焦点 トランプがイランへの制裁強化 戦争発動狙い軍事的重圧

週刊『前進』02頁(3037号02面04)(2019/05/23)


焦点
 トランプがイランへの制裁強化
 戦争発動狙い軍事的重圧


●イランの財源を奪う
 米トランプのイラン制裁強化は中東での戦争情勢を一挙に激化させている。4月22日、トランプ政権はイランの原油輸出をゼロとすることを目指して、イラン産原油禁輸の制裁措置の強化を発表した。それは昨年11月5日以来のイラン産原油輸入の禁止と制裁措置のEU(欧州連合)、日本、中国、インド、トルコ、韓国など8カ国への適用除外を5月に打ち切るという決定であった。
 トランプの目的はイランの主要な収入源である原油の輸出をゼロにしてイランの財源を奪うことである。それはイランにとっては死活的だ。イランの原油輸出量は米の核合意離脱以前は一日当たり250万バレル 以上であったが、現在は100万バレル 以下となっている。今回の制裁強化でイランの原油輸出量はさらに減少する。イランはこの措置に猛反発し、相応の措置を講じると発表したため両国の対立は一挙に激化している。
●戦争態勢強化する米帝
 こうした状況下で米帝は5月6日、原子力空母エイブラハム・リンカーンを中心とする空母打撃群とB52爆撃部隊を中東に派遣した。トランプは「イランによる脅威の兆候に対応するためだ」とツイッターに投稿した。
 これに対して5月8日、イラン政府は2015年の核合意の履行を一部停止し、濃縮ウランと重水の国内貯蔵上限を遵守(じゅんしゅ)せず、蓄積を始めると発表した。また原油・金融取引を再開する保証を60日以内に得られなければ、高濃度の濃縮ウランの生産など、核開発を本格化する方針も示した。
 イランのこうした対抗措置に対して5月8日、トランプは大量破壊兵器拡散やテロ支援などに使われるイランの収入源を絶つためとしてイランの鉄・アルミニウム・銅の各部門を対象にした制裁を科すように命じる大統領令を出して対立をエスカレートさせた。
 さらに国防総省は10日、イランの「脅威」に対抗するとして派遣した空母打撃群を増強するため、港がない所でも車両などを上陸させることができる輸送揚陸艦と地対空誘導弾パトリオット部隊を中東に派遣すると発表した。これは、米メディアが「イランが短距離弾道ミサイルをペルシャ湾上の艦船に移動させた可能性が高い」と報じたため、それに対処するための措置と説明されている。
 このようなイラン制裁と軍事的重圧の強化はイランを追い詰めている。イランはすでに制裁強化で国内経済が崩壊状態にあり、国民の政府に対する不満も高まっている。追い詰められたイラン政府は絶望的な核再開発や石油の搬出路であるホルムズ海峡封鎖などの措置によって米帝との緊張を高め、国民の政府への不満をそらそうとしている。しかしそれはきわめて危険な試みであり、米帝との戦争の引き金を引くものとなりかねない。実際、5月12日には同海峡の近くでサウジアラビアのタンカー2隻が何者かによって攻撃を受け損傷する事件や、イランの影響が強いイエメンのフーシ派によるサウジのパイプライン破壊事件などが起きており、一触即発の緊張は一気に高まっている。
●中東での大戦争の危機
 米帝はイランを追い詰め、イランとの戦争の口実を作り、軍事的にイランを屈服させようとしている。このようなトランプの政策は危険な戦争挑発政策だ。シリアやイラク、レバノン、イエメンなどに影響力を拡大しているイランを経済的に破綻させつつ、軍事的に打撃を与えようとする米帝、イスラエル、サウジなどの策動は単にイランをめぐる戦争にとどまらず、中東全域の諸国を巻き込む大戦乱に発展する。
 同時にこのような政策は、イラン原油に依存するEUや日帝、中国、インド、トルコなどに打撃を与えようとするものでもある。それはこれらの諸国と米帝との対立のみでなく、中東の勢力圏と石油資源ををめぐる対立を激化させる。中東で新たな戦争政策に突進するトランプの策動を阻止しよう。

このエントリーをはてなブックマークに追加