軍事大国化、勢力圏構築のための道具である。プロレタリアートはこれに絶対にくみしてはならない。安倍の「北方領土返還」キャンペーン、反ロシアの排外主義宣伝をてことする軍事大国化、戦争国家化、改憲と戦争を阻止しよう。

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日米安保条約 第6条 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される
サンフランシスコ講和条約 第2条(c)日本国は、千島列島並びに日本国が千九百五年九月五日のポーツマス条約の結果として主権を獲得した樺太の一部及びこれに隣接する諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する

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