AIにかける安倍 骨太方針2019を批判する 年金破壊し高齢者雇用を推進

週刊『前進』04頁(3050号02面01)(2019/07/08)


AIにかける安倍
 骨太方針2019を批判する
 年金破壊し高齢者雇用を推進


 6月21日、安倍政権は「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2019」を閣議決定した。日本資本主義を揺るがす危機を列挙し、デジタル化による経済社会システムのパラダイムシフト(根本的転換)を訴えた。その具体的柱は年金破壊による高齢者の雇用促進と、「行政の100%デジタル化」だ。

改憲・戦争国家化と一体

 骨太方針のサブタイトルは「令和新時代/Society5・0への挑戦」(表参照)。安倍政権や経団連などは「Society5・0」を、人類史上の「狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く、サイバー空間(コンピューターやインターネットの中の仮想世界)とフィジカル空間(現実世界)を高度に融合させる新たな経済社会」だと定義する。資本主義のどんづまりの危機をまやかそうとする新自由主義の得手勝手で笑止千万の主張だ。
 その虚言を前提に、骨太方針は「人口減少・少子高齢化」「生産性と成長力の伸び悩み」「通商問題・保護主義の台頭」などの絶望的な危機に対して、経済社会システムの根本的転換を何度も強調した。
 「世界的にも経験したことがない、人口減少や少子高齢化の急速な進展は、我が国経済が直面する最大の壁」とした上で「ピンチをチャンスに変えていく。大きなパラダイムシフトの鍵となるのが、デジタル化を原動力としたSociety5・0の実現」だと強弁。「デジタル分野における国際競争が激しさを増す中、世界に後れを取ることがないよう、切迫した危機感を持って、国を挙げて加速しなければならない」と訴えた。
 要は、デジタル化を「救世主」のように描くと共に、高齢者の駆り出しをはじめとする労働者の徹底的な強搾取に、体制の存亡をかけるというものでしかない。重大な点は、それを労働法制などあらゆる規制を撤廃し、新自由主義の下での経済社会システムの根底からの転換として実行しようとしていることだ。まさに改憲・戦争国家化と一体の主張である。すでにAI(人工知能)導入による大量解雇が始まっている。

70歳を超えても働かせる

 骨太方針は、「Society5・0時代にふさわしい仕組みづくり」として「第4次産業革命の先端技術を社会実装し、生産性の飛躍的な向上を図るとともに、70歳までの就業機会の確保をはじめ生涯現役時代の実現に向けた全世代型社会保障」を強調した。
 「全世代型社会保障」とは福祉の充実どころではない。目的は高齢者雇用の促進であり「働き方改革」と一体だ。「年齢が働くことの制約にならないよう、これまでの考え方や諸制度を見直し、働き方を自由に選べる中で社会保障の支え手を拡大する」「年金改革等を通じてより多くの国民の労働参加を促す」と公言した。消費税10%へのアップによる大衆収奪の強化と共に、年金破壊で高齢者を働かざるをえなくさせて徹底的に搾取し社会保険料も増額しようとするものだ。
 骨太方針は「70歳までの就業機会の確保」の選択肢として、定年廃止、延長と共に、子会社・関連会社での雇用、フリーランス(個人事業主)契約などを挙げた。賃金は一気に下がる。さらに年金受給開始を70歳以降も選択できるようにするなど、「就労を阻害するあらゆる壁を撤廃し、働く意欲を削がない仕組みへと転換する」とした。なんという言い草か。
 7月2日、厚生労働省は18年国民生活基礎調査を公表した。「生活が苦しい」とする高齢者世帯は55・1%、前年から0・9ポイント増えた。全世帯では1・9ポイント増の57・7%だった。平均所得は前年より低下し、それ以下の高齢者世帯は88・9%に達した。所得は16万3千円増えたが働く高齢者が増えたためとされる。金融庁審議会報告書は公的年金だけでは老後の生活費が2千万円不足するとしたが、定年後も働くことで食いつないでいる世帯が多いということだ。
 シルバー人材センターで働く高齢者は70万人超、平均年齢は70代。東京・江戸川区では94歳の女性も働いている。大半が最低賃金だ。「仕事をするのが生きがい」ということがよく言われるが、働かなくては生きていけない現実があるからだ。
 骨太方針は「多様で柔軟な働き方の実現」と「同一労働同一賃金」、最低賃金引き上げに言及した。それは高齢者の駆り出しも含む総非正規職化であり、全労働者の最低賃金水準への引き下げである。青年・現役世代、高齢者は、共に必ず反乱に立ち上がる。

「行政の百%デジタル化」

 骨太方針は社会保障改革と共に、「規制・制度改革を通じた公的分野への民間参入」を柱とした。「徹底したデジタル化をはじめ次世代型行政サービスの構築に取り組むことで、新たな民間投資の呼び水とするとともに中長期的な成長基盤を強化する」として「スマートシティ」「行政サービスの100%デジタル化」を掲げた。マイナンバーカードの普及、民営化による上下水道などの整備、公的資産の適正化(売り渡し)などを列挙した。
 全てが自治体戦略2040構想に沿ったものだ。構想は業務の統廃合とAI・ロボット化、民営化で、自治体職員の半減・総非正規職化を狙う。しかしAI・ロボットが福祉と命に関わる業務を代替することなどありえない。根幹からの破壊だ。
 骨太方針は、地方自治体を従わせるために地方交付税交付金制度の見直しにも言及した。「国と同等」とされる地方自治や憲法25条(すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない)を財政的に保障する交付金制度の、国による恣意(しい)的運用の強化を求めた。これ自体が改憲の主張だ。
 逆に言えば、住民の生活の基盤となるべき公的事業の民営化以外に、利潤を生む投資先がなくなっているということだ。日帝はそこまで追い詰められている。社会崩壊・生活破壊はいよいよ進んでしまう。
 骨太方針は改憲・戦争国家化と一体の階級戦争方針であり「民営化と非正規職だけの社会」を狙うものだ。しかしその攻撃は労働者の怒りと闘いに最後的に火をつける。動労千葉―動労総連合を先頭に、職場・地域に闘う労働組合をよみがえらせよう。

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骨太方針2019

「令和」新時代:「Society5.0」への挑戦
直面する課題
 人口減少・少子高齢化/デジタル化と第 4次産業革命/生産性と成長力の伸び悩 み/地方経済/通商問題・保護主義の台 頭/社会保障と財政/海外経済のリスク
Society5.0時代にふさわしい仕組み作り
・全世代型社会保障への改革―高齢者雇用、中途・経験者採用促進
・人づくり革命、働き方改革―多様で柔軟な働き方の実現、同一労働同一賃金
・次世代型行政サービスを通じた効率と質の高い行財政改革―自治体のデジタル化
・スマートシティ、公的ストックの適正化、公営企業・第3セクター経営改革

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